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【70カ月目の福島はいま】内堀知事の心は「復興」と「風評払拭」。避難指示区域外の汚染は解消されたのか。再来月には〝自主避難者〟切り捨てへ

仕事始めの4日、福島県の内堀雅雄知事は記者クラブとの年頭会見に臨み、今年は「復興」と「風評払拭」にさらに取り組む決意を語った。再来月に迫った、帰還困難区域以外の避難指示解除と〝自主避難者〟向け住宅の無償提供打ち切り。3年後の東京五輪も見据え、ますます「復興」の大合唱が大きくなる。被曝リスクへの懸念は封じられ、住民たちは口をつぐむ。原発事故から6度目の正月。内堀知事の心は、残念ながら「復興」にしか向いていないようだ。


【「不安あるが心にフタ」】
 JR福島駅からほど近い、福島稲荷神社。小雨が降り続く中、三が日を過ぎても初詣に訪れる人でにぎわっている。福島第一原発の爆発から6度目の正月。一見、原発事故などそもそも無かったかのような風景だが、夫と3人の息子と共に訪れた福島市在住の30代の母親は「放射線や被曝リスクを全く気にしていないなんて事は無いですよ。子どものいる母親であれば皆、口にしないだけで多かれ少なかれ今でも意識しているのではないでしょうか」と話した。「〝ママ友〟の前ではあえて放射線の話題を切り出さないようにしています。考え方は人それぞれ。無用な不安を抱かせてしまってもいけませんからね」。
 境内では5人で記念写真を撮った。三男が生まれて間もなく、未曽有の揺れと原発事故が起きた。「避難できた人は良いけど、私たちは県外に出られなかった。知らない土地で生活する不安もありましたしね。不安だけど、怖がってばかりいてもどうなるものでもない。共存していくしか無いんです。子どもたちが元気に過ごせるようにするしかない。だから心にフタをしてしまっている感じですよね。そういう本音や心の奥の想いはあまりメディアでは伝わっていないと思いますよ。全然分かってないな、と思いながら観ています」と胸の内を語る。
 隣で30代の夫もうなずいた。「街中に設置されているモニタリングポストの数値を目にして原発事故を思い出している状態。そればかり考えて暮らすわけにもいかないから、僕も忘れたいんでしょうね。仕事で飯舘村や浪江町に行くこともありますが、そこで高い放射線量を見て、戻って来てこっちの数値を見ると安心します。そうやって自分に言い聞かせているのかもしれません」。
 こんな本音も。「今のところ、土中の生物が奇形になるなどの目に見えた影響は起きていないけれど、何十年か経って子どもたちが大きくなった時にどうなるか誰にも分かりません。その時に後悔するような事にはならないで欲しいですが…」。
 進学や就職、病気平癒など、さまざまな願いが込められた絵馬やおみくじが奉納されている辺りで、手元の線量計は0.3μSv/hを超えた。〝風評〟だけでは片づけられない現実がここにはある。


さまざまな願いが込められた絵馬やおみくじが奉納されている辺りで、手元の線量計は0.3μSv/hを超えた=4日、福島市・福島稲荷神社

【「復興」連呼の知事会見】
 4日午前、県庁内での「仕事始め式」に続いて年頭会見に臨んだ福島県の内堀雅雄知事は、改めて「復興」と「風評払拭」に取り組む姿勢を強調した。
 「今の福島は大きな二つの課題を背負っている。復興と地方創生だ」
 ディスプレイを使いながらそう切り出した内堀知事は「本県の復興はいまだ途上」、「福島の復興は残念ながら長い闘いとなる」、「福島の復興をさらに前に進める」、「避難地域が再生しない限り、福島県全体の復興はあり得ない」、「避難地域の復興再生に全力を尽くす」と「復興」を繰り返した。だが、ここで言う「復興」に、避難指示区域外の被曝リスクは含まれない。双葉郡以外の汚染は解消されたという認識なのだろう。「引き続き除染を着実に進める」と語ったのみ。再来月には〝自主避難者〟向け住宅の無償提供が打ち切られるが、そこへの言及も記者クラブからの質問も無かった。
 「いまだに風評は根強く残り、風化のスピードも増している。復興への歩みを進めている姿を実際に見て感じていただく『ホープツーリズム』にも力を入れ、観光誘客の促進につなげていく」と内堀知事。2020年の東京五輪は〝復興五輪〟だそうだが「野球・ソフトボールの県内開催は、福島の復興が前に進んでいる姿を全世界に発信する絶好の機会。県内開催の実現に向け引き続き全力で取り組む」と〝決意〟を述べた。記者クラブメディアとの質疑応答では「一部の流通経路で、福島県産品がきちんと扱っていただけていない」、「農水省のポイントキャンペーン事業は、福島県産品を買ってみようかなと思っていただく一つのきっかけになる。非常に大きな追い風になる」と語った。
 約15分にわたる「新年の所信の一端」を、「福島が抱える様々な課題に果敢にチャレンジをし、復興そして地方創生の推進に全力を尽くして参ります」と締めくくった内堀知事。「酉年には商売繁盛につながるという意味が込められているそうです。福島県の商売繁盛、それは産業や経済が活性化する事であります。既存の産業を再生していく事、そして新産業を前に創り上げて行く事によって、福島の復興創生をしっかりと前に進めて参ります」とも。15日からはドイツを訪れる予定だ。


記者クラブとの年頭会見で「復興」を何度も口にした内堀雅雄知事。「東京五輪での野球・ソフトボールの県内開催は、福島の復興が前に進んでいる姿を全世界に発信する絶好の機会となる」とも=福島県庁

【誰のための「復興」なのか】
 県のトップが「復興」や「風評払拭」を連呼する中で、福島の中通りではますます、放射能汚染や被曝リスクを口にしづらくなっていく。地元の野菜を食べないと「非国民」呼ばわりされる事さえある。甲状腺ガン増加への懸念は「非科学的」で「過剰不安」と断じられる。3月末には、飯舘村などで帰還困難区域を除いて政府の避難指示が解除。土壌汚染への懸念が根強い中、復興の掛け声の下で帰還が促される。避難指示の出されていない地域から福島県外に向かった〝自主避難者〟も住まいを奪われる。チェルノブイリ事故とは規模が異なると専門家が強調し、福島を訪れ、食べて応援する事こそが美徳。戻る戻らない、食べる食べない─。「多様性を認める社会」とはほど遠い空気が、今年はさらに醸成されていく事になる。
 住まいをめぐる〝自主避難者〟との話し合いの中で、福島県庁の職員は決まってこう口にする。「福島市や郡山市では、もはや普通に暮らしている」。だが、決して「普通に」暮らしているわけでは無い。目に見えず、色も匂いも味も無い放射性物質の存在を意識しながら、一方で日々の日常生活を送らなければならない。避難や移住は難しい。福島で生きて行くと決めた以上は心配ばかりしてもしょうがない。幸いにしてモニタリングポストの数値は〝あの頃〟と比べると大幅に下がった。きっと大丈夫だろう…。そんな葛藤を心の片隅に押し込んで暮らしている。そう言っては大げさだろうか。
 復興はもちろん大切だ。だが、人の命や健康がないがしろにされた「復興」など成り立たない。11日で原発事故から70カ月。内堀知事は誰のための「復興」を進めようとしているのか。今年も注視したい。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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