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【70カ月目の飯舘村はいま】避難指示解除控え、原発事故後初の村内成人式。「何の抵抗もない」怒る菅野村長。「本当に大丈夫か」新成人から疑問の声も

原発事故による全村避難が続く福島県飯舘村の交流センター「ふれ愛館」で8日午後、成人式が開かれ、61人が出席した(9人欠席)。3月末で帰還困難区域を除いて避難指示が解除される同村が村内で成人式を開くのは、原発事故後初めて。避難指示が解除されていない中での式典開催に批判的な声も少なくないが、菅野典雄村長は「何の抵抗も無い」と言い切る。眼前に除染土壌が広がる中、友人たちと喜びを分かち合った新成人も複雑な胸中を口にした。


【眼前に広がる除染土壌】
 新成人の眼前に異様な光景が広がった。
 成人式の終盤。それまで閉じられていたステージ奥の幕が突然、開いた。閉式の挨拶をする門馬伸市副村長の背後には、シートに覆われた膨大な量の除染土壌。これが、再来月に避難指示が解除される飯舘村の現実だ。
 「村を色で表すと?うーん、何だろうなあ。すみません、暗いイメージなんですよね。年に1回くらいしか村の〝自宅〟には立ち寄りませんけど、人がいない。山のようなフレコンバッグが置いてある。牛もいない。車も走っていない。じいちゃん、ばあちゃんもいない…。あれ?ここ私の家なのかな?って考えてしまいます。異空間に迷い込んだみたいな気分になってしまうんです。だから避難指示が解除されたとしても村に戻って生活するという考えは起きないですね。放射線による被曝リスクはあまり気にしていないけど、ここで子育てをするとなると色んな意味でどうなのかなって思いますし」
 大学に通う女性(福島市)は、友人たちとの写真撮影の合い間に話した。春から東京で働き始めるという女性も「福島県内で生活していたとしても村には戻らないと思う。友達が全員戻って、除染土壌も全てなくなるなら良いけど…。それに正直なところ、都会の便利さ楽しさを知ってしまったんですよね」と本音を漏らした。
 そもそも、いまだ避難指示が解除されていない村内での成人式には、村民でさえ疑問を抱く人が少なくなかった。来賓の中にも、苦言を呈する村議がいた。私は当然、菅野典雄村長にそれを質した。
 「解除前の村内で成人式を開く事について逡巡しなかったか?はい。何の抵抗もありませんでしたっ」
 式典後、菅野村長はそれだけ答えると足早に立ち去った。激しい口調。怒りに満ちた表情をしていた。喜ぶべき避難指示解除を2カ月後に控える村長にとっては、もはや成人式でさえ村民帰還の〝地ならし〟なのか。だが新成人の中にも、村のやり方を厳しく批判する声があった事もぜひ認識していただきたい。






(上)閉式の挨拶をする門馬伸市副村長。背後に広がる膨大な除染土壌を新成人はどんな想いで眺めたのか?=飯舘村交流センター「ふれ愛館」
(中)原発事故後、初めて村内で開かれた成人式には61人が出席。晴れの門出を友人と共に喜んだ
(下)菅野典雄村長(左)から成人証書を手渡される新成人。避難指示解除が迫るが「村に戻る」と答えた新成人はゼロだった

【「行政は何言っちゃってるんだ」】
 「村は狭い社会。個人が特定されてしまうのは困る」と絶対匿名で取材に応じた新成人は「被曝リスクはあるに決まってるじゃないですか。行政は何言っちゃってるんだろうって思いますよ。健康に影響無いって言って村民を戻そうとするけれど、甲状腺ガンだって増えてるわけだし、被曝への不安は当然ありますよね。戻れるわけ無いじゃないですか」と語った。
 高校生の頃はスポーツに打ち込んだ。「当時は一生懸命で何の疑問も抱かなかったけど、今思えば、よくあんな環境でやってたなと思いますね」。書籍だけでなく、それこそ右から左まで学術的な論文も読んだ。危険性ばかりを認識しているわけではない、と言う。「県民健康調査の甲状腺検査ではA2判定です。これだけ年数経って、のう胞の大きさは2ミリのままだから大丈夫だとは思うけど、それでもどうなるかなんて分からないですよね。それなのに、みんな放射線にすっかり無頓着になってしまって…。そう言う私も福島県内に暮らしているのだから偉そうな事は言えませんが」。
 式典では、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの選手や原発事故後、飯舘中学校を訪れている「ゆず」の2人からもビデオメッセージが寄せられ、会場が沸いた。「村で成人式をやっても良いと言えば良いし、悪いと言えば悪いし。難しいな。でも室内だし短時間だから良いんじゃないかな」、「成人式もそろそろ村で開くというのもしょうがないんじゃないですか。室内ですしね。でも、それと村に戻って生活するかどうかは別問題ですよ」。イスが足りなくなるほど駆け付けた保護者も、多くが久しぶりの村での成人式を喜びながらも、複雑な心境を口にした。
 新成人は、きょろきょろっと周囲に目を遣った上で、声を潜めて言った。
 「何も知らないって、ある意味幸せですよね。私は知ってしまったんです。今日にしたって村内で成人式を開いて本当に良いのでしょうか。私は良いとは思いません。こんな事、誰かに聞かれたらまずいですけどね」






(上)村では、東京・渋谷公園通商店街振興組合から寄贈された「忠犬ハチ公」のオブジェが村民の帰りを待っている。避難指示解除は再来月=特別養護老人ホーム「いいたてホーム」
(中)県道12号線沿いでは、帰村した住民のサポート拠点となる道の駅「までい館」の建設が進む
(下)一方、佐須行政区内に設けられた「虎捕仮置き場」には膨大な数のフレコンバッグが運び込まれている。敷地面積は約1.7ヘクタールに及ぶ(2017年01月07日撮影)

【「屋外で遊ばせられない」】
 「私たちの人生には自動ドアは無い。他人のせいにしないで、自分の手で前向きに切り開いて行って欲しい」。菅野典雄村長は式辞の中で、「前向き」という言葉を何度も使って新成人にエールを送った。村議会の大谷友孝議長は「無責任な言動に惑わされず、誇りと責任を持って生きて欲しい」と祝辞を述べた。3月31日には、渋谷から贈られた「忠犬ハチ公」のオブジェを前面に出して、盛大な「避難指示解除セレモニー」を村役場で開く構想を練っているという。〝復興〟の象徴となる道の駅も着々と建設が進む。
 幼子を抱きながら娘の晴れ姿を見守った40代の母親は「今日は一時的だし室内だから良いとは思うけど、村に暮らすとなると話は別。この子を屋外で遊ばせられる環境にありませんし、村長は何とか村民を戻したいようだけど子どもの事を考えるとやっぱり…」と表情を曇らせた。菅野村長は既に2018年4月から村内での学校再開を決めているが、避難先で新たな生活基盤が確立されている事などもあり、認定こども園から中学校まで一体となる新たな校舎に通う子どもは少ない見込みだ。
 新成人が生まれた1996年は、10月に菅野村長が初当選を果たした年。2011年3月11日は飯舘中学校の卒業式だった。2年生として3年生を送り出した直後に大地震に見舞われた。そして原発事故。式典後のパーティで、当時の恩師たちは「自分たちの教室から巣立つ事が出来なかった」と振り返った。
 福島市内で働く男性の新成人は、羽織袴で式典に臨んだ。「レンタルです。意外と高かったですよ」と笑った。一方で「出来る事なら、村で働きたいですよ。生まれ育った土地ですからね。このまま村がなくなってしまうんじゃないかと心配もします。でも、自分が戻って暮らすとなると…」と複雑な想いも語った。「前向き」、「明るさ」だけでは語り尽くせない村の現状が漂っていた成人式だった。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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