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【福島原発被害東京訴訟】2回目の原告本人尋問。子どもを守りたいと避難した原告。「線量低いのになぜ戻らない?」と迫る被告。繰り返される稚拙な反対尋問。

原発事故により都内への避難を強いられた人々が、事故の過失責任を認め損害賠償をするよう国と東電を相手取って起こした「福島原発被害東京訴訟」の第21回口頭弁論が11日、東京地裁103号法廷(水野有子裁判長)で開かれ、福島県いわき市から都内に〝自主避難〟している夫婦、母親、父親の計6人の原告に対する本人尋問が行われた。同訴訟での原告本人尋問は、2016年11月に続いて2回目。前回同様、被曝リスクを避けるために都内に逃げた原告たちに、被告代理人弁護士は稚拙で正確さを欠く反対尋問を繰り返した。次回期日は3月1日午前10時。


【「どうせ白血病で死ぬんだろ」】
 「目に見えない被曝リスク」から少しでも遠ざかりたかった原告。「いわき市の空間線量は低いのになぜ戻らないのか」と執拗に尋ねる被告代理人弁護士。語り尽くせない苦労もわが子のため、と原告が涙を流しても、被告代理人弁護士はヘラヘラ、ニヤニヤ笑いながら正確さを欠いた的外れな反対尋問を繰り返す。「避難先で、いわき市が避難指示区域内で無い事を知ってもなお避難を継続した理由は?」という質問には傍聴席もざわついた。子どもの性別を間違えて原告に指摘される場面も。前回に続いて今回も、全くかみ合わないどころか被告代理人弁護士の真剣さすら疑いたくなるような稚拙なやり取りばかりだった。
 「福島の空間線量では健康に影響ないとの専門家も意見もあると思うが…」という被告代理人弁護士の発言には、水野裁判長が「正確な質問をしてください」と注意した。原告代理人弁護士も「誤導だ」と異議を申し立てた。 尋ねられた事に対して原告がきちんと答えているにもかかわらず、国の男性弁護士が耳も傾けずに書類に目を通したり同僚弁護士との打ち合わせに没頭している場面も。「あなたが尋ねた事に原告が答えているんだからちゃんと聞いてくださいよ。失礼じゃないですか」と原告代理人弁護士から怒りの言葉が飛んだ。被告代理人弁護士は顔を真っ赤にして頭を下げた。避難の合理性を崩すにはあまりにも稚拙な被告代理人弁護士の反対尋問だった。
 40代の母親は、原発事故で新体操の指導者という道を絶たれた。いわき市の友人からは「いつ帰って来るの?」というメールばかりが届き、すっかり疎遠になった。子どもは転校した都内の公立小学校で、何度も階段から突き落とされる〝いじめ〟に遭った。「福島から来た子は白血病で死んじゃうらしいな」というクラスメートの言葉に、担任の教諭は注意するどころか「そうね、中学生くらいになると死んじゃうかもね」と〝悪ノリ〟した。階段から突き落とされる時、わが子は「どうせ死ぬなら今死んでも一緒だろ」と言われたという。「避難者なんだから貧乏だろ」とも。法廷で母親は言った。「心を傷つけられ過ぎて果たして修復できるのだろうか」。被曝リスクから逃れたい一心での避難で、なぜそんな仕打ちを受けないといけないのか。


本人尋問を終えた30代夫婦。昨秋から夫が名古屋に転勤。子どもの小学校進学を機に、念願だった家族での生活が始まる。夫婦、親子を離ればなれにしたのはもちろん、原発事故だ=東京都千代田区霞が関・弁護士会館

【原発事故で引き裂かれた家族】
 「私も泣きたい」、「ママだってつらいんだよ」
 30代の母親は、原発事故による母子避難で夫や両親と離ればなれになった。夫や互いの両親に支えてもらいながらの子育てから一転。都内で1人、生後10カ月の幼子と向き合った日々。もはや爆発寸前だった。避難先は都営住宅の9階。「ここから落ちちゃったら終われるのかな」。ベランダでそんな発想が頭をよぎった事もあった。原発事故が無ければ、夢だった美容室を開業しているはずだった。物件も決め、契約直前だった。原発事故前の日記には、夢の開業に向けてワクワクする想いが綴られていた。だがコツコツ貯めた開業資金は、避難先での生活費に消えて行った。そんな「喪失感」とも闘っていた。
 住み慣れたいわき市を離れる時、迷いが無かったわけでは無い。背中を押してくれたのは母親だった。「子どもを守れるのは親しかいない。あなたは行きなさい」。ずっと一緒にいるのが当たり前だった親を〝捨てて〟の避難。車中で泣きながら夫の手を握りしめた。「私たちは間違った事をしているのかな」。後に、子どもの尿検査で放射性セシウムが検出されなかった時には「思わず涙が出た」と夫にメールを送った。医師からも「早く避難した事がこういう結果に結びついたんだよ」と言葉をかけられた。しかし、自身の甲状腺から6ミリの結節が見つかった。B判定。子どもの尿からも後に放射性セシウム137が微量ながら検出された。原発事故による健康への影響は本当に無いのか。不安は消えない。
 やはり30代の夫は、出し続けていた転勤願いがようやく通り、昨秋から名古屋市に単身赴任中。子どもが卒園式を終えたら、妻や子どもとようやく一緒に暮らせる。「離れていてつらかった。初めて子どもが立ったとか初めて『パパおかえり』と言ってくれたとか、そういうものを経験できなかった。すごく悔しい」。しかし、被告代理人弁護士の問いに、こうきっぱりと答えた。「子どもを守るために避難させたので、自分が寂しいとか会いたいからという理由で戻って欲しいと言うつもりは無かった」。工場での勤務を終えて、3時間かけて会いに行った。夜勤明けでも寝ないで車を走らせた。妻の髪をなで、子どもと遊んだ。自分の前では〝いい子〟のわが子は、父が見えなくなった後で泣いていた。「あと何回寝たら来てくれるの?」と尋ねられて、何と答えて良いか分からなかった。
 同訴訟で、母子避難させた父親の出廷はただ1人。硬派な父親が唯一、下を向いて涙をこらえたのが愛する妻の話だった。
 「自分はそばにいてやれなかった。あんまり愚痴を言わない妻が『つらい』、『もう嫌だ』、『ベランダから飛び降りる』と電話で…」。
 傍聴席からすすり泣く声が聞こえた。夫妻の想いは被告代理人弁護士の胸に届いただろうか。


開廷前、原告や支援者らが東京地裁前で訴訟への理解や支持を求めるチラシを配った。原告の1人は「放射能は目に見えないし、訴訟の本質が一般には分かりにくいとは思う」と苦悩を口にした

【わが子の疾患。「私が産んだから?」】
 50代の父親は、1993年に一家でいわき市に移住した。都内に生まれ育ち、自然豊かな地方での暮らしにあこがれがあった。フィリピンから嫁いできた妻も英会話教室の講師として地域の人々から歓迎された。職場が都内にあったため20年以上も週末だけいわき市に通う生活が続いたが、7LDKの自宅を構え、子どもたちものびのびと育っていた。それらを奪ったのが原発事故だった。「廃炉作業中の原発が再び爆発するんじゃないかという不安もあるから帰れない。あこがれたいわきでの生活を返して欲しい」。そう願うのは当然だ。
 40代の母親は、様々な考え方があるからと周囲に福島からの〝自主避難〟である事は伝えていない。夫の支えも受けたい。でも被曝リスクから子どもを守りたい。悩みながら都内での生活を続けてきた。もうすぐ4歳になるわが子は心臓に疾患を抱えて生まれてきた。「何でもかんでも原発事故が原因だとは言いたくない。でもやっぱり、福島に居た私が産んだからこうなったのかなと思ってしまうんです」。長女は甲状腺検査でA2判定。扁桃腺肥大も確認された。鼻血も出す。医師に「原因は乾燥」と言われても、納得できない。そんな母親に、東電の代理人弁護士はこう尋ねる。「夫が原告に名を連ねていない理由は?」。母親は答えた。「私だって好きでここにいるわけでは無い。つらい。夫にこれ以上、ストレスをかけたくない」。国の代理人弁護士も「子どもに帰りたいと言われた事は無いか」と迫る。しかし、きっぱりと反論した。「子どもに帰りたいと言われて戻るくらいなら、初めから避難などしていません」。
 妻と娘が見守る中、尋問に臨んだ40代の父親は、独立して開業した工務店を原発事故に奪われた。「歯を食いしばりながらがんばってきたが、道半ばで壊れてしまった」。楢葉町の実家は原発事故のために解体を余儀なくされた。娘の名前も、生まれ育った楢葉町の海から名付けた。「私も妻も福島が好き。楢葉の海を眺めながら、それを娘に告げられる日が来ると良いと思う。でも今は戻れません。3.11より弱かった昨年11月22日の地震で福島第二原発の冷却水が止まるくらいなんですから。またか、と思いましたよ」
 事前に打ち合わせた持ち時間をオーバーして不毛な尋問を続ける被告代理人弁護士。「年1mSvを基準に行動している。だって法令で決まっているでしょ」と話す30代父親に、国の代理人弁護士はこうも言い放った。
 「日本では、自然放射線だけで年2.1mSv浴びていると言われていますが知っていますか?」
 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(2014年度版)」の第1章「放射線の基礎知識と健康影響」にも「宇宙から、そして大地から受ける自然放射線による外部被ばくや、食物や空気中のラドンなど、自然由来の放射性物質から受ける内部被ばくは、合計すると年間で世界平均では2.4ミリシーベルト、日本平均では2.1ミリシーベルトになります」と記載されている。だから原告たちの避難に合理性など無いと言いたいのだろうか。
 40代の母親は裁判長に向かって言った。
 「子どもを守るために避難を続けるという事を認めて欲しいです」
 16時38分、閉廷した。次回期日は3月1日10時。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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