記事一覧

【70カ月目の浪江町はいま】国が3月31日の避難指示解除を正式提案。年1mSv超だが「生活環境整った」。26日からの住民懇談会で異論噴出しても解除強行か

政府の原子力災害現地対策本部は18日、福島第一原発の爆発事故により福島県浪江町に出されている避難指示について、帰還困難区域を除き今年3月31日に解除すると町に正式に提案した。二本松市内で開かれた町議会全員協議会に原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長らが出席。汚染が残る状況でも「ふるさとでの生活を再開いただける環境は整った」などと説明した。浪江町の馬場有(たもつ)町長は今月26日から始まる住民懇談会での意見を踏まえて受け入れ可否を判断するが、国からの〝圧力〟を指摘する声もあり、仮に異論が噴出しても解除は強行される見通しだ。


【議員から「時期尚早」の声も】
 午前9時半から町役場二本松事務所で開かれた町議会全員協議会には、後藤収副本部長のほか原子力災害対策本部原子力被災者生活支援チームの松井拓郎支援調整官、復興庁・福島復興局の紺野貴史次長、環境省・福島環境再生本部の小沢晴司副本部長らが出席。後藤副本部長が「これまでの復興に向けた取り組みを総合的に判断した結果、ふるさとでの生活を再開いただける環境は整っており、避難指示を解除して復興を新たなステージへ進めるべきだ」、「3月31日の避難指示解除に向けて手続きを進めていきたい」などと早口で述べ、同日午前0時での避難指示解除を正式に提案した。
 環境省の小沢副本部長は除染の効果について説明。「宅地除染では、平均1.74μSv/hから同0.52μSv/hと空間線量率(高さ1メートル)が70%低減した」、「面的な除染の効果は維持されている」、「今後も事後モニタリングやフォローアップ除染を続けて行く」などと語った。しかし、「下がった」とは言っても行政区によって数値には大きなばらつきがある。北幾世橋南や北棚塩といった常磐線・浪江駅から海側の行政区では宅地平均0.21~0.22μSv/hだが、駅から津島方面にある加倉行政区では同0.68μSv/h、川添南行政区で0.69μSv/h、立野下行政区に至っては1.24μSv/hと依然として汚染が続いている事に変わりは無い。また、住民が特に心配する森林に関しても、ほとんど手つかずの状態で除染の低減率も18~30%止まり。原発事故前が0.04μSv/h程度だった事を考えると、とても「生活を再開する環境が整った」とは思えないのが実情だ。
 平本佳司議員は「現地視察では、5.8μSv/hの農地側溝もあった。本当に除染は3月末までに終わるのか。不安がいっぱいある。解除は時期尚早。除染が終わってから避難指示を解除しても良いのではないか」と指摘。
 山本幸一郎議員も「解除そのものには反対では無い」とした上で「ダムや川は除染しないのはなぜか。避難指示が解除されたら川で遊んでも良いと考えるのが普通だろう。ダムの水を使って野菜を作って良いと考えるだろう。昔は川魚も食べられた。水そのものはきれいかもしれないが底には放射性物質が残っている。こんな状況では、みんなに『浪江に帰れ』とはなかなか言いづらい」、「震災前はみんなで食べてたイノシシも今ではゴミ扱い。捕獲してマリンパークに埋めている。今後、どうやって処理するのか。高いやつが埋まっていると分かっていて子どもたちを遊ばせられるか」などと語気を強めた。




(上)国から「3月31日の避難指示解除」が正式提案された浪江町議会の全員協議会。5人の議員が質疑を行った=福島県二本松市
(下)閉会後の会見でも「受け入れるか否かは、住民懇談会での意見などを総合的に判断する」と繰り返した馬場有町長。国からの〝圧力〟を指摘する声もある

【「避難指示解除で風評払拭」】
 もっと驚くべきデータが示された。
 これまで特例宿泊(2016年9月1日~26日)や準備宿泊(2016年11月1日~)を利用して町内で寝泊まりした町民に個人積算線量計(Dシャトル=ストラップで首からぶら下げるタイプ)を貸し出して滞在中の外部被曝線量を測定。その結果から年間外部被曝線量を推計した。すると全データ236件の平均が1.17mSvに達したのだ。0.8~1.2mSvが最も多く106件だった。
 この結果に関して全員協議会閉会後の囲み取材で後藤副本部長に質すと「年1mSvはあくまで長期の目標であって、避難指示解除の基準では無い。年5mSvを超えるような高い人が御一人いるが、原因は分かっている。自宅の除染がまだされていなかった。それ以外の人に関しても今後もフォローアップ除染はするし、今後は外部被曝線量は下がっていくと思う」と答えた。さらに車に乗り込むまでの間にも取材を続けたが「私としては、医学的に年1mSvにこだわる必要は無いと思います。ただ、それで安心出来るなら長期的に年1mSvを目指した方が良いとは思います」と語った。閣議決定された「避難指示解除の要件」の中では、「空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること」とうたわれている。町議会への説明でも、環境省は「宅地については必ず3.8μSv/hにならないように除染する」、「0.98μSv/hにまで下がった」という言い回しをしている。年1mSvは今や昔の話。「安心するための材料」に変質してしまった。
 地元記者からの質問に「避難指示を解除する事で日常に近づく。浪江町の避難指示解除は双葉郡の復興にも弾みがつく」と語った後藤副本部長。復興庁・福島復興局の紺野次長は、山崎博文議員の「風評被害をどのように払拭するか」との質問に対し「避難指示が出ている事自体が風評被害につながっているという側面もある」と答えた。
 では、浪江町の被曝リスクを語る事も「風評加害」なのだろうか。確かに17%とはいえ、すぐにでも町に戻りたいと考えている町民は存在する。既に町内に戻った製造業者は、売り上げが原発事故前と比べて7割も減ったという。山崎議員は「町内視察の際、事業者から『一日も早く避難指示を解除して欲しい』と言われた」と語った。それも現実。しかし、避難指示解除は、放射性物質を瞬時に消し去る〝魔法の術〟では無い。解除後も汚染は残ってしまうのも哀しい現実だ。




(上)特例宿泊・準備宿泊を利用した町民に関する推定年間外部被曝線量は「町内滞在時」が最も高く年1.54mSvだった(Dシャトルでの測定結果から推計)
(下)政府・原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長は取材に対し「年1mSvは、あくまで長期の目標であって避難指示解除の基準では無い」「私としては、医学的には年1mSvにこだわる必要は無いと思う」などと浪江町の〝安全性〟を強調した

【住民懇談会はガス抜きの場?】
 馬場有町長は「今月26日から始まる住民懇談会(2月10日終了予定)で皆さんの意見を聴き、今日の国からの提案を受け入れるか否か総合的に判断する」と繰り返した。平本議員は再三、「住民懇談会で反対意見が多かった場合には、避難指示解除時期の延期もあり得るのか」と質したが「期日については今のところは答える事が出来ない」と語るにとどまった。避難支持解除時期の先送りにも含みを残した形だが、一方で「避難指示解除時期の変更なんてあるわけねえべした。『住民懇談会は意見を聴く場では無く理解を求める場だ』ってはっきり言えば良いんだ」と怒る議員も。
 後藤副本部長は「3月31日で町と手を握っているわけではございません」と〝出来レース〟を否定したが、浪江町に設置された「避難指示解除に関する有識者検討委員会」(委員長・吉岡正彦ふくしま自治センター総括支援アドバイザー兼教授)の「フォローアップ会合報告書」でも「帰還を望む町民が生活を開始できる準備は概ね整っている」、「避難指示解除後も継続して取り組む課題のうち、町民の生活に密接にかかわる部分について、多くの取組は既に開始されており、平成29年3月以降、比較的早い時期に一定の成果があがるものと確認できた」などと国と歩調を合わせるかのような「評価」をしている。同委員には、東京大学アイソトープ総合センター長の児玉龍彦氏も名を連ねる。
 町の居住制限区域から中通りに避難中の女性は「解除時期は半年くらい延びるかなあと思っていた。戻って本当に大丈夫なのかなあ」と表情を曇らせた。「誰だって故郷に帰りたい。でも、実際に帰る人は少数。本当に被曝リスクが無いのか不安だもの。それに周りが戻らない中で自分たちだけ戻っても寂しいしね。政治家や官僚は5年くらい浪江町に子や孫と一緒に住んで、浪江町の米や野菜を食べて、それから避難指示を解除すれば良いのよ」。女性も中通りに新居を構えた。いわき市内が希望だったが土地の高騰で断念したという。
 馬場町長は今月12日、「帰還困難区域を含む浪江町全域で年間追加被ばく線量1ミリシーベルト以下を達成するための取組みを、実現するまで継続すること」などを盛り込んだ「避難指示解除に向けた必要施策に関する要望書」を安倍晋三首相(原子力災害対策本部長)宛てに提出した。馬場町長は「帰町宣言」こそしていないものの、3月末での避難指示解除には基本的には前向きだ。「町民それぞれの考え方を最大限尊重する」とも語ったが、「『解除時期を先延ばししても構わないが、(交付金や振興策などを)大熊町に全部持って行かれるぞ。それでも良いのか?』と国から脅しをかけられているようだ」と町長の苦しい立場に同情的な関係者もいる。「住民懇談会などガス抜きの場。どうせ結論は出ているんだ」と話す町民もいる。
 国の示した避難指示解除日まで70日余。しかし、町民の苦悩は6年では終わらない。



(了)
スポンサーサイト

プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

福島取材にはコストがかかります。
往復の交通費と宿泊費だけで約2万円です。
よろしければ、ご支援をこちらまでお願い致します。

【ゆうちょ銀行 普通 記号10980 口座番号05373461 鈴木博喜】

【じぶん銀行あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
(銀行コード0039 支店番号106)】

https://www.facebook.com/taminokoe/

最新記事

最新コメント

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
21位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
8位
アクセスランキングを見る>>

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
21位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
8位
アクセスランキングを見る>>