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【甲状腺エコー検査】「宮城でも被曝への不安はある」。母親らの心配に寄り添い続けて3年余。「いずみ」の無料検査から見える健康調査への根強いニーズ

原発事故当時、18歳以下だった子どもを対象にした甲状腺エコー検査を2013年12月から毎月、無料で続けている団体が仙台市内にある。日本基督教団東北教区放射能問題支援対策室「いずみ」(仙台市青葉区錦町)。これまでに検査を受けた子どもは1400人超。22日に仙台市内で実施された検査にも41人が参加し、関心の高さを伺わせた。福島第一原発事故の爆発事故から間もなく6年。福島県内では検査縮小の動きすら出ているが、無償で検査を担当している医師も「むしろこれから、甲状腺も含めて福島県以外でも健康調査をきちんと行う必要がある」と強調する。


【「過剰不安では無い」】
 石巻市から車で1時間ほどかけて仙台市宮城野区内の検査会場を訪れた夫婦。5歳になる息子は福島第一原発が爆発した頃、東北電力の女川原発で協力会社の事務員として働いていた母親(50)の胎内にいた。「雨が降るたびに心配でした。生まれてからも食べ物などに気をつけていたんですが『絶対』は無いですからね。わずか6年で、どうして『もう大丈夫』と言えるのでしょうか。不安を抱いたり、検査を受けたりする事が批判されるとすれば、それはおかしいです」。
 エコー検査では、息子の甲状腺は直ちに二次検査を要するような深刻な状態では無いことが分かった。ひとまず安どの表情を浮かべた父親(48)は「後々、息子に健康被害が出てから悔しい想いをするのは嫌ですからね。今後も定期的に検査を受けさせたいです。無料で検査を受けられるのは本当にありがたい」と語った。
 仙台市内の母親(50)は、中学生の兄と小学生の妹を初めて検査会場に連れて来た。のう胞が複数個見つかり「2ミリ程度の大きさで深刻にとらえる必要は無い」との説明を受けたが、不安は残る。「もう少し放射線について勉強してみようと思います。過剰不安?決して過剰では無いですよ。今からでも、出来る事なら避難したいくらいですから。ましてや福島県での検査を縮小するなんてまだ早いですよね。申し訳ないが、私は福島県は人が住んではいけないと考えています。もちろん、個々の事情があって離れられないのも理解出来ますし、そんな事を言い出したら原発は全国にあるわけで、住む場所が無くなってしまいますからね」と苦悩を口にした。
 仙台市内にとどまらず、東松島市などからも検査会場を訪れる親子がいた。大和町の母親(38)は「放射能に関する知識が無く、原発事故が起きても屋外で娘を遊ばせていました。やはり漠然とした不安はあります。初めて来ましたが、検査を受けて何も無ければ安心出来るわけですから」と話した。小学生の娘からは小さなのう胞がいくつか見つかった。急を要する状態ではないが「来年もまた参加したいです」と経過を見守っていく事にした。この日の検査では、20ミリを超えるようなのう胞が見つかった子どもはいなかった。




(上)日本基督教団東北教区放射能問題支援対策室「いずみ」が続けている甲状腺エコー検査。本来は国や行政の責任で実施するべき検査だが、宮城県は「検査は不要」との姿勢を貫いている
(下)息子の検査の様子を見守る母親(手前)。放射性物質が福島県内だけにとどまるはずもなく、宮城県内の住民がわが子の被曝や健康被害に関して不安を抱くのは当然だ=仙台市宮城野区日の出町の「あいコープみやぎ」

【村井知事「検査は不要」】
 「いずみ」が宮城県内で甲状腺エコー検査を始めたのは2013年12月。今回の検査で35回に達し、検査を受けた子どもは1400人を超える。「3・11甲状腺がん子ども基金」代表理事の崎山比早子さん(元国会事故調査委員)はたびたび「本来は、福島県以外でも国や行政の責任で健康調査を行うべき」と訴えているが、宮城県の村井嘉浩知事は「甲状腺検査は不要」との姿勢を貫いている。その根拠となっているのが、石井慶造氏(東北大学大学院教授、福島県福島市の放射能対策アドバイザー)や久道茂氏(宮城県対がん協会長)ら「有識者の判断」だ。
 宮城県は「拡散した放射性物質が県民の健康に与える影響や、本県における今後の対応策について学識経験者の意見を聴取するため」として「健康影響に関する有識者会議」を設置したが、会議が開かれたのは2011年10月25日と2012年1月24日のわずか2回。2012年2月14日には「有識者会議報告書」がまとめられたが、「福島県で2011年6月から8月にかけて警戒区域や計画的避難区域の住民3373人を対象に実施したホールボディカウンターによる内部被曝検査の結果、健康に影響無いと判断されている」、「健康には影響が無いという事実を確認するため、2011年12月4日と2012年1月15日に宮城県内でも空間線量の高い丸森町の小学生64人を対象に甲状腺超音波検査(エコー検査)を実施した。12人に結節が認められたが良性で時間的経過から見ても原発事故の影響により発生したとは考えられず、日常生活に特段注意する点は無いと診断されている」などとして、「科学的・医学的な観点からは、現状では健康への悪影響は考えられず、健康調査の必要性は無い」と結論づけられている。
 「いずみ」顧問の篠原弘典さん(69)=東北大学工学部原子核工学科卒業=は振り返る。「2012年6月の県議会でも、宮城県内の18歳以下の子どもたちが、福島県と同様に甲状腺検査及び内部被曝の状態を把握出来る継続した健康調査を受けられるようにすることなどを求めた請願が全会一致で採択されたが、村井知事は有識者会議の結論を優先しました。そこで『いずみ』を立ち上げる際に、活動の一つに甲状腺エコー検査の実施を加えたのです」。
 福島県の「いわき放射能市民測定室 たらちね」や西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)の協力を得て準備を進め、ゼネラル・エレクトリック社製の検査機器も購入。沖縄や北海道への保養プロジェクトと共に甲状腺エコー検査を継続している。「海外の教会からの献金が今年3月で終了してしまうため財政的に厳しくなるが、規模を縮小したとしても今後も継続して行こうと考えています」と篠原さんは語る。




(上)3年余の独自検査では深刻な状態の子どもはいなかったが、今後も継続的な観察は必要だ
(下)検査を担当した溝口由美子医師。「むしろこれからこそ、経口への影響が問題となって来るだろう。きちんと検査をしていかなければならない」と語る

【「国や行政の責任で検査を」】
 これまでの3年余の独自検査では、半数の子どもは甲状腺にのう胞や結節が見つかっていない。20.1ミリ以上ののう胞や5.1ミリ以上の結節が見つかった子ども(いわゆる「B判定」)も16人にとどまっているが、一方で約半数に20ミリ以下ののう胞が見つかっているのも事実だ。「いずみ」の甲状腺エコー検査に当初からボランティアで携わっている小児科医の寺澤政彦さん(63)は「宮城県内で被曝リスクが無いかと言えばそんな事は無い。そもそも『チェルノブイリ事故と比べて福島では放射性物質の放出量は少ない』という認識事態に疑問があります。福島県内だけでなく、宮城や岩手、新潟などでも国や行政の責任で健康調査を続けて行くべきなんです。少なくとも20年は必要だと考えています」と強調する。
 仙台市の母親(36)は言う。「一度、子どもの甲状腺の状態を確認したいと思っていました。夫の両親やママ友など、周囲とはあまり被曝リスクの話はしません。いろいろな考え方がありますからね。でも将来、子どもに健康被害が出ないなんて誰も言い切れませんよね。原発事故当時、母乳を飲ませていましたし、屋外でも遊ばせていました。今後も、定期的に検査を受けさせたいと思います」。幸い、小学生の姉や弟の甲状腺からのう胞は見つからなかった。
 この日、初めて検査を担当した小児科医の溝口由美子さん(56)も「むしろ今後、健康被害が懸念されます。福島県外でもこれからこそ、甲状腺も含めてきちんと検査をしていく必要があると考えています」と語る。仙台市内の30代の母親は「原発事故ってどこか遠い世界の話のようだけど、振り返ってみると、当時も何の意識もせず遊ばせていたし本当に子どもに影響が無いのか不安はあります。こういう機会があってありがたいです」と話した。だからこそ、公的な検査の必要があるのだ。
 次回検査は2月12日11時から、柴田郡川崎町の「川内北川コミュニティーセンター」で行われる。定員は50人だが、正午以降の時間帯(15時で終了)にはまだ空きがある。問い合わせは「いずみ」022(796)5272。 (平日の9時から17時まで)。ホームページは http://tohoku.uccj.jp/izumi/



(了)
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鈴木博喜

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