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【70カ月目の福島はいま】絵手紙に綴る「あの時は言えなかったこと」。複雑な想い抱えた6年。「不安はまだ消えたわけではない」「キノコのセシウムに怒り」

福島で暮らしていると、被曝リスクを声高に叫ばなくとも胸の奥底には今も不安が漂う。本当に大丈夫だろうかと思いながらも一方で、もう大丈夫だと思いたい気持ちもある。県外の人から「福島は危険だ」とは言われたくない─。郡山市内で22日まで開かれた「うつくしま絵手紙の会」による「年賀状展」では、そんな複雑な想いが描かれた絵手紙も披露された。〝自主避難者〟の前で「中通りでは多くの人が普通に暮らしている」と言い放つ福島県庁の職員にこそ、じっくりと読んで欲しい絵手紙。一部を紹介する。


【「避難すれば良かったけど…」】
 「あのとき、孫たちと一緒に避難すれば良かったと思ったことです。でも、私にだけ課せられた責任がありました。それは〝守る事〟。不安の中で、あの判断は間違いでなかったと自身にいい聞かせながら、それぞれが押し黙り何をすべきかさえ決められない。行先も定まらない。風にほんろうされる落ち葉のような私がそこにいました」

 「キノコの放射線量を測ってもらった。去年より少なくなっている事を期待して残念。去年より五倍ぐらい多かった。怒りがこみあげて来た。いつになったら、と思うと悲しい」

 「他の町から避難の方々が大勢、我が町に来て居るので、炊き出しのおにぎり作り要請が入った。家を犠牲にボランティアに励んだ。あの時早く、国や町の行政の方々が放射能の情報を私達町に住んでいる者に知らせてほしかった。東電の方、行政の方。そうすれば県民皆が納得出来たのではないでしょうか」

 「原発事故から丸六年を迎えますが、不安はまだ消えたわけではない。今日は、皆が集まって柿の木を描いた。この寒空に真剣なまなざしで描いた後、おしゃべりして食べて飲んで、そんなリッチなひとときだった」

 避難したくても出来なかった人は少なくない。国や行政が被曝リスクを正しく伝えていれば、広範囲で公的避難を実施していれば初期被曝は避けられたかもしれない。それが無かった以上、避難しなかった事は正しかったと自分に言い聞かせて暮らしている。しかし、キノコからは依然として放射性セシウムが検出される。食品検査が不要になるのはいつの日か。




31回を迎えた「うつくしま絵手紙の会」による絵手紙展。川俣町や郡山市の生徒たちが「あの時は言えなかったこと」をテーマに原発事故から6年の複雑な想いを描き、綴った=福島県郡山市・ビッグアイ6階「市民プラザ」

【黙ってすすった蕎麦】
 「もうすぐ六年目。風化していく一方で、まだ避難している子どもたちに、いじめという被害が続いていることがとても悲しい」

 「群馬の息子の所に行く途中、蕎麦屋さんに入りました。おそばを注文して待っていると、後から入ってきたお客が『福島ナンバーの車がある』と大きな声で話して隣の席に座りました。主人と私は、とてもおいしいそばのはずなのに味などわからず沈黙でそばをすすり、店を後にしました。車の中でもずっと二人で口を開きませんでした。とても悲しかった。私たちが悪いわけではないのに。『福島は大丈夫です。元気です』と言いたかった」

 「子どもたちを連れて逃げてほしいと言われたが、孫6人に母を連れてどこに逃げたらいいのか行くあてもないと断念しました。今振り返って見れば、それがいい結果になったように思います」

 「今は何ごともなかったように過ごしていますが、あの当時『福島』と言えないでいました。『どちらからですか』と何度か聞かれた札幌でも…。その時生まれた孫も、間もなく年長さんです。慌ただしく家から離れた人たちも帰れるようになったところもありますし、子どもたちにも笑顔が見られるようになったと思います。福島の今が変わっていっていること。果物もお米もお酒もおいしいこと。頑張っている人、寄り添い励ましあう人が沢山いることをきちんと伝えていきたいと思っています」

 責められるべきは福島県民ではなく原発事故を防げなかった東電であり、原発政策を推進してきた国。しかし、原発事故直後、福島ナンバーの車は軒並み嫌がらせを受けた。子どもたちは避難先の学校で有形無形の迫害を受けた。それは今なお続いている。国や行政が「避難の権利」を認めない中で、避難しろと言われても行くあてもなくあきらめる人が相次いだ。6年経ち、空間線量は確かに下がった。公共事業中心型の〝復興〟は進んでいる。だがしかし、汚染は本当に解消されたのだろうか。




依然としてキノコから放射性セシウムが検出される事への怒りを描いた人もいれば、『福島が変わっている事をきちんと伝えたい』と綴った人もいる。6年間の想いは十人十色。単純には色分け出来ない

【「ここで生きて行くしか」】
 「浜では小石を掻き分け骨を捜す。天気予報のように放射線の値を流してる。この頃、全国各地で起こっている地震に、六年も前になるのに体の震えは覚えていて、その地の人たちを思うと心が震えます。きのこは採っては捨てます。仮設はとうに期限切れ。二百五十キロ離れた東京ではオリンピックモード。どれもどうにもなりません…」

 「うつくしま絵手紙の会」の代表で講師の安達アツ子さん(郡山市在住)は、自身の絵手紙にニワトリの絵とともにそう綴った。確実に寄せてくる「風化」の波。そして、東京五輪を見据えた避難指示の解除と帰還政策。避難指示の出なかった地域から福島県外に避難した〝自主避難者〟に対する住宅の無償提供も、あと2カ月で打ち切られる。「どうにもならない」矛盾と葛藤が渦巻く。
 今回も、震災や原発事故とは関係ない絵手紙を綴った生徒たちを促して本音を書かせた。避難したくても出来なかった生徒の中には、結果としてそれが良かったと綴った人もいる。
「だって、ここで生きて行くしかないじゃない。公的な補償があるわけでは無い中で、避難しろと言われてもどこに行けば良いの? ここで生きて行く以上、『避難しなかったから家族がバラバラにならずに済んだ』などと言って結果を良しとするしか無いんですよ。それに、放射線による危険性ばかり考えていたらここでは暮らせません。だからと言って、福島で暮らす人々が何にも意識していないかと言えばそれも違う。単純なものでは無いんです。想いは複雑なんですよ」
 平凡な暮らしの裏側に潜む複雑な葛藤。〝自主避難者〟の前で「中通りでは多くの人が普通に暮らしている」と平然と言ってのける福島県庁の職員には、川俣町や郡山市の人々が綴った絵手紙が理解できるだろうか。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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