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【自主避難者から住まいを奪うな】「私たちは悪くない」「難民になってしまう」。迫る打ち切り。山形県米沢市の雇用促進住宅入居者が〝退去しない宣言〟

福島県中通りから山形県米沢市に避難し雇用促進住宅に入居している人々が、理不尽な形で住まいを奪われてなるものかと〝退去しない宣言〟をしている。訴訟も辞さない構えで、家賃は東電に請求するよう、住宅を管理する独立行政法人に書類を提出した。原発事故による〝自主避難者〟向け住宅の無償提供打ち切りまで残り2カ月。住宅は、被曝リスクを逃れようと避難した人々の命綱。聴く耳を持たず、住まいを奪おうとする福島県知事への当然の抵抗が少しずつ広がっている。


【「家賃は東電に請求して」】
 避難者たちの意思は明快であり、当然だった。
 「雇用促進住宅を継続して使用したい」
 「家賃は東電に請求願います」
 自身も福島県福島市から避難し、雇用促進住宅に入居している「福島原発被災者フォーラム山形・福島」代表の武田徹さん(76)が作成した〝退去しない宣言〟(継続使用許可申請書)。署名・捺印した避難者は10世帯を超え、雇用促進住宅を管理する「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」と福島県に提出した。
 福島県の中通りから避難した50代の母親は言う。
 「これまで毎年、住まいがどうなるかビクビクしてきました。福島県職員などに『住宅が心配だ』と言い続けてきましたが、ただ聴くだけで何も進まない。一度も寄り添われた事などありません。そこに突然、打ち切りの話が打ち出された。雇用促進住宅から退去するか、家賃を支払って住み続けるかを昨年秋までに決めるよう迫られたのです。一時は『家賃が発生するのも仕方ない』とも考えましたが、武田さんと出会い、おかしい事はおかしい、悪い事は悪いと声をあげる事は大事だと改めて気づきました。悪いのは誰ですか?東電ですよ。それなのに加害者が賠償の範囲や金額を決めているんですよ」
 別の40代の母親も「私たちは悪くない」と〝退去しない宣言〟をした。戸建て住宅を購入する直前の大地震、そして原発事故。「自分の家族は自分で守らなければならない」と避難したが、福島県内に通勤する夫は、周囲から「自主避難して金をいっぱいもらってるんだろう」、「良い想いをしてるんだろう」と事実と異なる言葉を浴びてきた。はがゆい想いを繰り返した末の、住宅無償提供打ち切り。米沢市は市営住宅の優先入居を打ち出したが、仮に入居出来ても小学生の子どもたちに転校を強いる事になってしまう。現在の雇用促進住宅に住み続けたいと願うのは当然だ。
 武田さんたち避難者団体はこれまでの福島県との交渉の中で、災害救助法にこだわらず、避難者に発生する家賃を福島県が立て替えた上で東電に請求するよう求めて来た。しかし、県生活拠点課幹部は「東電は区域外避難者(自主避難者)の避難費用は賠償していない。県が立て替えて請求するというのは個人賠償を肩代わりすることになってしまうので出来ない」と拒否している。


「福島原発被災者フォーラム山形・福島」代表の武田徹さんが中心となってとりまとめた〝退去しない宣言書〟 雇用促進住宅は2021年に譲渡、廃止される事が閣議決定されているため、そこまでを「使用期間」とした

【「6年住んで居住権ある」】
 福島県郡山市に生まれ、県立高校で英語を教えてきた武田さん。「福島国際交流の会」を1987年に結成し、現在は顧問を務める。ルワンダ難民の支援活動も行った事がある。
 「将来がどうなるかなんて誰にも分からない。今、出来る事をやるべきなんです」
 一貫して住宅の無償提供継続を求めて来た。2016年6月3日には、「住宅無償提供」の継続を求める意見書の提出を求めて米沢市議会に請願。全会一致で採択され、「平成29年4月以降についても、東日本大震災自主避難者への住宅支援を継続すること」、「住宅支援については、自主避難者を含め避難当事者の意見を十分に聴取する機会を設けること」を求める意見書が米沢市議会議長名で国と福島県に提出された。
 意見書提出の動きは山形県内の他の自治体にも波及し、山形市や上山市、南陽市、尾花沢市、東根市、寒河江市、村山市、酒田市などの議会が無償提供の継続を求めている。神奈川県内の15議会からも意見書が提出されているほか、福島県内でも郡山、南相馬、川俣町、桑折町、浪江町、葛尾村、伊達市の議会が打ち切り撤回を求めるまでになった。「ひだんれん」(原発事故被害者団体連絡会)によると、意見書は70を超えた。昨年11月には、米沢市の中川勝市長が武田さんの活動に触発されるように福島県を訪問。福島県避難地域復興局の成田良洋局長に住宅無償提供の延長を求めている。
 しかし、今年3月末での打ち切りを決めた福島県の内堀雅雄知事は意見書を〝無視〟し続け、当事者と直接面会にも応じていない。米沢市長にも会わなかった。そこで、武田さんは弁護士に相談。「なぜ追い出されなければならないのか。6年も住んでいて居住権もある」と継続使用許可申請書を作成した。〝退去しない宣言〟に法的効力は無く、管理する「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が認めない事など想定内。最終的には司法の場で争う事も視野に入れながら、複数の弁護士と相談中という。
 申請書を提出した避難者は「裁判という言葉にはどうしても抵抗があるし怖いが、私たちは被害者。国や行政は『復興』ばかり口にしていて、私は不信感がいっぱい」と妥協はしない構え。武田さんも「この動きが全国に広がれば良い」と語る。


山形県米沢市内の雇用促進住宅。米沢市内には1月12日現在、福島県から652人が避難しているが、そのうち185人が雇用促進住宅に入居している

【「まるで隠れキリシタン」】
 米沢市危機管理課によると、同市には今年1月12日現在、福島県から652人が避難中。うち462人が政府の避難指示が出されていない地域からの〝自主避難者〟だ。民間賃貸住宅で生活している避難者は258人、雇用促進住宅には185人が入居している。
 「米沢市としては、今も住宅の無償提供延長を福島県に求めています。しかし(打ち切り方針が)変わる気配が無い」と米沢市幹部。中川市長が昨年11月28日の記者会見で、避難者への市営住宅の提供について「公平性を考慮しながら無償も含めて検討する」と発言して期待が高まったが、公平性の確保という観点から無償提供は見送られた。
 「出来るだけの事はして差し上げたいが、市営住宅には生活保護受給者や火災で自宅を失った人などが入居している。そういう方々をなぜ無償にしないのかと問われた時に説明責任を果たせない」(米沢市都市整備課)。2月16日から25戸分の優先入居の募集が始まる。3カ月分の家賃に相当する敷金は免除するという。「入居出来ても子どもに転校を強いる事になってしまい募集が低調に終わる事も予想されるが、門戸は広げておきたい。そもそもが無償提供を打ち切るという福島県知事の判断が根底にある」(都市整備課)。避難者を受け入れている自治体としては、現在の住宅に住み続けたい避難者と無償提供を打ち切りたい福島県との間で〝板挟み〟になっているのも事実。原発事故による避難者への住宅提供に関し、受け入れ自治体の財力や善意に委ねている仕組みそのものに問題がある。
 〝自主避難者〟に対しては「安全なのに勝手に避難した」、「いつまで公的支援を求めるのか」などと世間の目は厳しく、「避難者だという事を公言出来ない。まるで『隠れキリシタン』のようだ」と話す避難者もいる。福島市から米沢市に母子避難している40代の母親は「空間線量が下がったと言っても土壌汚染は調べていない。リスクは避けて子育てしたい」と避難継続の理由を語る。当然の選択が尊重されない現状を、武田さんは「非正規労働者が増えるなど生活が苦しい人が多い中で、弱い者がさらに弱い者を叩く構図になっている。政治の問題だ」と批判する。
 冒頭の母親は悔しい想いをぶつけるように言った。
 「私たちは難民になってしまう」
 打ち切り強行まで2カ月。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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