記事一覧

【70カ月目の浪江町はいま】6カ所目の住民懇談会。「土壌を測れ」「これ以上の被曝は受け入れ難い」~自宅が258万Bq/㎡でも、国は「危険では無い」

今年3月31日での避難指示解除(帰還困難区域を除く)の是非を問う福島県浪江町の住民懇談会は1日午後、福島市内で開かれた。1月26日に浪江町で始まった住民懇談会は、この日で6カ所目。町民からは「町に30年住んでみろ」、「土壌を測れ」、「町民はモルモットじゃない」などと怒りの声があがった。自宅の土壌汚染が1平方メートルあたり258万ベクレルに達している町民もいるが、国側は終始、来月末での避難指示解除に理解を求めた。町中心部ではこの日、常磐線の代行バスが運行開始。あと4会場で〝ガス抜き〟は終わる。避難指示解除強行が目前に迫っている。


【「30年住んでから言え」】
 官僚たちは誰も手を挙げなかった。いや、挙げられなかったのだろうか。それとも「また、うるさい町民が吠えている」とでも思っていたのだろうか。
 50代男性(上ノ原行政区)が壇上の官僚たちに激しい口調でこう、迫った時だった。
 「子どもを連れて30年、浪江町に住んでください。それで安全性を確かめてから帰れと言ってください。どうですか。出来る人いますか。以前にも同じ質問をしたが、誰も手を挙げませんでしたね」
 拍手が起き、他の町民から「俺の家も無償で貸すから」との声が飛んだ。男性がなぜ、強い口調で怒りをぶつけたか。それには理由があった。
 男性の自宅は居住制限区域に指定されている。周辺の土壌を昨年10月、南相馬市の市民団体「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」が測定したところ、自宅前で1平方メートルあたり実に258万ベクレルもあったという。これは、放射線管理区域の基準となる「1平方メートルあたり4万ベクレル」の64.5倍だ。室内の空間線量も0.65μSv/hに達していたという。男性は壇上に上がり、数値や写真が掲載された資料を配った上でマイクを握った。
 「6年間、あなたたちは何を勉強してきたんだ。私は長年、原発で働いて来たんですよ。線量より土壌汚染が重要なんですよ。吸い込んだら内部被曝するんです。土壌を調べもしないで『線量下がった、下がった』なんておかしい。町民の命を何だと思っているんだ。寝ぼけた事を言っているんじゃないよ。そんな状態でどうやって年1mSvにまで下げるんですか。そもそもなぜ、福島だけが年20mSvなんだ。もう少し勉強しなさいよ」
 会場からは「そうだそうだ」と声があがった。拍手も起きた。これまでの住民懇談会で何人もの町民がぶつけた想いだからだ。しかし、国側はあっさりと「被曝の危険性」を否定し、「不安解消」にすり替えてみせた。


上ノ原行政区の男性は、壇上の官僚たちに自宅周辺の土壌測定結果を配布。空間線量では無く土壌汚染を調べて避難指示を解除するよう求めた=福島県福島市・福島テルサ

【「1mSv超で即危険、ではない」】
 男性の怒りに答えたのは、内閣府「原子力被災者生活支援チーム」の松井拓郎支援調整官。
 「これは国会でも答弁されている事だが、一般公衆の追加被曝線量を年1mSvにしなければならないという法律は無い。放射線管理区域も事業者に対して課しているものであって、年20mSvが法令違反という事は無い。それに、1mSvや20mSv、4万ベクレルをちょっとでも超えたら即危険、直ちにガンが多発するというものでは無い。避難指示解除は強制では無いし、町に戻りたい方々を押しとどめるほど危険で無いのであれば避難指示を解除するのも政府の役割だと思っている。とはいえ御不安はあると思うので、除染などをしっかりやっていきたい」
 さらに、内閣府「廃炉・汚染水対策現地事務所」の木野正登参事官も「私は富岡町に住もうと考えている。これまでイチエフには150回以上入っているが、直近の人間ドックでも健康だった。単なる一例だが、そういう人間もいるという事を御理解いただきたい」と語った。町民は国や町の求めるように「忌憚の無い御意見」を盛んにぶつけるが、結局は「過剰不安」で片づけられてしまう。
 牛渡行政区の40代男性も「なぜ原発従事者でない町民が被曝しなければならないのか。これ以上の被曝は受け入れ難い。自分たちはモルモットでは無いんです」と現段階での避難指示解除に反対した。男性はエアフィルターを製造する会社で原発と関わってきた。「放射性物質はふりかけとは違うんです。安全ならフィルターで除去する必要は無いでしょう。町民の間に様々な感情がある事は私にも分かります。でも、感情論と被曝リスクを混同してはいけません」と話す。
 川添行政区の男性も「放射線が不安」と訴えた。「長期的に年1mSvを目指すと言うが、それは5年先の事なのか10年先か。そもそも私らは何も悪い事はしていない。放射性物質をばら撒いたのは東電だ。まずは彼らが元に戻してから町民を帰すのが筋だ。私は納得出来ない」。
 北棚塩行政区の男性は「『帰れ帰れ』、『復興』ばかりでなくて、廃炉作業をどうするかが先でしょう。二次災害が起きたらどうするんですか」と質したが、原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長は「個々の事情に100%寄り添う事は難しい。どっかでバランスをとり、帰りたい方の意思も尊重して避難指示を解除しないといけないと思う。帰れる方からまず帰っていただいて、1人でも多くの方々に戻っていただきたい」と従来からの考えを話すにとどまった。


浪江町民の考え方は様々で複雑。帰還困難区域に指定されている浪江町・津島地区の女性は「避難指示解除が町民の分断や差別につながらないように言葉遣いなどを考えて欲しい」と訴えた

【常磐線の代行バス開始】
 もちろん、すぐにでも町に戻りたいと考えている町民もいる。立野行政区の女性は「浪江を無くさないでいただきたい。無くしたくないから、私はすぐに帰ります。帰る人の足を引っ張らないで欲しい。どうしたら町に帰れるか、建設的な意見があっても良いと思う」と訴えた。会場から拍手が起きたが、一方で「全部きれいになってから避難指示を解除するという方法もあるのではないか」とも。汚染された家屋の解体作業で放射性物質が飛散しないか、不安が募るからだ。
 帰還困難区域に指定されている津島行政区の女性は、町民の複雑な感情や苦悩をこう代弁した。
 「〝避難者いじめ〟が取り沙汰されているが、大人も同じ。避難先で避難者である事を口に出来ないんです。それに、町に戻らない人だって、本心では帰りたい。ぜひ分断や差別につながらないように言葉遣いなどを考えて欲しい」
 これには、馬場有(たもつ)町長が「解除するかどうかは別として」と何度も念押ししながら「憲法で『何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する』と保障されている。一方で、町を荒涼とした状態にしてはおけない。次の世代に町を残すのも大人の役割。将来、『おじいちゃん、おばあちゃんは町を残してくれたなあ』と…」と時折、言葉に詰まりながら答えた。
 JR東日本水戸支社は1日から、常磐線の代行バスを運行開始。浪江町役場前から、南相馬市の原ノ町駅や楢葉町の竜田駅までのバス移動が可能になった。町民からは「代行バスを走らせれば復興ですか、道の駅を作れば復興ですか」との意見が出たが、避難指示解除に向けた〝外堀〟は埋められつつある。別の男性は「町民の人権は正しく担保されているか」と国側に迫ったが、松井支援調整官に「イチエフに近づく事が危険だとは考えていない。お戻りいただける環境は整っている。憲法上、人権を損なう環境には無い」と一蹴された。
 この日も町議らが出席したが、あくまで「オブザーバー」。町民の中には「よく理解している議員にも発言の機会を与えて欲しい」との意見もあるが、ある町議は「発言しちゃ駄目だって言うんだ。言論統制だよ」と不満を漏らした。
 住民懇談会は今後、いわき市、南相馬市、東京都、大阪府で10日まで開かれて終わる。



(了)
スポンサーサイト

プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

福島取材にはコストがかかります。
往復の交通費と宿泊費だけで約2万円です。
よろしければ、ご支援をこちらまでお願い致します。

【ゆうちょ銀行 普通 店番098 口座番号0537346 鈴木博喜】

【じぶん銀行あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
(銀行コード0039 支店番号106)】

https://www.facebook.com/taminokoe/

最新記事

最新コメント

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
34位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
15位
アクセスランキングを見る>>

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
34位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
15位
アクセスランキングを見る>>