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【71カ月目の浪江町はいま】都内でも〝ガス抜き〟住民懇談会。募る被曝リスクへの不安と除染への不信感。残るは大阪会場のみ。馬場町長は受け入れ表明か

今年3月31日での避難指示解除(帰還困難区域を除く)の是非を問う福島県浪江町の住民懇談会は7日午後、東京都内で開かれた。1月26日に始まった「町民からの意見聴取」はこの日で9カ所目。10日の大阪会場で終了するが、この日も町民から被曝リスクへの不安や除染への不信感が飛び交った。国の姿勢は変わらず、町民は不完全燃焼のまま〝ガス抜き〟でお茶を濁されようとしている。国からの圧力と町民の反発のはざまで苦渋の決断を迫られる馬場有(たもつ)町長。間もなく受け入れを表明するものとの見方が強い。


【重くのしかかる家賃】
 女性は、避難先で亡くなった夫の遺影を抱えてマイクを握った。
 都内のUR賃貸住宅で避難生活を送る門馬昌子(しょうこ)さん(74)=権現堂行政区=。夫の洋さんは2014年7月に70歳で亡くなった。「彼は40年も反原発運動をしてきました。それで原発事故で避難を強いられ、うつ病から認知症になって亡くなった。無念の死でした」。
 自宅は除染をされたとはいえ、室内の汚染は手つかず。それでも「町に戻って生活する環境は整った」と繰り返す国に強い口調で迫った。
 「室内は除染してもらえないから居間は0.6μSv/hあります。私は年1mSvでないと帰れません。それに、周囲の友達が帰らない中で自分だけ帰ってもうつ病になるだけです」
 住み慣れた浪江を「自然豊か、人情が厚い」と目を細める。「私だって好きで町を出てきたのではありません」。戻りたくても汚染が阻む。しかし、都内で新しい住まいを求めるには賠償金では足りない。現在住んでいるUR賃貸住宅の家賃は14万円を超える。洋さんが亡くなってからは月々10万円の精神的損害に対する賠償金と自身の年金でやりくりをしている。「何十年も〝安全神話〟を振りまいてきた責任として、せめて家賃分は東電が支払って欲しい。10万円の賠償金が打ち切られたら家賃など払えない。それに、医療費や高速道路の無償化も期限を設けずにずっと継続するべきです」と力を込めた。
 こうも求めた。「『避難指示解除』などという言葉は使わないでください。被曝のリスクが理由で戻れないのに、戻らない私たちが〝わがまま〟であるかのように他県の人から誤解を受ける恐れがあるんです」。だから、住宅無償提供打ち切りを目前に控えて苦境に立たされている〝自主避難者〟の状況は他人事ではない。避難指示が解除された瞬間に、自分たちも〝自主避難者〟になるからだ。小池百合子都知事へ住宅支援継続と拡充を求めるハガキを送る運動にも参加している。
 「馬場町長のつらい立場も分かります。でもね、被曝リスクのあるところには帰れません」
 門馬さんは、洋さんの遺影をていねいに片付けて会場を後にした。




(上)横浜に避難中の男性は「誰のための住民懇談会か」「国の姿勢からは加害者としての謙虚さが感じられない」などと厳しく国を批判した=東京都千代田区・星陵会館
(下)門馬昌子さんは2014年7月に亡くなった夫・洋さんの遺影を持参。洋さんの見守る中、戻りたくても戻れない汚染の現状や家賃賠償の必要性などを訴えた

【「除染完了」でも2.5μSv/h】
 汚染と被曝リスクによって帰還が叶わないのは、別の女性(上ノ原行政区)も同じだ。
 「私は環境省など信じていません。皆さんは信じていますか?」
 集まった町民にこう問いかけると、「信じていません」と言葉が返って来た。そんな問いかけをしたのには理由がある。環境省から「自宅の除染が完了しました」と文書が届いた。後日、一時帰宅した際に町役場から借りた線量計を持参すると、自宅前で車の窓を開けた途端に2.5μSv/hや3.5μSv/hという高い数値を示した。「町から借りた線量計は壊れていたのでしょうか。ずっと(警告音が)鳴りっ放しでした。こんな状態では孫を連れて帰る事など出来ません」。介護を必要とする母親は「町に帰りたい。連れて行ってくれ」と手を合わせて求めるという。誰だって帰りたい。余生を住み慣れた浪江町で送らせてあげたい。しかし、苦渋の選択で千葉県内に新たな住まいを求めた。しかし、環境省の担当者は「除染に関して問題があればぜひ指摘して欲しい」と答えるばかりだった。
 横浜に避難中の男性(権現堂行政区)は「加害者の態度では無い。謙虚さが感じられない。加害者であることをお忘れになったか」と国の姿勢を厳しく批判した。これには、別の女性から「自分の事では無いからですよ」との言葉が飛んだ。原発政策を推進してきた国が、年20mSvを下回った事を理由に「もはや被曝リスクは無くなった」と判断する不条理。町民の反発は根強い。
 「誰のために住民懇談会をやるのか、しっかり考えていただきたい。これまでに信頼関係を醸成して来ていれば、こんな会など開く必要も無かった。この場で初めて資料を渡されて読み上げられたって僕らは分からない。それでどうやって意見を言えと言うんですか」
 そもそもなぜ、国と町が横一線に並ぶのか。「国と町が一枚岩であるとアピールしているようにしか見えない。きちんと対峙するように座った方が良い」とも。「地域コミュニティの核となっている神社仏閣の再建に公金を充てるべきだ」との男性の主張に、宮口勝美副町長は思わず「金を握っている所(国)の感覚は『通常』になっている。国との交渉を進めているが、公金がなかなか出ないのも事実」と漏らすと、男性は「国の感覚が『通常』で、町は『異常』だと考えている。このズレをこの場で修正できないものか」と正論で詰め寄ったが、国も町も回答は無かった。閉会後、出席した女性は憤慨した表情で言った。
 「あなたが書いていたように、この懇談会は本当に単なる〝ガス抜き〟なのね」




(上)国の姿勢に対する厳しい言葉が飛び交った住民懇談会。10日の大阪会場で町民からの意見聴取は終了する
(下)懇談会の最中、じっと目を閉じる場面も見られた馬場町長。今月中にも国の避難指示解除方針を受け入れるとみられる

【根強い「官僚がまず住め」】
 この日も多くの町民から手が挙がり、予定時間が30分ほど延長された「意見交換」。町民に「忌憚の無い意見を」と呼びかけておきながら、予定時刻になったと打ち切る。宮口副町長は「各会場とも時間の制約はどうしてもある」と理解を求めたが、町民は「だったら長い時間、会場を押さえれば良いじゃないか」と反発した。もっともとだ。
 立野中行政区の男性は「お客様感覚で一週間や10日間住むなら良いが、自宅の裏手にはフレコンバッグが5段重ねになっている。大型ダンプカーが砂埃を舞い上げて自宅前を走って行く。まるで戦場の戦車のようだ。そんな環境に社宅を建てて住みなさいと言われたら、子や孫と一緒に住みますか」と壇上の官僚たちに問いかけた。「安全と言うならまず住んでみろ」という町民の想いは、これまで何度も官僚たちにぶつけられてきた。原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長がマイクを握った。
 「現在、福島市に住んで仕事をしている。浪江町で仕事が出来るのであれば、僕は町内に住みたいと思う」
 会場の町民からは「嘘つけ。孫なんか連れて来られないだろ」と罵声が飛んだ。
 棚塩行政区の男性は、太陽光パネルによる発電を目指したが〝縦割り行政〟に振り回された挙げ句に計画がとん挫した経緯を説明した上で「手かせ足かせ、がんじがらめで復興など出来ない。復興予算が使われているのは除染ばかり。復興を後押ししてください。かゆくない所を一生懸命かいてもらっても全然気持ち良くない」と訴えた。内閣府「原子力被災者生活支援チーム」の松井拓郎支援調整官は「意欲のある方なのでしっかり応援したい」と答えたが、後藤副本部長が「ここに居るのは役人なので、そういう習性(縦割り行政)があるのはしょうがない。一緒に考えましょう」などと発言し、町民の失笑と怒りを買った。こういう発言が町民との溝をますます深くしている事に、後藤副本部長は全く気付いていない。
 請戸行政区の男性は「原発はやめないんですか。やめましょうよ。我々は散々、苦労させられたんだ」と語気を強めた。しかし、資源エネルギー庁の担当者は「厳しくした基準に適合する原発は再稼働させる。それ以上は私からは申し上げられません」と答えるにとどまった。
 不完全燃焼のまま、住民懇談会は10日の大阪会場で幕を閉じる。後藤副本部長は閉会後、「3月31日の解除は変わらない?それはどうでしょうかね」と言葉を濁したが、馬場町長は国の方針を受け入れるとの見方が強い。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

福島取材にはコストがかかります。
往復の交通費と宿泊費だけで約2万円です。
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【ゆうちょ銀行 普通 店番098 口座番号0537346 鈴木博喜】

【じぶん銀行あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
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