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【自主避難者から住まいを奪うな】「〝追い出し〟に合理的理由無い」。訴訟視野に入れ、避難者や支援者が都内で勉強会~原発避難者住宅裁判を準備する会

「原発避難者住宅裁判を準備する会」(世話人代表・熊本美彌子さん)が25日午後、都内で勉強会を開いた。避難指示区域外からの〝自主避難者〟は来月末で住宅の無償提供が打ち切られるが、継続して現在の住まいで暮らせることを求めた行政訴訟を視野に入れている。過去の判例からもハードルが高い厳しい裁判になる事が予想されるが、熊本さんは「私たちは何も悪くない。正しいと思う事をちゃんと言える事が大事」と語る。わずか6年で切り捨てられてなるものかと、今後も勉強会を重ねながら準備を進めて行く。


【基本法すら無い住宅問題】
 訴訟を起こす場合の流れなどについて講演した酒田芳人弁護士は、まず「驚くべき事に〝自主避難者〟に対する住宅の無償提供を直接、規定した法律(基本法)は無い。子ども被災者支援法(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)では、第三条で『国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任並びにこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、前条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する』とうたわれており、これは意味のある条文だが、残念ながら具体的な施策は出て来ていない」と指摘。法の不備を批判した。
 都営住宅の場合、本来は都民のために使われる施設だが、地方自治法上の「目的外使用」として、法的には避難者に〝特別に〟貸している形になっている。避難者から提出された使用申請に対して都が毎年、「一時使用許可」を出す事で「住宅の無償提供」となって来たが、福島県の内堀雅雄知事が3月末で打ち切る方針を貫いているため、4月以降は不許可になる。そうなると、法的には避難者は権利を喪失して〝不法占拠〟状態となり、都は退去を命じる事が出来る。「司法で争う場合には、この不許可処分の取り消しと、避難者に一時使用許可を命じるよう義務付けを求める行政訴訟になる」と酒田弁護士。勉強会には、訴訟で争う場合の弁護団長となる事が想定される大口昭彦弁護士も同席したが、共に「一般的にはハードルが高い訴訟だ」と口を揃える。
 2006年2月、最高裁第3小法廷は、教職員団体が集会で体育館などを使用する事を教育委員会から拒否されたとして出されていた損害賠償の求めを退けている。酒田弁護士は「その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である」との判例を引用し、「目的外使用に関し、行政に対して非常に大きな裁量を認めている。『限って』という大きなハードルを越えなければいけない裁判になる」とも指摘した。




(上)〝自主避難者〟や支援者が集まった勉強会。共通するのは「避難者は何も悪くない」の想いだ=豊洲文化センター研修室
(下)準備会の世話人代表、熊本美彌子さんは今月2日に行われた福島県との交渉にも出席。「福島県は本当に避難者に寄り添っているのか」と打ち切り撤回を求めた

【「正しい事をちゃんと言いたい」】
 当事者とて、厳しい裁判になるのは百も承知だ。横浜から駆け付けた村田弘さん(福島県南相馬市から避難中)は「福島原発かながわ訴訟」の原告団長を務めているが「裁判はしんどいと言えばしんどい。しかし、住宅の無償提供を打ち切られる合理的な理由は無く、堂々と闘っていく事も大事な運動。私たちは、非人道的な仕打ちを認めるか認めないかの瀬戸際に立たされている。これから避難指示が続々と解除されれば、強制避難者も〝自主避難者〟と同じ立場になる。すそ野は広がると思う」と語った。
 世話人代表の熊本美彌子さん(福島県田村市から都内に避難中)も「私たちは何も悪くない。確かに裁判で負けると『居てはいけない所に居座っているのではないか』という精神的なダメージが大きいだろう。しかし、正しいと思う事をちゃんと言える事が大事。このまま何もしなければ『出て行け』となってしまう。そうではない形を追求したい」と呼びかけた。
 支援者からは「避難者の中には『どうせ負ける裁判を起こすなんてまずいんじゃないか。敗訴は行政を利する事になり、じっと我慢している人の足を引っ張る』という意見もある」との声もあがった。避難者の考え方も様々で、能動的に訴訟を起こすよりも、4月1日以降も退去せずに行政が退去を求めて提訴してきた段階で争う方が良いのではないか、という人もいる。裁判で争う場合には世論の喚起、後押しも必要だが、住宅の無償提供継続を求める〝自主避難者〟に対し「いつまで公的支援を求めるのか、早く自立しろ」、「避難指示も出されていないのに勝手に逃げておいてわがままだ」という厳しい声が少なくないのも事実だ。
 大口弁護士は「避難者が何か悪い事をしているんじゃないか、今まで温情を受けて来たのにわがままを言っているんじゃないかという意見もあるだろうが、裁判は『そうじゃないんだ』と避難者が自己確認する意味もある」と語った。原発事故が無ければ、福島で「自立」した生活を続けられた。原発事故が起きたから、放射性物質がばら撒かれたから、被曝リスクが存在するから線源から遠ざかろうと〝自主避難〟を選んだのだ。酒田弁護士も「避難指示区域外の人々も本来、国が避難をさせるべきだったという考え方もある。そもそも『避難の権利』があり、憲法でも居住・移転の自由は保障されている。大きな事故が起きたからその権利を行使したまでだ。今の福島に帰して良いのか。法律も作らず、目的外使用による住宅の無償提供でしのいで来た事がおかしい」と寄り添う。




(上)講演で「法律も作らず、目的外使用による住宅の無償提供でしのいで来た事がおかしい」と語った酒田芳人弁護士
(下)大口昭彦弁護士は「難しい裁判にはなるが、避難者が何か悪い事をしているんじゃ無い、今まで温情を受けて来たのにわがままを言っているんじゃ無いと避難者が自己確認する意味もある」語る

【住まい「未確定」2%?】
 「準備する会」は今年1月に発足した。この日が初めての勉強会。国か福島県か東京都か、まだ誰を相手取る訴訟になるのか決まっていないが、避難者を1人も路頭に迷わせない活動と並行して勉強会を重ねながら訴訟を視野に準備を進めて行く。「子ども脱被ばく裁判」で弁護団長を務める井戸謙一弁護士は設立にあたり「勇気ある被害者の方々とそれを支えようとする市民の方々が提訴を視野に入れた会を発足させることは大変意義深い。理不尽な行政活動によってかけがえのない人権が侵害されているとき、これを救済するのは司法の役割のはずだ。可能な範囲で協力したい」というメッセージを寄せている。
 福島県は23日の県議会本会議で、「福島県内外の自主避難者に対する3回目の戸別訪問の結果、今月17日現在、4月以降の住まいが確定していない世帯は戸別訪問出来た世帯のうち2%にまで減った」(宮本しづえ県議の代表質問に対する成田良洋・避難地域復興局長の答弁)と〝成果〟を強調したが、熊本さんや村田さんは実際に避難者と対話して廻っている事から「住まい確保はそんなに順調に進んでいない」と口を揃える。戸別訪問では「出て行くんだろ?」、「退去しなきゃいけなんだよ」などと高圧的な態度も確認されている。訪問出来ていない世帯や福島県に報告が届いていない世帯を含めても「未確定」は数%しかいない事になるが、仕事のために住まい探しが進んでいなかったり、民間アパートの管理会社に物件の下見すら断られたり、子どもの転校がネックとなって今の住まいから遠く離れた都営住宅に入居出来なかったりと、厳しい避難者もまだまだ少なくないのが実情だ。
 なぜここまで闘わなければならないのかというジレンマと、正しい主張は貫きたいという想いが交錯する中で、残念ながら〝自主避難者〟への住宅の無償提供打ち切りまで1カ月余となった。3年後の東京五輪で「福島復興」を世界にアピールするために避難者は切り捨てられる。〝自主避難者〟の闘いは、司法に場を移して続く事になりそうだ。


(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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