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【71カ月目の浪江町はいま】無視された「忌憚の無い御意見」。住民懇での〝ガス抜き〟経て馬場町長が3月末の避難指示解除受け入れ。「町を残したい」と涙

福島県浪江町の馬場有(たもつ)町長は27日午前の町議会全員協議会で、帰還困難区域を除く避難指示を3月31日で解除するとした国の方針を受け入れると表明した。涙を浮かべて語ったのは「町残し」への想い。1月下旬以降、福島県内外10カ所で行われた住民懇談会では反対意見が噴出したが、無視された格好だ。避難指示が解除されても、汚染や廃炉作業への懸念などから「すぐ帰りたい」と考えているのは10%ほど。多くが4月1日からは〝自主避難者〟として世間に放り出される。帰りたくても帰れない町民たちは、町に戻る〝前向きな〟町民との分断も深刻で、未曽有の原発事故が破壊した町の現状は実に厳しい。


【「余裕の笑み」の国側】
 静まり返った議場に、扉を叩きつけるように閉ざす音が響いた。
 「聞いてらんねえよ」。傍聴していた町民が怒りを扉にぶつけるように出て行った。議場では、馬場町長が用意された「受け入れ表明原稿」を読み上げている。多くの町民の想いは反映されなかった。扉の音は、住み慣れた町に帰りたくても帰れない町民の叫び声のようだった。
 傍聴席には取材陣だけが残った。10人ほどの町民が駆け付けたが、馬場町長の「受け入れ表明」が始まると次々と議場を後にした。これが、原発事故がもたらした浪江町の現実だった。
 一見、民主的に見えた最終判断への道のりは終始、国が主導権を握っていた。1月26日の浪江町会場を皮切りに全国で開かれた住民懇談会でも、どれだけ町民が空間線量や土壌汚染への危惧を訴えても「生活環境は概ね整った」、「年20mSvをはるかに下回っており安全だ」の一点張り。この日の町議会全員協議会でも、「時期尚早だ。国の基準と私たちの基準は違う」、「国は結論ありき。避難指示解除時期の白紙撤回を」と反対意見を述べる松田孝司町議や馬場績町議に対し、内閣府「原子力被災者生活支援チーム」の松井拓郎支援調整官は「生活していただいても問題ない」、「年1mSvは長期目標」と言い切った。
 原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長も「そろそろモードを切り替えて」、「町の復興を加速化して行く上で、今後の町づくりを争点とするためにステージを上げる事が必要」などと3月末での避難指示解除に理解を求めた。後藤氏に対しては、馬場町議が「ニヤニヤしているんじゃないよ」などと一喝する場面もあった。腕を組み、時に笑う後藤氏からは〝余裕〟すら感じられた。
 加倉行政区の女性は「今日くらいは傍聴席が一杯になると思ったんだけど」と空席が目立つ傍聴席を見て落胆した表情を見せた。一緒に来ていた権現堂行政区の女性は「最低でも3カ月か半年は、避難指示の解除を延期するべきでしょう。加倉にしたって、少し裏道に入れば線量が高い。でも、私たちが何を言ったって国は聞く耳を持たないもんね」とあきらめ顔で話した。




(上)町議会で避難指示解除受け入れを表明した後、囲み取材に応じた馬場有町長。涙を浮かべながら「これ以上解除時期を延ばすと、避難している町民の心が折れてしまう」と語った=浪江町役場二本松事務所
(下)町議会全員協議会では複数の町議から「時期尚早」との意見が出されたが、馬場町長を翻意させるには至らなかった

【帰町判断で分断される町民】
 馬場町長が重視したのは「町残し」。閉会後、囲み取材に応じた馬場町長は「さまざまな場で耳にした『町長、早く町に帰してくれ』という町民の言葉が頭から離れなかった。これ以上、避難指示解除を延ばすと町民の心が折れてしまう」と目に涙を浮かべて語った。最終的に腹を決めたのは今月16日から22日にかけてという。議場での受け入れ表明中も「この6年間、私たち浪江町民が味わなければならなかった塗炭の苦しみを振り返ると、悲しみ、悔しさ、無念の思いがあふれ、言葉にすることもできません」と語る場面では言葉に詰まった。(受け入れ表明全文→ http://www.town.namie.fukushima.jp/soshiki/2/15464.html
 3月末での避難指示解除に反対する町民ですら「町長の立場が苦しいのは分かる。〝正解〟が無いからね」、「国から様々な圧力があるのだろう」と同情的な言葉を口にする。しかし、それでもやはり行政の長として国と対峙して欲しかったという想いも残る。受け入れ表明を聞いた馬場績町議は「苦渋の決断をしたとは思うが、『ここで避難指示を解除しなければ町がなくなる』という言葉は町民を恫喝、脅かす言葉だ。町民を信頼していない」と馬場町長を批判した。受け入れ表明の中で、馬場町長は「町土の8割を占める帰還困難区域が残っている限り、帰町宣言をするつもりはない」と語ったが、3年後の東京五輪を見据えてシナリオ通りに進めたい国に抗うのは、これが精一杯だった。
 住み慣れた浪江町に帰りたいのは誰もが同じ。帰りたい、でも帰れない。一方で町民の分断は既に始まっている。住民懇談会でのアンケートにも「解除ありきの説明だ」、「9月ころまで解除を遅らせてください」などの反対意見が目立つ一方で「早く解除をして地元で生活ができるようにしてほしい。『帰りたい』という小さな声も聞いてください」、「後ろ向きの意見ばかりが町民を代表するかのように取り上げられていますが、方向判断を見誤らないでください」という声もあった(「住民懇談会来場者アンケート(自由記載)の概要」→ http://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/6741.pdf)。
 この日の議会でも、避難指示解除に賛成する町議から「復興に舵を切るべきだ。避難指示が出ていると町内で生産した商品が1ランク落ちるという風評被害もある」(紺野榮重町議)、「解除に向けて町民の機運が高まっているのは確かだ」(渡邉泰彦町議)、「馬場町長は勇気ある決断をした。前向きな考え方だ」(泉田重章町議)などと馬場町長を後押しする意見が出されたが、被曝リスクを回避するための避難指示が「前向き」か「後ろ向き」かで語られる。こうして〝復興〟は〝進んでいく〟のだ。




(上)〝余裕〟からか時折、笑顔を見せて町議から一喝される場面もあった原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長(右)
(下)住民懇談会場でのアンケート調査では、避難指示解除後「すぐに帰りたい」と答えた町民は10.1%にとどまった

【4月以降は〝自主避難者〟】
 まだ住民懇談会が行われている最中にJR常磐線の代行バス運行が始まるなど、町民の意向は無視されたまま外堀は着々と埋められていった。3月4日には「第6回なみえ3.11復興のつどい」が二本松市内で開かれるが、町の作ったチラシには「今回が二本松での最後の開催です」と明記されている。地元紙は1月、町内の専売所が5年10カ月ぶりに朝刊配達を再開したと号外を発行した。全てが「3月31日での避難指示解除」を前提に進められているのは明らかだった。
 原子力災害現地対策本部の高木陽介本部長(経済産業副大臣)が今月11日、浪江町役場二本松事務所を訪れ「個人が受ける追加被ばく線量を、長期目標として、年間1ミリシーベルト以下になることを目指してまいりたい」などとする「要望書への回答」を馬場町長に提出。同時に「避難指示解除後の浪江町の中長期的な復興を確実に実現していく」とする「浪江町の復興に向けたフォローアップの枠組み」も手渡した。馬場町長は「復興支援に対する国の強い意志を確認した」と評価する。国、県、町の三者で合意文書を取り交わす事になるが、これまで原発政策を推進してきた〝加害者〟である国が避難指示解除に関して主導権を握る事に対する町民の反発は根強い。
 福島市内の仮設住宅から議会に駆け付けた男性(70)は、40年にわたって原発関連の仕事に従事し「原発の危険性は良く分かっている。いま行われているのは廃炉作業では無く事故処理だ。危険な二次災害が起きる可能性のある所に町民を帰そうとしている」と怒りを口にした。
 男性の元には、多くの町民から疑問や避難指示解除反対の声が寄せられる。持参したメモにはそれらがびっしりと書かれていた。「いまの浪江町のどこが『生活環境は概ね整っている』のか。みんな呆れている。1年間で良い。子どもたちはかわいそうだから大人だけで良いから浪江町に住んでみて、それから避難指示解除の話をして欲しかった。俺の家も無償で貸すから」と話すが、国の勢いを止める事は出来なかった。「俺に託してくれた人々に申し訳ない。伝え方が悪かった、力が及ばなかったと謝りたい」と肩を落とした。
 「年1mSv」はもはや昔話。詳細な土壌調査をすること無く、空間線量が年20mSvを下回ったとして来月末、浪江町でも避難指示が解除される。解除の対象とならない帰還困難区域は除染のめども立たないまま。「桜吹雪の、津島の空へ」、「いつか帰る、いつか帰る、きっと帰るから」という「サライ」の替え歌が哀しい。〝自主避難者〟への住宅無償提供が打ち切られるのと同時に、避難指示区域から大量の〝自主避難者〟が生まれる矛盾。「避難指示解除イコール被曝リスクの解消」ではない事は、明記しておきたい。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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