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【72カ月目の浪江町はいま】「帰りたい」夢に見る故郷。「帰れない」踏みにじられた苦悩。望郷の涙と避難指示解除容認への怒り~なみえ3.11復興のつどい

浪江に帰りたいけど帰れない。拙速な避難指示解除容認は浪江町民の苦悩を踏みにじった。4日、福島県二本松市内で開かれた「第6回なみえ3.11復興のつどい」では、反対意見を無視するように国の避難指示会場方針を受け入れた馬場有(たもつ)町長への不信感が多く聞かれた。誰だって今すぐに帰りたい。涙を拭いながら想う故郷。しかし、降り注いだ放射性物質や高線量の原発の存在が立ちはだかる。飛び交う「前向き」「復興」そして「町残し」。しかし、町民の想いを無視した「復興」とは、いったい何なのか。避難生活は間もなく7年目に突入する。


【涙あふれる「帰りたいなあ」】
 誰もが涙を拭っていた。
 「ふるさと離れ 遠くへきたよ/ふるさとはいい けれど帰れない/帰りたいなあ わがふるさとへ/みどり豊かな あの町へ/ああ夢にみるよ ふるさと浪江」
 浪江出身の民謡歌手で名誉町民でもある原田直之さん(74)。伸びのある声で「ふるさと浪江」を歌うと、会場は住み慣れた浪江の光景に包まれた。やはり浪江出身の根本昌幸さんが作詞し、原田さんが作曲した。
 「鮭ののぼりくる泉田川よ/にぎわいをみた 請戸の浜よ」、「桜花咲く 丈六へ」、「とどろきわたる不動滝」…。誰だって住み慣れた故郷に帰りたい。でも帰れない。原発事故さえ無ければ。浪江の光景を何度、避難先で夢に見た事か。いわき市に避難している女性は言う。「一時帰宅すると、やっぱり空気が違うのよ。そりゃそうよね」。避難指示が月末に解除されるのだから、本来なら祝賀ムード一色になっても良いはずの「復興のつどい」だが、津島など帰還困難区域は蚊帳の外。住民懇談会では異論が噴出した。拙速と言わざるを得ない町の避難指示解除容認に、多くの住民は複雑な想いを抱いていた。
 「苦渋の決断をした」、「昨日、国や県から生活支援のための担保(協定書)をとった」、「新しい浪江町を作って行こうじゃありませんか」、「一緒にがんばりましょう」。開会のあいさつで馬場有町長は〝前向き〟な言葉を次々と口にする。
 地元選出の吉田栄光県議(自民党)も「馬場町長は、苦渋の決断で浪江の復興のために避難指示解除を受け入れてくれた」とフォロー。「皆さんにお話しできない事もたくさんある。町長は悩みに悩んで決めた事だろう。町民の方々をないがしろにはしません。どうか分かってください」と壇上から呼びかけた。会場を後にする際、吉田県議は「住民懇談会で反対意見が多かった?そういう方々の考え方を否定しているのではありません。受け止めてやるという事。止まっていてはいけませんしね。我々について来てください、という事です」と取材に応じて語った。ステージには「復興」の文字が掲げられていた。民意を無視した「浪江町の復興」とは、いったい何だろうか。






(上)参加した町民の視線の先には「復興」の二文字。しかし、町民の想いを無視した「避難指示解除」「復興」とはいったい、何だろうか=福島県二本松市・安達文化ホール
(中)来賓としてあいさつした吉田栄光県議。「馬場町長は苦渋の決断をした。分かってください」と呼びかけた
(下)二本松市での「復興のつどい」は今年が最後。来年は避難指示解除後の浪江町での開催が予定されているが、町民からは「中通りで開催する方が集まるのではないか」との声が目立った

【『帰りたい』と『帰れない』】
 「国は線量が下がったから大丈夫と言うけれど、放射線は目に見えないものだし心配ですよね」
 浪江町から相馬市に嫁いだ30代の母親は、実家が小野田行政区。両親はいわき市に避難中だ。今のところ両親は浪江町の自宅に戻る予定は無いが「今後、親が帰ったとしても子どもたちを連れて遊びに行くことは出来ないです」と話す。三児の母。長女は来月、晴れて小学生になる。一番下の息子はまだ9カ月。「やむを得ない用事で数時間だけ行くならともかく、泊まる事は出来ません」。国は「もはや町内の放射線量は安全と言えるレベル」、「健康面で影響は無いが不安解消のために除染を続ける」と繰り返すが、これが「生活環境は概ね整った」と言われる浪江町の実態だ。加えてイノシシやマムシが増えた。町民が「そんなに安全なら官僚がまず住んでみろ」と怒鳴るのも無理はない。
 本宮市で暮らす30代の母親も「4月からは本宮市内の公営住宅に入ります。そりゃ、浪江に帰りたいですよ。でも2人の子どもを連れては帰れません。川添行政区の自宅は一時、4μSv/hを超えていました。除染で線量は下がったけれど、それでも0.3μSv/h。低いとは思えません。私1人なら帰るかもしれませんけどね」と表情を曇らせる。
 子どもは小学生。この6年間で仲良くなった友達と引き離す事も出来ない。「私も浪江に生まれ育ちました。帰りたいし、帰れば楽しいに決まってます。でも、それと子どもを連れて帰れるかどうかは別なんです」。いまだ収束の時期さえ見通せない福島第一原発。今後、何も起きないと誰が言い切れよう。背が低い子どもの方がより被曝リスクが高いと考える母親は心配性だろうか。住民懇談会でも、ごくごく当然の懸念が次々とぶつけられたが、国はことごとく否定した。そして馬場町長は国の方針を受け入れた。当たり前の不安を口にする町民は〝復興の妨げ〟なのか。「つどい」に参加した町議は厳しい言葉を並べた。
 「『苦渋の決断』というのは賛否が50:50の場合に使う言葉。住民懇談会場でのアンケートでは、避難指示が解除されたらすぐに帰りたいと答える人は10%しかいなかった。つまり10:90だ。10を選んではいけないですよ。馬場町長は上杉鷹山(江戸時代の米沢藩主)を尊敬しているようだが、やっている事はまるで逆ではないか。上杉鷹山は民の目線で政治をしていたんですよ」






(上)「つどい」の冒頭、大津波や原発事故による避難先で亡くなった町民を偲び、黙とうが捧げられた
(中)イベントは、原発避難でバラバラになってしまった町民が久しぶりに再会出来る場でもある。手芸作品の展示や携帯ストラップづくりなどを楽しむコーナーでは笑い声が絶えなかった
(下)伸びのある歌声を披露した原田直之さん。「やっぱり知ってる顔が多いと安心するなあ」とお国訛りで話し、客席は笑いと涙に包まれた

【「反対してもしょうがない」】
 避難指示解除を受け、馬場町長は「復興のつどい」など町のイベントを浪江で開催したいと口にしている。毎年11月に二本松市で開催されてきた「十日市祭」もその一つ。しかし、実行委員会の1人は言う。「十日市祭を浪江に戻したいと打診があり、皆で話し合ったが結論は出なかった。行政としては『震災後、初めて浪江で開催した』という形を残したいのだろうが、子どもが楽しむ場だし、そもそも露店が集まるかどうかも分からない。これまで通り、二本松で行った方がにぎわうのではないか」。
 そして、こう付け加えた。
 「『前を向いて』などと言うけれど、浪江に帰らない町民が悪い、復興を妨げているかのように言われるのはおかしい。みんな帰りたいんだ。でも帰れない。住民懇談会にしたって、開く前から避難指示解除を受け入れるという結論は出ていたのだろう」
 苦悩を踏みにじられた悔しさの一方で、「表立って反対を言ってもしょうがない」という声も多かった。「地元紙の投書欄に反対意見を送っても、掲載される時には肝心な部分が削られていると友人が言っていた。全てが避難指示解除ありきだものね」と帰還困難区域から中通りに避難中の女性は話す。二本松市の建設技術学院跡仮設住宅では、入居者は3世帯にまで減った。7月に復興公営住宅に転居するという男性は「腹の底にはいろんな想いがあるよ。でも、もう上(国と町)で決まっちゃってるんだから、何を言ってもしょうがないよ」と苦笑した。住民懇談会では、国側は「忌憚の無い御意見をちょうだいしたい」などと口では言ったが「ちょうだいする」だけだった。馬場町長も「これ以上、避難指示解除を先延ばししたら町が無くなってしまう」と繰り返した。こうして1人、また1人と町民は口をつぐんで行った。
 原田さんの歌声に涙した町民たちは、余韻に浸りながら町の用意したバスで避難先に〝帰って〟行った。別れを惜しむように手を振った。
 「帰りたいなあ わがふるさとへ」、「ああ夢にみるよ ふるさと浪江」
 夢に見る浪江は、どんな景色だろうか。恋しい故郷に枕が濡れただろうか。原発の爆発から間もなく丸6年。故郷を追われた人々の言い尽くせぬ哀しみを私たちは忘れてはいないだろうか。「復興」、「道路」、「ドローン」、「五輪」。そして「苦渋の決断」。そんな言葉で原発被害の現実を覆い隠してはいけない。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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