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【いやしの森】避難指示・退去拒んだ楢葉町の坂本恵悟さん。「命を置いては逃げられぬ」。原発事故の不条理見続けた6年。「いつも弱いものが犠牲になる」

原発事故の犠牲となったのは、当然ながら人間だけでは無い。福島第一原発から20kmの福島県楢葉町大谷に、原発事故後の避難指示・退去を拒み、たった1人で動物たちを守り続けている男性がいる。坂本恵悟さん(61)。「いやしの森」設立から10年目で起きた原発事故は、鋭い牙をむき出しにして弱い動物たちを犠牲にしてきた。坂本さんがこれまでに綴った文章を引用しながら、動物たちへの愛情や原発事故への怒りを伝えたい。これもまた、原発事故の1つの現実だ。


【「命置いて逃げられぬ」】
あのバリケード、あの検問がなければあの子たちの食べものを買いに行けたのに…。やさしく、悲しい眼が「もうボク達の食べる物はないの?」「もっともっと生きたい…」と訴えていた。だれが、何が、あの子たちの一途な尊い命を奪ったのか。命を守る者にとって、目の前で餓えて死んでゆく命を見ることは一番つらいことです。
 
 「いやしの森」は福島第一原発からの距離が南西に20km。2011年4月22日付で警戒区域に指定され、楢葉町長にも「当該区域への立入りを禁止し、又は当該区域からの退去を命ずる」よう求める「指示」が政府から出された。境界にはバリケードが設置され、立ち入りを厳しく制限された。フランス国籍のフリーカメラマンは「許可なく警戒区域内に立ち入った」として、10万円の罰金を命じられている。当然、坂本さんも連日のように警戒区域外への退去を求められた。
 「朝の3、4時ぐらいから、機動隊や警察、役場の人が15分おきに来ました。3か月ほど続いたかな。でも『なぜ出て行かないといけないのか』と尋ねても、誰も私を納得させてはくれませんでした。850もの命を残して出て行くなんて出来ません。いつ戻れるかも分からない。だから私はここに残った。それだけの事です。自分だけ助かるなんて事は出来ない。以前からの暮らしをずっと続けてきたまでです」
 それまで原発の事など意識した事も無かった。それが爆発し、自由な行き来を妨げている。しかし、動物にとっては原発事故もバリケードも関係無い。日々の餌が要る。「オフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)の担当者が『行き来するたびに私に電話をしろ』と言うが、離席していて待たされる事が多かった。担当者が戻って来るまでバリケードで待たされるんです。1時間以上待たされる事もありました。原発で事故が起これば、こういう事態になるという事も知って欲しい」。
 窮状を知った動物愛護団体から、バリケード越しに支援物資を受け取った事もあった。しかし、残念ながら350匹ほどが餓死してしまった。坂本さん自身、生きて行くためにやむなく、死んだニワトリなどを口にした。「かわいがっていた動物を食べなければ生きて行かれない。そのつらさが分かりますか」。




動物たちを守り続ける坂本恵悟さん。全国からの支援物資に支えられながら、犬やヤギ、アヒルなどとの生活を続けている=楢葉町大谷字乙次郎

【人の心をとかす動物たち】
だれひとりとして姿を見ることが出来ない楢葉の町。その中を、あの家で、あの家族と幸せそうに暮らしていたあのワンコやニャンコが鎖を解かれ、エサ、水、そして愛する人たちを求めて彷徨う。車のエンジン音が探し求める人のその音に聞こえたのか、そばに近づいて来る。目と目が合う。「お父さん、お母さんじゃない!」。私は戸惑いながらも「おじさんの車に乗って山のお家(いやしの森)へ来る?」と尋ねてみる。「いや、お父さんお母さんを待つヨ!」とみんな同じ答えを返してくる………そして月日は流れ、暑い暑い夏が終わろうとした時、その子たちの姿は見えなくなった。「あんなに逢いたかった人に逢えたかい?」。どうしようもない怒りと、懸命に一日一日を生きぬいた一途な命に私は想いを巡らし、涙が止まらない。安らかに…。

 熊本県出身の坂本さん。「25歳から福祉の仕事に携わり、人生を投げ打って取り組んできた。福祉ではお金は貯まらないけどね」。神戸YMCAでは「神戸いのちの電話」設立に奔走した。埼玉県の精神障害者グループホームでは、精神科ソーシャルワーカーを務めた。その中でいわゆる「アニマルセラピー」も学んだ。「人間より動物の方が、人の心をとかすんです」。
 人間と共に生き、人間のために働いてくれた犬たちの〝楽園〟をつくりたいと探してたどり着いたのが楢葉町だった。ワサビが育ち、渓流が流れる。海側から見ると木戸ダムからさらに奥。川内村との境に近い約3500坪の土地を購入し、2001年に移り住んだ。犬たちはこの地で子孫を残し、天寿を全うした。古民家がわずか3日で全焼してしまうアクシデントもあったが、町の福祉事業も手伝いながら、少しずつ地域に根差して行った。10年の区切りを迎えた矢先の原発事故だった。
 「原発事故前は、道の駅などで特殊卵(青い卵など)を販売していました。ひと月の売り上げは7万円から10万円くらいだったかな。今は測ってND(不検出)だからある団体が引き取ってくれているけれど、価格は三分の一になりました。風評?分からないな。私は実際の被害しか分からんから。東電には賠償請求は一切していないよ。意地というか…何だろうねえ」
 線量計を持っていなかったため、事故直後の空間線量は知らない。週刊誌「女性セブン」の記者が2回取材に来たが、その時の数値は0.3μSv/hから0.5μSv/hだったという。海外メディアの取材も多数、受けた。「〝動物愛護〟をかたる団体も何十と入ってきたけれど、本物は『犬猫みなしご救援隊』(広島県のNPO法人)など一握りだったな」。真冬に犬たちを屋外に居させるのは虐待だ、との批判に抗議して、自ら動物たちと一緒に雪の降る夜を寝袋で明かした事もある。
 カンパや支援物資が頼り。週2回、いわき市のスーパーで野菜くずなどをもらう。日の出と共に起き、暗くなったら横になる。ドラマ「北の国から」を地で行く生活。真冬は氷点下20℃まで気温が下がる厳しい環境だが、原発事故さえ無ければ、まさにここは動物たちの「楽園」だった。




アヒルも一緒に生活する。近くの渓流では釣りも楽しんだ。都会の喧騒とは無縁の大自然。「原発事故が無ければ生きられた命がたくさんあった」と坂本さんは語る

【「警戒区域は無法地帯」】
今は世の中をひっくり返す緊急事態だそうです。原発のアクシデントによる大事故中…。世の中の人はそう言うかもしれない。しかし、やさしい主人からはぐれ、1日1日を懸命に生きぬいた小さな命へのとどめの一撃が人の運転する車とは…。いつも弱いものが犠牲になって一言も発せずにやみに葬られることを私たちは忘れてはいけない!3.11当時の20km圏内は無法地帯。明日を信じて必死に生き残った命まで奪ってしまったことを、私はけっして忘れない…。

 森の一角で薪を火にくべながら、穏やかな口調で、しかし時には鋭い眼光で「原発事故の不条理」を語る。
 「緊急事態によって生じる人間の恐ろしさを知って欲しいですね。誰が責任を負うのでしょうか」
 警戒区域内は無法地帯だったという。「Jヴィレッジ前の検問を通過した関係車両は、ものすごい速さで国道6号を走って行きます。まるでカーレースでした」。道路のセンターラインや路肩には、イタチやタヌキ、キツネ、ハクビシンなどの野生動物や犬、猫の亡骸が横たわっていた。当時の様子を、坂本さんは「まるで地獄絵図。車のタイヤに嫌というほど踏まれて道端をヒラヒラと舞う」と綴った。本来の意味での「動物愛護」など吹き飛ばしてしまう原発事故。人間の傲慢さが露骨に出て、日ごろはパートナーとして可愛がっているはずの動物たちなど顧みない。「どこかで勘違いしていると思いますよ」と坂本さんは憤る。
 楢葉町の警戒区域は2012年8月10日に避難指示解除準備区域に再編され、昼間の立ち入りが可能になった。2015年9月5日には避難指示が解除されたが、今月3日現在の帰還率は世帯ベースで16.4%にとどまる。「いやしの森」には、避難先に連れて行かれないと預かった犬も暮らしているが、飼い主が愛犬の様子を見に来る事も無くなってしまった。
 坂本さんが動くと、森の犬たちがしっぽを振りながら駆け寄って来る。その横でヤギがのんびりと野菜を食べ、ニワトリはかん高い鳴き声をあげる。これもまた、原発事故の1つの現実。「もし私が死んだら遺体を解剖して放射能による影響を調べてくれ、と言ったんだ。こういう馬鹿がいて、あっという間に死んじゃいましたって言ってくれってね」。
 4月が近づいたとはいえ、まだまだ厳しい寒さが続く。20km離れた福島第一原発で燃料デブリの取り出しに悪戦苦闘する様子をラジオが伝える。坂本さんはいつものように、夜明けとともに動物たちの世話をする。


※犬の餌など支援物資の送り先は、〒979-0605、福島県双葉郡楢葉町大谷字乙次郎112まで。
必要な物資などの問い合わせは坂本さん080(6054)4652へ。


(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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