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【それぞれの3.31】避難指示解除の飯舘村。1600万円の「おかえりなさい」に首ひねる村民~住宅打ち切り強行される〝自主避難者〟は福島県庁で抗議行動

原発事故から6年経ち、大きな転機となる「3.31」を迎えた。帰還困難区域を除いて避難指示が解除される飯舘村では盛大な式典が開かれたが、祝賀ムードに酔う菅野典雄村長とは対照的に、子育て世代を中心とした村民からは1600万円も費やした「表示板付モニタリングポスト」やゼネコンから寄贈されたのぼりへの疑問の声があがる。切り捨てられていく「戻らない村民」同様、住宅の無償提供が打ち切られるのが〝自主避難者〟たちだ。身を刺す寒さの中、福島県庁や福島駅前で抗議行動を展開した。「おめでとう」の陰で加速する棄民。それぞれの「3.31」を追った。


【「愚痴をこぼしてないで」】
 「首を長~くして待っていた」避難指示解除日を迎え、よほど機嫌が良かったのだろう。マイクの度重なるハウリングもものともせず、飯舘村の菅野典雄村長は式辞の冒頭、満面の笑みでこう言って出席者を笑わせた。
 「皆さん明けまして…。明けましてでは無いですね。おはようございます」
 もちろん、国や福島県への〝配慮〟も忘れない。「復興に対する国の強い想いも分かりました。県のありがたい御支援もいただきました」。〝正月〟だから、原発事故の恨み節をとうとうと述べる事もしない。「加害者と被害者という立場を乗り越えて、今後も国とは対等の立場だ」、「被害に遭った以上、愚痴をこぼしていないで新しい村づくりに挑戦しよう」と呼びかけた。「おめでとうございます」が飛び交う祝典。来賓の内堀雅雄知事は「『おかえりなさい式典』、いいネーミングですね。心がほっこりしました」と胸に手をあててみせた。来賓として紹介されなかったが、原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長や内閣府「原子力被災者生活支援チーム」の松井拓郎支援調整官も来場していた。
 男女2人の村民代表がステージに上がる。2つの「宣言」が読み上げられ、拍手で採択された。
 「私たちは、全村避難で『ふるさと』を離れたことにより、我が家がいかにいごこちの良い所であったか、家族や地域のつながりがいかにたいせつであったか、村の自然がいかに豊かで美しかったかを思い知ることになりました」(「『あたりまえ』のことが『ありがたい』と思う宣言」)
 「小さな子供が自然の中で遊び、年寄りが畑で笑っていて、若者が恋を語る。そんなかつての村の姿を、私たちは一歩一歩取り戻していきます」(「いいたて村に『陽はまた昇る』宣言」)。
 式典が終わり、誰もいなくなったホールからフレコンバッグの山が見えた。式典中はステージ背後のブラインドが閉じられていたため見えなかったのだった。そんな事に気付くのもまた、後ろ向きな「愚痴」なのだろう。会場では17人の東電社員が駐車場の誘導などに従事していた。前日の準備から参加したという。








①福島市から川俣町を抜けて南相馬市に通じる県道12号線には「避難指示解除です」、「おかげさまで」と書かれたのぼりがずらりと並べられている。村役場によると除染作業を請け負った大成建設が寄贈したという=福島県相馬郡飯舘村二枚橋
②1641万6000円を費やして2カ所に設置された「表示板付モニタリングポスト」。家族のシルエットとともに「お帰りなさい」「首を長~くして待ってたよ」と書かれている
③式典には村立草野・飯樋・臼石小学校の児童11人も参加。合唱で花を添えた。復興イベントに子どもが〝動員〟されるのはいつもの事だ
④村民と一緒に記念植樹する菅野典雄村長(左から3人目)。新年度から「村に戻った村民への支援」にシフトチェンジする=飯舘村交流センター「ふれ愛館」

【ゼネコンからのぼり寄贈】
 式典には歌手のさとう宗幸さんも参加。「(避難指示が解除されて)いがったなあ。本当に良かったですね」と村民を喜ばせた。祝賀ムード一緒に包まれたが、その陰で村民が首をかしげているものがある。1641万6000円もかけて2カ所に設置された「表示板付モニタリングポスト」だ。
 「モニタリングポスト付表示板」と呼んだ方が正しいのではないかと思えるほど、黄色地に書かれた「お帰りなさい」、「首を長~くして待ってたよ」のメッセージが目立つ。「行ってらっしゃい 必ず帰ってきてね」とも。県道12号線沿い、川俣町と南相馬市の境に設置された。高さ3・2メートル、幅1・2メートルで、車の運転席からはっきりと見える。表示された空間線量は0.26μSv/hだった(二枚橋)。「こんなものに1600万円もかけるのであれば、子どもたちのために使えば良いのに」。子育て中の母親が怒る。費用は村の予算からねん出した後、復興庁の再生加速化交付金を充当する。
 県道沿いにはさらに「おかげさまで」、「避難指示解除です」と書かれた蛍光色ののぼりがずらりと並べられている。村役場によると村が作ったのではなく、除染作業を請け負った大成建設から寄贈されたのだという。しかし、今の飯舘村に必要なのはイメージ戦略だろうか。きれいに舗装し直され、道の駅の建設が進む県道から少し入ると、空間線量が上がる事を多くの村民は知っている。
 飯舘村出身の木幡浩復興庁福島復興局長は、今村雅弘復興大臣の代理で式典に出席。「帰らない方々にもきめ細かに対応していく」と述べたが、菅野典雄村長は既に「まるっきりというわけにはいかないが、これからは村に戻って来た人たちの支援に(行政の)比重を切り替える。避難を継続する人たちからは『俺達も村民だ』と言われるけれど、少しずつシフトを変えて行く。そのコンセンサスづくりが大切だ」と〝宣言〟している。その1つが、帰村する村民に20万円を上限に転居費用を助成する「おかえりなさい補助金」だ。先の母親は「村民を切り捨てないで、一人一人にちゃんと向き合った施策をして欲しい」と求めるが、村長の耳には届かない。
 今村復興大臣は昨年12月、渋谷で行われた「までいライフ石碑」の除幕式で「みんなで村に帰ろうよ。ハチ公が待ってるよ、とアピールしていきたい」と語った。この日の式典会場には、菅野村長の予告通りに「渋谷公園通商店街振興組合」から寄贈された忠犬ハチ公像のオブジェも置かれた。誰だって愛する村に帰りたい。しかし、帰れない現実がある。そんな苦悩などどこ吹く風と帰村ムードばかりが高められる。これが、 高木陽介・原子力災害現地対策本部長の言う「心の復興」なのか。
 「そうやって若い人たちを切り捨てればいい。いずれ、誰もいなくなる」
 子育て世代の見方は厳しい。








①午前7時半から始められた抗議行動。寒風吹く中、住宅の無償提供打ち切り撤回を訴えた。庁舎には東京五輪の野球・ソフトボール福島県内開催を祝う横断幕が掲げられている=福島県庁
②避難者や支援者たちは出勤してくる県庁職員に避難の合理性や住まいの重要性を訴えた
③午後は福島駅前に移動。道行く人々に「自分の事として考えて」と訴えた
④南相馬市から神奈川県に避難中の山田俊子さんは絵手紙を書き続けている。この日は「うばうなよ無償住宅命づな、帰りたくても帰れない」と綴った絵手紙を掲げた

【避難の合理性認めよ】
 地元メディアを中心に避難指示解除一色だが、切り捨てられるのは、避難指示が出されていなくても被曝リスクから逃れようと福島県外に避難した〝自主避難者〟も同じだ。あきらめずに住宅の無償提供打ち切り撤回を求めようと、寒さ厳しい午前7時半から福島県庁前に立ち、出勤してくる県庁職員らに「一人も路頭に迷わせないで!」と訴えた。
 原発事故被害者でつくる「原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)」、「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」、「『避難の権利』を求める全国避難者の会」が連名で「住宅無償提供の打ち切りは認めない」とする共同声明を福島県に提出。「打ち切りを撤回し、直ちに国と再協議し、法的責任に基づき被害者への住宅無償提供を継続し、抜本的な被害者救済制度を速やかに確立する事」などと求めたが、最後の最後まで内堀雅雄知事は面会に応じず、生活拠点課の職員が受け取った。
 避難者たちは午後は福島駅前に移動。道行く人々に避難の合理性や住まいの重要性を訴えた。
 「私たちはみな、等しく被害者です。この国では人権がないがしろにされている」。いわき市から都内に避難中の女性は言う。南相馬市から神奈川県横浜市に避難した村田弘さんは「決して帰れる状況では無い事は、皆さんも心の中では分かっていると思う」とマイクを握った。武藤類子さん(福島原発告訴団長)も「復興の陰で犠牲になっている人がいる事を分かってください」と呼びかけた。「避難指示が出されていない」、「もう6年経った」というだけで今日から〝自己責任〟の避難に一方的に切り替えられる。被曝リスクなど初めから考慮しない。避難指示が出されていた区域の住民も、解除された瞬間に〝自主避難者〟となる。他人事では無い。
 アピールの傍らでビラを配った「ひだんれん」事務局の大河原さきさんは、年配の女性からこんな言葉を受けたという。
 「私たちはここで子育てして頑張っているんだから帰ってくれば良いじゃない。避難には反対ですよ」
 大きな転機となる「3.31」が終わった。だが日付や年度が変わっても、避難指示が解除されても汚染は無くならない。避難の合理性が認められ、「戻らない選択」も等しく支援されるべきだ。それは決して「後ろ向き」では無い。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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