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【73カ月目の福島はいま】花見山や開成山は本当に〝安全〟か。ポカポカ陽気で増える子ども連れ。母親たちは口々に「考えても仕方ない」「折り合い必要」

原発事故から7度目の春。今年も福島に花見の季節がやって来た。政府の避難指示が出されなかった福島市や郡山市でも、依然として手元の線量計は0.3-0.4μSv/hを示す。避難も保養も自己責任に収れんされ、避難が出来なかった人々は被曝リスクへの不安にフタをしてわが子を公園で遊ばせる。行政も「多くの人が住んでいる以上、安全」との姿勢だ。〝復興〟〝風評〟の言葉で覆い隠されていく被曝リスク。本当に〝安全〟なのか。花見山公園や開成山公園を歩いた。


【「住んでいるから安全」】
 白梅や紅梅が鮮やかな花を咲かせている花見山。ポカポカ陽気に誘われるように、カップルや家族連れでにぎわい始めている。福島駅から運行されている臨時バスの駐車場(ウォーキングトレイル駐車場)も除染が終わり整備されているが、バスを降りて花見山公園までの順路に入ると、手元の線量計は0.4μSv/hを超えた。線量計を手に歩く筆者の横を、不思議そうな表情で家族連れが通り過ぎて行く。
 もちろん数値は上下するが、公園内に入ると0.3μSv/hを下回る事は無かった。頂上付近では0.4μSv/hを上回った。近くでは、幼い息子を連れた若い夫婦が笑顔で記念撮影をしている。原発事故も被曝リスクももはや存在しないかのような光景が広がる。
 福島市観光コンベンション推進室の担当者は言う。
 「花見山のある渡利地区は生活圏で多くの人が住んでいるので、市としては安全だという認識です。ホームページで放射線量は公表しているので、気になるようであれば自己判断で控えていただくのがよろしいかと思います」
 同推進室が把握している限りで最も古いデータは、2012年2月7日の放射線量。「ウォーキングトレイル駐車場」は1.38μSv/h、「物産ひろば」が1.45μSv/h、「花見山公園入口」は0.93μSv/hだった。今年2月21日に同推進室が計測した数値は、それぞれ0.12μSv/h、0.13μSv/h、0.29μSv/h。
 筆者が2012年4月16日に訪れた際、「物産ひろば」に手書きで掲示されていた空間線量が1.65μSv/hだから、空間線量だけ見れば自然減衰と除染で下がったと言える。しかし、公園内にモニタリングポストは無く、市が計測・公表している数値も公園に関しては入口と頂上の2カ所のみ。今月2日に筆者が花見山公園内を登った際は、手元の線量計は高い所で0.46μSv/hに達した。土壌汚染の測定はされていない。公園外の休憩や食事が出来る広場でも0.23μSv/h。これが東京や大阪の公園だったらどうなるだろうか。
 一方で0.23μSv/hが除染の基準とされ、一方でそれを上回る場所が観光地として開放されている矛盾。空間線量が1μSv/hを上回っても立ち入り禁止にはされず、被曝リスクを口にする事は「風評被害が拡大する」と嫌がられた。「2010年は30万人を上回っていたが、震災後は年々減少している」(福島市観光コンベンション推進室)が、それでも昨シーズン(3月~5月)の来園者数は24万人に達する。






場所によって手元の線量計が0.4μSv/hを上回った花見山。食事が出来る広場も0.23μSv/h。それでも今後、幼い子どもの姿も増えそうだ=福島県福島市渡利

【「危険と言わぬ行政信じる」】
 「原発事故直後から放射線を意識していませんでした。除染が始まる前からここで子どもを遊ばせていましたよ。除染でグッと数値も下がりましたから、安全ですよと言いたいですね。放射線を気にしている人は出て行きましたから、気にしていない人が郡山に残った、という感じですね。警戒区域でも無いのに〝自主避難〟した人がいますよね…」
 風はまだ冷たいが、陽射しは少しずつ暖かくなった郡山市の開成山公園。小学校と幼稚園に通う2人の娘を連れた30代の母親は、苦笑交じりでそう言った。
 遊具では、幼い子どもたちが歓声をあげている。手元の線量計は0.3μSv/h前後。我が子を撮影しようと一眼レフカメラを構える母親も。別の30代女性は「原発事故直後は上の息子がお腹にいたので一時的に東京に避難しましたが、今ではもう、わざわざ放射線量を確認する事もなくなりましたね」と話す。20代の女性は夫の転勤で2年前に千葉県内から郡山市に移り住んだ。2人目の子どもを妊娠中でお腹がふっくらとしている。「被曝リスクが全く気にならないと言えば嘘になりますけど、夫の仕事だから仕方ないですね。テレビのニュースで流れる空間線量をチラッと見る程度かな。子どもが土を触っても特に注意もしません」。
 過去の取材で「仕方ない」「気にしたってどうにもならない」という声を嫌というほど耳にした。この日も30代の女性が他の母親たちの想いを代弁するように語った。
 「仕事や生活を考えると、現実的に他県に避難するというのは難しいです。ここで生活していかなければいけません。放射線や被曝リスクの事は頭の片隅にはあるけれど、どこかで折り合いをつけなければいけませんよね。そもそも、本当に危険ならば行政が公園に立ち入る事を禁止するでしょうし。こうやって開放している行政を信じるしかないですよね」
 広い公園の一角では、家族連れがビニールシートを敷いてお弁当を食べていた。砂遊びに夢中になっている孫の姿に目を細める祖父母の姿も。開成山公園は、筆者が2011年11月に訪れた際には場所によって4μSv/hを上回る汚染だったが、一度も封鎖されていない。原発事故から3カ月後の2011年6月にはプロ野球・巨人-ヤクルトの試合が公園内の野球場で行われている。






幼い子どもを連れた母親らでにぎわう開成山公園。場所によって手元の線量計は0.3μSv/hを上回ったが、どの母親も「ここで生活しなければしかたない」と〝折り合い〟を口にした=福島県郡山市開成

【「廃炉になるまで測定を」】
 「郡山市の原子力災害対策」によると、開成山公園近くの郡山市役所は、2011年3月29日に2.57μSv/hを計測。その前の3月15日には、開成山公園から郡山駅方面に約2km離れた福島県の郡山合同庁舎で空間線量は8.26μSv/hに達した。公園から南に約1kmの薫小学校や第一中学校でも4.5μSv/hを計測した。それでも福島市と同様に避難指示が出されなかったのは、主要交通機関である東北新幹線の運行を止めたくない財界や人口流出を恐れた行政、賠償金の増加を恐れた国や東電の思惑が一致しての事だと言われている。
 母親たちが「考えてもしょうがない」と口にする一方で、こんなデータもある。郡山市が昨年11月、市民328人を対象に実施したアンケート「郡山市における環境放射線モニタリングについて」(回答率86.9%)で、「環境放射線モニタリングはいつまで継続するべきと考えるか」との問いに対し、53.7%が「福島第一原発が廃炉となるまで」と回答した。次いで「郡山市内の除染除去土壌等が全て中間貯蔵施設に搬出されるまで」が18.6%、「福島県内の除染除去土壌等が全て中間貯蔵施設に搬出されるまで」は13.3%だった。「しなくていい。きりがない」、「0.2μSv/h以下の地点は測定不要」など否定的な意見は4.9%にとどまった。逆に、質問文の中の「市内各所の空間放射線量率は、時間的な変動が小さく安定してきています」という表現に対する批判があった。
 今後のモニタリングの形式としては、「現在の測定箇所と頻度を維持して継続」が44.5%、「測定箇所は維持し、頻度を減らして継続」が32.6%だった。「モニタリングなんてすると、いつまでも放射能を気にしてしまうので継続しなくてもいい」などの意見は2.5%と少なかった。
 「被曝リスクは気になるが、避難も出来ないのでフタをする」が本音か。本来、国や東電が責任を果たすべき「避難」も「保養」も自己責任。先月末で〝自主避難者〟に対する住宅の無償提供も打ち切られ、放射線防護のために避難した人々とやむを得ず福島に残った人々との間には、残念ながら溝が出来てしまった。避難する人もしない人も、被曝リスクは等しく避けなければならない。果たして本当に〝安全〟なのか。時には考える必要がある。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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