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【自主避難者から住まいを奪うな】「今村大臣辞めろ」。暴言相次ぎ復興庁に署名提出。役人は「言葉の使い方間違えた」。「国全体の姿勢の問題」との指摘も

原発事故で被曝リスクを避けようと避難している〝自主避難者〟に関し、今村雅弘復興大臣が今月4日の記者会見で「(避難継続は)自己責任だ」、「裁判だ何だでもやればいい」などと発言し、質問した記者に「出ていきなさい」と激高した事を受け、辞任を求める2万8127筆の署名が6日夕、復興庁に提出された。今村大臣は、3月12日のNHK「日曜討論」で「故郷を捨てるというのは簡単」、「(避難元に)戻って頑張れ」などと発言したばかり。相次ぐ暴言に〝自主避難者〟の怒りは頂点に達しているが、単なる舌禍事件では無いとの指摘も。「復興庁全体、安倍政権の考え方が口をついて出た」と国の姿勢を問う声があがっている。


【「言葉の使い方を間違えた」】
 署名は、住まいの問題の軸に避難者支援を続けている「避難の協同センター」などが署名サイト「Change.org」を使って呼びかけ、わずか1日で2万8000余筆が集まった。
 福島県田村市から東京都内に避難している熊本美彌子さん(「原発避難者住宅裁判を準備する会」世話人代表)が要請文を読み上げた。松本徳子さん(福島県郡山市から神奈川県川崎市に避難中、「避難の協同センター」世話人)や村田弘さん(福島県南相馬市から神奈川県横浜市に避難中、「福島原発かながわ訴訟」原告団長)も横に並んだ。
 要請文では、「避難者は、原発事故さえ怒らなければ故郷を離れ、違う土地で苦しい思いをすることもなかった」、「貴職の発言は、国の責任を放棄し、避難者の想いを踏みにじるものだ。被災者支援の責任を担うはずの復興大臣としての資質を問わざるを得ない」、「避難指示区域外から避難している方々の実情を全く知らないが故の発言」、「『裁判でもなんでもやればよい』という発言は、被害者である原告が裁判に訴えなければならなかった事情を理解せず、被害者全体を侮辱するばかりでなく、閣僚として(国の責任を認めた前橋地裁の)司法判断を軽視するものだ」などとして、発言の撤回と謝罪、復興大臣の辞任を求めている。
 「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」事務局長の佐藤三男さんも「記者会見の発言を撤回すること」、「復興大臣を辞任すること」、「原発事故被害者の立場に立った真の救済制度を設けること」を求める文書を提出した。
 復興庁側は当初、副大臣が対応するとの情報もあったが、実際には柴沼雄一朗参事官が対応した。柴沼参事官は署名や要請文を受け取り「これだけのご署名が集まったお怒りは、責任を持って庁内に申し伝えたい」などと頭を下げたが、当然ながら大臣の進退に言及出来るはずも無く、「記者会見当日もお詫び申し上げたし、本日も国会でお詫びした」、「誠心誠意、皆様方の支援に努めたいと申している」、「避難した事、帰らない事を『自己責任』と言ったのでは無い。言葉の使い方を間違えた。今後どうするかはそれぞれの判断だという意味だった」などと釈明した。
 柴沼参事官の手元には、この日開かれた衆議院「東日本大震災復興特別委員会」での郡和子衆院議員(民進党、宮城県)と今村大臣とのやり取りが用意されていた。今村大臣の発言を逸脱した発言を避けるためか、大臣の答弁にはピンク色の蛍光ペンで線が引かれ、それを読み上げる事に終始した。署名と要請文の提出は福島みずほ参院議員(社民党)の仲介で実現したが、わずか20分で打ち切られた。






(上)復興庁の柴沼雄一朗参事官に今村大臣の辞任を求める署名を提出する松本さん(右側奥の女性)と熊本さん(右側手前の女性)。「発言は国の責任を放棄し、避難者の想いを踏みにじる」などと厳しく批判した=復興庁
(中)署名サイトを通じて集められた署名は、わずか1日で2万8000筆を超えた
(下)柴沼参事官の手元には、失言を恐れてか、この日の衆議院「東日本大震災復興特別委員会」での今村大臣の答弁が用意されていた。柴沼参事官は蛍光ペンが引かれた個所を中心に答えていた

【「〝舌禍事件〟では無い」】
 問題となっているのは、今月4日午前10時から開かれた記者会見での発言(復興庁HP「今村復興大臣閣議後記者会見録」)。
 フリージャーナリスト・西中誠一郎氏(52)が〝自主避難者〟に対する住宅無償提供が3月31日で打ち切られた事に関連して「国にも責任がある」、「福島県と避難先自治体に住宅問題を任せるというのは、国の責任放棄ではないかという気がする」、「これから母子家庭なんかで路頭に迷うような家族が出てくると思うんですが、それに対してはどのように責任をとるおつもりでしょうか」などと質した事に対し、今村大臣は「国がどうだこうだというよりも、基本的にはやはり御本人が判断をされることなんですよ」、「住宅の問題も含めて、やっぱり身近にいる福島県民の一番親元である福島県が中心になって寄り添ってやる方がいいだろう」などと回答。
 さらに質問が続くと「帰っている人もいるじゃないですか」、「(帰れない人は)どうするって、それは本人の責任でしょう。本人の判断でしょう」、「裁判だ何だでもそこのところはやればいいじゃない」、「国としてはできるだけのことはやったつもりであります」などと述べ、最後は「ここは論争の場ではありません」、「責任持ってやってるじゃないですか。何ていう君は無礼なことを言うんだ」、「撤回しなさい。出ていきなさい。もう二度と来ないでください、あなたは」(復興庁の文字起こしのママ)と激高して会見を打ち切った。
 しかし、避難者たちは単なる〝舌禍事件〟とは見ていない。「避難の協同センター」世話人の満田夏花さん(FoE Japan理事)は「一見、舌禍事件のように見えるが、復興庁の被災者への向き合い方が口をついて出た。いつも『福島県が…』とおっしゃるが、国の責任もあるはずだ。福島県に丸投げするのはやめていただきたい。そもそも〝自主避難者〟の支援を市民団体が手弁当で行っているのはおかしい」と国の姿勢を批判。松本徳子さんも「福島県に任せるのではなく、国が責任を持って対応して欲しい」と求めた。熊本美彌子さんは「(住宅の無償提供打ち切りは)制度設計の誤りで、大臣を辞めて終わりでは無く、新しい住宅施策を打ち出して欲しい」と訴えた。山田俊子さん(福島県南相馬市から神奈川県愛川町に避難中)も「自己責任では無く、事故の責任をとって欲しい。年20mSvではなく年1mSvで」と怒りを口にした。
 復興庁の入る合同庁舎の外からは、支援者らの「今村大臣辞めろ」などのシュプレヒコールが響いていた。終了後、改めてマイクを握った村田弘さんは「今日はわずか20分間で、『のれんに腕押し』にすらならなかった。これまで何度も悔しい目に遭って来たが、こんなに悔しいのは初めてだ。今村大臣だけの問題では無い。復興庁全体、安倍政権も同じ考え方だ」と怒った。






(上)復興庁前には〝自主避難者〟や支援者が集まり、改めて今村大臣の辞任を求めた
(中)村田弘さんは「避難指示が解除された地域の人々も1年後は同じ話になる」などと国の責任での住宅提供を求めたが、話はかみ合わなかった
(下)「避難の協同センター」世話人の瀬戸大作さん。「避難者を貧困に追い込んだのは復興庁だ」と強い口調で批判した

【飯舘村民も「自分事だ」】
 当事者たちが何度も言い続けてきた事だが、原発事故が無ければ〝自主避難〟など必要無かった。しかも、国や東電の一方的な線引きで福島市や郡山市、いわき市などには避難指示が出されず、賠償金も避難指示区域と大きく差がつけられた。「唯一の命綱」と言われる住宅無償提供も、2012年12月28日で新規受け付けが打ち切られ、それすら受けられない〝自主避難者〟が続出した。
 一般社団法人とうほう地域総合研究所が2012年5月、福島県内で暮らす人々を対象に実施したアンケート調査では「避難したくても出来ない人たちはたくさんいる」、「避難できる人がうらやましい」、「仕事の都合がなければ自主避難していた」、「国が全部負担してくれるなら避難したい」、「町全体、集落全体が一緒に避難できる場所を提供してもらいたい」、「年20mSv以下の地域でも避難の権利を認めていただきたい」、「自主避難か強制避難かで区別するのはおかしい」などの意見が相次いだ。一方で「自主はあくまでも自主だからたかるのは見苦しい」、「ナーバスになりすぎ」などの意見も。当初から国が避難指示区域外の人々の行動を「自己責任論」に落とし込んでしまったから、避難を希望する人々の間で格差が生じたし、避難をした人としない人との間に溝も生じた。
 福島県福島市から京都府に避難中の宇野朗子さんは「今村大臣の発言や態度は酷いですが、復興庁の姿勢を端的に表しているだけ、とも思います。今回のことを機に、被災者に対する施策のどこに問題があるのか広く考えてもらいたい。今村大臣に対する個人攻撃で、単なるガス抜きにならないことを願います。くるくると変わる大臣の陰で官僚たちは安泰で、やりたいように物事を進めているのが何とも腹立たしいです」と憤る。
 「帰る帰らないはそれぞれの判断」という「自己責任論」は今春、避難指示が解除された地域の住民も注視している。飯舘村の40代男性は「飯舘村長と同じだ。心の中では質問者の意見も正しいと思いながらも、それを受け入れると自分の方針が間違っていると指摘されることになるので、大声を出して怒る。菅野典雄村長とそっくりです。自主避難者となった今、あの発言は自分事に感じます」と語る。
 「避難の協同センター」世話人の瀬戸大作さんは言う。「今村大臣は実態を分かっていない。今こうしている間にも避難者からのSOSの電話がかかって来る。私たちの知らない所で、住まいが決まらず路頭に迷っている人がいるかもしれない。本当に寄り添うのであれば、国の責任でしっかり〝自主避難者〟の実情を調査して報告するべきだ。全く許せない」。
 記者を怒鳴りつけた事は論外だが、帰らない避難者を切り捨てるという国の意思が口をついて出たという意味で、一連の今村大臣発言は問題なのだ。ここ国には「避難の権利」が無いのだ。



(了)
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鈴木博喜

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