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【73カ月目の浪江町はいま】安倍首相は「汚染続く現実」を直視せよ。駆け足の〝パフォーマンス〟に怒り心頭の町民。「線量計持って歩け」「住んでみろ」

現実とかけ離れた「パフォーマンス」に福島県の浪江町民が怒っている。帰還困難区域を除く避難指示が解除されたばかりの浪江町を8日、安倍晋三首相が〝時の人〟の今村雅弘復興大臣を引き連れて視察した。しかし、訪れたのは仮設商業共同店舗施設「まち・なみ・まるしぇ」だけ。〝復興〟をアピールしようと満面の笑みで「なみえ焼きそば」や小女子(コウナゴ)を頬張ったが、避難指示が解除された区域も依然として汚染が残る。医療や買い物の面でも「生活環境は概ね整った」とは言い難いため帰還は進まない。東京五輪を見据えた〝虚像〟づくりに、町民たちの怒りは増すばかりだ。


【まるで〝昼食タイム〟】
 「パフォーマンス」を絵に描いたような20分間だった。B級グルメ「なみえ焼きそば」を食べ、試験操業の始まった請戸漁港に水揚げされた小女子を頬張る。集まった町民よりもはるかに多いSPが鋭い視線で見守る中、安倍晋三首相は今村雅弘復興大臣を引き連れて「まち・なみ・まるしぇ」(ローソンや食堂など10店舗)を視察して巡った。
 閑散とした町内で唯一、歓声があがる空間。東京から同行した記者クラブ員や集まった人々のために馬場有(たもつ)町長がマイクを持ってテレビのリポーターのように安倍首相らと会話をし、随行の男性2人が抱えるスピーカーから各店舗内の様子が漏れてくる。浪江町商工会が運営する「ミッセなみえ」では、今村大臣とともに「二重(ふたえ)湯呑み」を購入。大堀相馬焼協同組合の小野田利治理事長が「陶芸の杜おおぼり」のあった大堀地区は依然として帰還困難区域になっている事などを説明した。
 「浪江焼麺太国アンテナショップ」では、今や全国区となった「なみえ焼そば」を予定時間をオーバーして立食。お土産に購入した。最後は屋外で小女子の加工品やホッキ飯のおにぎりを食べた。小女子は、大津波の直撃を受けた請戸漁港に水揚げされたものを相馬市内の業者が加工した。「美味いね」と笑顔で語ったが、ボランティア活動の一環で訪れていた福島大学の男子学生に「人は少しずつ戻って来てる?」と質問してしまい、学生が戸惑う場面も。高木陽介・原子力災害現地対策本部長(公明党)や後藤収・原子力災害現地対策本部副本部長、内堀雅雄・福島県知事、亀岡偉民・衆院議員(自民党)、吉田栄光・福島県議(自民党)など〝要人〟も同行して笑顔を振りまいたが、現場を知らないトップのパフォーマンスそのものだった。
 記者会見で「帰る帰らないは自己責任」、「裁判でも何でも起こせばいい」とする旨の暴言を繰り返して〝自主避難者〟の怒りを買った今村雅弘復興大臣に至っては、さすがに一連の騒動が堪えたのか存在感はほぼゼロ。安倍晋三首相を一目見ようと駆け付けた女性に「あーあの人、いま話題の人だよね」とささやかれる始末。「関係者」と「記者クラブ」と「SP」でごった返した空虚な空間は、最後まで握手と記念撮影に応じ続けた安倍首相らが車に乗り込むと、嵐が去った後のように落ち着きを取り戻した。まるで昼食タイム。この国のトップは、わずか20分程度で浪江町の何が分かったのか。






(上)浪江町の請戸漁港に水揚げされた小女子(コウナゴ)を頬張る安倍晋三首相。「なみえ焼きそば」も堪能し、自ら〝食べて応援〟を実践してみせた
(中)今村雅弘復興大臣も小女子を完食。集まった人々から「あーあの人、いま話題の人だよね」とささやかれた
(下)やや疲れた表情の馬場有(たもつ)浪江町長は「必ず復興します」と頭を下げて安倍首相を見送った

【「帰れない場所も見て」】
 「パフォーマンスに過ぎないよ。そんなに安全で〝復興〟が始まっているのなら、1カ月でも2カ月でも浪江に住んでみたら良い」
 福島市内の仮設住宅に暮らす60代の男性は、穏やかな口調で語る。3月下旬、静岡県内の市議会が視察に訪れた際に線量計を持参して町内を案内したが、上ノ原行政区にある住宅では5μSv/hを計測したという。
 「もちろん局所的な数字で、これが全てだとは思っていません。しかし、こういう現実もある。だから帰れない人もいるんです。たった10分や15分だけ、しかも仮設商店街だけを見て何が分かりますか」
 筆者も実際に線量計を持参して歩いてみたが、浪江駅を挟んで反対側、権現堂字矢沢町付近で0.4μSv/hを超えた。駅舎の近くでは0.5μSv/hに達する個所もあった。駅と町役場の距離はわずか1kmほど。確かに役場周辺の空間線量は低い。だが、わずかな距離を移動しただけでこの数値。町役場から30分ほど歩くと「丈六公園」があるが、線量計は1μSv/hを上回る。環境省が「避難指示解除後も注視する必要のある場所」と言うほど。これが「生活環境は概ね整った」と国が言う浪江町の現実だ。
 帰還困難区域の津島地区から兵庫県に避難中の菅野みずえさん(64)の怒りは激しい。
 「何も津島まで行かなくたって、丈六公園から少し行けば帰還困難区域の酒井行政区があります。車であればあっという間に着きます。精度の良いガイガーカウンターを持参して警報音の鳴る場所を歩きなさいよ、と言いたいです。帰れない場所も同時に見ないとフェアじゃ無いですよ」
 避難指示解除、常磐線の運行再開。そして首相の視察。菅野さんは、住宅無償提供打ち切りに伴う〝自主避難者〟の転居を手伝いながら、何度も「切ない」と口にした。「常磐線再開のニュースを見て、『私を置いて町が行く。取り残されていくなあ』と嘆いた方がいらっしゃるんですよ。そういう人の気持ちが安倍首相には理解出来るのでしょうか。避難指示解除で何から何まで万々歳ですか。人の暮らしが戻っているわけでは無い、フレコンバッグの山がある、すぐ近くには原発がある。本当に切ないです」






(上)図書館などがある浪江駅の裏側(権現堂字矢沢町)を歩くと、手元の線量計は0.4μSv/hを超えた
(中)避難指示が解除されて一週間余が経ったが、残念ながら浪江町の中心部は閑散としている
(下)避難指示解除に伴い数年後には再び固定資産税が課せられる事もあり、浪江町内では家屋解体希望が多く順番待ち。町議会では「汚染されて住めないのに課税されるのはおかしい」との意見も出ているが、もっともだ

【「好んで避難したんじゃ無い」】
 関東地方に避難中の70代女性は、別の自治体の住民から「浪江はこんな状態で避難指示を解除するの?」と驚かれたという。
 「なぜ国や町は『生活環境は概ね整った』などと言うのでしょうか。汚染だけではありません。医療と買い物です。コンビニはあるが生鮮品を買うスーパーも無い。診療所は出来たが虫歯になったらどうするのか。ドクターヘリで県立医大まで運んでもらうのでしょうか。町役場に尋ねたら、すぐに戻ったのは約800人ほどと言っていました。5%ですね。でもあまりに不便で、町に帰ったお年寄りは泣いているとまで言われています」
 週明けには、環境省の担当者と自宅解体について打ち合わせるため町を訪れるという。申し込んでから2年。ようやく順番が回ってきた。「地震による損傷は無いし、幾世橋行政区の空間線量は低いです。でも山側、川の上流には放射性物質があります。残念ですが終の棲家にはなりません」。
 怒りを通り越して哀しい、と話す女性。今回の「今村発言」でさらに国への不信感が増した。「なぜ年20mSvで良しとするのか。しかも、避難指示解除後も帰らない私たちは、今や〝自主避難者〟です。何も好んで避難したのではありません。原発事故に生活を取り上げられたんですよ。1週間でも10日間でも住んでみろと言いたいです」。今村大臣は、記者を怒鳴る前に切実な声にこそ耳を傾けるべきなのだ。
 樋渡・牛渡行政区から福島県中通りに避難している40代男性は「この国のトップの人たちには失望しているので見たくも無いですね。避難指示解除前の住民懇談会で見切りをつけました。腹を立てるのも嫌だ」と呆れ顔だ。
 「すごい事が起きているんです。根拠無く『年20mSvで大丈夫なんだ』と言われているんですからね。国はきれいな事だけを言いたいのでしょう。大本営発表の時代と何も変わって無いじゃないですか。群馬訴訟の判決では国の責任も認めているんです。安倍首相は〝セレモニー〟なんかやってる場合じゃ無いですよ」
 馬場町長は「必ず復興します」と頭を下げて安倍首相らを見送った。誰だって帰りたい。誰だって以前のにぎわいを取り戻したい。でも帰れないから苦しい。原発事故が無ければ苦しむ必要は無かった。「東京五輪までに原発事故など無かった事にしたいんでしょ」と怒る町民の言葉に、安倍首相はどんな言葉をかけるのだろうか。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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