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【73カ月目の飯舘村はいま】改めて菅野村長が〝切り捨て〟宣言。住民懇談会で「村に戻る人を応援したい」。津波被害を例に「みんな頑張っている」とも

3月末で避難指示が部分解除された福島県飯舘村で、村に戻らない村民の〝切り捨て〟が静かに進行している。20日夜、福島市内で開かれた住民懇談会で菅野典雄村長が「一人一人に全く寄り添うというのは不可能」と明言。「村に戻った人を支援」への方針転換を改めて強調した。「生活環境は概ね整った」として強行された避難指示解除だが、除染の未実施、野焼き禁止、携帯電話がかけられないなど課題は山積。帰還率は5%程度にとどまる。菅野村長は「家族全員が津波に流された子どもも頑張っている」「愚痴を言っても始まらない」などと言い出す始末で、村民の「村離れ」は加速しそうだ。


【「戻る村民を応援したい」】
 「体の良い〝切り捨て〟じゃないか。『一人一人に寄り添う事は出来ない』と公の場で明言したのは初めてだ」
 住民懇談会に参加した男性は吐き捨てるように言った。男性は「質疑・意見交換」で真っ先に手を挙げた。「(資料説明の最中に)国の人たちが居眠りをしていた。村民に対して失礼だ。以前にも指摘したが改善されていない」と怒りをぶつけたうえで、「村に戻る人には転居費用20万円が支給される(「おかえりなさい補助金」)が、村に戻らない人、戻れない人も転居費用はかかる。村に戻るか否かで差別をするのは村政としていかがなものか」と菅野村長の姿勢を質した。さらに、避難を終えて村に戻る住民に対する生活支援に重点を置くようになった「明確な意味」についても質問した。
 菅野村長は、村に戻らずに避難先での継続をする村民に関して「金銭的な応援は出来ない」、「全て同じとはいかない」などと避難を終えて村に戻る村民とは支援の中身で区別する方針を認めた。その理由を「村に戻る人たちは『戻れない方たちの分まで故郷のためにやって行こう』という想いがある。どうしても応援してあげなければならない」と説明した。「従来の『一人一人に寄り添う』からニュアンスは確かに変わってきているが、一生懸命考えているのでご理解いただきたい」。
 「故郷のために」帰還する住民には金銭的支援を出すが、戻らない村民には情報提供や健康相談程度。言葉はおだやか、表情は柔らかいが、着実に切り捨ては進行している。住民懇談会の最中、菅野村長は何度も「それぞれ人生をどうするか考えて欲しい」と口にした。今村雅弘復興大臣同様、村に帰る帰らないは個々の判断。〝村を捨てる〟のなら自力でやれという事か。
 仮設住宅の入居期限は、現時点では来年3月末。菅野村長は「避難指示解除から1年で打ち切るのは短いので、再来年まで入居出来るようにしたい」と語るが、〝自主避難者〟への住宅無償提供と同じで見通しが立たない。「(原発事故の)愚痴を言っても始まらない」と自力での生活再建を迫る。それが「一人一人に寄り添う」と公言してきた菅野村政の実態だった。




(上)空席が目立った住民懇談会。参加した村民からは除染の未実施、帰る村民と帰らない村民との格差撤廃、野焼きの早期実現などの声があがった=福島市黒岩の福島県青少年会館
(下)一番手に質問した男性は「国の人たちが居眠りしている。失礼だ。依然も指摘したが改善されていない」と怒った

【見通し立たぬ「野焼き」】
 内閣府原子力被災者生活支援チームの担当者が配布資料を駆け足で読み上げ、〝復興〟への取り組みをアピール。村内の宅地、農地、道路などの除染は昨年12月に終了し、空間線量は宅地で平均0.53μSv/h、森林で同0.85μSv/h(いずれも高さ1メートル)と除染前と比べて70%以上低減したという。しかし、参加した村民からは「以前も指摘したが除染が手つかずの所がある」、「メディアでは100%終わったなどと言っているが、私の農地も除染されていない」などと疑問の声があがり、環境省・福島環境再生本部の坂川勉本部長は「農地は除染が終わっているものと考えていたが、現場を確認したい」などと答えに窮した。
 除染土壌の入ったフレコンバッグについても「時々避難元に帰る」という村民から質問があり、坂川本部長は今年度中に2万7000立方メートルが中間貯蔵施設に搬出されるとの見通しを明らかにしたが、これでも村全体のわずか1%。そもそも中間貯蔵施設のための用地取得が23.5%しか完了しておらず、搬出先が定まっていない状態。坂川本部長は「福島県全体でも年々輸送量を増加しているので、用地確保と並行しながら輸送を進めたい」と話したが、生活圏からフレコンバッグが無くなる見通しは全く立っていないのが実情だ。
 「野焼き」についても、従来から何度も待望する声が村民からあがっていた。この日も「まだ野焼き出来ないとなると、農地保全のために刈り取った草は国が責任もって処理してくれるのか」などと質問が出たが、村内で野焼きをした場合の放射性物質の拡散や植物への付着などの検証が全く進んでいない。内閣府は「今年度は村内で雑草と土を採取し、実験室の中で燃焼させ放射性物質の飛散や作物への移行などを調べる。そのうえで来年度、村内での実証実験を考えている」と〝2年計画〟である事を示したが、菅野村長が「私も実験室でやると今朝聞いた」と苦言を呈したのに対し、原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長が血相を変えて反論する場面も。後藤副本部長は閉会のあいさつで「来春には野焼き出来るようにしたい。週明けの24日に農水省の審議官の所に行って1年でやれと言う」と語ったが、取材には「地元の意向は伝えるが、(来春に野焼きが)出来るかどうかは分からない」とトーンダウン。野焼きすら出来ない土地に住民を帰らせようと避難指示解除を急いだ。それが〝復興〟か。



(上)「村に戻らない村民には金銭的支援は出来ない」「津波で家族を失った子どもなど、頑張っている人もいる」などと語り、村民の怒りを買った菅野典雄村長
(下)「野焼き」を巡る国の取り組みの遅さを指摘され、不満を顔に出した原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長。そもそも村内で野焼きなど出来るはずが無い

【「帰らなくても電気料金かかる」】
 「生活環境は概ね整った」と言いながら、携帯電話の不通話地区すら解消されておらず、門馬伸市副村長が「一番の問題。計画的に解消して行きたい」と答えた。しかし、通信が整備されないのに、なぜ「生活環境が概ね整った」と言えるのか。全て「これから着手」する事ばかり。川底の汚泥除去も、役場幹部が「今後も県と協議していきたい」と答えるだけで進まない。今年度は川の「草刈りや流木の撤去」を村が行うが、「除染では無い」という。そんな状態では、避難指示解除から3週間が過ぎて100世帯ほどしか村に戻らないのも無理は無い(「広報いいたて お知らせ版」の郵送先ベース)。
 「村に戻っても電気料金が発生する。3年ぐらいタダにして欲しい」と村民が訴えても、菅野村長は「間もなく東北電力から一枚の紙が届く。4月中に戻ると答えれば5月から、戻らなくても10月から電気料金がかかる。帰る帰らないにかかわらない。原因を作ったのは東京電力だから、東北電力がまけるという事は出来ない」となぜか電力会社の気持ちを〝忖度〟した。自宅を取り壊さなければNHkの受信料も発生する。2021年度からは固定資産税も課せられる予定。そのため1366軒が家屋解体を申し込んだ。これまでに578軒(約42%)の解体が済んだという。
 それでも「愚痴を言っても始まらない」から「少しでも普通では出来ない事を」(菅野村長)と、道の駅を建設し、歌手を招いてコンサートを開き、「おかえりなさい」の看板を設置する。電通と組んでゆるキャラをつくる。営農再開を後押しするが、村が導入する食品の非破壊式検査機器の下限値は50Bq/kg。測定時間は約10分。「あくまで参考値で証明書は発行出来ない。心配なら研究機関に検査を依頼して欲しい」と村役場幹部。非破壊検査で「○」が表示されても1Bq/kgから49Bq/kgまで可能性は幅広い。しかも参考値。これが現実だ。
 菅野典雄村長は閉会のあいさつで、津波被害を例に挙げて村民に前向きになるよう諭した。「確かに我々もこんな風になるとは思わなかったが、家族全員が津波で流され残った子どもなども、みんなそれぞれ頑張っている、そんなところにもちょっとでも想いを寄せながら人生をどうするか考えて欲しい」。これには参加した村民も呆れ顔だ。「自然災害と原発事故を一緒に考えるのは間違いだし、そもそも津波被害に遭った方々に失礼だ」。
 「遠慮なく注文をぶつけて欲しい」と言いながら、不満や課題の指摘には「もっと大変なのに頑張ってる」と返されては、村民の間にあきらめムードが広がるのも当然だ。今回の住民懇談会は今月12日の伊達市を皮切りに南相馬市などで4回にわたって開かれたが「どの会場も参加者は少なかった」(役場職員)。この日も用意された150席は3分の1程度しか埋まらなかった。それが村民の答えだった。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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