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【参院選2016】「福島米を官邸で毎日、食べている」~〝エサ〟は公共事業型復興。汚染や被曝、改憲には触れない安倍晋三首相

参議院選挙が公示された22日午後、安倍晋三首相が福島入りし、郡山と須賀川で応援演説を行った。一人区の福島選挙区には3人が立候補しているが、自民党現職の法相岩城光英氏(66)、民進党現職の元経済産業副大臣増子輝彦氏(68)の事実上の一騎打ち。熊本から駆け付けたのは危機感の表れと言えよう。原発事故による汚染や被曝リスクには一切触れず、公共事業型の復興推進を〝エサ〟に支持を得る戦略。福島の米を毎日食べている、と聴衆を沸かせた。憲法改正の「か」の字も無し。福島県民は「命よりカネ」の政治を選ぶのか。投開票は7月10日。


【「アベノミクスは失敗していない」】
 誰にも邪魔されず、好きなだけ話せる気楽さからか、安倍晋三首相の滑舌はいつになく滑らかだった。
 郡山駅西口。
 「思い出していただきたい。あの時、本当に福島のために働いたのは誰か」
 復興大臣を務めた根本匠衆院議員の後援会関係者と、司会が何度も「友党」と強調した公明党の関係者から時折、拍手が起こる。安倍首相が力を込めるのは当然、公共事業型復興の推進と風評の払拭だ。地元のお菓子「薄皮まんじゅう」や「ままどおる」を織り込む巧妙さで「我々は風評被害を吹き飛ばす」と聴衆を沸かせた。
 「常磐道を約束通り、全面開通させました」
 あえて避けているのか、「原発事故」という言葉は使わない。「あの時」とか「5年前」という言葉で震災や原発の爆発を想起させ、いかに当時の民主党政権が福島復興の足を引っ張ったか、自らの〝功績〟を披露しながら説いていく。極めつけは、こんな言葉だった。
 「中通りのお米を官邸で毎日、食べています」
 「福島のお米を毎日、食べているから、こうして元気なんです」
 2015年2月、来日した英国のウィリアム王子を郡山市の磐梯熱海温泉に招いた時のエピソードを披露。「福島の食材を使った料理をたくさん、『美味しい』と食べてくれた」と、外国人観光客の重要性を強調。いまだ続く土壌汚染、手をつけられない森林、収束などとはほど遠い原発など、一方で継続する「現実」とは無関係の「バラ色の世界」が広がる。そして話は、自身の経済政策にも及んだ。
 「アベノミクスは確かに道半ばではあります。しかし失敗はしていない」
 民主党政権下では20円しか上げられなかった福島の賃金を、安倍政権では41円も上げたと強調する。「母親から他人の批判はするな、と教えられていた」から、批判では無く比較なのだそうだ。しかし、さすがの〝応援団〟からも拍手は起こらず、静まり返った。「パートさんの給料も上がっております」などと言われても、ここだけは夢見心地で聴き入るわけにはいかないのだろう。「雇用をつくり、成長と分配の好循環を生み出して行きます」という首相の言葉に、聴衆の反応は鈍かった。


予定時間を大幅に延長して応援演説を行った安倍晋三首相。「新しい福島をつくっていく」と公共事業型復興の推進を強調した=郡山駅西口

【疑わしい「子どもたちの未来のため」】
 郡山駅前に設置されたモニタリングポストの数値は0・15μSv/h前後。原発が爆発した直後と比べると空間線量は大きく下がった。では、放射能汚染や被曝リスクはもはや、昔話なのだろうか。国や行政は土壌汚染を測らない。市民団体の測定では、放射線管理区域の相当する1平方メートルあたり4万ベクレルを超える汚染が多数、確認されている。伊達市では汚染された山林が、郡山市内では8000Bq/kgを上回る汚染焼却灰が燃えた。除染が進められる一方で、福島県内では除染廃棄物が燃やされている。都合よく基準値を年20mSvに引き上げて政府の避難指示が続々と解除されていく。甲状腺以外の健康への影響は調べもしない。
 しかし、自民党が口にするのは「5年前の民主党政権の失政」ばかり。佐藤憲保県議(郡山市)は「何も決められなかった民主党。再びあの頃に戻すのか」。〝友党〟公明党の真山祐一衆院議員も「遅い、鈍い、心が無い民主党政治が復興を後退させた」と力を込める。根本代議士も、こんな言葉で続いた。
 「何も決まっていなかった中間貯蔵施設も、我々が決めたんです。外遊びを制限されていた子どもたちにのびのびと身体を動かしてもらうために、屋内・屋外の運動施設も造った。子どもたちの未来のためにやってきたのが安倍政権なのです」
 避難支援には消極的で公的な保養も実施しない。それどころか、自主避難者への住宅支援を来年3月末で打ち切ろうとしている。方針を決めた福島県知事に翻意を促すこともしない。それのどこが「子どもたちの未来のため」になるのか。理解に苦しむ。
 根本議員はこうも言った。
 「次々に避難指示を解除し、故郷に帰る事が出来るようになった」
 故郷に帰りたい想いと汚染への懸念のはざまで避難者がどれだけ葛藤しているか。そんな事もご存じないのだろうか。「心が無い政治」は果たしてどちらなのか。東京五輪まで4年。とにかく原発事故を過去のものにしたい思惑ばかりが躍る。


郡山駅前での演説が終わると安倍首相は須賀川市内に移動。最前列は〝動員〟のお年寄りたちで埋め尽くされた=メガステージ須賀川

【改憲の「か」の字も口にしない】
 応援演説が予定時間を大幅に超えた安倍首相は車で須賀川市に移動。雨の中、鏡石町や矢吹町などからも駆け付けた支持者を前に、ほぼ同じ内容の応援演説を行った。郡山駅前と異なるのは「ままどおる」を「キュウリ」に変えた部分くらい。「きうり天王祭というお祭りがあるそうですね」と聴衆の心をつかんでいく。気付けば、批判をするなと教わってきたはずの安倍首相も、野党共闘を強烈に批判していた。
 「野党や一部マスコミは批判ばっかり。目的は安倍政権を倒すこと。その先に何があるのか答えが無い」
 「一億総活躍社会を進めるにはお金がかかるだろうと言われる。お金はあるし作っていく」
 須賀川で特に盛り上がったのは安全保障に関するくだりだ。
 「今日も北朝鮮がミサイルを発射した。許せないことです。しかし、民進党と共闘している共産党は日米同盟も自衛隊も廃止すると言っている。無責任じゃないですか。誰が日本を守るんですか」
 郡部はより保守的ということか。聴衆の1人が言った。「共産党は絶対に駄目だ。共産主義国家になってしまう。その共産党と手を組んでいる民進党の候補に投票するわけにはいかない」。
 「理念も政策も違うのに、候補者を一本化している。そういうのを一般に野合と呼ぶのです。そんな無責任な候補に負けるわけにはいかない。いい加減な民共に託すのですか?5年前のどんよりした社会に戻すのですか?」
 安倍首相の演説を、浪江町の馬場宥町長が遠くから見つめていた。住民帰還に向け、23日から住民懇談会をスタートさせる。しかし、首相は相変わらず現実の汚染や避難には一切、触れない。もちろん憲法改正の「か」の字も口にしない。原発政策を推進してきた政党の党首として謝罪の言葉も無い。それでも、聴衆は満面の笑みで首相とハイタッチをし、中には色紙にサインをしてもらう女性もいた。地元メディアは、18歳の若者とのツーショットを盛んに撮影した。
 これらの〝演出〟は一方で、危機感の表れでもある。自民党支持者ですら「負けそうだ」と表情を曇らせたほど。だから原発事故も憲法改正も覆い隠して、公共事業をちらつかせて支持を得る戦略。安倍政権の本質を福島で見せつけられた。



(了)
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プロフィール

Author:鈴木博喜
大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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