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【74カ月目の浪江町はいま】被曝防護より風評拡大を懸念? 福島県庁がHPで「影響一切ない」と言い切る〝勇み足〟~山林火災は火勢弱まるも消火活動続く

福島県浪江町の帰還困難区域で4月29日に発生した「十万山」の山林火災で、現在も放射性物質の拡散が無いか測定が続けられているにもかかわらず、福島県庁広報課が今月2日に更新したホームページ(HP)で「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」と断言している。「負の情報ばかり発信したくない」との想いが込められているようだが、完全な〝勇み足〟。予防原則に立たず県民の放射線防護に消極的だった6年前の教訓が全く生かされていない。火勢は弱まり「鎮圧状態」が宣言されたが鎮火には足らず、県放射線監視室は今後も大気浮遊じんの測定を続ける方針だ。


【県「専門家の意見も聴く」】
 行政は県民を守らない。それが端的に現れた文面だった。
 福島県のホームページに掲載されている「新着情報」。8日未明の段階でそのトップに位置する「浪江町の林野火災における放射線モニタリング状況等について」(http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01010d/0502monitoring.html)をクリックすると、福島県放射線監視室が公表している「空間線量モニタリング結果情報」など、モニタリング結果を参照出来るリンクが張られている。そして、こんな文言が添えられている。
 「現在、周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」
 山林火災の発生を受け、福島県放射線監視室は急きょ、粉塵測定器(ハイボリュームエアサンプラー)を3カ所に設置。今月1日から大気中の放射性物質をモニタリングし始めたばかり。測定の中にフィルターが置かれており、掃除機の要領で周辺の粉塵を付着させる。しかし「人手不足や電源確保の問題などから試料の採取時間は90分から3時間程度にとどまっている」(県放射線監視室)。帰還困難区域には電気が通っていないため、発電機を持ち込んで測定器を稼働させているが、発電機を動かすための燃料を補給する事が難しく、午前中に測定器を稼働させて2、3時間後にフィルターを回収するのが精一杯という。
 「大型連休が終わり、落ち着いて来たら何とか長時間測定出来るようにしたい。試料採取時間が長ければ下限値が下げられ、測定の精度を高められる」と県放射線監視室職員。今後は専門家の意見も参考にしながら、さらに測定を続けて人体に悪影響を及ぼすような状況か否かを判断して行くという。つまり、絶対に危険な状態とも言い切れないが、現在進行形の中で「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」などと〝安全〟を断言するような状況でも無いのだ。






(上)福島県庁広報課が今月2日に更新した県ホームページの「新着情報」。クリックすると「浪江町の林野火災における放射線モニタリング状況等について」というページに飛ぶが、「現在、周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」と断言してしまうのは完全に〝勇み足〟だ
(中)十万山から5kmほどの有料老人ホーム「やすらぎ荘」前に設置された粉塵測定器。福島県放射線監視室は「今後も測定を続ける」としている=浪江町井手
(下)福島県放射線監視室が公表している「大気浮遊じん(ダスト)の測定結果」=福島県ホームページより

【〝負〟発信したくない?】
 福島県放射線監視室の職員は、「確かに現時点で『影響ない』と言い切ってしまうのはおかしいという指摘はもっともだ。事態は現在進行形で、問題無いと断言など出来ない」としたうえで、「理解して欲しい面もある」と語る。
 「原発事故以降、福島はずっと負の情報ばかりにさらされています。実態と異なる風評が広まったり、それによって〝いじめ〟が起きたりもしています。広報課からは事前に相談があったが、あまり負の情報を発信したくない、なるべく大丈夫だという情報を流したいという心情も働いたのではないかと思います。そこも理解していただきたい」
 浪江町では2015年3月28日にも山林火災があったが、福島県災害対策課によると「翌朝には鎮火し、焼失面積も10ヘクタール程度だった」。今回の山林火災では50ヘクタールを上回る面積が燃えたとされており、原発事故後の避難指示区域での山林火災では最大規模と言える。それだけに「慌てて動いている部分もあり庁内も混乱している」(県放射線監視室)という状況も想像に難くない。しかし6年前も、原発の爆発事故とそれに伴う放射性物質の拡散という初めての事態に行政は混乱を極め、さらに県民の放射線防護よりも人口流出を恐れて〝安全〟のアピールに躍起になっていたとの指摘は少なくない。現在、福島地裁で係争中の「子ども脱被ばく裁判」でも、行政の消極性が争点の柱となっている。
 浪江町役場総務課防災安全係は山林火災発生後、帰還困難区域に一時立ち入りする住民に対し、風向きなども考慮して個別に注意喚起しているという。「測定で得られた数値を見れば、落ち着いて対応できる状況」と県放射線監視室。確かに公表されている数値は驚くようなものでは無い。だが、人体に影響無いか否かは後から慎重に分析して結論を出せば良い事だ。残念ながら、今回の山林火災でも当初から福島県庁は「空間線量は上昇していない」との情報発信に力を注ぎ、地元メディアもそれに従った。予防原則の視点で防護を呼びかけるのが6年前に学んだ危機管理では無かったか。教訓は生かされていないと言わざるを得ない。






(上)浪江町地域スポーツセンターの会議室に設置された合同災害対策本部。陸自隊員はアリーナに寝泊まりして消火にあたっている。7日午後には250食分の「なみえ焼きそば」がふるまわれた
(中)浪江、双葉両町長のほか消防、陸自、福島県、林野庁が参加して定期的に開かれている全体会議。陸自ヘリからのライヴ映像も参考にしながら活動方針を決める
(下)消火活動の〝後方支援〟のため現場に近づく浪江町役場職員は、白い防護服に防護マスクを着用する。現場が帰還困難区域のため、消防団は消火活動に従事していない

【胸に個人積算線量計】
 浪江町の火災現場では、消防に加えて陸上自衛隊第6師団(山形県東根市)の隊員が地上と上空両面から消火にあたり、発生から一週間後の今月6日になってようやく「鎮圧宣言」が出されたばかり。火勢が弱まり、これ以上燃え広がる可能性はかなり低くなったものの、依然として熱源が確認されるなど予断を許さない状況で、完全鎮火に向けて今も消火活動が続けられている。
 「浪江町双葉町合同災害対策本部」が設置された浪江町地域スポーツセンターには医療関係者も待機し、飲料水も大量に並べられている。浪江町では5日に最高気温25.1℃を記録。7日も24.5℃に達した。現場から戻って来た町役場の職員は汗だくだ。原発事故が無ければ、現場が放射性物質に汚染されていなければ、防護服も防護マスクも必要無い。30代の男性職員は、白い防護服を脱ぎながら「僕らの方が世間の認識とずれているのかもしれません。放射性物質の二次拡散や被曝を心配するのは決して大げさでは無いと僕は思いますよ」と苦笑した。
 陸自第6師団に所属する隊員たちは、胸に小さな積算線量計を付けている。隊員の1人は「活動が全て終わった段階で回収し、記録をまとめます。化学防護隊の支援を受けて日々、スクリーニングを実施していますが高い値は出ていません。個人的にはそんなに被曝リスクを心配するような状況では無いと思います」と話した。
 地元消防団の佐々木保彦団長は「消防団員は帰還困難区域には入れないので招集もしていません。いろんな見方があるかもしれないが、我々としては県が様々な測定をして問題無いと判断すればそう理解するしかない」と対策本部で推移を見守る。何度もヘリに乗って上空から現場を視察するなど対応に追われている浪江町の馬場有(たもつ)町長は疲労の色が濃い。職員も大型連休など吹き飛んだ。代休がとれるかどうかも分からない。
 浪江町民は言う。「安全だ安全だと言って帰還困難区域以外の避難指示が解除された。しかし、町内には帰還困難区域が存在し、許可が無ければ立ち入る事が出来ない。山林火災が起きれば放射性物質が二次拡散しないか不安が募る。原発そのものが二次災害を起こさない保証など無い。それのどこが〝安全〟なのか」。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

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