【74カ月目の浪江町はいま】放射性物質の飛散を全否定していた福島県が一転、「舞い上がりの影響も否定できず」。山林火災のモニタリングで数値上昇受け
- 2017/05/10
- 06:27
福島県浪江町の帰還困難区域で4月29日に発生した「十万山」の山林火災で、福島県放射線監視室が始めた大気浮遊じん(ダスト)の測定数値が上昇。それまで放射性物質の飛散を全否定していた福島県も、9日夜に更新したホームページで「測定地点の周辺の土ぼこりや焼却灰の舞い上がりの影響も否定できません」と表現を改めた。県放射線監視室は「今後も数値の動きを注視していく」としているが、県民への注意喚起は無く、広報課の「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」の文面も残されたまま。改めて危機管理の姿勢が問われそうだ。
【発表文言の調整に時間】
県庁内は混乱していた。これまで17時には福島県庁内の記者クラブに発表されていた測定結果が、9日は18時を過ぎても公表されない。結局、ホームページが更新されたのは20時半を過ぎてから。8日に浪江町(やすらぎ荘)、双葉町(石熊公民館)、大熊町(野上一区地区集会所)の3カ所で採取された「大気浮遊じん(ダスト)」の分析結果(放射性セシウム137)は、いずれも上昇していた。浪江町では、これまでの最高値のほぼ倍。双葉町や大熊町では約4倍の測定結果となった。採取時間はわずか2、3時間程度のため、測定の精度が決して高くない事は県の担当者も認めるところ。それでも数値は上昇した。気象庁によると、8日の浪江町は、最大瞬間風速が20.3メートル(西南西)だった。
4月29日に山林火災が発生して以降、一貫して放射性物質の二次拡散を否定してきた福島県庁も、この日は「原因については、現時点で判断することはできませんが、今回の山火事の特殊性である落葉の堆積層への火の浸透に加え、ヘリの運行にも支障を来すような西寄りの強い風が終日観測されていることなどにより、測定地点の周辺の土ぼこりや焼却灰の舞い上がりの影響も否定できません」と表現を変えざるを得なかった。データの公表が遅くなったのは、文言や表現に関して関係部署間での調整に時間を要したからだった。〝負の情報発信〟に消極的な福島県庁としては、時間をかけて練りに練った末に「舞い上がりの影響も否定できません」が精一杯の表現だった。
福島県放射線監視室は、取材に対し「今後も測定を継続し、結果を注視していく」と話す。ホームページ上でも「今般のダストについて組成成分の詳細調査を実施するほか、林野庁等が動態調査の実施に向けた調整を進めており、これらの調査結果や専門家の意見も参考にしながら影響を評価してまいります」との文言が加えられた。発生から11日目にして、ようやく本来の対応に近づきつつある。
なお、空間線量率に大きな変動は見られない。

浪江町で最大瞬間風速が20メートルを超えた8日、「大気浮遊じん(ダスト)の測定結果」は上昇した。まだデータは少ないが、今のところ、風の強さと測定結果は比例している
【「正確な情報発信」とは何か】
現場の火勢は弱まったものの、依然として完全鎮火には至っていない。山林火災は現在進行形だ。完全鎮火が確認されたとしても、灰が風で舞う。長年、協力会社の幹部として原発に携わってきた浜通りの男性は「普段なら枝や葉が覆い尽くしてそんなに舞い上がるとは思えないが、これだけ広範囲で燃えてしまえばフタが取れたのと同じ。強い風が吹けば当然、二次拡散すると考えるのが自然だ。大げさでも何でも無い」と指摘する。
しかし、福島県庁は発生当初から「火災前と比較して大きな変動はありません」との発表に終始し、内堀雅雄知事も8日午前の定例会見で「既存のモニタリングポストによります環境放射線の監視に加えまして、5月1日から火災現場の周辺において空間線量率、そして大気浮遊じん(ダスト)など追加のモニタリングを行いまして、現在も継続して実施中であります。これまでの結果によりますと、火災発生前後と比較して既存モニタリングポストの測定値に大きな変化は見られておりません」などと語っている。
定例会見では、読売新聞の男性記者が紀伊民報(和歌山県田辺市)をやり玉にあげた。今月2日の夕刊コラム「水鉄砲」で浪江町の山林火災を取り上げ、「放射能汚染の激しい地域で山火事が起きると、高濃度の放射線物質が飛散し、被ばくの懸念がある」、「原子炉爆発から6年が過ぎても、収束がままならない事故のこれが現実だろう。政府も全国紙も、この現実にあまりにも鈍感過ぎるのではないか」などと書いた事に対し、直接的な表現は避けているものの福島県として抗議するべきだと迫った。
内堀知事は「県としてなすべき事は正確な情報発信だ」と述べ、コラムに関する対応への言及は避けたが、内堀知事の言う「正確な情報発信」とは「安全」を念頭に置いたものだろう。地元紙の福島民友も9日付の紙面で「正確な情報発信」、「空間線量、大きな変動なし」などの見出しを立てた。行政もメディアも2011年3月から進歩していない。コラムを掲載した紀伊民報社には抗議や取材が殺到。8日付の同コラムで「火災は8日目に鎮圧され、新たな拡散は心配するほどではなかったというのだ。そうなると、僕の不安は杞憂(きゆう)であり、それによって多くの方に心配をかけ、迷惑を与えたことになる。まことに申し訳ない」と陳謝したが、改めて次のように問題提起もしている。
「福島第1原発の事故で汚染され、そのまま放置された地域での山林火災への対応、常に放射性物質の飛散量に気を配って生活している人たちのこと、内部被ばくリスクなどについて考えると、いまも心配でならない。そうしたことについて政府の関心が低いように見えることにも変わりがない」

数値の上昇を受け、それまで放射性物質の二次拡散を完全否定していた福島県庁も「測定地点の周辺の土ぼこりや焼却灰の舞い上がりの影響も否定できません」と表現を改めざるを得なくなった=いずれも福島県のホームページより
【林野庁「森外へ飛散しない」】
まだデータが少ないが、今のところ「大気浮遊じん(ダスト)の測定結果」と風速はほぼ比例している。
浪江町・やすらぎ荘での測定では、6日の0.38mBq/㎥が現時点での最小値だが、この日の最大瞬間風速も5.7メートルで最も弱かった。測定結果が1.84mBq/㎥だった4日の最大瞬間風速は12.1メートルだった。今月に入って浪江町で観測された降雨はわずか0.5ミリ(1日)。乾燥続きに加えて強い風が吹けば、今後も放射性物質の二次拡散が懸念される。
林野庁は2016年10月発行のパンフレット「Q&A 森林・林業と放射性物質の現状と今後」の中で山林火災に触れ「原発事故後に発生した林野火災現場で空間線量率などを測定したところ、森林から外への飛散は確認されていません」、「森林から生活圏へ放射性セシウムが流出する危険性は低いと判断されます」と結論付けているが、今回の山林火災に関する調査によっても「安心」をアピールするのか、注目したい。結論の根拠となった伊達市や南相馬市での調査結果に関して国立研究開発法人森林総合研究所に問い合わせているが、9日夜までに回答を得られていない。
伊達市でも、汚染の高い霊山町下小国の竹やぶから出火。50アールを焼いた。火災による放射性物質の二次拡散は、何も避難指示区域固有の課題では無い。「大げさ」、「考えすぎ」、「風評」などと言わず、予防原則に立って対応するのが行政のあるべき姿ではないか。残念だが、それが原発事故の1つの現実だと言わざるを得ない。しかし、福島県はホームページ上の次の文言は変えないままだ。
「現在、周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」
(了)
【発表文言の調整に時間】
県庁内は混乱していた。これまで17時には福島県庁内の記者クラブに発表されていた測定結果が、9日は18時を過ぎても公表されない。結局、ホームページが更新されたのは20時半を過ぎてから。8日に浪江町(やすらぎ荘)、双葉町(石熊公民館)、大熊町(野上一区地区集会所)の3カ所で採取された「大気浮遊じん(ダスト)」の分析結果(放射性セシウム137)は、いずれも上昇していた。浪江町では、これまでの最高値のほぼ倍。双葉町や大熊町では約4倍の測定結果となった。採取時間はわずか2、3時間程度のため、測定の精度が決して高くない事は県の担当者も認めるところ。それでも数値は上昇した。気象庁によると、8日の浪江町は、最大瞬間風速が20.3メートル(西南西)だった。
4月29日に山林火災が発生して以降、一貫して放射性物質の二次拡散を否定してきた福島県庁も、この日は「原因については、現時点で判断することはできませんが、今回の山火事の特殊性である落葉の堆積層への火の浸透に加え、ヘリの運行にも支障を来すような西寄りの強い風が終日観測されていることなどにより、測定地点の周辺の土ぼこりや焼却灰の舞い上がりの影響も否定できません」と表現を変えざるを得なかった。データの公表が遅くなったのは、文言や表現に関して関係部署間での調整に時間を要したからだった。〝負の情報発信〟に消極的な福島県庁としては、時間をかけて練りに練った末に「舞い上がりの影響も否定できません」が精一杯の表現だった。
福島県放射線監視室は、取材に対し「今後も測定を継続し、結果を注視していく」と話す。ホームページ上でも「今般のダストについて組成成分の詳細調査を実施するほか、林野庁等が動態調査の実施に向けた調整を進めており、これらの調査結果や専門家の意見も参考にしながら影響を評価してまいります」との文言が加えられた。発生から11日目にして、ようやく本来の対応に近づきつつある。
なお、空間線量率に大きな変動は見られない。

浪江町で最大瞬間風速が20メートルを超えた8日、「大気浮遊じん(ダスト)の測定結果」は上昇した。まだデータは少ないが、今のところ、風の強さと測定結果は比例している
【「正確な情報発信」とは何か】
現場の火勢は弱まったものの、依然として完全鎮火には至っていない。山林火災は現在進行形だ。完全鎮火が確認されたとしても、灰が風で舞う。長年、協力会社の幹部として原発に携わってきた浜通りの男性は「普段なら枝や葉が覆い尽くしてそんなに舞い上がるとは思えないが、これだけ広範囲で燃えてしまえばフタが取れたのと同じ。強い風が吹けば当然、二次拡散すると考えるのが自然だ。大げさでも何でも無い」と指摘する。
しかし、福島県庁は発生当初から「火災前と比較して大きな変動はありません」との発表に終始し、内堀雅雄知事も8日午前の定例会見で「既存のモニタリングポストによります環境放射線の監視に加えまして、5月1日から火災現場の周辺において空間線量率、そして大気浮遊じん(ダスト)など追加のモニタリングを行いまして、現在も継続して実施中であります。これまでの結果によりますと、火災発生前後と比較して既存モニタリングポストの測定値に大きな変化は見られておりません」などと語っている。
定例会見では、読売新聞の男性記者が紀伊民報(和歌山県田辺市)をやり玉にあげた。今月2日の夕刊コラム「水鉄砲」で浪江町の山林火災を取り上げ、「放射能汚染の激しい地域で山火事が起きると、高濃度の放射線物質が飛散し、被ばくの懸念がある」、「原子炉爆発から6年が過ぎても、収束がままならない事故のこれが現実だろう。政府も全国紙も、この現実にあまりにも鈍感過ぎるのではないか」などと書いた事に対し、直接的な表現は避けているものの福島県として抗議するべきだと迫った。
内堀知事は「県としてなすべき事は正確な情報発信だ」と述べ、コラムに関する対応への言及は避けたが、内堀知事の言う「正確な情報発信」とは「安全」を念頭に置いたものだろう。地元紙の福島民友も9日付の紙面で「正確な情報発信」、「空間線量、大きな変動なし」などの見出しを立てた。行政もメディアも2011年3月から進歩していない。コラムを掲載した紀伊民報社には抗議や取材が殺到。8日付の同コラムで「火災は8日目に鎮圧され、新たな拡散は心配するほどではなかったというのだ。そうなると、僕の不安は杞憂(きゆう)であり、それによって多くの方に心配をかけ、迷惑を与えたことになる。まことに申し訳ない」と陳謝したが、改めて次のように問題提起もしている。
「福島第1原発の事故で汚染され、そのまま放置された地域での山林火災への対応、常に放射性物質の飛散量に気を配って生活している人たちのこと、内部被ばくリスクなどについて考えると、いまも心配でならない。そうしたことについて政府の関心が低いように見えることにも変わりがない」

数値の上昇を受け、それまで放射性物質の二次拡散を完全否定していた福島県庁も「測定地点の周辺の土ぼこりや焼却灰の舞い上がりの影響も否定できません」と表現を改めざるを得なくなった=いずれも福島県のホームページより
【林野庁「森外へ飛散しない」】
まだデータが少ないが、今のところ「大気浮遊じん(ダスト)の測定結果」と風速はほぼ比例している。
浪江町・やすらぎ荘での測定では、6日の0.38mBq/㎥が現時点での最小値だが、この日の最大瞬間風速も5.7メートルで最も弱かった。測定結果が1.84mBq/㎥だった4日の最大瞬間風速は12.1メートルだった。今月に入って浪江町で観測された降雨はわずか0.5ミリ(1日)。乾燥続きに加えて強い風が吹けば、今後も放射性物質の二次拡散が懸念される。
林野庁は2016年10月発行のパンフレット「Q&A 森林・林業と放射性物質の現状と今後」の中で山林火災に触れ「原発事故後に発生した林野火災現場で空間線量率などを測定したところ、森林から外への飛散は確認されていません」、「森林から生活圏へ放射性セシウムが流出する危険性は低いと判断されます」と結論付けているが、今回の山林火災に関する調査によっても「安心」をアピールするのか、注目したい。結論の根拠となった伊達市や南相馬市での調査結果に関して国立研究開発法人森林総合研究所に問い合わせているが、9日夜までに回答を得られていない。
伊達市でも、汚染の高い霊山町下小国の竹やぶから出火。50アールを焼いた。火災による放射性物質の二次拡散は、何も避難指示区域固有の課題では無い。「大げさ」、「考えすぎ」、「風評」などと言わず、予防原則に立って対応するのが行政のあるべき姿ではないか。残念だが、それが原発事故の1つの現実だと言わざるを得ない。しかし、福島県はホームページ上の次の文言は変えないままだ。
「現在、周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」
(了)
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