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【ふるさとを返せ 津島原発訴訟】涙の更新弁論。「金じゃない。帰還困難区域も除染して津島を元に戻して」。国や東電は全面的に争う構え~第7回口頭弁論

原発事故で帰還困難区域に指定された福島県浪江町津島地区の住民たちが国や東電に原状回復と完全賠償を求める「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の第7回口頭弁論が12日午後、福島地裁郡山支部303号法廷(佐々木健二裁判長)で開かれた。人事異動で裁判長が交代したため原告、被告双方がこれまでの主張を整理する「更新弁論」が行われたが、男女1人ずつの原告が涙ながらに原発事故で奪われた物の重さ、大きさを訴え、ふるさとの回復を求めたのに対し、国、東電ともに全面的に争う姿勢を改めて示した。次回期日は7月14日14時。


【「津島に帰してください」】
 手で拭っても拭っても涙は止まらなかった。
 「あなた達は事の重大性を本当に感じていますか」
 三瓶春江さん(57)の意見陳述には悔しさが凝縮されていた。
 あの時、津島の住民には放射性物質の拡散は伝えられなかった。最も汚染の高かった数日間を津島で過ごしていた事を後になって知る。「なぜ避難指示を出さなかったのですか。そこには小さな子どもたちもいたんですよ」。被告席の代理人弁護士に目を遣り、こらえきれなくなって下を向いて泣いた。そしてもう一度、被告席を見ながらこう言った。
 「私たちが求めているのはお金なんかじゃありません。ただ、ふるさと津島に帰りたいだけです」
 当然の願いはしかし、事故発生から6年経っても叶わない。除染のめどすら立たない。降り注いだ放射性物質は放置され、家族が去った自宅は朽ち果てて行く。「先祖代々、大切に受け継いできたお城」は今や天井や床が抜け落ち、畳には真っ黒なカビ。ネズミの糞が広がるわが家に土足であがる哀しさ。「汚した張本人が何もしない。だから被害者が『帰れるように除染をして元に戻してください』とお願いしている。これっておかしくないですか」。
 口頭弁論期日には決まって、原告団で郡山駅前でのアピール行動と裁判所周辺のデモ行進を行う。だが夫は「うるせえ、早く帰れ」と罵声を浴びた。娘も「あんなに金をもらっておきながら、まだ金が欲しいのか」と怒鳴られた。避難先で、津島から移り住んできた事を隠しながら生活する日々。「怖いからです。なぜ被害者が周囲に気を遣いながら生活をしなければならないのでしょうか」。
 〝原発避難者いじめ〟が取り沙汰されるたびに、3人の孫を想うと胸が痛む。実際、仲間の原告の家族には、学校に通えなくなってしまったり、体操着で雑巾がけを強要されたりした子どももいる。「いつになったら、私たちは原発避難者でなくなるのでしょうか」。地域全体で子どもたちを見守っていた津島は、もう無い。涙があふれる。傍聴席にもすすり泣きが広がっていた。
 ふるさとに帰れない。賠償金を受け取れば、まるで税金泥棒扱い。
 「この悔しさが分かりますか」
 止まる事無くあふれる涙を拭いながら、最後まではっきりとした声で訴えた。
 「私たちをふるさと津島に帰してください」
 金銭では償えない原発事故の罪の重さが法廷に広がった。




「更新弁論」で大粒の涙を流しながら意見陳述を行った三瓶春江さん。開廷前のデモ行進では、住み慣れたふるさと津島に帰りたい一心で拳を振り上げる。「私たちが求めているのはお金なんかじゃありません。ただ、ふるさと津島に帰りたいだけです」

【「金目が目当てでは無い」】
 原告団長の今野秀則さん(69)も意見陳述に立った。
 背筋を伸ばし、大きな声で原発事故の理不尽さを訴える。「住民はふるさとを追われ、文字通り福島県内外にバラバラに避難を強いられてしまいました。果たして帰れるのかさえ分からないまま、避難生活を続けざるを得ない状況にあります」。
 家も田畑も荒れ放題。ネズミやイノシシ、ハクビシン、サルなどが行き交う。「特にイノシシに入り込まれた家は見る影も無いほど荒らされ、悲惨の極みです。泥棒の被害も少なくありません」。一時立ち入りの回数は、月1回から年30回に増えた。しかし、限られた時間でわが家や田畑を保全管理するのは難しい。荒廃が進む様子を見るたびに「茫然自失するしかありません」。
 ふるさとには豊かな自然に加えて伝統、文化、民俗、芸能、交流、絆があった。それらの上に平穏な日常が成り立っていた。「ふるさとは代替え不可能な場所なのです」。春は山菜の季節。ゼンマイやワラビ、コゴミ、フキ、タラノメ、コシアブラなどが豊富に採れる。近所におすそ分けする楽しみもあった。それらを全て奪ったのが原発事故だった。「これほどの理不尽、不条理はありません」。
 先の見えない避難生活。〝仮の住まい〟で募るふるさとへの想い。帰りたい。それは胸をかきむしられるほどの苦痛だ。「東京に避難している方が、ふと思い出したように定期的に電話をくれます。私の声が聴きたい。ふるさとに、自分の家に帰りたいと切ないほどに訴えますが、私にはどうしようもありません。元気でいてくださいと励ますのが精一杯です」。
 津島には8つの行政区がある。区長会で話し合って定期的に空間線量を測っているが、依然として0.5~20μSv/hと高い数値が計測される。「このまま除染せずに放置されれば私たちは廃村・棄民を強いられ、ふるさとを失いかねません」。なんとしてもふるさとを取り戻したい。だから提訴に踏み切った。「決して金目が目当てではありません。ふるさとがよごされたままに放置されず以前の環境を取り戻したい、ふるさとでの平穏な生活を取り戻したい。その一念だけが私たちの拠り所なのです」。
 2016年5月の時点で、避難先で亡くなった原告は10人にのぼるという。「皆一様に、ふるさとに帰りたい想いを抱きながら無念の想いで亡くなりました。その痛切な想いを分かっていただきたい」。
 佐々木健二裁判長は、2人の顔をじっと見つめながら意見陳述を聴いていた。時折、うんうんとうなずく場面もあった。




(上)原告団長として改めて意見陳述した今野秀則さん。郡山駅前でのアピール行動ではマイクを握って道行く人々に帰還困難区域の現状を訴えた
(下)法廷でも紹介された浪江町・津島地区の写真。人のいなくなった道路を野生のサルの群れが〝占拠〟している。イノシシやカモシカによる被害も深刻だ

【「予見不可能」「賠償果たした」】
 休憩をはさんで2時間を超えた更新弁論。原告側は6人の代理人弁護士が津波予見性や原発事故回避の可能性、賠償請求の合理性を主張した。写真や動画を使って原発事故後の津島地区の状況を説明した河景浩弁護士は「カビや糞のにおいや被曝への不安は写真や動画では伝わらない」として、裁判官による現地検証を求めた。
 一方、被告・国の代理人弁護士は「原告の訴えは全て不適法」として全面的に争う構え。テレビ画面に資料を映し出しながら「原発敷地高を超えるような津波を予見する事は出来なかった」、「2008年試算を基に防潮堤を設置していたとしても、2011年3月の大津波は防げなかったとするシミュレーションを得た」、「仮に津波を予見出来ていたとしても、原発事故は回避出来なかった」、「経産大臣に規制権限は無く、国家賠償法上の違法性は無い」などと主張した。
 被告・東電の代理人弁護士も「原子力損害賠償紛争審査会のまとめた中間指針(追補も含む「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」)は合理性、相当性を有している」、「原発事故当時、帰還困難区域に住んでいた人々に対しては、中間指針に従って既に1人あたり1450万円の精神的損害賠償を行っている。これには年齢を問わない」、「精神的損害賠償額は、過去の地すべり事故などの例と比べても被害者に寄り添った金額が提示されている」などとして「原告の請求に理由は無い」と改めて争う姿勢を示した。今年4月21日現在、東電が支払った賠償額は7兆2340億円に達しているという。
 何年かかっても原状回復を果たしたい住民。ふるさと喪失は金銭に換算できないが、最終的には損害賠償を求めるしか手段が無い。一方、国は想定外の原発事故だった事を繰り返し主張し、東電も既に十分な賠償を果たしていると反論する。平行線の争いを、東京地裁から新たに赴任した佐々木健二裁判長はどう裁くのか。次回期日は7月14日14時。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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