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【南相馬訴訟】「20mSvで指定解除するな」~議論避ける国「書面出揃ったら書面で反論」。往復10時間、30分で閉廷。徒労感増す原告「何のための法廷か」

空間線量が年20mSvを下回ったことを理由に「特定避難勧奨地点」の指定を一方的に解除したのは違法だとして、福島県南相馬市の住民808人が国を相手取り、指定解除の取り消しなどを求めて起こした行政訴訟の第7回口頭弁論が18日午後、東京地裁103号法廷(谷口豊裁判長)で開かれた。原告側は議論の肝となる旧・原子力安全委員会の意見について国側の考えを質したが、代理人弁護士は「書面で反論する」と答えるばかりで議論の土俵に上がらず、わずか30分で閉廷した。往復10時間かけて駆け付けた原告たちの徒労感は増すばかりだ。次回期日は7月20日14時。


【「土壌汚染、無視するな」】
 法廷は何のためにあるのか。書面を取り交わすだけの場なのか。福島県南相馬市からマイクロバスで千代田区霞が関の東京地裁に駆け付けた原告たち。往復10時間かけてやって来た末に議論すらしてもらえないのでは、法廷に怒りのこもったため息が広がるのも無理は無い。原告代理人の福田健治弁護士が国側の提出した準備書面の趣旨や言葉遣いの真意、論点について質したが、国側の代理人弁護士はマイク越しでも聞き取れないほど小さな声で「原告からの書面が出揃った段階で文書で反論する」と早口で答えるばかり。薄ら笑いすら浮かべていた。この日の口頭弁論はわずか30分で終了した。
 「裁判だ何だでもそこのところはやればいいじゃない」と言い放ったのは今村雅弘前復興大臣だが、これが裁判の現実だ。お金も体力も気力も消耗していく。閉廷後、参議院会館で開かれた報告集会で、マイクを握った福田弁護士は「原告の皆さんは何のために、毎回5時間もかけて南相馬からマイクロバスで駆け付けていると思っているんだ。往復なら10時間もかけている。議論しないのであれば、あんな場(法廷)など必要無い。説明責任を果たしたくない、議論したくないというこれまでの国の姿勢を象徴するシーンだった」と怒りをあらわにした。
 原告団の菅野秀一団長は、経産省前でのアピール行動で「国は空間線量ばかり言っているが、汚染の度合い、土壌汚染はどうなんだ。無視しているではないか」と語気を強めた。原告は今年1月の口頭弁論期日で、全196地点中、放射線管理区域の基準となる1平方メートルあたり4万ベクレルを下回ったのはわずか2地点のみだった事が独自調査で分かったと主張した。約25%の地点で1平方メートルあたり40万ベクレルを上回り、100万ベクレルを上回る地点も複数確認された。国はなぜ土壌汚染を判断材料に加えないのか。国側からの反論は数カ月待ってようやく文書で出される。あと何年闘えば良いのか。あと何回、こうして東京まで出向けば良いのか。原告たちの怒りは当然だ。




原告たちは口頭弁論期日のたびにマイクロバスを借りて片道5時間かけて南相馬市から東京地裁にかけつける。この日も開廷前に経産省や東京地裁前でアピール行動を展開。どしゃ降りの雨が降ったが「年20mSvは高すぎる」と訴えた

【無かった「住民関与の枠組み」】
 福田健治弁護士が法廷で問題視したのは、旧・原子力安全委員会(現・原子力規制委員会)が2011年8月4日に原子力災害対策本部長宛てに提出した「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故における緊急防護措置の解除に関する考え方について」という文書。原子力災害対策特別措置法第20条第5項に基づいて意見を求められた事に対する回答で、原発事故後の「各種の緊急防護措置(避難、屋内退避等の、緊急時等に実施すべき放射線防護のための措置)の解除に当たっては、以下の条件を満たすことが基本になるものと考える」として次の3点を挙げている。
 ①緊急防護措置の目的を踏まえ、当該措置を継続する必要性、正当性が無いと判断されること。具体的には、当該措置が設定された際の基準、又は当該措置を解除する際の状況を踏まえて策定される新たな基準を下回ることが確実であること
 ② 緊急防護措置の解除に当たって行うべき新たな防護措置の実施時期、方法、内容等を定め、必要な準備を行った上で、適切に解除すること
 ③緊急防護措置を解除し、適切な管理や除染・改善措置等の新たな防護措置の計画を立案する際には、関連する地元の自治体・住民等が関与できる枠組みを構築し、適切に運用すること
 指定解除後も続く土壌汚染。結論ありきの住民説明会。まさに原告の訴えの根幹となる部分だが「住民が関与出来る枠組みをつくってくださいと明確に書いてある。しかし、最近になって急に国は『これは特定避難勧奨地点の指定解除とは関係無い。無視しても構わなかったんだ』と準備書面で言うようになった」と福田弁護士は解説する。裁判所側もこの日の法廷で「ここが議論の柱になると思います」との認識を示した。だからこそ、きちんと法廷で議論が尽くされるべきだが、国側の代理人弁護士は議論の土俵にすら上がらなかった。




どれだけ拳を振り上げても、どれだけ大きな声で訴えても国は聞く耳を持とうとしない。2016年1月に提出された準備書面でも、国は年20mSvを下回った事を理由に特定避難勧奨地点の指定を解除した事は「妥当であることは明らか」と反論している

【「我々の二の舞にしたくない」】
 原告の1人は言う。
 「もはや天からの恵みを採って食べたりして楽しむ事が出来なくなってしまった。別に賠償金が欲しいから裁判を起こしているわけでは無い。全国の他の地域で我々の二の舞にならないようにしたいんだ。国はぜひ、厳しい基準で国民を守って欲しい」
 この日の法廷では、福田弁護士がパソコンの画面を壁面に映し出しながら、年20mSvという基準があまりにも高すぎる事、2011年12月22日にまとめられた「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」が、低い放射線量であっても健康への影響が認められるとする近年の科学的知見を反映していない事、喫煙や肥満、野菜不足の健康リスクと、本人には何ら責任の無い被曝のリスクとを比較するのは不適切である事、などについて主張した。
 一般公衆の追加被曝線量は年1mSvとされているのに、なぜ福島県民だけが20倍の年20mSvまで受忍させられなければならないのか。ごく当たり前の訴えが起こされたのが2015年4月。既に2年が経過した。原告側は今後、低線量被曝の健康に与える影響についてさらに主張していくが、国側の姿勢がこれでは、原告たちの徒労感は増すばかりだ。
 しかも、2013年4月に名古屋地裁から東京地裁に異動した谷口裁判長が7月の人事異動で交代する可能性があるという。福田弁護士は「雰囲気が良い方向に代われば良いが…」と動向を注目する。6月下旬の進行協議をはさんで、次回期日は7月20日。往復10時間のバス移動が無駄にならないよう、充実した議論の展開を原告は願っている。



(了)


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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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