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【子ども脱被ばく裁判】弁護団「土壌汚染を無視するな」「SPEEDI活用すべきだった」。男性原告は「子を守るのが悪いか」と怒りの意見陳述~第10回口頭弁論

福島県内の子どもたちが安全な地域で教育を受ける権利の確認を求め、原発の爆発事故後、国や福島県などの無策によって無用な被曝を強いられたことへの損害賠償を求める「子ども脱被ばく裁判」の第10回口頭弁論が24日午後、福島県福島市の福島地裁203号法廷(金澤秀樹裁判長)で開かれた。原告側代理人弁護士らが文科省の「年20mSv通知」の問題点やSPEEDI情報を活用しなかった国の不作為、土壌汚染や内部被曝を考慮せず空間線量だけで被曝リスクを判断している国や自治体の姿勢について主張・批判したほか、男性原告の意見陳述が代読された。次回期日は8月8日14時半。


【「集団疎開させるべきだった」】
 「親が、子供の心配して何が悪い!!」(原文ママ)
 福島市在住の男性原告は意見陳述で怒りを爆発させた。
 息子の被曝を心配すると、周囲から「左翼だったっけ?」、「プロ市民やってんの?」、「神経質で心配しすぎ」などと言われる。しかし、被曝リスクを意識するだけの理由が男性にはあった。
 原発事故後から、男性も息子も頻繁に鼻血を出した。2011年の夏に初めて北海道での保養プログラムに参加したが、そこから鼻血が出なくなった。夏休みや冬休みなどに欠かさず保養に出かけているが、その間は目の下のクマが消える。福島に戻って来ると、数日間、頭痛を訴える。2014年と2015年には息子の尿も調べたが、保養に出かける直前の尿からは放射性セシウムが検出されたが、約1カ月間の保養を終えて福島に戻る直前の尿からは検出されなかった。「子どもが福島で生活することのリスクを思い知らされました」。
 本当は、今からでも被曝リスクの低い地域へ移住したい。しかし、医療系の自営業のため患者を〝捨てて〟行く事になってしまう。借金もある。せめて息子だけでも、と考えるが、中学校に進学したばかりの息子は発達障害で精神的に安定せず、独りで移住させる事も出来ない。一家全員での移住となると、妻も仕事を続けられなくなる。「原発事故直後、国や自治体は半径80km以内の住民を集団疎開させるべきだった」。しかし、国も行政も住民避難に消極的だった。「ヒ素の混入した水を飲ませ続けて『健康には直ちに影響はない』と言っているのと同じだ」。男性が強い表現で国や行政の不作為を批判した。
 息子の事で毎日のように学校から呼び出されるため、いつでも学校に駆け付けられるようにしている日々。この日も直前まで法廷で立とうとしたが叶わず、他の男性原告が代読した。2011年4月19日に文科省が福島県教育委員会に出した「年20mSv通知」への怒りや、甲状腺検査を中心とした県民健康調査への不信感、窓も雨戸も閉め切り室内でもマスクをしていた日々…。それらを代読した同じように子を持つ男性に託した。託された男性は直立不動で読み上げた。
 「被曝から子どもたちの健康を守ってください」
 わが子を守りたいというのは〝左翼〟でも〝プロ市民〟でもなく父親としての切なる願い。あふれる涙を拭いながら代読を終えた。




(上)男性原告は意見陳述で怒りを爆発させた。「親が、子供の心配して何が悪い!!」
(下)井戸謙一弁護団長は、この日の口頭弁論で「空間線量だけで被曝リスクを考えるのは間違いだ」と土壌汚染を無視する国の姿勢を批判。「内部被曝の危険性について主張を展開した

【欠陥だらけの「年20mSv通知」】
 この日の口頭弁論では、原告側弁護団から5人の弁護士が陳述し、提出した準備書面の補足説明を行った。
 崔信義弁護士と田辺保雄弁護士は、原発事故から約1カ月後の2011年4月19日、文科省が福島県教育委員会などに出した「20mSv通知」(「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」)に関し、「日本の法制度に採り入れられているのはICRPの1990年勧告であって日本の法制度上、公衆の被曝線量はあくまでも年1mSvだ」、「通知には事実上の強制力があった」、「原子力安全委員会の助言を無視し、地域住民の意見も聴かず、空間線量しか考慮していない。経口・吸入被曝が無視されているのは致命的欠陥」などと主張した。
 SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)について陳述した古川健三弁護士は、2009年に実施された総務省による原子力の防災業務に関する行政評価で既にSPEEDIを住民避難に活用するよう指摘されていた事、2011年6月に開かれたIAEA閣僚会議に提出した日本政府の報告書の中で、SPEEDI情報について「当初段階より公開すべきだった」、「避難の参考情報として活用すべきだった」という記載が随所に見られる事、気象学会が「予測計算を用いた避難を行うべき」などと提言している事などを挙げ、「SPEEDI情報を開示したら混乱が生じるという国の主張は全く根拠が無く不当だ」と批判した。
 弁護団長の井戸謙一弁護士は、詳細な土壌汚染調査こそ本来は国が行うべきだと指摘。「土壌に含まれる放射性微粒子が風で再浮遊し、それを空気と一緒に体内に取り込んでしまう」と内部被曝の危険性について述べた。「約2ミクロンの『セシウムボール』に約20億個のセシウム原子が含まれていると考えられている。1個のセシウムボールを取り込むだけで十分にガンの原因となり得る。空間線量だけで被曝リスクを考えるのは間違いで、土壌汚染のリスクを重視するべきだ」。
 また、2012年の環境基本法改正で放射性物質も同法の規制対象になったにもかかわらず、規制基準も環境基準も設けられていない事に関し「政府のサボタージュだ」と批判。さらに「学校環境衛生基準」にも放射性物質に関する定めがない事にも触れ「1975年5月13日に原子力委員会が原発周辺住民の被曝線量目標値として掲げた『放射性希ガスからのガンマ線による全身被曝線量(生殖腺又は造血臓器の線量当量)の評価値及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量の評価値の合計値について年間5ミリレム(50μSv)』が環境基準としてふさわしい」と主張した。




(上)「ひだんれん」の武藤類子さん(右)と共に福島県県民健康調査課に要請書を提出した「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表の片岡輝美さん(左)。「甲状腺検査で、これまでに二次検査で経過観察とされた子どもたちの中で、その後に小児甲状腺がんと判明した人数を明らかにすること」などを求めた
(下)県民健康調査課は会議室を用意する事も無く県庁2階のロビーで文書を受け取った。片岡さんたちは文書による回答を求めたが回答は無いという。

【伏せられた4歳児の甲状腺ガン】
 原告や支援者らでつくる「子ども脱被ばく裁判の会」は今月9日、「ひだんれん」(原発事故被害者団体連絡会)と共に「県民健康調査・甲状腺検査のあり方に関する要請書」を福島県に提出した。
 共同代表の片岡輝美さんが提出した要請書では「福島原発事故当時4歳の児童から小児甲状腺がんが発見されながらも、その児童が、県民健康調査で公表されている『甲状腺がんないしその疑い』の数に反映されていないことが分かりました」として、「甲状腺検査で、これまでに二次検査で経過観察とされた子どもたちの中で、その後に小児甲状腺がんと判明した人数を明らかにするとともに、今後は、二次検査で経過観察とされた子どもたちの中で、その後に小児甲状腺がんと判明した場合にも必ず公表するよう、ルールを変更してください」などと求めた。
 経過観察中に悪性腫瘍が発見された症例が県民健康調査のデータにカウントされなかった事について、柳原敏夫弁護士は法廷で「小児甲状腺ガンに関する福島県民の健康状態を正確に把握し、健康被害と放射能の関係について正しく評価する事が困難となる。その結果、被曝による健康被害に対する救済を正しく決定することも難しくなる」と指摘。「NPO法人3・11甲状腺がん子ども基金によると、男の子は2015年に細胞診で悪性と診断されて福島県立医大で甲状腺摘出手術を終えた。にもかかわらず、県民健康調査検討委員会は昨年3月に『中間とりまとめ』を公表し、『小児甲状腺ガンの多発は放射線の影響とは考えにくい』と結論付けた。その理由の一つとして、原発事故当時5歳以下の子どもで小児甲状腺ガンになった子どもはいない事を挙げていた。しかし現実には、当時5歳以下だった子どもにも甲状腺ガンはあった」と批判した。
 前回期日で国の「原子力緊急事態宣言」に関し、いつ、どのような方法で公示されたか、「緊急事態応急対策を実施すべき区域」や「原子力緊急事態の概要」など原告側が国に釈明を求めていたが、国側の代理人弁護士は「回答の必要性は無い」と回答。井戸弁護士は閉廷後「あくまで推測だが、国は法律上の手続きをとっていないのではないか」と語った。また、福島市の学校給食に関しては、2011年4月11日に再開されたものの、当時は検査機器が市内に無かったため、500Bq/kg以上の食品は流通していないという前提で市場に流通している食材を調達していた事が書面で示されたという(福島市は2011年11月に学校給食の食材検査を開始)。



(了)
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鈴木博喜

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