【山林火災と放射性物質】やはり二次拡散あった。「ちくりん舎」のリネン分析。大熊町で124mBq/㎡、南相馬市では3倍に上昇。「空間線量一辺倒やめよ」
- 2017/06/05
- 06:35
福島県浪江町の帰還困難区域で4月29日から5月10日まで燃え続けた「十万山」の山林火災で、放射性物質が二次拡散していた事がNPO法人市民放射能監視センター「ちくりん舎」(東京都西多摩郡)の「リネン吸着法調査」で分かった。福島県は、空間線量に変動が無い事を理由に火災発生直後から放射性物質の飛散は一切ないとの姿勢を貫いており、地元紙も二次拡散への懸念を「デマ」と批判していた。しかし、「ちくりん舎」副理事長の青木一政さんは「空間線量一辺倒の態度を改め、汚染濃度を評価の基準にするべきだ」と指摘している。
【「少なくとも17km飛散」】
青木さんが4日に都内で発表した測定結果によると、火災発生後の5月1日以降、南相馬市の市民団体「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」の小澤洋一さんたちの協力を得て、リネン(麻の布)を大熊町の三ツ森山入口、葛尾村の手倉山、高瀬渓谷、南相馬市原町区の住宅などに設置。回収したリネンをゲルマニウム半導体測定機にかけ、1平方メートルあたりどのくらいの濃度の放射性物質が吸着したかを1時間単位で表した。
以前から継続測定しているデータも含めて結果を比較・分析したところ、三ツ森山入口のリネンから124.95mBq/㎡の放射性セシウムが検出された(134、137の合算)ほか、手倉山では11.855mBq/㎡、高瀬渓谷でも9.11mBq/㎡だった。継続測定している南相馬市原町区では、2016年7~11月の測定結果との比較で3.4倍に相当する7.47mBq/㎡。浪江町内にある「希望の牧場」でも、出火前の1.8倍にあたる5.46mBq/㎡だった。
これを受け、青木さんは「燃焼によるエアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子)や、火災上昇気流により舞い上げられる灰や粉じんなど、放射性物質の二次拡散は否定できない。今回の調査では、放射性物質の飛散は少なくとも十万山から北に約17km離れた南相馬市原町区、西に約14kmの田村市都路や葛尾村にまで達していた事が確認出来た。実際にはさらに広範囲に及んでいると推測される」とした上で、「山林火災による放射性物質の二次拡散は空間線量率では評価出来ず、大気中粉じんに含まれる放射性物質を測らなければならない」と国や福島県の調査や情報発信を批判している。
「山林火災をはじめとする放射能汚染実態の評価において、国や行政は空間線量一辺倒の態度を改めるべきだ」

「ちくりん舎」のリネン吸着法調査では、十万山から約17km離れた南相馬市原町区の放射性セシウム濃度は約3倍に上昇。浪江町にある「希望の牧場」でも1.8倍に上がった=青木さんの発表資料より
【「微粒子は排泄されにくい」】
実際、福島県が発表していたモニタリングポストの数値を見ると、十万山登山道入り口の空間線量は1.05μSv/h~1.45μSv/hと大きく変動しなかった。そのため、この数値だけを見れば山林火災による影響は小さいように見える。しかし、一方で「大気浮遊じん(ダスト)の測定結果」は浪江町の「やすらぎ荘」で5月11日に3.64mBq/㎥、大熊町の石熊公民館では5月12日に29.06mBq/㎥を計測した( 福島県放射線監視室の発表 )。
気象庁のデータによると、浪江町では5月1日から12日までほとんど雨が降らず乾燥しており、8日には20.3メートルの最大瞬間風速を記録。10日から12日にかけても最大瞬間風速が10メートルを超える状態が続いた。しかし、モニタリングポストの数値は上昇していない。そのため、福島県はホームページ上で放射性物質の二次拡散を否定する文言を使い続け、広報課に至っては、出火から4日しか経っていない5月2日の時点で「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」と言い切ってしまっていた。
青木さんたちは、放射性物質を吸い込む事による内部被曝の健康影響を重視。「1マイクロメートル(0.001ミリメートル)程度の細かい粒子ほど灰の奥に到達して排泄されにくい」として、空間線量だけでなく大気浮遊じんの測定も併せて慎重に影響を評価するよう求めている。「ちくりん舎」の測定は十数日間に吸着した放射性物質を1時間あたりに平均化している。そのため、青木さんは「瞬間的な高濃度のプルーム(放射能雲)は平均化されて見えなくなる可能性がある」と指摘。県の測定は数時間のため、さらに高濃度の飛散をキャッチ出来ていない可能性がある。予防原則に立って、安易に「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」などと断言するべきでは無かったのだ。
放射性微粒子の健康影響については、井戸謙一弁護士も5月24日に開かれた「子ども脱被ばく裁判」の口頭弁論( http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-162.html )で、「土壌に含まれる放射性微粒子が風で再浮遊し、それを空気と一緒に体内に取り込んでしまう」、「約2マイクロメートルの『セシウムボール』に約20億個のセシウム原子が含まれていると考えられている。1個のセシウムボールを取り込むだけで十分にガンの原因となり得る。空間線量だけで被曝リスクを考えるのは間違いで、土壌汚染のリスクを重視するべきだ」などと危険性を陳述している。


(上)「ちくりん舎」は「空間線量では、空気中の粉塵に含まれる放射性物質の微粒子の存在は確認出来ない」と指摘する
(下)しかし福島県は、空間線量に変動が無い事を理由に「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」と5月2日の時点で言い切ってしまった
【国の調査、間もなく公表】
十万山の山林火災を巡っては、林野庁を中心とする調査チームが5月17日と18日に現地入り。間もなく結果が公表される見通しだが、ここでも空間線量の測定が中心。立木の樹皮に含まれる放射性物質の濃度を燃えた部分と燃えていない部分との比較などは調べるが、大気中への飛散の有無については調べない。林野庁は「火災現場が国有林のため、焼失被害の程度を確認するのが主になる」と認めている。参考データとはなり得るが、二次拡散が無かったと言い切るだけの材料にはなりにくい。
また福島県も放射線監視室を中心として、JAEA(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)、国立研究開発法人国立環境研究所福島支部(三春町)と山林火災による環境への影響の有無を調べるという。浪江町では山林火災後に5月に99ミリ、今月に入って42.5ミリの雨が降っており「土砂流出による放射性物質の拡散が無いかも調べる」(放射線監視室)。
内堀雅雄知事も5月8日に開かれた記者クラブとの定例会見で「県としてなすべきことは、正確な情報発信に尽きる」、「いろいろな御意見や不安等があろうかと思いますが、福島県としてなすべきことは、正確な情報を広く、分かりやすく発信していくこと、これが大切だ」などと述べているが、一方で「火災発生前後と比較して既存モニタリングポストの測定値に大きな変化は見られません」と語るなど、内堀知事の言う「正確な情報発信」が「安全」側に立ったものである事が伺える。
「ちくりん舎」の調査では、山林火災によって放射性微粒子が広く飛散した可能性が浮き彫りになった。本来は国や行政が行うべき調査。放射性物質による森林汚染の文献はいくつかあるが、どれも通常の状態での二次拡散について言及しているだけで、山林火災による影響は「分からない」のが実情だ。実際、野焼きを希望する飯舘村の農家に対し、国は「野焼きによってどの程度、放射性物質が飛散するか分かっていない」として自粛を求めている。
大げさであっても、行政は健康に影響が生じる可能性があるとの前提で動くべきだという事は、6年前に学んだはずだ。
(了)
【「少なくとも17km飛散」】
青木さんが4日に都内で発表した測定結果によると、火災発生後の5月1日以降、南相馬市の市民団体「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」の小澤洋一さんたちの協力を得て、リネン(麻の布)を大熊町の三ツ森山入口、葛尾村の手倉山、高瀬渓谷、南相馬市原町区の住宅などに設置。回収したリネンをゲルマニウム半導体測定機にかけ、1平方メートルあたりどのくらいの濃度の放射性物質が吸着したかを1時間単位で表した。
以前から継続測定しているデータも含めて結果を比較・分析したところ、三ツ森山入口のリネンから124.95mBq/㎡の放射性セシウムが検出された(134、137の合算)ほか、手倉山では11.855mBq/㎡、高瀬渓谷でも9.11mBq/㎡だった。継続測定している南相馬市原町区では、2016年7~11月の測定結果との比較で3.4倍に相当する7.47mBq/㎡。浪江町内にある「希望の牧場」でも、出火前の1.8倍にあたる5.46mBq/㎡だった。
これを受け、青木さんは「燃焼によるエアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子)や、火災上昇気流により舞い上げられる灰や粉じんなど、放射性物質の二次拡散は否定できない。今回の調査では、放射性物質の飛散は少なくとも十万山から北に約17km離れた南相馬市原町区、西に約14kmの田村市都路や葛尾村にまで達していた事が確認出来た。実際にはさらに広範囲に及んでいると推測される」とした上で、「山林火災による放射性物質の二次拡散は空間線量率では評価出来ず、大気中粉じんに含まれる放射性物質を測らなければならない」と国や福島県の調査や情報発信を批判している。
「山林火災をはじめとする放射能汚染実態の評価において、国や行政は空間線量一辺倒の態度を改めるべきだ」

「ちくりん舎」のリネン吸着法調査では、十万山から約17km離れた南相馬市原町区の放射性セシウム濃度は約3倍に上昇。浪江町にある「希望の牧場」でも1.8倍に上がった=青木さんの発表資料より
【「微粒子は排泄されにくい」】
実際、福島県が発表していたモニタリングポストの数値を見ると、十万山登山道入り口の空間線量は1.05μSv/h~1.45μSv/hと大きく変動しなかった。そのため、この数値だけを見れば山林火災による影響は小さいように見える。しかし、一方で「大気浮遊じん(ダスト)の測定結果」は浪江町の「やすらぎ荘」で5月11日に3.64mBq/㎥、大熊町の石熊公民館では5月12日に29.06mBq/㎥を計測した( 福島県放射線監視室の発表 )。
気象庁のデータによると、浪江町では5月1日から12日までほとんど雨が降らず乾燥しており、8日には20.3メートルの最大瞬間風速を記録。10日から12日にかけても最大瞬間風速が10メートルを超える状態が続いた。しかし、モニタリングポストの数値は上昇していない。そのため、福島県はホームページ上で放射性物質の二次拡散を否定する文言を使い続け、広報課に至っては、出火から4日しか経っていない5月2日の時点で「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」と言い切ってしまっていた。
青木さんたちは、放射性物質を吸い込む事による内部被曝の健康影響を重視。「1マイクロメートル(0.001ミリメートル)程度の細かい粒子ほど灰の奥に到達して排泄されにくい」として、空間線量だけでなく大気浮遊じんの測定も併せて慎重に影響を評価するよう求めている。「ちくりん舎」の測定は十数日間に吸着した放射性物質を1時間あたりに平均化している。そのため、青木さんは「瞬間的な高濃度のプルーム(放射能雲)は平均化されて見えなくなる可能性がある」と指摘。県の測定は数時間のため、さらに高濃度の飛散をキャッチ出来ていない可能性がある。予防原則に立って、安易に「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」などと断言するべきでは無かったのだ。
放射性微粒子の健康影響については、井戸謙一弁護士も5月24日に開かれた「子ども脱被ばく裁判」の口頭弁論( http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-162.html )で、「土壌に含まれる放射性微粒子が風で再浮遊し、それを空気と一緒に体内に取り込んでしまう」、「約2マイクロメートルの『セシウムボール』に約20億個のセシウム原子が含まれていると考えられている。1個のセシウムボールを取り込むだけで十分にガンの原因となり得る。空間線量だけで被曝リスクを考えるのは間違いで、土壌汚染のリスクを重視するべきだ」などと危険性を陳述している。


(上)「ちくりん舎」は「空間線量では、空気中の粉塵に含まれる放射性物質の微粒子の存在は確認出来ない」と指摘する
(下)しかし福島県は、空間線量に変動が無い事を理由に「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」と5月2日の時点で言い切ってしまった
【国の調査、間もなく公表】
十万山の山林火災を巡っては、林野庁を中心とする調査チームが5月17日と18日に現地入り。間もなく結果が公表される見通しだが、ここでも空間線量の測定が中心。立木の樹皮に含まれる放射性物質の濃度を燃えた部分と燃えていない部分との比較などは調べるが、大気中への飛散の有無については調べない。林野庁は「火災現場が国有林のため、焼失被害の程度を確認するのが主になる」と認めている。参考データとはなり得るが、二次拡散が無かったと言い切るだけの材料にはなりにくい。
また福島県も放射線監視室を中心として、JAEA(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)、国立研究開発法人国立環境研究所福島支部(三春町)と山林火災による環境への影響の有無を調べるという。浪江町では山林火災後に5月に99ミリ、今月に入って42.5ミリの雨が降っており「土砂流出による放射性物質の拡散が無いかも調べる」(放射線監視室)。
内堀雅雄知事も5月8日に開かれた記者クラブとの定例会見で「県としてなすべきことは、正確な情報発信に尽きる」、「いろいろな御意見や不安等があろうかと思いますが、福島県としてなすべきことは、正確な情報を広く、分かりやすく発信していくこと、これが大切だ」などと述べているが、一方で「火災発生前後と比較して既存モニタリングポストの測定値に大きな変化は見られません」と語るなど、内堀知事の言う「正確な情報発信」が「安全」側に立ったものである事が伺える。
「ちくりん舎」の調査では、山林火災によって放射性微粒子が広く飛散した可能性が浮き彫りになった。本来は国や行政が行うべき調査。放射性物質による森林汚染の文献はいくつかあるが、どれも通常の状態での二次拡散について言及しているだけで、山林火災による影響は「分からない」のが実情だ。実際、野焼きを希望する飯舘村の農家に対し、国は「野焼きによってどの程度、放射性物質が飛散するか分かっていない」として自粛を求めている。
大げさであっても、行政は健康に影響が生じる可能性があるとの前提で動くべきだという事は、6年前に学んだはずだ。
(了)
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