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【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】全否定される「心の痛手」。東電が書面で真っ向反論「客観的根拠に基づかない不安」「健康への具体的危険ない」

「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人(福島県福島市や郡山市、田村市などに在住)が原発事故で精神的損害を被ったとして、東電を相手に起こした損害賠償請求訴訟の第6回口頭弁論が6日午後、福島地方裁判所206号法廷(金澤秀樹裁判長)で行われた。被告側代理人弁護士は、準備書面で「原告らの不安は客観的根拠に基づかない」などと反論。被曝リスクについても「客観的かつ具体的な危険を生じさせるものではない」と全否定した。一刀両断された原告たちは怒りの声をあげる一方、数値化できぬ「心の痛手」をどう訴えて行くか、改めて策を練る。次回期日は9月13日14時。


【東電「生活に支障ない」】
 「東電からの反論を何度も読んだが、私たちを頭から馬鹿にしている」
 閉廷後に開かれた集会で、原告の女性は怒りをぶつけるように話した。5月26日付で被告・東電の代理人弁護士から提出された準備書面(5)は、原告たちの主張する「原発事故による精神的損害」を真っ向から否定する内容だったからだ。
 40ページに及ぶ準備書面は、冒頭から「自主的避難等対象区域の住民に対する低線量被ばくによるリスクは、他の健康リスクに隠れてしまうほど小さく、原告らの健康に対する客観的かつ具体的な危険を生じさせるものではない」と断言。
 「このような低線量被ばくの健康影響に関する科学的知見については本件事故直後より新聞報道や専門機関のホームページなどを通じて公表されて広く知られており、原告らの被ばくへの不安については、客観的な根拠に基づかない、漠然とした危惧感にとどまるものである」、「自主的避難等対象区域は政府による避難指示の対象となっていない区域であり、そこでの空間放射線量は避難を要する程度のものではなく、通常通りの生活を送るに支障のないものであり、時間の経過とともにさらに低減している実情にある」などと切り捨てている。
 さらに「政府による食物摂取に係る適切な規制がなされており、内部被ばくを防止するための取組みが行われている」、「本件事故後においても社会生活や事業活動等が行われている実情にある」、「自主的避難等対象区域において本件原発の状況に起因する具体的な危険が生じている状況にはない」などとして「放射線への不安を感じても、専門的・科学的な知識を得ることによって、その不安は解消される方向に向かうという性質の不安」、「客観的根拠に基づかない漠然とした不安感をも法的保護の対象とすることになりかねない」などと反論。損害賠償についても「中間指針追補等に基づく自主的避難等対象者に対する一人当たり8万円という精神的損害等の賠償額は………合理性がある」として退けている(原文ママ)。




閉廷後の集会で怒りの声をあげる原告たち。「私たちの被曝への不安は、そんなに合理的でないのか」などと口にした=福島市市民会館

【原告「汚染は均一でない」】
 東電側は、同時に提出した準備書面(4)で、原発事故当時原告たちが住んでいた福島市、伊達市、田村市、国見町、二本松市、郡山市について、原発事故後の状況を自治体ごとに細かく列挙。「政府による避難指示の対象になっていない」、「預託実効線量は健康に影響が及ぶ数値ではなかったとの検査結果が出ている」、除染はほぼ終了している」、避難者が人口に占める割合が低い」、「一般に本件事故後に居住継続し得ない客観的な状況にあると認識されていたとは認められない」などと、原告たちの主張する「被曝への懸念」がいかに〝特異な不安〟であるかを強調している。
 書面では観光客数や有効求人倍率、自動車保有台数、新設住宅着工戸数にも触れながら〝復興〟が進んでいると強調。「福島市では、本件事故後も伝統行事である『福島わらじまつり』が開催され、参加者が復興の願いを込めて祭りを盛り上げた」、「平成25年12月20日には、出荷再開となった『あんぽ柿』、国見町産の新米、りんごの販売を福島県の首都圏アンテナショップ『福島市場』で販売され、瞬く間に完売している」(原文ママ)、「郡山市では、平成23年6月28日及び29日において、郡山総合運動場開成山野球場において、プロ野球公式戦が行われ、2日間で2万8000人の観客が観戦に訪れている」など、被曝リスクの存在を否定する文言が並んでいる。
 モニタリングポストの数値が年々下がっている事、2016年4月1日現在の福島県外に避難した18歳未満の子どもの数と、2011年3月1日現在の18歳未満の子どもの人口を比較し、「福島県内のほとんどの子どもは自主的避難していない」事も原告の主張を否定する材料にしている。例えば福島市は「避難していない子どもの割合」が96.8%だとされているが、これには潜在的な放射線防護や避難、保養へのニーズは反映されていない。公的な避難の枠組みが構築されていれば避難したいと考える保護者は少なくない。「まるで安全なのに勝手に不安がって逃げたと言われているみたいだ」と原告の女性は憤る。
 空間線量についても「側溝の除染は終わっていない。測れば高い数値が出る所もある」、「放射能汚染は均一では無くまばら。全部を調べもせずに年20mSvを下回っているなどとどうして言えるのか」、「記載されている数値は各年4月1日の空間線量。事故直後の高い数値が意図的に外されている」などの反論が原告たちからあがった。


被告・東電の代理人弁護士が提出した準備書面。「福島県内のほとんどの子どもは自主的避難していない」事も、原告たちが主張する「被曝リスクへの不安」や「精神的損害」を真っ向から否定する材料になっている

【「何をどうやってもすれ違う」】
 閉廷後の集会で、原告の女性は吐き捨てるように言った。
 「私たちの被曝への不安は、そんなに合理的でないのか」
 別の男性原告も「低線量だから心配ない、という考え方が前提となっているが、そもそも原発事故前と比べて空間線量は3倍も5倍も高い。つまり原発事故以前より被ばくリスクが3倍も5倍も高まっている事が不安なんだ」と怒りを口にした。
 一方で、細かい数値を並べて反論してくる東電に対し「(私たちが)科学的知見に欠けている、客観的根拠に基づかない漠然とした不安でものを言っている、と全てがそう書かれている。『自己判断で念のため外出を控えている』とあるが、恐ろしくて恐ろしくて外出しなかった。自己判断で勝手に控えたのではない。数字で闘おうとしてもどだい無理。私たちがどんな報道に接しても、本当だろうか、違うんじゃないだろうかという想いがあるから、何をどうやってもすれ違う気がする」と、怒りともどかしさが複雑に絡み合った心境を口にする原告の女性も。
 野村吉太郎弁護士は「行政への不信感が全く顧みられていないし、客観的なデータなど到底出せないだろうと東電は安心し切っている」と話す。法廷で野村弁護士は「被告準備書面(5)は不透明さと矛盾に満ちた主張だ」と、原告の主張する、初期被曝による精神的損害が東電の言う「中間指針追補等に基づく賠償の対象」に含まれるのか否かを質問したが、東電の代理人弁護士は「ここに書いてある通り。文章を読んでいただければ分かる」として答えなかった。野村弁護士は何度も質したが、東電側は「記載してある通り」と言ったまま沈黙。金澤裁判長が「それ以上は返答しないという事なんですかね」と述べて原告席からは失笑が漏れた。木で鼻をくくったような姿勢で臨んでいる東電側に対し、数値化しにくい被曝リスクへの不安をいかに訴えていくか。原告たちは年明けにも予定されている原告本人尋問に向けて策を練っていく。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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