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【旧警戒区域の牛】浪江町の「希望の牧場」が「やまゆりファーム」を提訴。「預けた牛を置き去り」。被告側は引き取る意思示すも、行政上の手続き進まず

「被曝牛」の殺処分に反対して原発事故後も福島県浪江町で牛を飼育し続けている「希望の牧場・ふくしま」代表の吉澤正巳氏が、動物愛護団体「やまゆりファーム」(岡田久子代表=宮城県)から預かっている牛(楢葉町の牧場で飼育)を巡り、「終生飼養を放棄した」などとしてエサ代や労賃約890万円の支払いを求めて提訴。本人尋問が8日午後、東京地裁635号法廷(阿保賢祐裁判官)で開かれた。岡田氏側は牛の移動に必要な行政上の手続きを進めておらず、行政も戸惑い気味。双方の主張は平行線で、裁判所は和解案を提示したが成立しない見通し。8月の判決を待つ事になりそうだ。


【「移動の手続き知っているはず」】
 吉澤氏の主尋問では、牛の世話には費用も労力も要すると主張。旧警戒区域で飼育されていた牛の移動に関しては福島県への届け出など手続きが必要だが、岡田氏がそれを怠っているとも述べた。「牛は毎日エサを与えないと死んでしまう。日の出とともに起きて300kgから500kgある牧草ロールを重機を使って運び、与える。モヤシやリンゴジュースの搾りかすも与える。専属獣医師の給料や重機の燃料代、電気代もかかる。通常、これらを無料でやってくれる人などおらず、日当は1万円は必要だ」。
 請求金額890万2096円は、岡田氏が「希望の牧場」に姿を見せなくなった2014年11月から2016年6月までの全経費を牛の全頭数で割り、牛の耳に取り付けられた「耳標」の個体識別番号から「やまゆりファーム」の所有牛であると確認出来た41頭分の経費を算出したという。
 2015年4月4日朝、岡田氏らが所有している牛を引き取ろうと「希望の牧場」を訪れたが、吉澤氏は「事前のアポイントが無かった。300頭以上いる中から仕分けをするのには労力がかかるし、慣れた男性が5、6人がかりで半日はかかる危険な仕事。いきなり来られても搬出は難しい」と拒否。旧警戒区域の牛は原発事故により被曝している可能性が高いため、移動に関しては行政への届け出などの手続きが必要だが、吉澤氏が福島県や移動先の南相馬市に確認したところ、それらの手続きはされていなかったという。
 被告代理人弁護士による反対尋問では、吉澤氏は「双方がヒートアップして言い合いになった」と認めた上で「話し合いで解決出来るのに、なぜ調停や仮処分申請などの法的手段を岡田氏がとったのか。信頼出来る相手だと思えなくなった」と述べた。牛の移動に必要な行政上の手続きについては「楢葉町の牧場から『希望の牧場』に移動させた時に立ち会っているので岡田氏は知っているはずだ。特に助言はしていない」と述べた。阿保裁判官は被告が所有する牛以外の牛に関して質したが、吉澤氏は「他の牧場からも引き取った牛がいる。それらについてはエサ代などの費用は請求していない」と答えた。


閉廷後の会見で「素人に牛飼いは無理。団体を清算して頭を下げ、牛の所有権を『希望の牧場』に移すのが現実的だ」と語った吉澤正巳氏=東京・霞が関の司法記者クラブ

【「行政上の手続き知らない」】
 岡田氏は「被曝牛を守るため」に「やまゆりファーム」の前身である「ファームアルカディア」を2012年2月に福島県楢葉町で立ち上げた。殺処分を逃れるため62頭の牛を「希望の牧場」に移動させたが「牧場に入って来るなと言われて世話が出来ない」と主張している。「やまゆりファーム」は募金で運営されていたが、現在は支援を募っていないという。
 主尋問で、岡田氏は「話し合う意思はあったが、ネット上で『嘘だ』『詐欺だ』と誹謗中傷が始まった。かかった費用を支払う意思もあった。しかし、提示された金額には不審な項目があり、きちんとした説明も領収書の提示も無かった」と主張。2015年4月4日の牛の引き取りに関しても「南相馬市小高区に牧場とするべく土地を確保し、電気柵や運搬のためのトラックも用意していた。何日間かかけて全頭を引き上げようと考えていた。それなのに第一声が『入って来るな』だった。言い合いになり、冷静に移動の日程を話し合える状況では無かった」と述べた。
 行政上の手続きについては「南相馬市の農政課に電話で相談をしたが、承認は得ていない。県にも手続きが必要だとは言われなかった」と述べた。原告代理人弁護士による反対尋問では「南相馬市役所との話し合いを続けている。福島県庁には特に相談していない」、「全国の支援者から寄せられた支援金はまだ残っている。支援者には特に現状などの説明はしていない」などと述べた。阿保裁判官は行政上の手続きについて質したが、岡田氏は「南相馬市役所から書類を渡され、牧場にする土地の地権者の同意は得ている。隣接する土地の地権者の同意はまだ得られていない。県庁に行くようにとも言われていないので一度も行っていない」などと答えた。
 岡田氏側は、自身が起こした法的措置について、2015年1月21日付のブログで「仮処分も調停も白黒をつけるのが目的ではなく、話し合いをするためでしたが、『希望の牧場・ふくしま』が出頭しないため、やむを得ず取下げた」と説明している。




〝被曝牛〟の殺処分に反対し、今も300頭を超える牛を飼育し続けている「希望の牧場・ふくしま」。吉澤氏は「人が命をどう扱うかの問題だ」と語る=福島県浪江町立野春卯野

【南相馬市「了承していない」】
 福島県畜産課によると、原発事故で旧警戒区域に指定された区域で飼育されていた牛は「所有者の同意を得て安楽死させるのが原則だったが、同意を得られない場合には、旧警戒区域内から外に持ち出さないなどの条件が付けられた」。旧警戒区域内での移動であっても「移動先の市町村の了承を得た上で、輸送ルートなどを詳細に検討して計画書を県に提出し、当日は家畜保健衛生所の職員が立ち会って頭数や個体識別番号を確認する必要がある。勝手に、自由に移動させる事は出来ない」と説明する。
 南相馬市農政課の担当者も「一連の手続きは家畜を扱っている人にとっては、ある意味〝常識〟。好き勝手に移せない事を知っているはずだ」とした上で「確かに岡田氏から相談は受けた。しかし、相談どまりで1年以上動きが無い。移動に際しての詳細な計画書も提示されていない状態。当然、役所としても了承などしていない」と語る。
 閉廷後、司法記者クラブで記者会見した吉澤さんは「当初は場所を貸して欲しい、という事だったが、お金を持って逃げてしまった。頭数が多くて引き受けるのには勇気が要ったが、楢葉町での殺処分を逃れた最後の牛たちだったので引き受けた。置き去りにせず、最後まで命に責任を持つべきだ」と語った。
 原告代理人弁護士によるとこの日、阿保裁判官から「一定の期限を設けて、その間に岡田氏側が必要な行政上の手続きを進めて牛を移動させる。期限内に出来ない場合には牛の所有権を吉澤氏側に移す」とする和解案が提示された。しかし、吉澤氏は「牛は素人には飼えない。団体も終わりにして『お願いします』と頭を下げるのが着地点だろう。南相馬への移動など現実的でなく、出来やしない。被曝牛を連れて行ったら大問題になるだろう」として和解案の受け入れには否定的。7月7日に予定されている次回期日で双方が和解案に対する意見を出し合い、成立しなければ8月にも判決が下される見通しだ。
 吉澤氏は「金の問題では無い。けじめをつけて欲しい。〝動物愛護〟を利権の道具にするのもやめて欲しい」と語る。原発事故と人間の思惑に翻弄された牛たちこそ、一日も早い解決を願っているはずだ。



(了)
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鈴木博喜

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