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【75カ月目の原木シイタケはいま】露地栽培農家の苦悩。「いつになったら〝山のアワビ〟を生産再開出来る?」。阿武隈山地の原木、洗浄しても汚染消えぬ

原発事故で山を汚された原木シイタケ農家の苦悩が続いている。福島県田村市で40年にわたって露地物の原木シイタケを生産してきた宗像幹一郎さん(66)=田村市船引町=に2年ぶりに話を聴いた。かつて「山のアワビ」と称されたシイタケの生産はいまだ叶わず、原木の汚染も続いている。原木生産業者は非破壊検査機器の設定値を自主的に下げて検査しているが、それでも県外には売れないと嘆く。果たして、いつになったら原木シイタケの露地栽培を再開する事が出来るのか。3年後の東京五輪も絡んで〝復興〟ばかりが叫ばれるが、コントロール出来ない汚染の被害がここにもある。


【「明るい見通し立たぬ」】
 原発の爆発事故から6年3カ月が経った。年月とともに意識は当然、変化する。しかし、これだけ時間が経っても変わらないものがある。40年取り組んできた原木シイタケ露地栽培へのこだわり。そして、生業としての生産再開が残念ながら果たせていない事だ。
 「俺たちは、木の安全管理をするのが仕事じゃ無いんだ。シイタケ屋だよ。原発事故前より頑張っている農家もたくさんいる。本当に頑張ってる。でも、明るい見通しが立たないんだ」
 宗像さんの生産してきた原木シイタケは、阿武隈山地のやわらかい良質な原木(ナラ、クヌギ)を山の斜面に組んで菌を植え、2年後に収穫する品種。アンパンほどの大きさになるシイタケは「山のアワビ」とも形容された。「しょうゆを垂らしてバターを乗せて網で焼くと美味いんだよ」。
 露地栽培の原木シイタケは、福島第一原発から半径20km圏内だけでなく福島市や相馬市、本宮市、広野町など17市町村で依然として出荷が制限されている。宗像さんの生活する田村市は一部が出荷制限区域だが、区域外でもシイタケ栽培に用いる「ほだ木」の放射性セシウム濃度は50Bq/kg以下でなければならない。シイタケは放射性セシウムの移行率が高く、50Bq/kg以上のほだ木で生産されたシイタケは100Bq/kgを超える可能性が高いからだ。「若ければハウスものに転向する事も出来るだろうけど、秋に67歳になるような男に銀行は資金を貸してはくれないよ」。宗像さんは表情を曇らせる。
 ほだ木は菌を植える段階で50Bq/kgを下回っていても、2年後にシイタケを収穫する段階では50Bq/kgを上回ってしまう事が珍しくないという。一本でも50Bq/kgを上回れば、同一管理をしている列すべてが〝連帯責任〟で出荷停止になってしまう。東電が生産しない農家には賠償しない方針を貫いているのためシイタケの栽培は続けているが、かつてのようにサービスエリアなどで販売する事は出来ないままだ。
 6年経ち、汚染されたままだった「ほだ木」の処分がようやく見えてきた。フレコンバッグに入れて4カ所に仮置きしていたほだ木を、東電の「南いわき開閉所」(田村市都路、川内村)に設置された仮設焼却炉(敷地面積、約6万平方メートル)に移動させる作業が始まっている。減容事業を担う環境省は燃やしても周辺環境に影響ないとの姿勢を崩していないが、「原発事故直後は、ほだ木は800Bq/kgくらいあった」と宗像さん。汚染物の焼却には二次拡散を懸念する声が根強いが、秋にも焼却が始まる見通しだという。
 





(上)「阿武隈山地のナラやクヌギは柔らかくてシイタケ栽培に適しているが、原発事故で使うのが難しくなってしまった」と話す宗像幹一郎さん=福島県田村市
(中)(下)原発事故で汚染された「ほだ木」。宗像さんの所有する分だけでも仮置き場は4カ所に及ぶ。放射性廃棄物を減らすため、仮設焼却炉で燃やされるが、焼却には懸念も根強い

【「20Bq/kgでも原木売れない」】
 原発事故の影響は、空間線量だけでは分からない。
 福島県石川町で長年、シイタケ原木の生産・販売を行っている有限会社阿崎商店。玉川村にある作業所には、県から貸与されている原木の非破壊検査機器(日立造船製)が2台ある。国の基準値は50Bq/kgだが、自主的に25Bq/kgに設定値を下げて測って来た。「今年はさらに下げて20Bq/kgにした。それでも県外には売れない。ベクレルはゼロでなければ消費者は駄目なんだ」と阿崎茂幸代表取締役は話す。「最盛期は九州のシイタケ農家まで買っていた」(福島県林業振興課)ほどの良質な福島の原木だが、いまや県外から高い金を出して購入しなければならない。
 同社では石川町など福島県内の木を扱っているが、25Bq/kgを下回る原木は7-8%という。そのため、やはり原発事故後に開発された洗浄機であらかじめ洗い、測定するという。洗浄する事で半減するからだ。洗浄で生じた排水は分離処理などをして、農林事務所での測定を経て捨てられる。汚染物はフレコンバッグで保管されているが、処理の見通しが立っていないという。測定機器は無償貸与されているが、ランニングコストは同社の負担。「50Bq/kgで問題無いのに自主的に設定値を下げている」事を理由に、東電が電気代などの負担に応じていないという。
 実際に原木を1本、測ってもらった。モニターに大きく赤で「バツ」が表示された。数値は39Bq/kg。洗浄しても20Bq/kgを上回ってしまったため商品としては売れない。薪の基準値が40Bq/kgのため、それを下回るものは薪として活用されるという。
 「原発事故は人災だ。それなのに賠償の仕方を間違えてる。現状をちっとも見ていない」と阿崎さんは怒る。ここまで取り組んでも「県外のスーパーは受け付けてくれない」(阿崎さん)。原発事故さえなければ。国も行政も、3年後の東京五輪に向けて福島の〝復興〟を世界にアピールするが、これも原発事故の1つの現実。汚された森は容易に戻らない。






阿崎商店に設置されている原木の非破壊検査機器。国の基準値は50Bq/kgだが、同社は自主的に設定値を20Bq/kgに下げているため、それを上回ると赤で大きく「×」と表示される。原木の側面にペンで書かれた数字は、上段が洗浄前。下段が洗浄後。洗浄後でもほとんどが25Bq/kgを上回るという

【「風評被害すら無い」】
 農産物の賠償に関しては、今年度から2019年度までの3年分を一括賠償する事が決まっている。1本の原木から900グラムのシイタケが生産されると仮定して、賠償額は1本あたり421円と算出された。原発事故前は1万本を超えるほだ木を管理していた宗像さんも賠償金を得ているが、4年後に生産を再開できる見通しは立っていない。
 「地元の原木が一番良いのに、使えない。他県の原木は、元々200円だった単価が600円に上がった。差額は東電が賠償するという事もあって足元を見ているのだろう。しかも、空間線量がいくら下がったって土壌汚染は深刻だ。俺としては地道にデータ集めをするしかない」
 自己責任で食べるのは構わないが、かつてのように売ることは出来ない。「要は作っても廃棄しろということだ。だから俺は〝風評被害〟を実感する段階には至っていないんだよ。ベラルーシを訪れた際には、向こうの農家が『30年経っても風評被害はある』と言っていたけれど、俺は販売すら出来ていないんだから」(宗像さん)。福島県林業振興課によると、以前から原木シイタケの露地栽培農家は減っていたが「原発事故が追い打ちをかける形で激減している」。
 「年月が経って、当時のような殺気立った雰囲気は確かに無くなったよ。でもね、生産を再開するにはどうしたら良いの?学者でも何でも無いから、どうなるか分からないよ」
 宗像さんの問いに明確に答えられる人はいるだろうか。良質な阿武隈の原木で育まれた「山のアワビ」が復活するのはいつだろうか。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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