〝自主避難者〟は二の次三の次。「強制避難者の帰還が最優先」。東電の新経営陣が福島県庁で内堀知事らに就任あいさつ。「第二原発の廃炉」は明言避ける
- 2017/06/27
- 07:43
今月23日の株主総会で新たに就任した東京電力ホールディングスの川村隆会長ら経営陣が26日午前、福島県庁を訪れ、内堀雅雄知事や杉山純一県議会議長に就任のあいさつをした。川村新会長や小早川智明社長は内堀知事らに深々と頭を下げるものの、福島第二原発の廃炉についてはこの日も明言を避けた。また、「今なお避難されている方々には誠心誠意対応する」とも話したが、一方で「強制避難者が最優先」とも。被曝リスクから逃れようと動いた〝自主避難者〟は二の次三の次である本音もうかがえた。
【「避難者には申し訳ない」】
「今なお避難されている方に対しましては、本当に申し訳なく思っております。大変なご不便、それからご心配をおかけしまして、大変申し訳なく思います」
福島県庁3階のエレベーター前で開かれた会見。「福島第二原発」の廃炉問題に質問が集中する中、小早川智明社長(2016年6月就任)は福島中央テレビの記者から「今も数万人の県民が避難している。正確な数字は分からない部分もある」と問われると、こう早口で答えた。
「申し訳ない」。この6年余、何度この言葉が東電幹部の口から発せられただろうか。しかし現実には、各地で起こされている原発訴訟で提出される書面で展開される東電側の主張は「被曝リスクなど存在しない」、「十分に賠償している」、「避難指示区域外からの避難には合理性が無い」などと木で鼻をくくったものばかり。何がどう「申し訳ない」のか。聴きたい事は山ほどあったが、会見が打ち切られようとする最後の最後に、こう尋ねた。
「小早川社長の言う『避難者』には、いわゆる〝自主避難者〟は含まれているのか。〝自主避難者〟について、新しい経営陣はどのように考えているのか」
これに対し、小早川社長は「福島の事故が原因になって、という事につきましては、私どもとすれば、いずれにしても誠心誠意対応しなくちゃいけない。まずこういう風に考えております」としながらも、「その上で、やはり、まず強制的に避難勧告をされた方が非常に複雑な想いをされていらっしゃると思いますし、これから帰還を始められる方に対して、まずは安心に帰って来ていただくという事が我々のなすべき仕事の最優先だと思っておりますので、まずそこに注力する事が必要だと考えております」
〝自主避難者〟についてどう考えているのか、具体的に触れる言葉は無かったが、これで十分だった。やはり東電は、避難指示の出されていない区域については二の次三の次なのだ。


(上)廊下で会見を開いた川村隆会長(左)と小早川智明社長。「避難者には誠心誠意対応したい」としながらも、〝自主避難者〟について尋ねられると「まずは強制避難者に安心して帰っていただく事が最優先」との姿勢を改めて示した
(下)内堀知事との会談には多くの取材者が集まったが、冒頭の9分ほどで退室を命じられた=福島県庁知事室
【「客観的根拠ない不安だ」】
福島市や郡山市、田村市の住民でつくる「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人が東電を相手取って争っている損害賠償請求訴訟。被告・東電側の代理人弁護士が提出した準備書面には、政府の避難指示が出されていない区域に対する東電の考え方が如実に表れている。
「自主的避難等対象区域の住民に対する低線量被ばくによるリスクは、他の健康リスクに隠れてしまうほど小さく、原告らの健康に対する客観的かつ具体的な危険を生じさせるものではない」
「原告らの被ばくへの不安については、客観的な根拠に基づかない、漠然とした危惧感にとどまるものである」
「自主的避難等対象区域での空間放射線量は避難を要する程度のものではなく、通常通りの生活を送るに支障のないものであり、時間の経過とともにさらに低減している実情にある」
「避難指示対象区域外の避難者・滞在者に当たる原告らが受ける低線量被ばくの程度は、年間20ミリシーベルトを大きく下回るものであり、かつ年々低減している実情にある」
準備書面には、今なお被曝への不安を抱えながら福島県中通りに暮らす人々の葛藤を正面から全否定する言葉が並ぶ。〝自主避難者〟への住宅無償提供が今年3月末で打ち切られるなど公的な避難の権利保障が無い中で、避難や移住が叶わず、子や孫に健康被害が生じないか心配しながら生活するのも当然だ。しかし、東電側の準備書面は、これを「客観的な根拠のある具体的危険の存在を前提としない、心情的若しくは認識的な状態をいうものであるといい得る」、「そのような放射線への不安を感じても、専門的・科学的な知識を得ることによって、その不安は解消される方向に向かうという性質の不安であるといえる」などと斬り捨てている。「客観的根拠に基づかない漠然とした不安感をも法的保護の対象にすることになりかねない」とも。
表向きには「申し訳ない」と頭を下げながらも、「既に支払った賠償額(避難指示区域外は大人1人12万円)を超える損害は存在しない」が本音。自ら被害者を線引きして区別しているのが加害企業・東電の真の姿だ。


知事室(上)でも議長室(下)でも頭を下げた川村新会長や小早川社長。しかし、福島第二原発の廃炉は明言しないまま。各地の原発訴訟でも木で鼻をくくったような主張が続いている
【「第二廃炉は総合的に判断」】
川村新会長らは、内堀知事や杉山議長に頭を下げたうえで「新体制になっても福島が我々の仕事の原点であるという方針には全く変わり無い」「福島の復興がすべての原点であるというのは大切な想い」、「福島の責任を全うするという方針にいささかも変わり無い」などと繰り返し強調。内堀知事は「安全な廃炉作業の遂行」、「福島第二原発の廃炉」、「迅速、確実な損害賠償」の3点を要請したが、特に福島第二原発の廃炉に関しては、小早川社長が「県議会や市町村議会からの決議は重く受け止めている。会社として大きな経営判断となるので引き続きしっかり検討したい」と答えるにとどまった。
県庁内で開かれた会見でも「福島県内全基廃炉」について質問が集中。「いつまでに決断出来るのか、決断出来ない理由は何か」(読売新聞)、「福島第二原発を廃炉にしないという選択肢もあり得るのか」(福島民報)、「経営基盤の強化のために福島第二原発や柏崎刈羽原発の再稼働が必要だと考えているか」(共同通信)などと相次いだが、川村新会長や小早川社長は「総合的に説明を尽くさなければいけない」、「国のエネルギー政策などを総合的に検討して判断しなければいけない」、「事業全体を見渡していく必要がある」、「経営改革を継続している」、「長期的に原子力は生き残るのかどうかも含めて経営判断をしようとしている」、「最終判断は国でなく我々がする」などの回答に終始した。毎日新聞の記者が、今月30日に開かれる旧経営陣に対する刑事裁判の初公判について質したが、廣瀬直己副会長(前社長、福島統括)が「当然、注視しているが、公判についてのコメントは差し控える」と答えるにとどまった。
新経営陣は27日、28日、7月4日にかけて浪江町役場、飯舘村役場、田村市役所などを訪れる予定。
(了)
【「避難者には申し訳ない」】
「今なお避難されている方に対しましては、本当に申し訳なく思っております。大変なご不便、それからご心配をおかけしまして、大変申し訳なく思います」
福島県庁3階のエレベーター前で開かれた会見。「福島第二原発」の廃炉問題に質問が集中する中、小早川智明社長(2016年6月就任)は福島中央テレビの記者から「今も数万人の県民が避難している。正確な数字は分からない部分もある」と問われると、こう早口で答えた。
「申し訳ない」。この6年余、何度この言葉が東電幹部の口から発せられただろうか。しかし現実には、各地で起こされている原発訴訟で提出される書面で展開される東電側の主張は「被曝リスクなど存在しない」、「十分に賠償している」、「避難指示区域外からの避難には合理性が無い」などと木で鼻をくくったものばかり。何がどう「申し訳ない」のか。聴きたい事は山ほどあったが、会見が打ち切られようとする最後の最後に、こう尋ねた。
「小早川社長の言う『避難者』には、いわゆる〝自主避難者〟は含まれているのか。〝自主避難者〟について、新しい経営陣はどのように考えているのか」
これに対し、小早川社長は「福島の事故が原因になって、という事につきましては、私どもとすれば、いずれにしても誠心誠意対応しなくちゃいけない。まずこういう風に考えております」としながらも、「その上で、やはり、まず強制的に避難勧告をされた方が非常に複雑な想いをされていらっしゃると思いますし、これから帰還を始められる方に対して、まずは安心に帰って来ていただくという事が我々のなすべき仕事の最優先だと思っておりますので、まずそこに注力する事が必要だと考えております」
〝自主避難者〟についてどう考えているのか、具体的に触れる言葉は無かったが、これで十分だった。やはり東電は、避難指示の出されていない区域については二の次三の次なのだ。


(上)廊下で会見を開いた川村隆会長(左)と小早川智明社長。「避難者には誠心誠意対応したい」としながらも、〝自主避難者〟について尋ねられると「まずは強制避難者に安心して帰っていただく事が最優先」との姿勢を改めて示した
(下)内堀知事との会談には多くの取材者が集まったが、冒頭の9分ほどで退室を命じられた=福島県庁知事室
【「客観的根拠ない不安だ」】
福島市や郡山市、田村市の住民でつくる「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人が東電を相手取って争っている損害賠償請求訴訟。被告・東電側の代理人弁護士が提出した準備書面には、政府の避難指示が出されていない区域に対する東電の考え方が如実に表れている。
「自主的避難等対象区域の住民に対する低線量被ばくによるリスクは、他の健康リスクに隠れてしまうほど小さく、原告らの健康に対する客観的かつ具体的な危険を生じさせるものではない」
「原告らの被ばくへの不安については、客観的な根拠に基づかない、漠然とした危惧感にとどまるものである」
「自主的避難等対象区域での空間放射線量は避難を要する程度のものではなく、通常通りの生活を送るに支障のないものであり、時間の経過とともにさらに低減している実情にある」
「避難指示対象区域外の避難者・滞在者に当たる原告らが受ける低線量被ばくの程度は、年間20ミリシーベルトを大きく下回るものであり、かつ年々低減している実情にある」
準備書面には、今なお被曝への不安を抱えながら福島県中通りに暮らす人々の葛藤を正面から全否定する言葉が並ぶ。〝自主避難者〟への住宅無償提供が今年3月末で打ち切られるなど公的な避難の権利保障が無い中で、避難や移住が叶わず、子や孫に健康被害が生じないか心配しながら生活するのも当然だ。しかし、東電側の準備書面は、これを「客観的な根拠のある具体的危険の存在を前提としない、心情的若しくは認識的な状態をいうものであるといい得る」、「そのような放射線への不安を感じても、専門的・科学的な知識を得ることによって、その不安は解消される方向に向かうという性質の不安であるといえる」などと斬り捨てている。「客観的根拠に基づかない漠然とした不安感をも法的保護の対象にすることになりかねない」とも。
表向きには「申し訳ない」と頭を下げながらも、「既に支払った賠償額(避難指示区域外は大人1人12万円)を超える損害は存在しない」が本音。自ら被害者を線引きして区別しているのが加害企業・東電の真の姿だ。


知事室(上)でも議長室(下)でも頭を下げた川村新会長や小早川社長。しかし、福島第二原発の廃炉は明言しないまま。各地の原発訴訟でも木で鼻をくくったような主張が続いている
【「第二廃炉は総合的に判断」】
川村新会長らは、内堀知事や杉山議長に頭を下げたうえで「新体制になっても福島が我々の仕事の原点であるという方針には全く変わり無い」「福島の復興がすべての原点であるというのは大切な想い」、「福島の責任を全うするという方針にいささかも変わり無い」などと繰り返し強調。内堀知事は「安全な廃炉作業の遂行」、「福島第二原発の廃炉」、「迅速、確実な損害賠償」の3点を要請したが、特に福島第二原発の廃炉に関しては、小早川社長が「県議会や市町村議会からの決議は重く受け止めている。会社として大きな経営判断となるので引き続きしっかり検討したい」と答えるにとどまった。
県庁内で開かれた会見でも「福島県内全基廃炉」について質問が集中。「いつまでに決断出来るのか、決断出来ない理由は何か」(読売新聞)、「福島第二原発を廃炉にしないという選択肢もあり得るのか」(福島民報)、「経営基盤の強化のために福島第二原発や柏崎刈羽原発の再稼働が必要だと考えているか」(共同通信)などと相次いだが、川村新会長や小早川社長は「総合的に説明を尽くさなければいけない」、「国のエネルギー政策などを総合的に検討して判断しなければいけない」、「事業全体を見渡していく必要がある」、「経営改革を継続している」、「長期的に原子力は生き残るのかどうかも含めて経営判断をしようとしている」、「最終判断は国でなく我々がする」などの回答に終始した。毎日新聞の記者が、今月30日に開かれる旧経営陣に対する刑事裁判の初公判について質したが、廣瀬直己副会長(前社長、福島統括)が「当然、注視しているが、公判についてのコメントは差し控える」と答えるにとどまった。
新経営陣は27日、28日、7月4日にかけて浪江町役場、飯舘村役場、田村市役所などを訪れる予定。
(了)
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