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【山林火災と放射性物質】「燃焼有無で空間線量に差ない」。林野庁が調査結果公表。市民団体は「二次拡散調べてない」と反発。土砂流出を危惧する専門家も

福島県浪江町の帰還困難区域で4月29日から5月10日まで燃え続けた「十万山」の山林火災で、林野庁が現地調査結果を公表した。地元紙は「放射性物質の大規模な飛散は無かった」と報じたが、市民団体だけでなく林野庁内部からも「飛散無かったとは言い切れない」との声も出ている。専門家の中には放射性物質を含んだ土砂や灰の流出を危惧する見方もあり、「場合によっては柵の設置が必要かもしれない」との指摘もある。出火から2カ月が過ぎたが、決して楽観視出来るような状態では無さそうだ。


【「飛散無かったと言い切れぬ」】
 林野庁が6月23日に公表した調査結果によると、鎮火から一週間後の5月17、18の両日に実際に十万山に入って調査。持ち帰った試料を1カ月ほどかけて分析したところ、「燃焼箇所及び非燃焼箇所で空間線量率に明確な差は見られなかったこと、土壌等とともに放射性物質が流出する可能性は低いと考えられる」との結論に達したという。発表を受けて、福島の地元紙は【放射性物質「大規模な飛散はない」 浪江の山林火災で林野庁】などと報じた。
 しかし、林野庁・国有林野部業務課の担当者はこう語る。
 「昨年の山林火災調査と同様、大気中への放射性物質の飛散の有無、という観点は無い。この結果をもって、放射性物質の周辺への飛散は無かったと言い切れるものでは無い」
 放射性物質の二次拡散はあったのか、無かったのか。
 試料の採取や分析に携わった国立研究開発法人森林総合研究所(茨城県つくば市)の研究員は、林野庁の調査結果について広報を通じて次のような見解をメールで寄せた。
 「私も『火災による放射性物質の大規模な飛散はない』と考えています。今回の現地調査では、火災発生時に放射性セシウムの拡散を定量的に推定できませんが、放射性セシウムの蓄積量の多い落葉層で著しく減少していないので、大量に拡散したとは思っていません。アカマツでは調査した3本のうち2本の樹皮の放射性セシウム濃度が減少していました。樹皮のセシウムは表面に付着していると推定されます。火災で燃焼した結果、樹皮の表面が脱落した可能性が考えられます。また煤煙となって飛散したものもあるでしょう。福島県が今回はダストを調べているので、火災当時の気象観測結果と併せれば飛散量を推定することが可能になると思います。これについては、その方面の専門家が行うことになるでしょう」
 「小規模な飛散はあった」という事か。


林野庁が公表したデータの一部。担当者は「大気中への放射性物質の飛散の有無、という観点は無い。この結果をもって、放射性物質の周辺への飛散は無かったと言い切れるものでは無い」と説明する

【「的外れ、ピント外れの調査」】
 「公表された調査結果を読んでいて怒りがこみあげてきました」と話すのは、今回の山林火災に注目し、実際にリネン吸着法などで周辺環境への影響を独自に調べているNPO法人市民放射能監視センター「ちくりん舎」(東京都西多摩郡)副理事長の青木一政さん。
 「そもそも調査目的がおかしい。火災跡地の空間線量率、樹皮の濃度を測って何になるのでしょうか?消火活動にあたった自衛隊員や消防団員、住民が心配し、不安に感じているのは火災中の煙、粉塵による放射能拡散、それによる内部被曝です。大気中の粉塵が拡散する事による放射能の二次拡散です。また灰、燃え殻などの再浮遊による再拡散、土砂流出による再拡散、地下水などへの溶出による再拡散でしょう。このあたりの住民や関係者の関心をことごとく外している全くピント外れの調査です」
 さらに調査項目の「樹皮(立木)のCs濃度、蓄積量等」や「落葉層のCs濃度、蓄積量等」に関しても、「激しく燃焼したものは放射性セシウムの濃度が薄くなり、蓄積量も少なくなっています。つまり、激しく燃えた樹皮は放射性セシウムがガス、粉塵として大気中へ、灰として地上へ飛散してしまっていると考えられます。それをきちんと調べるべきです。どのくらいの量の樹皮が燃えてどのくらいの量の放射性物質が移動したのか。粒子の大きさや拡散範囲、再浮遊の可能性なども調べるべきです」と語る。
 一方、国立研究開発法人国立環境研究所福島支部の林誠二・研究グループ長は、23日に都内で開かれた公開シンポジウム終了後に取材に応じ、「まさに福島県と日本原子力研究開発機構(JAEA)、国立環境研究所福島支部の三者で山林火災の影響評価をするためのプロジェクトを立ち上げたところだ。煙などによる大気中への放射性物質の二次拡散、吸入による内部被曝を心配していたと思うが、空間線量を上げるような事にはならなかった。大気浮遊じんの調査でも一部数値は上がったが、心配するほどでは無い」と話した。
 その上で「通常の森の状態では放射性物質を含んだ土砂の流出は限定的だが、消火活動の際にかなり斜面の灰や土砂が流れたし、落ち葉や腐葉土がかなり焼けてしまっているので、雨が降ればかなり流れてしまうと懸念される。下層植生がどのくらい早く回復するかが一つのポイントだろう。場合によっては、柵の設置など土砂や灰の流出を防止するような対策が必要かもしれない」と指摘した。


公開シンポジウムで「水環境における放射能汚染の現状と環境回復に向けた取組」について講演した国立環境研究所福島支部の林誠二氏。山林火災現場にも入り「場所によっては土砂流出を防止する柵の設置が必要かも知れない」と語った=東京都港区のメルパルクホール

【福島県も調査結果を公表へ】
 福島県放射線監視室も、林野庁の公表した調査結果を思いの外、冷静に受け止めている。
 「周辺環境への影響があったのかどうか、結論を出すには早すぎる」と同室。さらに「空間線量だけで云々するのは愚の骨頂だと考えているという意味では『ちくりん舎』と同じだ」とも。「山林火災後に採取した放射性微粒子が山に由来するかなど、データを過不足なく集めて、結果を夏休みに入らない頃には公表したいと考えている」。
 福島県は山林火災直後から「安全」を強調し、地元紙もインターネット上の書き込みを「デマ」だと斬り捨てた。これについて、同室は「避難指示が解除されて帰還が進んでいる中で、全く関係ない写真が使われるなど根も葉もない書き込みは打ち消さなければならない。確かに『問題無い』という点を強調しすぎた部分はあるかもしれない」と振り返る。「こちらとしては、空間線量だけでなく大気浮遊じんの分析結果も公表していた。空間線量だけで一切合財を語ってはいなかったという点はぜひ、御理解いただきたい」。
 帰還困難区域での山林火災という、かつて経験の無い事態から2カ月。林野庁は今回の調査結果発表でひと区切りをつける方針。しかし、まだ山林火災は終わってはいない。専門機関による調査は続く。「デマ」や「風評」で片づけられない原発事故の現実が、ここにもある。



(了)
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鈴木博喜

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