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【76カ月目の飯舘村はいま】「線量計持って山を歩け」。安倍首相がうどん食べ〝復興〟アピール。「パフォーマンス要らぬ」。汚染直視しない首相に怒りの声

安倍晋三首相の度重なるパフォーマンスに、飯舘村民が怒っている。安倍晋三首相が1日午前、吉野正芳復興大臣と共に福島県飯舘村を訪れ、特別養護老人ホーム「いいたてホーム」ではお年寄りと〝交流〟してスタッフと〝意見交換〟。村内で営業を再開したうどん店「ゑびす庵」では、笑顔で手打ちうどんを試食した。しかし村民からは「パフォーマンスは要らない」、「他にやるべき事がある」などと厳しい声が聞かれる。分刻みのスケジュールでは、村の本当の姿は分からない。


【「笑顔で握手したけれど…」】
 都議選の街頭演説のような「帰れ」「辞めろ」コールは無かった。しかし、熱烈な歓迎も無し。黒いフレコンバッグが横たわる村に、この日は黒塗りの車と大勢の警護。今、国のトップがなすべき事は村を訪れてうどんを食べる事なのか。「線量計を持って山を歩いてみれば良いんだ」。村民の1人は、ウグイスの鳴き声が響く静かな村で言った。
 3月31日に国の避難指示が解除された飯舘村(帰還困難区域の長泥地区を除く)。村によると、6月1日現在で149世帯、333人が避難先から村に帰還。そもそも避難をしなかった「いいたてホーム」の入居者などを含めると204世帯、397人が村内で生活をしている。村の人口は約6000人だから、村で生活している人は依然として6~7%にとどまる。
 「ゑびす庵」が飯樋小学校前での営業を再開したのは4月23日。原発事故を受けて5年8カ月、福島市荒井での営業を続けていた。創業は1953年。村で最も古い飲食店の再開に、当日はメディアが殺到して大々的に報じられた。村の〝復興〟のシンボルのような存在になってしまったが、何も〝復興〟に貢献したくて村に戻って来たわけでは無かった。
 女将の高橋ちよ子さんは言う。
 「草刈りなどで村に戻って来た時に、ちょっと立ち寄って話せる場があれば良いでしょ。夜も灯りがついていればほっとするじゃない。だから赤字覚悟で戻って来たのよ。何も復興とかそういう事じゃ無いもの」
 うどんをすする安倍首相に、菅野典雄村長が「一番先に戻って来てくれたんですよ」、「お客さんが来てくれるか分からない中で、こうして復興のために率先して店を開いていただいた」と懸命に〝解説〟。高橋さんが「そんな大それた考えではやっていないんです」と苦笑する場面も。笑顔で首相一行を迎えたが、胸中は複雑だったのだ。
 実は高橋さん、首相の来店にあたって国側から「貸し切りでお願いしたい」と依頼され、丁重に断っていた。電話の主は予想外の返答に驚いていたという。「もちろん、首相が来てくれるのはありがたいけど、開店時刻の11時前後を貸し切るとなると、わざわざ食べに来てくれるお客さんに迷惑がかかってしまう。やっぱり私たちは一般のお客さんを大切にしたいものね」
 女将としての矜持が伺えた。






(上)うどんを食べに訪れた安倍晋三首相と握手する高橋ちよ子さん。夫の義治さんと共に笑顔で首相らを迎えたが、胸中は複雑だった。「何も村の〝復興〟のために戻って来たわけでは無いから」=飯舘村飯樋
(中)安倍首相の〝うどんパフォーマンス〟には吉野復興大臣のほか内堀知事や福島県選出の自民党国会議員、県会議員らが同行。村の〝復興〟をアピールした
(下)原発事故で「ゑびす庵」は福島市に避難。避難指示解除を控えた3月下旬に店を閉じ、4月23日に村内で営業を再開した。8月に道の駅がオープンするまでは村内で唯一の飲食店だ

【「就職準備金引き上げる」】
 村訪問がシナリオありきのパフォーマンスである事は明白だ。ゑびす庵でのうどんの試食に先立って行われた特別養護老人ホーム「いいたてホーム」での三瓶政美施設長や介護士、看護師らスタッフとの〝意見交換〟でもそれは顕著だった。
 101歳の入所者から「頑張ってください」と縫い物をプレゼントされた安倍首相は、菅野村長から「避難させると余計に身体に悪いという事で政府と交渉して、残させていただいた唯一のホームだ」、「親から『そこに居ていいのか』などと言われるなどして、介護する人がどんどん少なくなってしまった。そのため利用者は34人にとどまっている」と説明を受けると「うんうん」とうなずいた。
 三瓶施設長は「スタッフの平均年齢を50歳を超えており、無理をすると疲弊してしまう。30km、50km離れた避難先からの通勤も大変だった」と原発事故後の実情を訴えた。他のスタッフも「どんどんスタッフが減ってしまった。ぜひ若い人に就職して欲しい」と話した。
 これに対し、安倍首相は「避難をせずに、ここで頑張った。改めて敬意を表したい」と話したうえで、「就職準備金を引き上げて行きたい。応援をしたいという全国の施設にも支援をしていきたい」と語った。同席した内堀雅雄知事も「ぜひ手厚い支援が出来るように私も頑張っていきたい」と応じた。現在、他県から福島県に移住して介護職に就く人には、一定の条件を満たせば就職準備金として30万円が無利子で貸し付けられるなどの奨学金貸付事業があるが、これを引き上げる事で介護人材を増やそうというのだ。つまりは、この意見交換はそれを発表する場だった。
 村に戻るのは高齢者が中心。介護施設の充実は喫緊の課題だ。国に支援を求めるのも理解は出来る。しかし、国に助けを求める菅野村長は一方で、村内での学校再開に向けた整備費用として今年度予算に40億円を超える予算を計上している。村役場近くに整備する陸上競技場、野球場、テニスコートなどの予算は23億円超。村が発行した「までいな〝みんなの〟予算書」によると、村の一般会計は前年比131.9%の212億円に上る。これは、福島県本宮市の一般会計当初予算よりも多い。






(上)特別養護老人ホーム「いいたてホーム」は避難対象から外され、入所者は原発事故後も施設での暮らしを続けた。スタッフから6年間の苦労を聴いた安倍首相は「介護就職者への支援を引き上げる」と表明した。
(中)安倍首相に同行した吉野復興大臣(左)。根元匠元復興大臣など福島選出の自民党国会議員も一緒に廻ったが、村民からは冷めた声が多く聞かれる。
(下)稲作が再開された飯舘村。水田の向こう側にはフレコンバッグの山がそびえる。手元の線量計は0.6μSv/hを超えた。こういう場面は安倍首相は見ない

【「やるべき事が他にある」】
 「もうパフォーマンスは要らない」
 安倍首相の三度目の来村を聞き、村民の1人はきっぱりと言った。「村民の想いなど分かろうともしないのが一番の罪ですね。国民より経済優先、対外的アピールばかりで根本的問題は置き去りのままじゃないですか」。
 別の母親も厳しい。
 「ふざけんなって言いたい。そんな事をして、何で復興になるのでしょうか。本当にやらなければならない事が他にあるでしょうに」
 本当にやらなければならない事、とは何か。
 「荒れ果てた山や田んぼの中で、お年寄りだけが村に戻って暮らしてるのが復興なのでしょうか。私は違うと思います。子どもも高齢者も一緒に、当たり前の生活が出来て初めて復興だと言えるのではないでしょうか。学校だけ立派に作っても、通う子どもが居なくては意味がありません。それに、日用品を遠くまで買いに行かなければならないのが復興ですか?」
 そして、こうつぶやいた。
 「もう、原発事故前には戻らないんですよ」
 菅野村長が満面の笑みで語りかける様子が目についた三度目の安倍首相来村。川俣町山木屋地区にオープンした復興交流拠点「とんやの郷」や川内村の喫茶店も訪れたが、滞在時間は6時間ほど。分刻みのスケジュールで川俣軍鶏の丼やうどん、そばを食べ歩いて何が分かったのか。飯舘村では稲作が再開されたが、水田の向こう側には除染で生じた汚染土の入ったフレコンバッグが、シートに覆われて山のように積まれている。手元の線量計は0.6μSv/hを上回った。しかし、安倍首相はそういう現実は見ない。
 村内では道の駅が8月にオープン、来年度には40億円かけた新しい学校での授業が始まる。村民置き去り、ハコものだらけの〝復興〟が一段と加速する。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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