【山林火災と放射性物質】帰還困難区域の山林火災で市民団体が福島県に要請書提出。内部被曝防止策求めるも話し合いは平行線。記者クラブも関心示さず
- 2017/07/20
- 07:35
福島県浪江町の帰還困難区域で4月29日から5月10日まで燃え続けた「十万山」の山林火災で、放射性物質が二次拡散しなかったか独自に調べているNPO法人市民放射能監視センター「ちくりん舎」などが19日午後、福島県庁を訪れ、内堀雅雄知事宛ての要請書を県職員に提出。緊急時における速やかな情報公開や被曝防止策、避難基準の策定などを求めた。しかし、話し合いは平行線。論点は全くかみ合わなかった。帰還困難区域での山林火災という初めての事態で放射性物質の二次拡散への懸念は依然として拭えないが、記者会見に出席した記者も少なく、関心の低さをうかがわせた。
【「周辺への二次拡散明らか」】
要請書を提出したのは「ちくりん舎」副理事長の青木一政さんのほか、「南相馬・避難勧奨地域の会」事務局長の小澤洋一さんなど6人。福島県側は放射線監視室、危機管理課、災害対策課などから6人の職員が対応した。
青木さんたちは、今回の山林火災を「帰還困難区域で発生したため、火災による上昇気流による灰の舞い上がり、燃焼による煙、ガスに含まれる放射性物質が大気中浮遊塵として周囲に拡散したことは、福島県が十万山周辺に設置したエアダストサンプラ調査からの結果で明らかです」としたうえで、「放射性物質の吸引による内部被ばくについては、水に溶けない形で肺胞に長期にわたり留まる危険性 、体内での局所的な被ばくによる危険性 などが指摘されています。今後長期にわたり放射能汚染と向き合いながら生活せざるを得ない住民にとって山林火災や除染廃棄物火災、福島第一原発の事故対応工事などによる大気中浮遊塵の放射能レベルの上昇は、今後とも大きな懸念と不安要因として存在し続けます」として、以下の4点を求めている。
①帰還困難区域内をはじめとする除染されていない山林での山林火災防止策、延焼拡大防止策、避難基準の策定。
②火災時における緊急時エアダストサンプラ調査体制の拡充と速やかな調査結果の公開。
③福島県が実施しているダストサンプラ調査結果の随時公開(オンライン化)、調査個所の拡充。
④消火活動従事者、住民に対しての放射線防護の情報提供と防護策の実施
さらに「今後の山林火災防止策、延焼拡大防止策、住民の避難基準の策定はどのような計画で行われるのでしょうか」、「緊急時の大気中浮遊じん放射能モニタリングの拡充についての県としての計画はどのようなものでしょうか」など5つの質問事項も同時に提出。2週間後をめどに文書での回答を求め、県側も了承した。
要請行動には計44団体が「よびかけ団体」、「賛同団体」に名を連ねた。


(上)福島県庁内の記者クラブで会見を開いた小澤さん(左)と青木さん。「帰還困難区域」という汚染地域での山林火災による内部被曝の危険性を問題視している。「福島県は県民を守るという視点で動くべきだ」
(下)「保養」の会見同様に空席が目立った記者会見。「被曝」問題はもはや、地元記者クラブの関心事ではなくなっているようだ
【「汚れた空気を吸わされた」】
要請書提出にあわせて、県庁内の会議室で約1時間にわたって話し合いが持たれたが、県職員側からの発言はほとんど無し。青木さんや小澤さんからの趣旨説明を、ぽかんとした表情で聴いていた。そもそも今回の山林火災に対する認識がかみ合っていない様子で、放射性微粒子の飛散による内部被曝の危険性を訴える団体側に対して、放射線監視室の職員が「十万山周辺のモニタリングポストの数値に大きな変動は無かった。大気浮遊じんの測定では一時的に数値が上がったところがあるという認識はあるが、測定で採取された放射性物質が強風で舞い上がったものなのか火災由来なのか、詳細を調べているところ」と答えた程度。県としての考えを説明出来る職員はいなかった。
「単なる山火事では無い」。青木さんたちが第一に問題視しているのは、発生場所が高濃度に汚染された帰還困難区域であるという点だ。しかし、ヘリによる空からの消火や自衛隊への出動要請にかかわったという災害対策課の職員は「鎮火まで12日を要したという意味では県内最大規模の山林火災になったが、ご意見が違う部分もある。乾燥した時期であったという事、急斜面でホースも届かず消火しにくかった事などの要因が重なって長期化した」、「消火するという行為は場所がどこであっても変わらない。そのためには最善を尽くす」と答え、論点がかみ合わなかった。青木さんは「帰還困難区域で山林が燃えるという事について問題だという認識は持っているのか。そこがずれていると、これ以上の話が出来なくなってしまう」と何度も尋ねたが、県職員から明確な答えは無かった。
県放射線監視室は、鎮火から一週間後の5月17日で追加モニタリングを終了させ、既存のモニタリング体制に戻した。小澤さんが「県民を守るという意味で、せめて5月末までは追加モニタリングを続けるべきだった。私たちは汚れた空気を余分に吸わされた。大気浮遊じんにほとんど触れずに『大丈夫だった』と結論づけているが、呼吸による内部被曝についてどのように認識しているのか」と質したが、これについても回答は無かった。


帰還困難区域での山林火災を受けて福島県職員と市民団体の話し合いが持たれたが、論点はかみ合わないまま。文書での回答を待つ事になった=福島県庁内の会議室
【空席目立った会見】
青木さんや小澤さんたちは山林火災を受け、麻の布を屋外に張って付着した放射性物質の量を測定する「リネン吸着法」を使い、独自に放射性物質の二次拡散について調べてきた。その結果、十万山から北に17km離れた南相馬市原町区や南西に14kmの田村市都路などで火災前と比べて高い濃度の放射性セシウムが確認されている(06月05日号参照)。
しかし、福島県は出火当初から「周辺の空間線量に変動無い」として環境や人体への影響は無いとの姿勢を貫いた。地元紙も、放射性物質の二次拡散を懸念するインターネット上の書き込みを「デマ」と一蹴。夕刊コラムで「原子炉爆発から6年が過ぎても、収束がままならない事故のこれが現実だろう。政府も全国紙も、この現実にあまりにも鈍感過ぎるのではないか」などと書いた紀伊民報(和歌山県)には抗議が殺到し、後に「多くの方に心配をかけ、迷惑を与えたことになる。まことに申し訳ない。陳謝する」とコラム上で詫びる事態になった。
県職員との話し合い後、青木さんたちは福島県庁内の記者クラブで記者会見を開き、「縦割り行政の弊害だ。県民の内部被曝を防ぐという観点で県は取り組んで欲しい」などと語ったが、加盟社の関心は低い。数人の記者が出席したのみで空席が目立った。質問もほとんど無く、NHKの記者が「リネン吸着法」に関し「どの程度、これまで測定に使われて来たのか。チェルノブイリ原発事故では使われたのか」と尋ねたのみ。途中で退席した記者もいた。話し合いの場には地元紙・福島民友の記者が取材に来ていたが、途中で退室した。
浪江町に出されていた避難指示は3月31日で帰還困難区域以外で解除され、6月末現在、133人とはいえ町内での生活を再開させている。帰還困難区域での山林火災は今後も起こり得るため、迅速な情報提供と被曝防止策が必要だ。しかし、行政もメディアも腰が重い。〝復興〟に貢献しない「被曝リスク」の話題は、もはや過去の話になってしまった
(了)
【「周辺への二次拡散明らか」】
要請書を提出したのは「ちくりん舎」副理事長の青木一政さんのほか、「南相馬・避難勧奨地域の会」事務局長の小澤洋一さんなど6人。福島県側は放射線監視室、危機管理課、災害対策課などから6人の職員が対応した。
青木さんたちは、今回の山林火災を「帰還困難区域で発生したため、火災による上昇気流による灰の舞い上がり、燃焼による煙、ガスに含まれる放射性物質が大気中浮遊塵として周囲に拡散したことは、福島県が十万山周辺に設置したエアダストサンプラ調査からの結果で明らかです」としたうえで、「放射性物質の吸引による内部被ばくについては、水に溶けない形で肺胞に長期にわたり留まる危険性 、体内での局所的な被ばくによる危険性 などが指摘されています。今後長期にわたり放射能汚染と向き合いながら生活せざるを得ない住民にとって山林火災や除染廃棄物火災、福島第一原発の事故対応工事などによる大気中浮遊塵の放射能レベルの上昇は、今後とも大きな懸念と不安要因として存在し続けます」として、以下の4点を求めている。
①帰還困難区域内をはじめとする除染されていない山林での山林火災防止策、延焼拡大防止策、避難基準の策定。
②火災時における緊急時エアダストサンプラ調査体制の拡充と速やかな調査結果の公開。
③福島県が実施しているダストサンプラ調査結果の随時公開(オンライン化)、調査個所の拡充。
④消火活動従事者、住民に対しての放射線防護の情報提供と防護策の実施
さらに「今後の山林火災防止策、延焼拡大防止策、住民の避難基準の策定はどのような計画で行われるのでしょうか」、「緊急時の大気中浮遊じん放射能モニタリングの拡充についての県としての計画はどのようなものでしょうか」など5つの質問事項も同時に提出。2週間後をめどに文書での回答を求め、県側も了承した。
要請行動には計44団体が「よびかけ団体」、「賛同団体」に名を連ねた。


(上)福島県庁内の記者クラブで会見を開いた小澤さん(左)と青木さん。「帰還困難区域」という汚染地域での山林火災による内部被曝の危険性を問題視している。「福島県は県民を守るという視点で動くべきだ」
(下)「保養」の会見同様に空席が目立った記者会見。「被曝」問題はもはや、地元記者クラブの関心事ではなくなっているようだ
【「汚れた空気を吸わされた」】
要請書提出にあわせて、県庁内の会議室で約1時間にわたって話し合いが持たれたが、県職員側からの発言はほとんど無し。青木さんや小澤さんからの趣旨説明を、ぽかんとした表情で聴いていた。そもそも今回の山林火災に対する認識がかみ合っていない様子で、放射性微粒子の飛散による内部被曝の危険性を訴える団体側に対して、放射線監視室の職員が「十万山周辺のモニタリングポストの数値に大きな変動は無かった。大気浮遊じんの測定では一時的に数値が上がったところがあるという認識はあるが、測定で採取された放射性物質が強風で舞い上がったものなのか火災由来なのか、詳細を調べているところ」と答えた程度。県としての考えを説明出来る職員はいなかった。
「単なる山火事では無い」。青木さんたちが第一に問題視しているのは、発生場所が高濃度に汚染された帰還困難区域であるという点だ。しかし、ヘリによる空からの消火や自衛隊への出動要請にかかわったという災害対策課の職員は「鎮火まで12日を要したという意味では県内最大規模の山林火災になったが、ご意見が違う部分もある。乾燥した時期であったという事、急斜面でホースも届かず消火しにくかった事などの要因が重なって長期化した」、「消火するという行為は場所がどこであっても変わらない。そのためには最善を尽くす」と答え、論点がかみ合わなかった。青木さんは「帰還困難区域で山林が燃えるという事について問題だという認識は持っているのか。そこがずれていると、これ以上の話が出来なくなってしまう」と何度も尋ねたが、県職員から明確な答えは無かった。
県放射線監視室は、鎮火から一週間後の5月17日で追加モニタリングを終了させ、既存のモニタリング体制に戻した。小澤さんが「県民を守るという意味で、せめて5月末までは追加モニタリングを続けるべきだった。私たちは汚れた空気を余分に吸わされた。大気浮遊じんにほとんど触れずに『大丈夫だった』と結論づけているが、呼吸による内部被曝についてどのように認識しているのか」と質したが、これについても回答は無かった。


帰還困難区域での山林火災を受けて福島県職員と市民団体の話し合いが持たれたが、論点はかみ合わないまま。文書での回答を待つ事になった=福島県庁内の会議室
【空席目立った会見】
青木さんや小澤さんたちは山林火災を受け、麻の布を屋外に張って付着した放射性物質の量を測定する「リネン吸着法」を使い、独自に放射性物質の二次拡散について調べてきた。その結果、十万山から北に17km離れた南相馬市原町区や南西に14kmの田村市都路などで火災前と比べて高い濃度の放射性セシウムが確認されている(06月05日号参照)。
しかし、福島県は出火当初から「周辺の空間線量に変動無い」として環境や人体への影響は無いとの姿勢を貫いた。地元紙も、放射性物質の二次拡散を懸念するインターネット上の書き込みを「デマ」と一蹴。夕刊コラムで「原子炉爆発から6年が過ぎても、収束がままならない事故のこれが現実だろう。政府も全国紙も、この現実にあまりにも鈍感過ぎるのではないか」などと書いた紀伊民報(和歌山県)には抗議が殺到し、後に「多くの方に心配をかけ、迷惑を与えたことになる。まことに申し訳ない。陳謝する」とコラム上で詫びる事態になった。
県職員との話し合い後、青木さんたちは福島県庁内の記者クラブで記者会見を開き、「縦割り行政の弊害だ。県民の内部被曝を防ぐという観点で県は取り組んで欲しい」などと語ったが、加盟社の関心は低い。数人の記者が出席したのみで空席が目立った。質問もほとんど無く、NHKの記者が「リネン吸着法」に関し「どの程度、これまで測定に使われて来たのか。チェルノブイリ原発事故では使われたのか」と尋ねたのみ。途中で退席した記者もいた。話し合いの場には地元紙・福島民友の記者が取材に来ていたが、途中で退室した。
浪江町に出されていた避難指示は3月31日で帰還困難区域以外で解除され、6月末現在、133人とはいえ町内での生活を再開させている。帰還困難区域での山林火災は今後も起こり得るため、迅速な情報提供と被曝防止策が必要だ。しかし、行政もメディアも腰が重い。〝復興〟に貢献しない「被曝リスク」の話題は、もはや過去の話になってしまった
(了)
スポンサーサイト