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【国道114号】〝復興〟のためなら帰還困難区域もフリーパス?国道6号にならい秋にも自由通行へ。経済効果望む「とんやの郷」。津島地区の住民は困惑と怒り

福島県福島市から川俣町を通り、浪江町に抜ける「国道114号線」。帰還困難区域を含むため、現在は許可を得ないとバリケードで止められる。これを今秋にも自由通行出来るようにしようと浪江町が計画。沿線住民の間に期待と困惑が交錯している。避難指示が解除された山木屋地区に復興拠点商業施設をオープンさせた川俣町は、売上増を期待して1日も早いバリケード撤去を熱望するが、避難を強いられている浪江町津島地区の住民たちからは「金のためなら高濃度汚染も無視するのか」と怒りの声もあがる。「カネ」の前に「被曝リスク」はひれ伏すしか無いのか。


【「通行を強制・奨励しない」】
 浪江町役場が6月27日に開かれた町議会全員協議会に提示した内容を総合すると、国道114号に設置された2カ所のバリケード(浪江川俣境検問所・加倉室原境検問所)を今秋をめどに撤去。「浜通りの国道6号(2014年9月15日に自由通行再開)と同じように、自動車のみ通行可能とします。バリケードは撤去しますが警備員の配置は継続し、二輪車や自転車、歩行者は通行出来ないようにします。車で走行した場合の被曝線量など数値は公表します。ただ、あくまで『通れるようにする』という事であって、被曝リスクを心配する方に通行を強制や奨励をするものではありません。最終的には個々の判断になります」と町職員は説明する。
 自由通行に伴って生じるのは、自宅への立ち入りが制限されている帰還困難区域住民の「治安への懸念」だ。原発事故に伴う避難指示で住民のいなくなった地域では、いわゆる〝火事場泥棒〟が横行した。そのため、町は自由通行にあたっては国道周辺住民の意向を聴き取り、希望する住民には自宅前などに柵(小型のバリケード)を設置する方針だ。「一時帰宅する場合はコールセンターに日時を伝えてもらうので、それにあわせて国の担当者が鍵を開けに行く。だから、住民の不便さや負担が増すという事は無いはずだ」(町職員)。防犯カメラの増設も検討されている。
 浪江町では、今年3月31日に町内の一部で避難指示が解除されたが、中通りと浜通りをつなぐ国道114号に関しては、津島など帰還困難区域を含むために自由通行が出来ない状態が続いている(常磐道・浪江インターチェンジから国道6号方面へは、2014年12月6日から自由通行可能)。原発事故前は福島市方面から国道6号に真っすぐ抜ける事が出来たが、現在は南相馬市方面に迂回しないと浜通りに出られない。そのため、浪江町としては「利便性向上」のほか、既に避難指示が解除されている町役場周辺地域の「活性化と経済効果」への期待がある。




現在は、通行証を持参しないと「浪江川俣境検問所」から先に入れない国道114号。浪江町は今秋にも、バリケードを撤去して車のみ自由通行出来るようにしたい意向。実現すれば国道6号と同様、高濃度に汚染された帰還困難区域を車両が自由に行き交う事になる=福島県双葉郡浪江町津島

【「売り上げ増へ自由通行を」】
 国道114号を巡っては、浪江町に隣接する川俣町が自由通行を熱望しているという側面がある。浪江町議が明かす。
 「自由通行は浪江町のためというのもあるが、半分は『とんやの郷』のためだよ。行き止まりでは商売にならないからね。馬場有町長は川俣町から何度も催促されていたんだよ」
 「浪江川俣境検問所」から福島市方面に6kmほどの位置にある「とんやの郷」。避難指示が今年3月31日で解除された事を受けて、川俣町山木屋地区に約6億8000万円かけてオープンした「復興拠点商業施設」だ。
 いわゆる「道の駅」のような施設で、地元の「川俣シャモ」を使った親子丼などが食べられる食堂のほか、売店、住民票発行などを担う行政サービスコーナーがある。今月1日のオープン日には、安倍晋三首相自ら訪れて〝復興〟をアピールした。しかし、トイレは24時間使えるものの、売店や食堂は日曜日は休み。規模も施設の中身も違うとはいえ、福島県国見町の国道4号にオープンした道の駅「国見あつかしの郷」が開所74日で来場者50万人に達したのとは、にぎわいぶりが大きく異なる。だからこそ「1日も早くバリケードを外して通れるようにして欲しい」と川俣町役場の職員は話す。
 「日曜日も営業して欲しいという要望は多いんですよ。浜通りに抜ける一番の近道であり、ここは最後の休憩地ですからね。でも、今は行き止まりですから…。売り上げを考えたら、やっぱり行き止まりよりも自由通行出来る方が良いですよね。『その日』に備えて、日曜日も営業するかどうか検討を進めています」
 売店で働く女性も「今はお昼くらいまでかな、忙しいのは。除染の作業員さんたちでにぎわうからね。もしバリケードがなくなれば人の流れが変わって忙しくなるかな」と期待を寄せる。川俣町の佐藤金正町長は、施設で配られているパンフレットで「この場所は福島市から浪江町に向かう国道114号線沿いです。この地の利を生かして、浜通りの復興にもお役に立てることも願っています」と綴っているが、本音は「カネ」なのだ。




平日の午後とはいえ、空きが目立つ「とんやの郷」の駐車場。普通車57台、大型車4台分のスペースが設けられている。それだけに、川俣町にとって国道114号の自由通行は悲願。秋にも注意喚起の看板が外されるのか。しかし、反対の声も少なくない=福島県伊達郡川俣町山木屋

【「住民説明会開くべき」】
 困惑しているのは、原発事故から6年以上が過ぎても高濃度汚染で帰還困難区域に設定されている浪江町津島地区の住民たちだ。今月に入り、津島地区にある「羽附」や「赤宇木」など8つの行政区長が集まって区長会が開かれたが、参加者の一人は「帰還困難区域への立ち入り制限との整合性はどうなるのか。他の地域の住民にとっては利便性が増すのかもしれないが、我々は苦痛が増す事になる」と憤る。
 地元紙は、町議会全員協議会で町の方針が示された事を受けて、【今秋にも一般通行可 浪江の114号国道全線】(福島民報)、【国道114号、17年秋にも「自由通行」 浪江町方針、復興加速化へ】(福島民友)と6月28日付の紙面で報じた。しかし、町議の中には「まだ町の方針が示されただけで何も決まっていない。あたかも決まったように報じられるのは心外だ」との意見もある。津島地区の住民も、利便性の向上には一定の理解を示しながらも「バリケード撤去ありき、で話を進められては困る」と住民説明会の開催を求めている。だが、町役場は「結局は声の大きい一部の人だけが出席する事になってしまう。果たして多くの住民の意見を吸い上げる事が出来るか疑問」として開催には消極的だ。
 浪江町役場は現在、アンケート調査を行うなど自由通行への住民の意見を聴く方法を検討しているという。役場職員は「賛成している住民もいる。偏った意見ばかりに耳を傾けないで欲しい」と強調するが、国道114号沿いは依然として空間線量が高いのも事実。津島地区の住民が「通行すればかなりの放射線量を浴びると思う。常磐道も国道6号もそうだけど、本当は車だけとはいえ通してはいけないんだ。でも、国や町は良いと言う。結局は経済活動のため。良いというんだから大丈夫なのだろ?」と自嘲気味に話すのも当然だ。今から住民の意向を尋ねて秋に自由通行させる事など出来るのか、疑問視する声も町議会にはある。
 「まだ線量高いのに通して良いのか?」。素朴な疑問は〝復興加速〟の前にかき消されようとしている。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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