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【自主避難者から住まいを奪うな】無償提供打ち切り後初の交渉も平行線。避難者から怒りの声、県職員は「ていねいに粘り強く」で一蹴~第8回福島県庁交渉

2011年の原発事故に伴う〝自主避難者〟向け住宅の無償提供が今年3月に打ち切られた事に抗議・反対し、打ち切りに伴う困窮避難者救済を求める避難者団体と福島県職員との交渉が28日午後、福島市内で開かれた。交渉は通算8回目だが、打ち切り後は初。しかし議論は今回も平行線のまま。内堀雅雄知事との直接対話も果たされず、時間切れに終わってしまった。家賃補助の手続き遅滞や生活保護申請の足かせとなっている事など問題は山積だが、県側は今後の交渉継続には消極的。「多くの避難者が住まいを確保出来ている」と幕引きを図っている。


【避難者と会わない内堀知事】
 これまで何度となく繰り返されてきたやり取りが、この日も再び繰り返された。
 「ひだんれん」(原発事故被害者団体連絡会)を中心とした当事者側は住宅の無償提供打ち切りが時期尚早だった事を前提として念頭に置きつつ、現在進行形の困窮を着実に救済していくよう求める。一方、県庁職員側は今まで通り戸別訪問などを通じて「ていねいに」「寄り添って」「粘り強く」対応していくと答える。実際に打ち切りが強行されて4カ月が経過しているからか、県職員の言葉遣いや態度にはこれまで以上に〝収束ムード〟が漂い、もはや「住宅問題」など大きな問題では無いかのよう。用意された90分はあっという間に終了。認識のズレはこの日も修復される事はなかった。
 県側が提示した事前質問への回答によると、福島県内外への〝自主避難者〟のうち、住まいが決まっていないのはわずか138世帯で、1%程度。「3回にわたる戸別訪問などで、自主避難者の多くについては4月以降の住まいを確保できている」という認識だ。しかし、県の示す数字からは、今年3月末に向けて半ば強制的に住まいを退去させられ、新たな住まいを何とか確保したものの、家賃が支払えるめどが立たない避難者の実態は見えて来ない。そもそも、避難元が「政府による避難指示が出ていない区域」というだけで、原発事故に起因する〝自主避難〟だ。決して旅行を楽しんできたわけではない。住宅の無償提供すら受けられなかった避難者も多い中で、住宅の無償提供は唯一の公的支援だった。避難先の自治体によっても対応に差が生じた。国も福島県も、原発事故を想定していない「災害救助法」を無理矢理あてはめ「応急救護の状態ではなくなった」、「除染で生活環境は改善された」と強調するが、放射線による被曝リスクに対する考え方は千差万別。専門家と呼ばれる人々の間でも見方は異なる。その中で「子ども被災者支援法」では全ての選択を尊重するよううたわれているが、福島県の内堀雅雄知事は一方的に打ち切りを強行した。
 この日の交渉でも、「福島原発かながわ訴訟」原告団長の村田弘さん(福島県南相馬市から神奈川県横浜市に避難中)が「内堀知事は、打ち切りは問題無く行われたと考えているのか。打ち切りによって生活困窮に追い込まれたり、自ら命を絶つという悲惨な事態が発生している事に対する責任を認めるのか」と質したが、生活拠点課の担当者は「事前に伝えたものが回答という事で御理解いただきたい」と繰り返すばかり。「知事の考えを直接、聴きたい。これまでも何度も求めて来た」という声にも、県側は「これからも福島県という組織全体で丁寧に対応してまいります」と文書の中で答えるばかりで、職員からの直接的な言及は無かった。




(上)4カ月ぶりに開かれた避難者団体と福島県職員との交渉=福島県福島市の中町会館
(下)いまもなお、避難者との直接対話を頑なに拒み続ける内堀雅雄知事。県外避難者は〝復興〟に寄与しない。逆に東京五輪での一部福島開催が決定した女子ソフトボールの選手とは喜んで会い、地元産のサクランボを贈る=6月14日、福島市の十六沼公園

【家賃補助が生活保護の壁に】
 貧困対策の観点から避難者救済に奔走している瀬戸大作さん(「避難の協同センター」事務局長)は、いら立ちを懸命に抑えながら「そもそも今年3月での打ち切りは無理があったのではないか」と訴えた。福島県は住宅の無償提供打ち切りに伴う救済策として月収21万4000円以下の世帯を対象に2年間限定の家賃補助制度(初年度月額3万円、2年目2万円)を用意したが、瀬戸さんによると、家賃補助が「収入」とみなされて生活保護申請が却下されたケースが実際にあるという。避難者に同行して避難先自治体との交渉にあたっている経験を踏まえて「県は避難先自治体の福祉部局につなぐと言うが、つないだ結果はフィードバックされているのか。特に母子避難世帯の生活困窮について傾向分析をしているのか。生活保護の申請は、そう簡単に認められない」と質したが、県側から具体的な回答は無かった。
 「避難先自治体の職員の中には『子ども被災者支援法なんて知らない』と言う人すらいる」と訴えた瀬戸さん。県側が「母子世帯で困窮者が多いというのは避難だけでなく全国的な傾向だ。厚労省の調査でも母子家庭の収入は低い事が分かっている」と〝一般論〟として語り始めると「今回の打ち切りがさらに困窮に輪をかけたのではないか。原発事故があったから避難したんだ。原発事故が無かったら母子世帯になっていなかった人はたくさんいる」と怒った。
 福島市から山形県米沢市に避難中の武田徹さん(「原発事故避難者を支援する会」副代表)は、家賃補助がスムーズに行われていない点を指摘した。「山形では、転居で多額の支出があったのに補助金をもらえていない避難者がたくさんいる。早急に振り込むよう全力を挙げて取り組んで欲しい」と求めた。県によると6月30日現在、家賃補助の申請は2070件寄せられているが、依然として806件が審査中だという。生活拠点課の担当者は「時間がかかっているのは事実。審査を大至急進めるという事に尽きる。スタッフの増員やスキルアップも含めて体制の強化を考えている。書類の不備があるのも事実。一生懸命やっていきたい」と答えた。
 申請受付や審査などの事務手続きは人材派遣会社・株式会社トーネット(福島県福島市八木田)に委託しているが、同社のホームページでは「民間賃貸住宅家賃補助に関わる業務」として2人の募集が続いている。非避難者が避難者への補助金交付を審査している。






福島県側からいくつかの数字が示されたが、都合の悪い数字は出さないのが行政の常。「避難先での自死」や「退去拒否」の数字を非公表としている点に関し、県職員は明確な理由を明らかにしない

【「8月に再度交渉の場を」】
 4カ月ぶり、住宅の無償提供打ち切り後初めての交渉という事もあり、用意された90分はあっという間に過ぎて行った。避難者側は時間延長を求めたが、県側は拒否。8月中に9回目の交渉を開けるよう、改めて求めて行く事になった。しかし、この日の交渉も「ひだんれん」が窓口となって再三にわたって要求してようやく実現。今後の交渉にも県側は消極的だ。出席した避難者からは「もう終わったものだと思っているのだろう」と怒りの声があがった。
 交渉のスタイルも検討の余地はある。地元紙記者も取材に訪れたが、交わらない議論に途中退席した。最後まで残ったのは読売新聞の男性記者のみ。〝自主避難者〟への住宅無償提供に対する福島県内での共感が決して広がっていない中で、いかに発信するかは検討課題だ。ただ、それぞれに避難先での日々の生活があり、裁判で国や東電と争っている中での福島県との交渉には限界があるのも事実。
 来年の知事選で再選を果たし、2020年の東京五輪で「福島の復興」を世界に発信したい内堀知事という牙城を崩すのは相当な知恵と体力が要る。原発事故による被曝リスクからの避難という当然の行動で生活困窮に陥っている避難者がいる事に、今後も関心を寄せて行きたい。



(了)
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鈴木博喜

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