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【原発事故と健康調査】「放射性物質は県境で止まらぬ。近隣県でも実施を」。避難者団体が環境省と交渉。「専門家が不要と判断」。変わらぬ国の消極性

「『避難の権利』を求める全国避難者の会」に加入している避難者らが29日午後、全国の避難先から東京・永田町に集まり、健康診断システムの拡充を求めて環境省と2時間にわたって話し合った。避難者側は「放射性物質の拡散は福島県にとどまらない」として近隣県でも国の責任で甲状腺検査などの県民健康調査を実施するよう求めたが、環境省側は従来通りの〝定型文〟を読み上げながら「有識者会議で不要と判断された」として拒否。交渉は平行線のまま終わった。当事者と官僚との溝は深いが、同会は「今日は第一歩」として今後も粘り強く話し合いの場を設けていく。


【〝定型文〟回答にため息】
 「繰り返しになって申し訳ないですが…」。まるで定型文のような言葉を環境省の若手官僚が口にする。要望や質問に直接答えず、抽象的な回答を繰り返すのは公務員の常。これまで何度も聴かされた。原発事故のあった地域の住民として、国民として当然の願いはしかし、6年以上が経っても届かない。若手官僚は避難者の言葉をうなずきながら聴く。しかし、当然ながら答えは変わらない。北海道や静岡、京都などから駆け付けた避難者たち。思わずため息が出る。天を仰ぐ。それでも、折れそうになる心を支えるように、共同代表の中手聖一さん(福島県福島市から北海道)は言った。
 「私たちの認識や要望と現実とのかい離が大きくなっている。今日を、どれだけ認識の溝を埋めて行かれるのかの第一歩にしたい。ぜひ有効な時間にしたい」
 避難者側が環境省に求めているのは、甲状腺検査を軸とした健康管理・調査の拡充。国が主体性を持ってリーダーシップを発揮し、福島県内はもとより宮城や栃木、茨城、千葉など近隣県での健康影響調査の実施だ。福島瑞穂参院議員を通して事前に環境省に提出していた要望書にも「福島県や福島県立医科大学に任せず」、「成人、原発事故発生後に受胎して生まれた人にも検査の受診を勧める」、「検査対象を、福島県外で被ばくした心配がある人々にも広げる」などの文言が並んだ。しかし、出席した環境省環境保健部の若手官僚の答えはやはり、〝定型文〟だった。
 「事故による放射線にかかる住民の健康管理につきましては、医学等の専門家の御意見を十分に尊重したうえでコンセンサス(同意)が得られた科学的知見に基づいて進める事が何よりも重要だ。福島県の皆様の将来にわたる健康の維持・増進をはかるために、福島県は県民健康調査を実施している。環境省としても適切に実施されるよう財政的・技術的な支援を行っている。引き続き福島県に対して必要な支援を行うとともに、県民健康調査検討委員会での議論を関心を持ってしっかり注視して参りたい」




(上)「『避難の権利』を求める全国避難者の会」と環境省との交渉は平行線。避難者側は「今日を第一歩にしたい」と継続的に話し合いを設ける方針だ=参議院会館の会議室
(下)避難者側は、甲状腺検査を含めた包括的な健康影響の調査を福島県以外でも実施するよう求める。しかし、環境省の答えは「NO」だった

【「健康調査は福島だけで良い」】
 県境に巨大な壁でも無い以上、爆発事故で放出された放射性物質が福島県内だけにとどまるはずも無い。今年6月、衆議院会館で行われた講演会で木村真三氏(独協医科大学准教授、国際疫学研究室福島分室室長)も「甲状腺検査は果たして福島県だけで良いのか。関東圏を含めて汚染が起きている。茨城県北茨城市で3人、宮城県丸森町では2人の甲状腺ガンが確認されている。原発事故と因果関係があるのか調べなければならない。しかし、福島以外の甲状腺ガン患者は突発性という形で切られてしまう。栃木県も含めて福島近隣県への検査対象拡大が急務だ」と述べている(2017年6月16日号)。
 しかし、環境省の回答は「NO」。前述の言葉を「繰り返しになりますが」と再び口にした上で、次のように理由を示した。
 「福島県外の近隣県においては、把握している限りでは岩手県、宮城県、栃木県、群馬県が有識者会議を開催するなどして、特別な健康調査は必要無いとの見解がまとめられている。環境省が線引きしているのでは無い。近隣県が必要無いと判断した。国際機関である世界保健機関(WHO)や原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書でも、福島県外での健康調査の必要性は指摘されていない」
 さらに、こうも付け加えた。
 「環境省でも『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』を計14回、開催した。2014年12月にまとめられた『中間取りまとめ』の中で、福島県外における甲状腺検査に関しては慎重になるべきと評価されている」
 「『避難の権利』を求める全国避難者の会」には、千葉県など福島県以外からの避難者も名を連ねている。役員の1人、宍戸俊則さん(福島県伊達市から北海道)は「関東からの避難者も多数いる。その回答では到底、納得出来ない」と怒った。
 中手さんも「利害関係者が〝科学的に〟判断したって意味が無い。各自治体にとっては、自分の地域で健康被害が起きているかどうかというのは、まさに利害問題。冷静な判断など無理だ。そもそも、福島県外での汚染や初期被曝はきちんと調べられていない。自治体という枠にとらわれずに国のリーダーシップで健康調査をやって欲しいんだ」と反論した。だが、環境省側は「ご意見を承る」姿勢に終始した。




(上)共同代表の中手聖一さん。怒りを抑え、努めて冷静に「どれだけ認識の溝を埋めて行かれるのかの第一歩にしたい」と語ったが、官僚との溝はあまりにも大きい
(下)お決まりの言葉ばかりを口にした環境省環境保健部の若手官僚。「国際機関である世界保健機関(WHO)や原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書でも、福島県外での健康調査の必要性は指摘されていない」

【「検討委の議論注視する」】
 「原発事故当時4歳だった子どもが甲状腺ガンを発症して手術を受けた事が、県民健康調査検討委員会の数字として出て来なかった問題はとてもショッキングだった。いったい何のための県民健康調査なのか。様々な団体が調査のあり方を改善するよう求めているが、福島県の態度が非常に冷たい。環境省が主導権を持って改善するよう対処して欲しい」と訴えたのは熊本美彌子さん(福島県田村市から東京都)。山田俊子さん(福島県南相馬市から神奈川県)も「アドバイスではなく直接、責任を負うような健康管理をやって欲しい。対象は福島県にとどまらず、希望する皆が良い」と話した。宇野朗子さん(福島県福島市から京都府)も「国策の結果として起きた事故。しかも汚染範囲は広範囲に及んでいる。今も続いている公害被害を出来るだけ小さくしたい。広範囲での健康調査が必要だ」と求めた。
 しかし、若手官僚は「途中で経過観察になった事例については、今後も検討委の議論を関心を持って注視していきたい」と答えるにとどまった。
 途中から参加した前田光哉参事官(放射線健康管理担当)は「実はウラに数字があって、環境省が福島県にそれを出すよう指導するという事は今はしていない。オープンな場で議論してもらい、オープンな場で環境省としての意見を言う。環境省は福島県がオープンにした数字しか持っていない。今後、どのように把握するのか。委員改選後の9月か10月に開催される次回委員会には何らかの資料が出て来るだろう」と語った。
 避難者側は、健康被害について広く国内外に積極的に周知する事も求めた。環境省側は、これに対しても「放射線による健康不安への対策については、被災者の現状やニーズなどを踏まえつつ関係省庁が連携して取り組んでいくとともに、正確で分かりやすい情報提供をしっかりと進めていく事が重要だと考えている。環境省では放射線に関する科学的知見や資料を作成し、毎年度更新するとともに教育関係者などを対象とした研修会を全国で実施している。住民参加の意見交換会やイベントも全国で開き、県民健康調査の結果も含めて情報提供している。引き続き健康不安対策に努めるとともに、正確な情報の発信にもしっかりと取り組んでいきたい」と〝定型文〟を読み上げるにとどまった。
 2時間に及んだ交渉は今回も落胆に包まれた。しかし、中手さんたちはこれを「第一歩」として今後も話し合いを続けていく。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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