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【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】「事故は〝見えない空襲〟」。準備書面から読み解く原告の想い。「好んで被曝を選択してない」。2月から本人尋問

「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人(福島県福島市や郡山市、田村市などに在住)が原発事故で精神的損害を被ったとして、東電を相手に起こした損害賠償請求訴訟の第7回口頭弁論が13日午後、福島地方裁判所206号法廷(金澤秀樹裁判長)で行われた。双方の書面や裁判期日の確認などで弁論そのものは5分程度で終了。緊張の面持ちで法廷に集まった原告たちの想いは、この日提出された準備書面(8)に凝縮されていた。次回期日は11月20日14時。次々回の2018年2月の期日からは、いよいよ原告への本人尋問が始まる。


【「御触書出す江戸幕府と同じ」】
 A4判で54ページに及ぶ準備書面は、まず「東電公表賠償額の合理性・相当性」に対する反論から始まる。
 「被告が『合理性・相当性がある』と主張するときには、江戸時代の御触書を出す幕府の心得のように『よらしむべし、知らしむべからず』(ルールに従わせるのみで、理由や内容を民に教えてはいけない)と同じ意図が隠されているというべきである」
 「『なぜルールに従わなくてはならないのか』を説明するときに、中身の正当性・合理性を説明するのではなく、ルールに従うことの必要性・重要性にすり替えるやり方は、独裁的な為政者の常とう手段である。被告は、政府と一体となったかつての電力事業独占事業者としての威光を背景として、身勝手な論理を振りかざしているというほかはない」
 被告・東電側は「中間指針追補等に基づく自主的避難等対象者に対する一人当たり8万円という精神的損害等の賠償額は合理性がある」と主張する。しかし、その理由は語らない。原告たちは「そんな金額では到底足りないほどの苦痛を味わっている」、「しかもそれは一人一人全く異なる」と訴えているが、すれ違いの連続にため息ばかりが出る。「東電の反論を読むとイライラして嫌気がさす」、「まるで訴えている事自体が駄目なんじゃないかと思ってしまう」と原告たちは徒労感ばかりが募る。
 ある女性原告は原発事故後、仕事を休みがちになり、月収が6~7万円も減ってしまったという。「政府の避難指示が出されていない区域に住んでいる」というだけで一方的に少ない賠償金額を決められ、今や「皆が住んでいるのだから我慢しろ」とまで言われる。「私たちには放射線から逃れる権利がある。こちらの事情で勝手に逃れているのではない」と憤るのも当然だ。




(上)閉廷後に行われた学習会では、原告から「疲れてしまってやる気が無くなっていたが、準備書面を読んで再び頑張ってみようと思えた」との声もあがった=福島市の「チェンバおおまち」
(下)野村吉太郎弁護士が「原告の皆さんの顔を思い浮かべながら苦心して書いた」と振り返る準備書面(8)。随所に原告たちの率直な想いが盛り込まれている。中には「読んで涙が出た」と話す女性原告も

【「喫煙・飲酒と同列視するな」】
 被曝リスクに対する主張も平行線だ。東電側は「100mSv以下の被曝による発ガンリスクは他の要因(喫煙、飲酒、やせすぎ、肥満、運動不足、塩分の過剰摂取、野菜不足など)によって隠れてしまうほど小さい」と主張するが、準備書面(8)ではこう反論する。
 「本件原発事故による放射線被曝は原告らに選択・決定権はなく、原告らにとってむしろ迷惑なものであり、かつ被曝を事実上強制させられているものである」
 女性原告は「これこそ私が言いたかった事。被曝は喫煙や飲酒とは違うんです。自分で被曝を選んだのでは無いんです」と話す。野村弁護士は、原告たちの想いを高く時に例えて表現した。
 「1000万人に1人しか当たらない高額賞金宝くじを喜んで買う人は大勢いる。しかしながら、同じ確率で死亡するくじを好んで買う人はいるだろうか。いるはずがない。くじが無料であってもいらないと言うであろう。本件原発事故による放射線被曝により健康被害を被る確率が仮に宝くじに当たる確率と同等としても、それを受け容れることは、原告らとしては到底できない」
 「原発事故による放射線被曝というくじを無理矢理引かされて、あとからくじを引いた代償として大人1人4万円差し上げますと言われて、一体誰が納得するであろうか」
 準備書面(8)はさらに、原子力損害賠償紛争審査会が2011年12月6日に公表した「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補」の中ですら「当該地域(「避難指示等対象区域」の周辺地域)の住民は、そのほとんどが自主的避難をせずにそれまでの住居に滞在し続けており、これら避難をしなかった者が抱き続けたであろう恐怖や不安も無視することはできないと考えられる」、「自主的避難等対象区域においては、住民が放射線被曝への相当程度の恐怖や不安を抱いたことには相当の理由がある」などと言及されている点にも着目した。
 被告・東電もこの考えに従って賠償金を支払ったにもかかわらず、原告たちの被曝への不安を「漠然とした危惧感にとどまる」と繰り返し述べている事に対して「厚顔と責任感の欠如にも程がある」と厳しく批判している。




(上)福島県の中通りでは、いまだに多くの除染廃棄物が自宅敷地内に保管されている。これを毎日目にして気が滅入っているのに、〝加害者〟である東電は既払い金の範囲内だと繰り返す
(下)一方で、中通りは〝復興〟に向けてまい進している。ある原告は「もちろん復興は大事。でも、私たちが受けている被害も事実。行政は訴訟を『復興の足を引っ張る』と考えるのではなく、むしろ応援して欲しい」と話す

【「通常」歪めた原発事故】
 被告・東電は、中通りの現状について「政府による避難指示の対象になっていない」、「空間線量は避難を要する程度のものではなく、通常通りの生活を送るに支障のないものであり、時間の経過とともにさらに低減している実情にある」と述べる。
 では、避難指示の有無と放射性物質の拡散には相関関係はあるのか。準備書面(8)は「原告らの精神的損害の有無に関する線引きにはならない」と断じる。そもそも、原発事故前の空間線量は0.04μSv/h程度だった。それが原発事故で数百倍にもはね上がり、除染や自然減衰で徐々に下がってきているのが実情。準備書面(8)は「被告の本件原発事故に対する責任感のなさと原告らが本件原発事故後の生活の中で味わって来た様々な苦悩に対する無理解に対して、原告らは全身全霊をもって強く抗議する」と厳しく批判している。
 閉廷後の学習会で、ある女性が重い口を開いた。
 「例えば浪江町の帰還困難区域でも住民が裁判で闘っています。向こうは現実的に放射線量が高いし、戻れません。それに比べると福島市はおだやかというか…。ふくしまは負けない、なんてスローガンも掲げられていて、その差に心が狂わされてしまいます。でもやっぱり、どう考えても中通りだって原発事故で家族はいろいろと変わってしまったんですよ。大丈夫ですよ、心配しすぎですよ、そんなに心配なら福島を出なさい、なんて言わせてはおけません。おとなしく、お利口さんでいる自分はおかしいと改めて思いました」
 中通りで暮らす人々は、とかく極端に描かれがちだ。時には県外避難を選ばなかったと責められる対象として、時には国や行政の進める〝安全〟〝安心〟の象徴として。実際、福島県生活拠点課の職員は、〝自主避難者〟に対する住宅無償提供打ち切り問題に関する交渉の場で、何度も「避難していない人の方が多い」、「みんな普通に暮らしている」と口にしている。しかし本来、避難者と非避難者は対立軸では無い。「公的支援が受けられるのなら、今からでも県外に避難したい」という声は絶えない。その心情を、準備書面(8)ではこう記している。
 「原告らの中には自主的避難をせず、中通りにとどまった者もいるが、友人や知り合いで避難した人のことを考え『避難できる人』と『避難できない人』との社会・経済的格差を認識し、それによって苦しんだのである。本件原発事故がなければこのような社会・経済的格差に原告らが苦しむことはなかった。原告らにとって、原発事故前の『通常』が歪められ、打ちのめされたのである」
 準備書面(8)は、原発事故に伴う放射性物質の拡散を「音もせず、見えない『空襲』」と表現した。「空襲」による苦しみは今も解消されていないのだ。



(了)
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鈴木博喜

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