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【飯舘村で「対話キャンプ」】無用な被曝は絶対に避けるべきか、実際に村を訪れて原発事故被害を理解するべきか~高校生・大学生が三連休利用し「2泊3日」

高校生や大学生など全国の若者たちが3日から5日にかけて実施された「対話キャンプ in 福島~復興視察・講演会~」で福島県相馬郡飯舘村を訪問。村内に2泊し、原発事故から80カ月が経とうとしている村の実情について学んだ。参加者の中には制服姿の女子高生もおり、村民から「あんなに放射線量の高い土地に宿泊させて良いものか」と被曝リスクを懸念する声があがる一方、「実際に現場を目で見る事の意義は大きい」との見方もある。実際に参加した若者たちも「実際に訪れて良かった」と目を輝かせた。原発事故汚染地を理解するとはどういう事か。被曝リスクとどう向き合うか。今後の課題について考えたい。


【「福島に住んでいても分からない」】
 「対話キャンプ」は、慶応大学1年の田中駿介さん(20)が中心となって企画。「日本青年国際交流機構」の共催事業として実施された。機構は内閣府とつながりの深い団体のため「原発推進プログラムなのではないか」、「原発事故被害を矮小化する狙いがあるのではないか」などの批判も田中さんの元には寄せられた。「確かに助成は受けているが、内容に関しては一切、口出しされていない」と田中さん。当初は数人の応募しか無かったが、最終的には北海道や岐阜県などの女子高生6人を含む男女20人が参加した。参加費は大学生7000円、高校生5000円。参加を呼び掛けるポスターには記載されていないが、参加者には事前に飯舘村の放射線量などを伝えたという。また未成年者には、保護者の同意書を提出するよう義務付けた。ポスターに使用されている2人の女性の写真は、著作権フリーの素材を使ったという。
 参加者は3日昼に福島駅に集合し、チャーターしたバスで浜通りに移動。福島第一原発周辺を見て回った。途中、広野町では、社会学者で楢葉町放射線健康管理委員も務める開沼博氏(いわき市出身)から10分ほどレクチャーを受けた。
 夕方に飯舘村に到着し、農業研修所として使われていた「いいたてふぁーむ」(飯舘村小宮野手神)に宿泊。4日は「ふぁーむ」の管理人である伊藤延由さん(73)が原発事故によって汚染させられた村の現状について講演したほか、パネルディスカッションなどで学んだ。最終日は朝から福島駅近くに移動し、立教大学名誉教授で対話キャンプに帯同した五十嵐暁郎氏(71)=新潟県出身=が政治学者の視点から原発建設の歴史や問題点について講演。午後に解散した。
 伊藤さんによると、ふぁーむ内では屋外での活動はほとんどなく、室内での学習が大半だったという。若者たちから伊藤さんに贈られた色紙には「抱いていたイメージとは異なる現状について知る事が出来た」、「放射能について無知だったと実感した」、「今回学んだような情報は地元にはほとんど届かない」などの言葉が綴られている。地元・福島の参加者も「福島に住んでいても分からない事がたくさんある」と感想を寄せた。






(上)「対話キャンプ」に参加した女子高生たちは「周囲の反対はあったが福島を訪れたいという想いがあった。実際に来て良かった」、「こういう環境で実際に住んでいる人もいる」、「参加した事で今後、自分の身体にどれだけの影響があるか分からないので怖い面はあるが、参加して良かった」などと話した
(中)3日間の「対話キャンプ」に帯同し、最後に講演した立教大学の五十嵐名誉教授。「日本が原発をつくってはいけない国」、「事前に津波対策を講じていれば福島原発事故は避けられた可能性がある」などと語った=福島市の「アクティブシニアセンター・アオウゼ」
(下)「対話キャンプ」の告知ポスター。黒を基調に爆発後の福島第一原発がデザインされた案もあったが、福島の協力団体から「明るく前向きなデザインにして欲しい」と要請されたという。

【「両親から猛反対されたが…」】
 もちろん、インターネットや書籍を通して見聞きするよりも、実際に現場を訪れる方がはるかに得るものは大きい。しかし、この問題の難しさは、現状を知ろうと現場を訪れるには必ず、被曝リスクが伴う点だ。やはり講師として招かれた元村役場職員の菅野哲さん(福島市内に避難中)は「現場を見てくれるのは良い事だが、村内に2泊もするのは賛成できない」と話した。若者たちを2日間、受け入れた伊藤さんも「いろいろと語り合ってみて、彼らが単に物見遊山で飯舘村に来たわけでは無い事は良く分かった。思いの外、意識は高かった。しかし、被曝リスクが無い、絶対に大丈夫なんて誰にも言えない。被曝は絶対に避けるべきだという考えは変わらないが、現場に来て学ぶ意義は大きいとも思う。非常に悩ましい」と語る。
 伊藤さんによると、ふぁーむの食堂は約0.3μSv/h、女子の宿泊棟は0.4~0.5μSv/hあるという。参加者の1人に線量計を携行してもらったところ、35時間の滞在での積算線量は8.5μSv。伊藤さんの換算では0.36μSv/hに相当するという。原発事故前の空間線量が0.04μSv/h程度だったので、10倍ほど多く被曝した計算になる。屋外での活動はほとんど無かったとはいえ、放射性微粒子を吸い込む危険性も否定出来ない。
 参加した女子高生の1人は「自分が普段の生活環境の10倍の放射線量の場所にいる、と村で聞いた時に怖いなと思ったし、自分の身体にどういう影響があるのか分からないけど、それでも参加して良かったと思う」と話した。「将来があるから参加しない方が良いと言う大人もいたが、参加した事で自分の身体に悪影響が出たとしても何とも思わない。参加したメリットの方が大きかった」と話す女の子もした。別の女子高生は「両親に猛反対されたが押し切って参加した。来て良かった」と振り返った。
 主催した田中さんは、インターネット上で厳しい批判にさらされた。筆者も放射線防護の観点から中止を求めたし、中には罵詈雑言に近い言葉を浴びせる人もいた。それでも実施したのは「忌まわしい原発事故を二度と繰り返さないため。飯舘村の現状を視察する事が、それこそ今後の被曝を生まない事につながると考えた」から。「決して原発推進に加担しているわけでは無い」とも。ただ、それであればなおさら、宿泊地をより被曝リスクの低い村外に用意して村での滞在時間を極力少なくするなど、細心の注意が必要では無かったか。問題意識の高い若者ほど現場を訪れたいという気持ちを抱くのも理解出来るが、意識が高い事が決して被曝リスクを減らす担保にはならない事もまた、事実だ。




悩んだ末に若者たちを受け入れ、飯舘村の現状について講演した伊藤延由さん。現場を訪れる「メリット」と「被曝リスク」のどちらに重きを置くかについては、いまだに答えは出ていないという。

【「脱原発」勧める講演会も】
 若者たちに帯同した五十嵐名誉教授も「現地を見る意義は大きい」と肯定的な見方を示した。最終日の5日に福島市内で講演し「国策民営で、コストを無視して原発を建設し続けた」、「電力会社はマスコミを黙らせるために広告を出した」、「地震大国の日本は、原発をつくってはいけない国」、「一方で安全神話を語りながら、事故を隠ぺいしてきた」、「旧民主党政権の脱原発政策が後退したのは、米政府の圧力と言われている」などと日本の原発推進の歴史を90分以上にわたって語った。
 福島第一原発の事故に関しては「大津波を予測した文書など、いくつもの危険信号を無視した。事前に徹底的に対策を講じていれば、事故は防げた可能性がある」と指摘。「原発問題は最終的には政治の問題。目先の利益にばかりとらわれていると、自然や国土が取り返しのつかないものになってしまう」と「脱原発」を呼びかけた。
 参加者が一様に「参加して良かった」と話し〝成功〟に終わった対話キャンプ。一方で放射線防護の課題も残った。医師で長野県松本市長を務める菅谷昭氏は著書「これから100年放射能と付き合うために」(亜紀書房)の中で「地震や津波などの自然災害であれば、時間はかかっても必ず復興することができる。しかし、放射能に汚染されてしまった土地はそういうわけにはいきません。再び住めなくなる土地が出てくるのです」と述べている。また「年20mSvに達しない土地ではもはや避難の必要は無い」と断言する山下俊一氏(長崎大学、福島県立医大副学長)でさえも、著書「正しく怖がる放射能の話 100の疑問『Q&A』 長崎から答えます」(長崎文献社)の中で次のように書いている事を忘れてはならない。
 「放射線を防護する鉄則は、つぎのとおりです。①放射線源から離れる②放射線に接する時間を短くする③放射線を遮る環境にとどまる④放射性物質に触れたらすみやかに取り除く」



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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