【自主避難者から住まいを奪うな】〝米沢追い出し訴訟〟山形地裁で第1回口頭弁論。海渡弁護士「住宅打ち切り違法」。請求棄却求める。訴状の杜撰さ指摘も
- 2017/11/22
- 07:27
原発事故による〝自主避難者〟が被告となった異例の〝米沢追い出し訴訟〟(雇用促進住宅明け渡し訴訟)の第1回口頭弁論が21日午後、山形県山形市の山形地裁3号法廷(松下貴彦裁判長)で開かれ、被告側代理人の海渡雄一弁護士は5分間ほど答弁書の要旨を陳述した上で請求の棄却を求めた。原告側代理人弁護士が松下裁判長から訴えの法的根拠を確認されるなど初日から原告側の主張が揺らぐ場面も。海渡弁護士らは原告側のずさんさを指摘しつつ、根本である避難の合理性や住宅無償提供打ち切りの違法性を訴えていく構えだ。次回期日は2018年1月12日11時半。
【存在しない契約合意文書】
訴状などによると、雇用促進住宅を管理する「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」(千葉県千葉市。以下、機構)が山形県米沢市内の雇用促進住宅に入居する〝自主避難者〟8世帯に対し、住宅の明け渡しと明け渡しまでの家賃(1カ月3万4900円から3万7300円)を支払うよう求めている。提訴は9月22日付。
時折、小雪が舞う寒さの中、33席の一般傍聴席を巡り60人を超える傍聴希望者が列をつくった。地元山形の支援者だけでなく、東京や神奈川に避難した当事者や全国の支援者も「明日は我が身」と駆け付けた。「避難者を被告にするな!」、「国と福島県は原発事故避難者の生存権を守れ!」、「住まいの強制立ち退きは人権侵害」、「避難者の追い出し訴訟は認めない!」などと書かれたプラカードを掲げて抗議した。
本訴訟は単に「雇用促進住宅に居座り続ける住民の追い出し」というレベルにとどまらず、避難指示区域外からの避難の合理性や最低限のセーフティネットとしての自主避難者への住宅無償提供の必要性が問われる(2017年11月2日号参照)。それだけに、被告の1人である武田徹さん(76)=福島県福島市から山形県米沢市に避難中=は開廷前、山形地裁前でマイクを握り「これは避難者全体の問題だ」と訴えた。
法廷では、原告側の代理人弁護士が松下裁判長から「使用貸借契約の終了に基づく訴訟なのか、建物の所有権に基づくものなのか次回期日までに法律関係を明確にして欲しい」と求められる場面もあった。原告側代理人弁護士は「所有権に基づく訴えだ」と答えたが、問題となっている雇用促進住宅は今月1日付で信託会社に譲渡されており、機構は所有者では無いという。訴状で原告側は契約満了による明け渡しを主張しているものの、当該避難者側にも提出された証拠にも今年3月末で使用貸借契約が終了する事で合意した旨の公文書は存在しない。被告代理人の1人、西野優花弁護士は閉廷後の会見で「訴状として成り立っているのか。根本が揺らいでいる」と疑問を呈した。被告側はこの点について求釈明している。
法廷では冒頭の2分間、地元記者クラブメディアによる法廷内撮影が行われたが、原告側の2人の代理人弁護士は撮影終了後に入廷した。この点についても海渡雄一弁護士は「ありえない。避難者の皆さんを法廷に引きずり出しておきながら代理人すらがテレビカメラに映りたくないというのは何なんだ」と厳しく指摘した。




(1)「住む家を追い出すな!」。いよいよ原発事故避難者が被告として追い出される異常事態を迎えた=山形地裁前
(2)被告の1人、武田徹さんは「好き好んで避難した人などいない。原因を作ったのは国と東電だ。住宅の無償提供を今後も続けるべき」と訴える
(3)東京や神奈川に避難した人々にとっても今回の訴訟は他人事では無い。「明日は我が身」と応援に駆け付けた
(4)「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは「5年や6年では生活再建など出来ない」と強調する。「ぜひ1万筆は集めたい」と署名活動を展開中だ
【「今や国際的な人権問題」】
被告代理人を務める海渡弁護士らは山形地裁に対し、被告本人の意見陳述を求めていたが、他の裁判日程などを理由に認められなかった。そのため、海渡弁護士は「被告本人は様々な想いを抱えている。次回期日でぜひ意見陳述の機会を作って欲しい」と松下裁判長に求めた上で、本訴訟の論点や違法性について5分ほど陳述した。少し長くなるが引用する。
「本訴訟の論点は2つ。1つは、住宅の無償提供打ち切り自体が違法であり、それに基づく明け渡し請求は棄却されるべきである事。2つ目は、原告である機構は『2017年3月末で使用貸借契約を打ち切る旨の合意があった』と主張しているが、避難者との間にそのような合意は存在せず、機構側も合意の存在を示す証拠を何ら提出出来ていない事。訴状を読んでも、機構と被告らとの間の合意がいつ、誰との間で、どのようになされたのか何ら具体的な主張を欠いている。このような杜撰な根拠をもって原発事故避難者を追い出そうとする機構の対応は極めて遺憾だ。
避難指示区域外からの避難については、政府のさまざまな法令や指針等においても合理性が認められ、国には今でも住宅支援を行う法的義務がある。原発事故による賠償指針を定めている「原子力損害賠償紛争審査会」は2011年12月、区域外避難に対する賠償の指針として『中間指針追補』を定め、区域外避難の合理性を認めた。2012年6月に定められた『子ども被災者支援法』は『被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない』とうたっている。
住宅の無償提供打ち切りにより、多くの区域外避難者が新たな住居費を負担して避難生活を続けるか、経済的に耐えきれずに汚染の続く事故前の住居に戻るかという不可能な選択を強いられている。住宅の無償提供打ち切りは『子ども被災者支援法』第二条に明確に反し、避難者の人格権や生存権を侵害するものであって違法だ。原発事故の被害者であるにもかかわらず被告と位置付けられ、強制立ち退きを求められている。
今月14日にスイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会の定期審査で、福島における早期帰還政策は人権侵害であり、是正するべきであるとする勧告がドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの四カ国から出された。被告らの人権問題は今や国際的な人権問題となっているという事を裁判所にも十分に認識していただきたい」




原発事故避難者が立ち退きを求められて訴えられるという事態に、全国の支援者が山形地裁に駆け付けた。政府の一方的な線引きにかかわらず避難の合理性を司法に認めさせるという意味でも、この訴訟は重要だ
【「追い出さないで欲しい」】
第1回口頭弁論に先立ち、東京・霞が関の司法記者クラブで今月16日に開かれた記者会見で、福島県中通りから避難した母親は「『自立しろ』とは加害者の言う事か」、「ようやく落ち着いた今の生活から追い出さないで欲しい」などと訴えた。別の母親も「2人の子どもの教育費で家計は火の車。蓄えなど出来ない」、「福島の自宅は引き払ったので帰れる家が無い。そもそも避難当事者の意見も聴かずに住宅の無償提供が打ち切られた。打ち切りを撤回し、無償提供を再開して欲しい」と涙ながらに語った。武田さんは「被曝によるわが子の健康被害を心配して避難したお母さんたちのためにも闘い抜きたい」と語る。
県民が原発事故で避難を強いられた上に立ち退きを求められるという異常事態にもかかわらず、福島県の内堀雅雄知事は今月20日の定例会見で「(雇用促進住宅の)管理者と連携を図りながら丁寧に進めてきたところであり、今後も経過を注視してまいります」と答えるにとどまった。吉野正芳復興大臣も今月17日の閣議後会見で「発災の初期段階の支援と、今7年目に入った支援と、支援の中身は当然違ってまいります。発災当時の支援は、これは終わりです。そういう意味で、住宅の支援については、今回福島県は打ち切ったわけですけど、それに代わる支援策として家賃の2分の1補助というものを打ち出しておりますので、そういう支援をこれから継続していくということでございます」と住宅の無償提供継続を否定している。
政府の一方的な線引きにより、原発事故直後から〝自主避難者〟は世間の無理解や誤解、偏見とも闘わなければならなかった。今回の訴訟に対しては、家賃を負担して避難を継続している人や、避難出来なかった人々からも厳しい声があがっているのも事実だ。この点について、海渡弁護士はこう語っている。
「チェルノブイリ事故では、30年経った今も住宅支援が継続されている。そもそも日本政府が設定した年20mSvという設定が高すぎるし、子ども被災者支援法の理念に基づく支援策が実行されていれば、避難出来なかった人たちの感情が悪化する事は無かったではないか。政府は帰還促進一辺倒。避難した人、しなかった人、どちらに対しても無策が続いているために起きた不幸と言える。避難しなかった人々に対しても定期的な保養の機会を保障するべきだ」
次回期日は2018年1月12日11時半。
(了)
【存在しない契約合意文書】
訴状などによると、雇用促進住宅を管理する「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」(千葉県千葉市。以下、機構)が山形県米沢市内の雇用促進住宅に入居する〝自主避難者〟8世帯に対し、住宅の明け渡しと明け渡しまでの家賃(1カ月3万4900円から3万7300円)を支払うよう求めている。提訴は9月22日付。
時折、小雪が舞う寒さの中、33席の一般傍聴席を巡り60人を超える傍聴希望者が列をつくった。地元山形の支援者だけでなく、東京や神奈川に避難した当事者や全国の支援者も「明日は我が身」と駆け付けた。「避難者を被告にするな!」、「国と福島県は原発事故避難者の生存権を守れ!」、「住まいの強制立ち退きは人権侵害」、「避難者の追い出し訴訟は認めない!」などと書かれたプラカードを掲げて抗議した。
本訴訟は単に「雇用促進住宅に居座り続ける住民の追い出し」というレベルにとどまらず、避難指示区域外からの避難の合理性や最低限のセーフティネットとしての自主避難者への住宅無償提供の必要性が問われる(2017年11月2日号参照)。それだけに、被告の1人である武田徹さん(76)=福島県福島市から山形県米沢市に避難中=は開廷前、山形地裁前でマイクを握り「これは避難者全体の問題だ」と訴えた。
法廷では、原告側の代理人弁護士が松下裁判長から「使用貸借契約の終了に基づく訴訟なのか、建物の所有権に基づくものなのか次回期日までに法律関係を明確にして欲しい」と求められる場面もあった。原告側代理人弁護士は「所有権に基づく訴えだ」と答えたが、問題となっている雇用促進住宅は今月1日付で信託会社に譲渡されており、機構は所有者では無いという。訴状で原告側は契約満了による明け渡しを主張しているものの、当該避難者側にも提出された証拠にも今年3月末で使用貸借契約が終了する事で合意した旨の公文書は存在しない。被告代理人の1人、西野優花弁護士は閉廷後の会見で「訴状として成り立っているのか。根本が揺らいでいる」と疑問を呈した。被告側はこの点について求釈明している。
法廷では冒頭の2分間、地元記者クラブメディアによる法廷内撮影が行われたが、原告側の2人の代理人弁護士は撮影終了後に入廷した。この点についても海渡雄一弁護士は「ありえない。避難者の皆さんを法廷に引きずり出しておきながら代理人すらがテレビカメラに映りたくないというのは何なんだ」と厳しく指摘した。




(1)「住む家を追い出すな!」。いよいよ原発事故避難者が被告として追い出される異常事態を迎えた=山形地裁前
(2)被告の1人、武田徹さんは「好き好んで避難した人などいない。原因を作ったのは国と東電だ。住宅の無償提供を今後も続けるべき」と訴える
(3)東京や神奈川に避難した人々にとっても今回の訴訟は他人事では無い。「明日は我が身」と応援に駆け付けた
(4)「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは「5年や6年では生活再建など出来ない」と強調する。「ぜひ1万筆は集めたい」と署名活動を展開中だ
【「今や国際的な人権問題」】
被告代理人を務める海渡弁護士らは山形地裁に対し、被告本人の意見陳述を求めていたが、他の裁判日程などを理由に認められなかった。そのため、海渡弁護士は「被告本人は様々な想いを抱えている。次回期日でぜひ意見陳述の機会を作って欲しい」と松下裁判長に求めた上で、本訴訟の論点や違法性について5分ほど陳述した。少し長くなるが引用する。
「本訴訟の論点は2つ。1つは、住宅の無償提供打ち切り自体が違法であり、それに基づく明け渡し請求は棄却されるべきである事。2つ目は、原告である機構は『2017年3月末で使用貸借契約を打ち切る旨の合意があった』と主張しているが、避難者との間にそのような合意は存在せず、機構側も合意の存在を示す証拠を何ら提出出来ていない事。訴状を読んでも、機構と被告らとの間の合意がいつ、誰との間で、どのようになされたのか何ら具体的な主張を欠いている。このような杜撰な根拠をもって原発事故避難者を追い出そうとする機構の対応は極めて遺憾だ。
避難指示区域外からの避難については、政府のさまざまな法令や指針等においても合理性が認められ、国には今でも住宅支援を行う法的義務がある。原発事故による賠償指針を定めている「原子力損害賠償紛争審査会」は2011年12月、区域外避難に対する賠償の指針として『中間指針追補』を定め、区域外避難の合理性を認めた。2012年6月に定められた『子ども被災者支援法』は『被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない』とうたっている。
住宅の無償提供打ち切りにより、多くの区域外避難者が新たな住居費を負担して避難生活を続けるか、経済的に耐えきれずに汚染の続く事故前の住居に戻るかという不可能な選択を強いられている。住宅の無償提供打ち切りは『子ども被災者支援法』第二条に明確に反し、避難者の人格権や生存権を侵害するものであって違法だ。原発事故の被害者であるにもかかわらず被告と位置付けられ、強制立ち退きを求められている。
今月14日にスイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会の定期審査で、福島における早期帰還政策は人権侵害であり、是正するべきであるとする勧告がドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの四カ国から出された。被告らの人権問題は今や国際的な人権問題となっているという事を裁判所にも十分に認識していただきたい」




原発事故避難者が立ち退きを求められて訴えられるという事態に、全国の支援者が山形地裁に駆け付けた。政府の一方的な線引きにかかわらず避難の合理性を司法に認めさせるという意味でも、この訴訟は重要だ
【「追い出さないで欲しい」】
第1回口頭弁論に先立ち、東京・霞が関の司法記者クラブで今月16日に開かれた記者会見で、福島県中通りから避難した母親は「『自立しろ』とは加害者の言う事か」、「ようやく落ち着いた今の生活から追い出さないで欲しい」などと訴えた。別の母親も「2人の子どもの教育費で家計は火の車。蓄えなど出来ない」、「福島の自宅は引き払ったので帰れる家が無い。そもそも避難当事者の意見も聴かずに住宅の無償提供が打ち切られた。打ち切りを撤回し、無償提供を再開して欲しい」と涙ながらに語った。武田さんは「被曝によるわが子の健康被害を心配して避難したお母さんたちのためにも闘い抜きたい」と語る。
県民が原発事故で避難を強いられた上に立ち退きを求められるという異常事態にもかかわらず、福島県の内堀雅雄知事は今月20日の定例会見で「(雇用促進住宅の)管理者と連携を図りながら丁寧に進めてきたところであり、今後も経過を注視してまいります」と答えるにとどまった。吉野正芳復興大臣も今月17日の閣議後会見で「発災の初期段階の支援と、今7年目に入った支援と、支援の中身は当然違ってまいります。発災当時の支援は、これは終わりです。そういう意味で、住宅の支援については、今回福島県は打ち切ったわけですけど、それに代わる支援策として家賃の2分の1補助というものを打ち出しておりますので、そういう支援をこれから継続していくということでございます」と住宅の無償提供継続を否定している。
政府の一方的な線引きにより、原発事故直後から〝自主避難者〟は世間の無理解や誤解、偏見とも闘わなければならなかった。今回の訴訟に対しては、家賃を負担して避難を継続している人や、避難出来なかった人々からも厳しい声があがっているのも事実だ。この点について、海渡弁護士はこう語っている。
「チェルノブイリ事故では、30年経った今も住宅支援が継続されている。そもそも日本政府が設定した年20mSvという設定が高すぎるし、子ども被災者支援法の理念に基づく支援策が実行されていれば、避難出来なかった人たちの感情が悪化する事は無かったではないか。政府は帰還促進一辺倒。避難した人、しなかった人、どちらに対しても無策が続いているために起きた不幸と言える。避難しなかった人々に対しても定期的な保養の機会を保障するべきだ」
次回期日は2018年1月12日11時半。
(了)
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