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【原発事故と甲状腺ガン】根強い検査縮小論に「NO」。当事者の望みは「継続・拡充」~基金がアンケート結果公表。国は福島以外での検査に消極姿勢崩さず

甲状腺ガン当事者や家族の望みは、甲状腺検査の「継続・拡充」だった。「特定非営利活動法人 3・11甲状腺がん子ども基金」(崎山比早子代表理事)が6日、福島県庁の記者クラブで発表したアンケート結果からは、福島県の県民健康調査を巡って根強い縮小論に「NO」を突きつける当事者の想いが浮かび上がった。これまで「過剰診断」の波にかき消されてきた当事者たちの声には、「原発事故による健康被害など無い」と結論ありきにするな、との強い叫びが詰まっている。アンケートに綴られた声の一部を紹介し、原発事故による被曝リスクとどう向き合うか。考えたい。


【「他人だから過剰診断などと言える」】
 これこそ「当事者の声」だ。
 ともすれば、原発事故による健康影響など「無い」とされ、福島県が実施している「県民健康調査」(甲状腺検査)に関しても、「過剰診断」につながっているとの理由から縮小論が根強い。しかし、原発事故後に実際に甲状腺ガンと診断され、手術を受けた当事者や家族たちの答えは「NO」だった。調査は、2011年当時18歳以下だった福島県民を対象に20歳までは2年に1回、その後は5年に1回実施されているが、回答した49人のうち「縮小した方がいい」と答えた人はゼロ。「このままでよい」が28人と最も多く、「拡充した方がいい」も17人に上った。
 葛藤もある。「子どもは自覚症状などなく、健康そのものでした。原発事故がなければ発見されることなく過ごせた可能性もあったと思います」と綴った母親もいる。別の母親は「過剰診断なのかもしれない。しかし、甲状腺ガンが多く見つかっている事は現実だと思う」と複雑な想いを言葉にした。「少しでも(被曝の)不安があったら福島には居られません。自分なりに調べて、甲状腺ガンは『原発事故の影響では無い』と確信している」と答えた母親も。一方で、多くの親がこう書いた。「親にしてみれば、初期発見は大切だと思う」。
 患者本人の言葉はさらに切実だ。
 「過剰診断では無いと思います。たとえ腫瘍が小さくても転移している人はいるし、私のように気管の近くに腫瘍がある人もいます」
 「ガンがあるなら摘出したほうが気が楽」
 「死に結びつかないとしても、自分がガンだと分からないより分かっていたほうがいいと思う」
 原発事故後、専門家と呼ばれる人々が口にした言葉の中に「甲状腺ガンは他のガンと違って予後が良い」というものがある。これには、患者本人からこんな〝反論〟があった。
 「病気というのは、本人や家族など身近な人しか痛みが分からないと、この病気になって改めて強く感じた。死に結びつかないからいいでしょう?そんな言葉を自分の大切な人に言えないと思う。他人だから過剰診断と言える結果論であり、遺憾だ」






甲状腺ガンの患者や家族たちは、甲状腺検査の縮小など望んでいない。むしろ、全都道府県での本格的な調査を求める声も少なくない=「3・11甲状腺がん子ども基金」発表資料より

【「全都道府県で同規模の検査を」】
 別の母親は、不信感を言葉にした。
 「放射線の影響と考えたくないから(過剰診断などと)結び付けている。他県でも調べてデータ化して欲しい。同じ年代の子どもたちの甲状腺も検査してガンが見つかるか、調べて発表して欲しい」
 県民健康調査を所管する環境省の環境保健部は、「県民健康調査に類似した健康調査を近隣県でも行うべきだという意見は以前からいただいている」としながらも、「原発事故が起こった年に近隣県で有識者会議が開かれて、福島県と同様の甲状腺検査が必要かどうか議論された経緯があるが、必要とされた有識者会議は無かった。環境省も2013年11月から2014年12月にかけて専門家会議を14回にわたって開いたが、福島県以外の県で一律に甲状腺検査を実施する事には慎重であるべきという風な判断が出されている」として宮城県や栃木県、茨城県など福島県以外での甲状腺検査には否定的な見方を貫いている(2017年6月16日号参照)。
 今月1日、東京・永田町の衆議院第一議員会館で開かれた院内集会・政府交渉でも、基金の理事を務める吉田由布子さんが「国の責任による福島県以外での甲状腺検査」を求めたが、環境省の若手担当者は、従来の説明を繰り返す形で改めて福島県外の近隣県での甲状腺検査実施を否定した。同席した福島瑞穂参院議員(社民党)は「環境省がイニシアチブをとって全国の子どもたちの健康状態を把握する事に取り組んで欲しい」と求めたが、消極的な姿勢は変わらない。
 今回のアンケートでも、ある母親は「全都道府県で同じ人数の甲状腺検査をして比較してみてほしい」と綴った。「(福島県以外の)他の都道府県でも同じ人数の甲状腺ガンが見つかるのなら、過剰診断だと納得する」。
 放射性物質の拡散による健康被害を福島県内だけに閉じ込め、健康への影響は無いとの前提に立つ国や福島県の思惑が甲状腺ガン患者を孤立させ、他の健康影響も封じ込めてしまう。「何も無かった事にする姿勢は許せない」という父親の想いは当然だ。そして、こんな母親の言葉も見逃してはならない。
 「甲状腺ガンである事を隠して生きていかなくてはならない今の世の中を変えて欲しい」


記者会見でアンケートの結果について説明する吉田由布子理事(右)と脇ゆうりか事務局長=福島県庁の記者クラブ

【「声優への夢、断たれた」】
 2016年7月20日に設立された「特定非営利活動法人 3・11甲状腺がん子ども基金」は同年12月、甲状腺ガン患者への経済的な支援を行う「手のひらサポート」事業を開始。岩手県、宮城県、山形県、福島県、新潟県、栃木県、群馬県、茨城県、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、静岡県、山梨県、長野県の1都14県に住んでいた25歳以下の住民で、2011年の原発事故以降に甲状腺ガンと診断された人を対象に一律10万円を支援してきた。
 今月1日現在、107人(うち福島県は77人。特例給付含む)に給付。その中には、県民健康調査では把握されなかった原発事故当時4歳だった子どもも含まれており、経過観察後の甲状腺ガン発症が統計に含まれていないという問題提起の端緒となった。福島県の県民健康調査検討委員会には、最新の数字として疑いも含む甲状腺ガンの患者数は194人と報告されているが、代表理事の崎山比早子さんは「この人数は全症例では無く、過少評価となっている事も明らかになっている」と指摘する。
 アンケート調査は今年8月、給付を受けた患者や家族のうち、事故当時福島県に住んでいた人を対象にNHK福島放送局と共同で実施。52世帯から回答があった(回答率は77.6%)。「再発や転移はあるのか」、「妊娠できるのか」などの不安も綴られている。
 「予後が良いガンだと言われているが、以前よりも疲労を感じる事が多くなった。それなのに、どうしてダルいの?など心無い言葉をかけられる事が増えた」と打ち明ける患者も。「心理カウンセラーとなり、自分と同じ経験をした人を助けたい」などと将来の夢を語る患者がいる一方、「声優を目指していたが甲状腺の手術後、声があまり出なくなった」、「甲状腺ガンのために大学を退学した。絵を描く仕事をしたかったが通院の頻度が高く、定職には就いていない」、「今後結婚したら子どもを持てるのか」など深刻な影響も出ている事が分かる。
 基金は今後も、定期的に当事者の声を聴いていく方針。今回のアンケート結果は報告書にまとめ、福島県などに提出する事も視野に入れているという。



(了)
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鈴木博喜

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