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【81カ月目の浪江町はいま】押し付けられた「自由」と奪われた「自由」。国道114号自由通行で不自由さ増した津島地区。住民の悔しさ「矛盾だらけだ」

わが家に一時帰宅するのに、なぜバリケードのカギを開けてもらわなければいけないのか。携帯電話がつながらないような状況で、なぜ「生活環境が整った」と言えるのか─。今月11日、住民の協力で福島県双葉郡浪江町の帰還困難区域・津島地区に入った。浪江町唯一の幹線道路・国道114号が今年9月、〝復興〟を旗印にバリケード無しの自由通行になったが、地区の住民は逆に枝道に侵入防止のバリケードを設置して開錠が必要になった。携帯電話の不通も解消されないまま。オリの中に閉じ込められたようにわが家に帰る住民たちの原発事故は、まだ終わっていない。


【ケータイ「圏外」解消せぬまま】
 自由さと引き換えに不自由さを手に入れたとは、まさにこの事だった。しかも、その自由さは自ら望んだものでは無い。上から押し付けられた〝見せかけの〟自由さだ。住民たちの多くが何度も「要らない」と言ったのに、無理矢理押し付けられた。まるで「町全体の利益のために我慢しろ」でも言われているように。
 だから、川俣町山木屋との境に設置されていたバリケードは、もう無い。警備員が1人待機しているが、四輪車が通過する限りは、車を止めたり身分を確認したりする事も無い。「二輪車や自転車、歩行者が通過しようとした時だけ止めます。これまでにバイクの人はいましたが、さすがに歩いて通ろうという人はいませんね」。
 減速し、一時停止して被曝リスクについて注意される事も、汚染の現状について知らされる事も無い。車道の端に設置された看板が、辛うじて帰還困難区域である事を気付かせる。「福島再生へ除染土壌等運搬中」と書かれた大型ダンプが難題も通り過ぎる。
 国道114号をゆるやかに下って行き「津島活性化センタースクリーニング場」で立ち入りの手続きをする。白い防護服や靴カバー、マスク、手袋などを一式渡される。また、緊急連絡用のトランシーバーも用意された。携帯電話がつながらないためだ。
 帰宅困難区域の住民は、国道114号のバリケードが撤去されたのと引き換えに、不審者の侵入を防ぐためにわが家へ向かう枝道にバリケードを設置している。立ち入りは事前に時間を申し出ているため係員が待機していて開錠。滞在中は再び施錠されていて、住民が出る際に連絡して開けてもらう。それもトランシーバーでの連絡。携帯電話がつながらないため、急に体調が悪くなった場合などを不安視して、国道114号の自由通行に反対する声は多かった。実際、筆者のスマートフォン(au)は滞在中、ずっと「圏外」だった。
 福島県の内堀雅雄知事は12月県議会に「自由通行が可能となった浪江町内の国道114号における携帯電話不通話区間の一部解消に向けて、基地局施設を整備するための補助金を交付する」として1億300万円余の一般会計補正予算案を提出しているが、地区内で携帯電話が問題無く使えるようになるのはいつの日か。同行した男性は言う。
 「なぜ基地局が完全に整備されてから自由通行にしなかったのか。トランシーバーだって全ての場所で電波が入るわけでは無いんだ」
 しかも、住民の立ち入りは午前9時から午後4時まで。最大で5時間しか滞在してはいけないため、朝イチで立ち入りしたら午後2時には区域外に出なければならない。一方で、国道114号を通過する車両に時間制限など無い。24時間フリーパスだ。大多数の利益が満たされていく一方で不自由を強いられているのが津島地区なのだ。








(1)国道114号が自由通行になったのと引き換えに、津島地区の住宅につながる枝道にはバリケードが設置された。開錠してもらわないとわが家に入れない
(2)バリケードの横で、手元の線量計は2μSv/hを超えた。帰還困難区域では10μSv/hを超す場所も珍しくない。それでも日々、車が自由に往来している
(3)9月から四輪車が通行に通行できるようになった国道114号。避難指示が解除された町中心部に抜けるだけなら通行証は必要無い。バイクや自転車、徒歩では通れない
(4)バリケードが撤去されたため、帰還困難区域である事を示すのは道路の端に設置された看板のみ。警備員もいちいち声を掛けたりしない=写真はすべて2017年12月11日撮影

【部品は輸出される廃トラクター】
 男性の車が自宅へ続く枝道に設置されたバリケードの前で止まった。係の男性が開錠してバリケードを開ける。「では、帰る時に連絡してください」と告げて、係の男性は待機していた自身の車に戻った。
 今回、一時帰宅した男性には目的があった。原発事故によって不要になってしまったトラクターや自家用車を処分する事だ。雑草が覆い茂って荒れ放題になっている道を進んで、先に到着していた福島市内の業者と合流。トラクターや自家用車を業者の大型トラックに積み込んだ。
 購入時、数百万円もしたトラクターは、10万円ほどで買い取られることになるという。「分解して、使える部品は東南アジアに輸出します」と業者。「もちろん、表面の汚染を測ってからでないと輸出出来ません。仮に港で基準値を超えたら返却されて、基準値を下回るまで洗います。除染した汚染水はどこに行くのかって?それは、まあ、うーん…」。輸出コンテナの除染基準値は測定場所の空間線量の3倍。5μSv/hを超えると国の機関への通報義務が生じる。関東鉄資源協同組合は、2012年3月以降、自主的に基準値を0.2μSv/hに設定しているという。
 翌日の搬出の打ち合わせを終えた男性は、2時間ほどの滞在で自宅を後にした。自宅敷地内で手元の線量計は1~2μSv/hを示し、雨どい直下では5μSv/hを上回った。帰還困難区域にあっては比較的低い数値とも言えるが、男性は「かなり下がったんだよ」と苦笑した。その証拠に、男性の自宅から少し離れた場所に除染土壌などの仮置き場があるが、入り口に掲示されていた空間線量は0.65μSv/hだった。地区内で試験的に除染が実施されたが、除染後でもこの数値。吉野正芳復興大臣は今月14日、帰還困難区域について「長い年月がかかっても必ず解除する」と語ったとNHKが報じているが、道のりの険しさをうかがわせた。
 トランシーバーで係の男性を呼び、開錠してもらってバリケードから外に出た。「津島活性化センタースクリーニング場」に再び立ち寄り、事前に渡されていた線量計を返却。2時間ほどの滞在で、筆者の被曝線量は2μSvだった。靴カバーを外した後の靴底の汚染も調べられたが、具体的な数値は知らされずに「基準値以下です。OKです」とだけ告げられた(基準値は13000cpm。cpmは1分間に検出される放射線の数)。退出手続きはすぐに終わり、津島を後にした。










(1)秋の彼岸の墓参に合わせて、9月20日午前6時に国道114号のバリケードが撤去された(この写真のみ2017年7月20日撮影)
(2)一時帰宅した男性の自宅。雨どい直下で手元の線量計は5μSv/hを上回ったが、男性は「かなり下がった」と苦笑した=浪江町赤宇木
(3)これまで何度もイノシシに室内を荒らされた男性は、玄関を板で補強して侵入されないようにしている
(4)滞在中、筆者のスマートフォンはずっと「圏外」だった。緊急時の外部への連絡は、スクリーニング場で渡されたトランシーバーだけが頼りだ
(5)今年9月、国道114号の自由通行を控えて経産省の原子力被災者生活支援チームが公表した「帰還困難区域の線量調査結果」(抜粋)。全資料はこちら

【「悔しさ」抱え7回目の越年】
 浪江町を横断するように走る国道114号。福島市や川俣町方面から浜通りの国道6号に抜ける幹線道路の自由通行は、今年3月末で避難指示が解除された町中心部住民の利便性や、川俣町に今年7月にオープンした山木屋地区復興拠点商業施設「とんやの郷」の売り上げアップなど、津島地区の住民たちの想いは無視された形で〝強行〟された(2017年07月24日号参照)。
 通行するだけだから被曝リスクは少ない、と国はバリケード撤去に先駆けて数値を挙げて強調した(写真5参照)。一方で、浪江町役場が「公益目的の町内一時立入りを申請する事業者」向けに作成した「注意事項」には、次の事項に同意するよう記されている。
 「帰還困難区域が危険であることを十分認識し、自らの責任において立入りを実施します」
 幹線道路は「利便性」や「復興推進」のためにフリーパス。しかし、実際に立ち入る業者には「自己責任」を負わせるほどの被曝リスクが存在する。それが帰還困難区域だ。
 原発事故当時、国は、津島地区が高濃度に汚染されている事を知りながら町民に知らせず、町内のほとんどの住民が避難先として身を寄せたのが津島地区だった。井戸水が枯れると積もった雪をペットボトルに詰めて飲み水にした町民もいた。津島診療所には、薬を求める長い列が出来た。初期被曝を強いられた町民たちがその後、体調に異変が起きても、放射線被曝とは無関係だと言い放たれる。その意味で、津島地区は常に「無用な被曝」「棄民・棄村」の最前線であり続けたとも言える。
 同行取材の間、住民の男性は何度も「悔しい」という言葉を口にした。その「悔しさ」にどれだけ寄り添い、思いを馳せる事が出来るだろうか。理解と想像を絶する「悔しさ」は、7回目の越年。本来なら、そろそろ餅つきの準備でも始まるはずの長閑な集落は、今や汚染と、閑散と、規制と、野生動物の集落になってしまった。冬が開け、春が来ると丸7年。あなたにとっては「過去の出来事」と化している原発事故だが、過去の出来事にしたくても出来ない、「現在進行形の原発事故」が津島にはある。
 〝オリ〟から出た住民の男性は言った。「矛盾だらけなんだよ」。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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