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【就労不能損害賠償】「不条理なルール甘受出来ぬ」。飯舘村・伊藤さんが意見陳述。東電は「因果関係のある就労不能損害ない」と準備書面~第2回口頭弁論

原発事故による就労不能損害に対する賠償を、東電が一方的に4年で打ち切ったのは不当だとして、福島県相馬郡飯舘村の伊藤延由さん(74)=新潟県出身、福島市内に避難中=が起こした訴訟(2017年08月26日号参照)の第2回口頭弁論が22日午前、東京地裁631号法廷(東亜由美裁判長)で開かれた。原告・伊藤さんが意見陳述。「加害企業の不条理なルールを甘んじて受け入れる事は出来ない」と訴えた。東電は準備書面を提出。「本件事故と相当因果関係のある就労不能損害は生じていない」として改めて請求棄却を求めた。次回期日は2018年2月16日。


【「被災者に負うべき責任無い」】
 いつものように淡々と。しかし、次の言葉にはやはり、力がこもっていた。
 「今回の事件で私に負うべき責任はありますか」
 小さな法廷の真ん中で、伊藤さんは原発事故によって大きく狂わされた自身の人生について語った。偶然にも、3人の裁判官も出席した被告・東電の代理人弁護士も全員女性。被告代理人弁護士は苦虫をかみつぶしたような表情で、若い裁判官はやや身を乗り出すような姿勢で耳を傾けた。
 飯舘村内の若者向け農業研修所「いいたてふぁーむ」の管理人として、2010年に66歳で稲作を始めた矢先の原発事故だった。慣れない農作業を助けてくれたのは村民。「ほれ、貸してみろ」。農業機械を巧みに操る村民の前で頭をかく伊藤さんの姿が目に浮かぶ。そうやって収穫した米は評判が良く、親会社は水田の拡大を決定。「助け合い、おすそ分け、お互い様の相互扶助」、「貨幣経済には現れない豊かさのある」飯舘村の人々に支えられ、順調な滑り出しだった。7人の孫たちを夏休みに招いて、昆虫採集やキャンプ、釣りなどの「サマースクール」を開こうと楽しみにしていた。福島第一原発から放射性物質が拡散されなければ…。
 汚染によって、村全体が「計画的避難区域」に指定された。今年3月末で帰還困難区域を除く避難指示が解除されるまで、全村避難が続いた。伊藤さんの管理する農業研修所も、会社側が継続を断念。「農家に定年は無い」と、身体が動く限り管理人と農業を続けるつもりだった伊藤さんには東電から就労補償が支払われたが、2014年2月で突然、一方的に打ち切られた。その時、伊藤さんは70歳。「〝終活〟を考える年代での再就職活動は困難を極めました」。孫との楽しい夏休みの夢も吹き飛んだ。
 夢も仕事も奪っておいて、一方的に賠償を4年で打ち切る合理的な理由は何なのか。なぜ、加害企業の不条理なルールを甘んじて受け入れなければならないのか。
 伊藤さんには忘れられない光景がある。福島第一原発の爆発から1カ月余が経過した2011年4月30日夜。飯舘中学校の体育館で開かれた住民への謝罪の席上、皷(つづみ)紀男副社長(当時)は「個人的には人災と考えている」と語った。1200人を超す村民の怒号が飛び交う中、土下座をする鼓副社長らの姿は当時、大きく報道された。しかし、そんな〝謙虚さ〟とは裏腹の一方的な打ち切り。伊藤さんの訴えは当然だった。「人災であるならば、加害企業の責任で原状回復させるのが当然ではないのか」。
 そして、こう締めくくった。
 「何度でも申し上げますが、被災者に負うべき責任はあるのでしょうか」


法廷で「被災者に負うべき責任無い」などと意見陳述した原告・伊藤さん(左)。「なぜ、加害企業の不条理な打ち切りを甘んじて受け入れなければならないのか」=東京・霞が関の司法記者クラブ

【東電「就労不能損害ない」】
 10月27日の第1回口頭弁論を欠席した被告・東電の代理人弁護士は、伊藤さんと全面的に争い、主張を全否定する準備書面を提出・陳述した。
 原告側は「不法行為に基づく就労不能による損害という点で、交通事故事件におかえる後遺症の逸失利益と類似する」として損害額を算出しているが、東電側は「そもそも、本件事故に起因する政府の避難指示によって原告の労働能力が喪失したり低下したりすることはない」、「交通事故により傷害を受けて後遺症が残存したことによって労働能力が喪失あるいは低下した場合(確定的損害)と本件とは全く事案が異なる」、「交通事故賠償の考え方をそのまま適用している原告の損害額の算定方法を明らかに失当」などと反論している。
 また、伊藤さんと親会社との雇用契約が1年更新だった点に触れ、「雇用契約が実質的に期間の定めのない契約であったなどとは到底認めることができない」、本件請求期間である平成27年(2015年)3月以降においても継続して勤務することができたとも当然には言えない」、「法的に保護された権利利益が害されたという関係も認めることができない」と争う構え。過去の賃金の逸失利益に関する判例をいくつか引用し「再就職に要するまでの合理的期間について、4年間を超えて認めた事例は見当たらない」とも主張している。
 「本件事故と相当因果関係のある就労不能損害は生じていない」として請求の棄却を求める被告・東電に対し、原告側代理人弁護士の1人である中川素充弁護士は会見で「東京電力は他の訴訟でも、原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)の中間指針があたかも金科玉条であるかのような主張展開をするのが常だが、これまでのいくつかの原発訴訟でも、認められた慰謝料の額は少ないとはいえ、中間指針を絶対的な規範としている判決は実は一つも無い。(伊藤さんの)被害をどのように捉えるかがこの訴訟のポイントだ」と語った。
 東電の反論に関しても「雇用契約が1年ごとに更新されるとしても、反復更新が予定されているものについては、通常の雇用契約と同等の保護が与えられるというのは過去の判例でも認められている」、「確かに原発事故そのもので身体的な労働能力は低下していないとはいえ、伊藤さんのように原発事故で社会的に就労できない状況にある人について、労働能力喪失ゼロという考え方を当てはめるのは妥当なのかというのは別の議論だと思う。争点をずらしているのだろう」と中川弁護士は語った。
 原告側は東電の準備書面に対する反論を1月末までにまとめる方針。


閉廷後に開かれた記者会見は、関心が低いのか目新しさが乏しいと判断したのか、加盟社の大半が欠席。空席が目立った

【圧力団体無き個人は切り捨て?】
 「今思い返してみても、人生最高だった」と原発事故以前の村での日々を振り返る伊藤さん。「月々、入るべき収入がなくなれば当然、困ります。困った時に被災者はどうするかというと、加害企業・東電に(賠償を)頼みに行くんですよ。これは本当に不条理だと思う。しかも、われわれの要求はほとんど聞いてもらえません。彼らが一方的に決めた基準で。こんな事がまかり通るっていうのは、到底理解できません」と怒りをこめて語った。「今回の訴訟はたまたま私一人だが、同じように4年で(就労補償を)打ち切られて『東電からそう言われたからあきらめた』という人が私の周りに大勢います。その意味でも、原発事故による損害の回復についてぜひ、裁判所の判断を仰ぎたいと思います」と強調した。
 「圧力団体(JA)が福島県知事に賠償延長を要求する。県知事が東電に賠償するよう求める。圧力団体が知事を動かす。商工業者も同じ。ところが伊藤個人では県知事は動いてくれない。弱いところから切りましょうといういい例だと思う」
 中川弁護士は「被害者の分断と弱者切り捨ては、過去の公害事件と変わらない」と指摘。「JAのような強い団体は東電に対して圧力をかける。東電もそういうところは認めていく。でも、そういう団体に加入していない人は打ち切る方向に持って行く。要するに声をあげられない人からどんどん切って行きましょうというやり方を国も東電もしている」と批判した。
 次回期日は2018年2月16日午前10時。



(了)
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