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【山林火災と放射性物質】「十万山から放射性物質の飛散は無かった」。鎮火から7カ月目、事実上の〝安全宣言〟。一方で「さらに慎重な検討が必要」とも

〝2017年の福島〟で絶対に外せないのが、浪江町と双葉町の帰還困難区域にまたがる国有林「十万山」(福島県双葉郡浪江町井手)での山林火災だ。このほど、福島県などがまとめた中間報告は、火災による放射性物質の二次拡散を否定した事実上の〝安全宣言〟。「今すぐ健康に影響を与えるものでは無い事が分かった」と結論付けているが、一方で「さらに慎重な検討が必要」とも。高濃度汚染山林での火災鎮火から7カ月。本当に放射性物質の飛散は無かったのか。全容解明にはもう少し時間がかかりそうだ。


【「今すぐ健康に影響与えない」】
 「ま、そういう事ですよ」
 福島県の担当者は、筆者の顔を見るなり、そう言った。
 出火から半年以上が経ち、ようやく「そういう事」、つまり、「放射性セシウムの飛散は無かった。あったとしてもごくわずか」という中間報告がまとまった。最終結論が出るまでには、まだ時間がかかる。担当者の表情は決して晴れやかでは無かった。
 今月6日、福島市内で開かれた「福島県原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会」の「環境モニタリング評価部会」(配布資料はこちら)。火災後から福島県環境創造センター(福島県三春町)、日本原子力研究開発機構(JAEA)、国立環境研究所福島支部(福島県三春町)の三者で行っている調査結果について、環境創造センターの担当者が中間報告。配布資料に沿いながら「火災による放射性セシウムの飛散は無いと考えている」などと説明した。
 続いて、JAEA福島環境安全センターの飯島和毅氏が補足説明。配布資料は無く、スライドを使いながらこれまでの調査を解説した。
 飯島氏は、延焼中にフィルターで捕捉した放射性セシウムの濃度と9月25日から10月2日にかけて実施した調査で得られた濃度にほとんど差が無かった事から「十万山からの飛散があったとしても通常の大気浮遊じんの濃度への影響はほとんど無かった」と結論付けた。一方で「やすらぎ荘(浪江町)での測定結果だけ火災の時にやや放射性セシウム濃度が高い日があった」として「現在のデータだけでは十万山からの飛散の可能性というのも否定できない。フィルターに捕捉されている大気浮遊じんの粒子と十万山ややすらぎ荘周辺で採取される土壌の特性などを比較して、十万山からやすらぎ荘に飛んできた粒子があったのかどうかをより詳細に検討してまいりたい」とも話した。
 前田川や高瀬川への汚染土砂の流入に関しても「火災後もこれまでの変動の範囲内である」とする一方、沢水が流れ込むため池について「比較的放射性セシウム濃度の高い堆積層が見つかった」として「火災で流出してきた土砂が堆積した可能性が考えられるので、これが火災由来のものかどうかということは今後、堆積物の特性などを調べて慎重に検討してまいりたい」と語った。
 閉会後、取材に応じた飯島氏は「確かに、火災によって周辺に灰などが飛散したが、今すぐ健康に影響を与えるものでは無い事が分かった」と語った。いつか、どこかで聞いたフレーズだった。






(上)JAEA・飯島氏の補足説明で使用されたスライド。「やすらぎ荘」以外に関して「放射性セシウムの飛散は無かった。あったとしてもごくわずか」と結論付けている
(中)十万山の山林火災について中間報告された福島県原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会の「環境モニタリング評価部会」=福島県福島市の杉妻会館
(下)中間報告は、山林火災による内部被曝のリスクについても否定している(配布資料より抜粋)

【〝デマ〟一掃に尽力した地元紙】
 ここで、高濃度汚染地域での山林火災という未曽有の事態を振り返っておきたい。
 発生は大型連休が始まったばかりの4月29日。帰還困難区域のため消防団員は現場に立ち入る事が出来ず、最大瞬間風速が10メートルを超える日が続いて福島県消防や陸上自衛隊(第6師団)による消火活動は難航。現場から約5キロメートル離れた浪江町地域スポーツセンターで給水し、空中からの消火活動を続けた。5月10日の15時過ぎにようやく鎮火。焼失面積は約75ヘクタール。うち約53ヘクタールが双葉町側だった。鎮火までに12日を要したが、平成以降では規模も鎮火までの時間も最大の山林火災となった(一連の本紙記事はこちら)。
 当時の様子を、福島県消防防災航空隊が業界誌「ヘリコプタージャパン」(2017年6・7月合併号)に寄稿している。
 「帰還困難区域で発生した火災であること、起伏が激しく急峻な地形で林道も無く、消防隊が現場へ容易に近づことが困難な場所であることなどから、直感的に『重大な事態』と感じたのは言うまでもなかった」
 自治体消防は宮城県、群馬県、栃木県、仙台市、川崎市、横浜市のヘリが空中消火に参加。途中から自衛隊が消火活動の中心となり、自衛隊ヘリの散水量は計4567トンにも及んだ。
 「放射能汚染と被曝のリスクを抱える帰還困難区域内という特殊な環境下での空中消火は規定上、離着陸のほか現場上空でドアオープンをしての活動が出来ないことから、現場直近の水利から自給水が出来ないなどの活動障害が多かった。また、隊員及び機体の被曝管理等にも神経を遣う困難な活動を強いられたが、結果として隊員、機体ともに除染作業が必要となる基準(1万3000cpm)を超えることは無かった」
 十万山の火災を巡っては、福島県も地元紙も当初から「安全論」に終始。火災による放射性物質二次拡散を懸念する声が高まる中、県は、発生からわずか4日後に「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」とする文章をホームページに掲載するなど〝勇み足〟もあった。地元紙「福島民友」は5月3日付社会面トップに「浪江山火事デマ拡散」とする記事を掲載。「火災に伴う放射線量の上昇による健康への影響はない」とインターネット上の書き込みを批判した。






(上)帰還困難区域にある「十万山」の登山道入り口では、手元の線量計は7μSv/hを超えた
(中)山頂から約2.5km離れた「やすらぎ荘」に設置された大気浮遊じんの測定器「ハイボリュームエアサンプラー」=2枚とも5月7日撮影
(下)福島県は火災発生直後、空間線量が変動していない事を根拠に「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」とする文章をホームページに掲載した

【市民団体の調査では広く飛散】
 中間報告は事実上の〝安全宣言〟とも言えるが、あくまで「中間報告」。しかも〝身内〟による調査だけに今後の調査を注意深く見ていく必要がある。実際、「ちくりん舎」などが実施した独自調査では、十万山の火災による放射性物質の二次拡散は「少なくとも北側17kmの南相馬市原町区、西側14kmの田村市都路や葛尾村まで到達した」との結果が得られている。「放射能再拡散はプルーム状(放射能雲)に流れ、一様に希釈されるわけではないことを示している。風向、地形などの影響により、局所的に極めて高濃度な放射能が滞留する可能性がある。また場合によってはそれを人が吸い込んだ可能性(内部被曝の可能性)も考えられる」として、福島県庁との話し合いを継続中だ。
 単なる山林火災では無く、原発事故による帰還困難区域での大規模山林火災だという点を重視すれば、行政はより慎重な初動体制を敷くべきだった。「あまり負の情報を流したくない」という〝情〟に引っ張られて、住民を被曝リスクから守るという大きな役割を放棄してしまっていた。そもそも、これだけ広範囲に森林が汚染されてしまったにもかかわらず、汚染された山林での大規模火災は想定されてしなかった。旧原子力安全基盤機構は2012年、福島第一原発から20km圏内の山林で火災が発生した場合の原発への到達時間や必要となる防火策などに関する影響評価をまとめているが、山林火災による放射性物質の飛散についてのシミュレーションは無い。福島県と双葉地方広域消防本部は、原発事故後、避難指示区域での大規模火災を想定した訓練を毎年実施しているが、十万山の火災で、消火活動が訓練通りには進められない事が図らずも証明されてしまった。
 十万山の火災による放射性物質の飛散に関しては、全容が明らかになるまでにはもう少し時間がかかる。万が一、汚染された山林で新たな火災が起きてしまった場合には、予防原則に立って住民を被曝リスクから守るよう、行政には求めたい。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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