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【82カ月目の浪江町はいま】「原発の話はうんざりだ」。原発事故後、初の町内成人式に117人。華やかな式典の陰で〝復興〟進まぬ町~馬場町長は入院し欠席

帰還困難区域以外の避難指示が解除された福島県双葉郡浪江町で7日午後、原発事故後初めて、町内での成人式が行われた。新成人183人のうち出席したのは117人で、出席率は6割を超えた。中学2年生に進級する直前の原発事故で避難を余儀なくされた新成人たちはしかし、あの時の原発事故には多くを語らず「苦労もしなかった」と話す。人の往来が無く静まり返った町内で、会場だけが〝同窓会〟の華やかさに包まれた。避難指示の部分解除から間もなく1年。華やかな式典の裏で町としての機能を失った町中心部を歩いた。


【「原発事故」語らぬ新成人】
 もう、うんざりだ、という表情だった。
 式典終了後、会議室で開かれた懇親会。町の用意したサンドウィッチやから揚げなどをほお張りながら取材に応じた新成人の男性は、吐き捨てるように言った。
 「原発?別に意識してねえし。苦労したとも思ってねえし。めんどくせえですよ。正直言っていつまでもそれを言われるのは。『町に戻らないのか』ってよく聞かれるけど、仕事辞められねえし。っていうか金ねえし。だいたいさ、あそこのアパート空いてるけど引っ越す?って言われて引っ越しますか?それと同じでしょ。戻る気もねえし、中通りで新しい生活が始まってるしさ」
 男性は再び、浪江中学校の旧友たちと談笑を再開した。当時、中学1年生だった彼らは、3年生を送り出した直後に震災に遭い、原発事故で避難を余儀なくされた。式典では、来賓者が何度も「7年間のご苦労」という言葉口にした。地元選出の吉田栄光県議(自民党)は「(避難先で)いじめに遭いましたか?」と壇上から問いかけた。
 現在も帰還困難区域になっている津島地区から中通りに避難した女性は現在、福島県外の大学に通っている。「一番つらかったのは原発避難で友達と離ればなれになってしまった事かな。でも、避難先でいじめられたという事も無かったし、原発事故への意識もかなり薄くなりました。津島はまだまだだけど避難指示が解除された地区もある。その意味では、浪江はもう危なくないんじゃないと思います」
 浪江小学校の卒業生という別の女性も「普通の人よりは苦労したとは思うけど…。どうかな。原発?別に思うところは無いですね」とだけ話して友達の輪に戻って行った。
 娘の晴れ姿を見届けた母親は「昨年までと同じように二本松でやってくれれば良かったのに」と苦笑した。理由は原発の存在や被曝リスクでは無い。「雪ですよ。晴れてくれたから良かったけれど、雪の積もった峠を越えるのは大変だもんね。二次会をやる場所も無いし。二本松だったらホテルをとって夜遅くまで楽しめたのにね」。
 関東の大学に進学した男性は、真新しいスーツ姿で「やっぱりふるさとは良いですね」と笑った。だが一方で、こうも言った。
 「大学生になって、原発という言葉を友人たちから聞いた事が無いです。良くも悪くも、みんな忘れちゃったんですね」








(1)旧友たちとスマホで記念撮影する新成人たち。あの頃の中学1年生たちは二十歳になった=浪江町地域スポーツセンター
(2)〝撮影会〟は日が暮れるまで続いた。中通りから町の送迎バスで駆け付けた新成人は、17時前に会場を後にした
(3)式典の冒頭、津波や避難先で亡くなった町民を偲び、黙祷が捧げられた
(4)町役場前に設置されている「おかえりなさい」の看板。町での成人式再開も〝復興策〟の1つだ

【町として機能していない現実】
 こんな言葉を口にした女性もいた。
 「来年以降も町内で成人式を開くんだろうし、もう原発事故に触れる必要は無いんじゃないですか?私たちは皆が思っているほど苦労しなかったし、被曝とか気にしてないです」
 昨年3月末、住民説明会で相次いだ反対意見を押し切る形で、帰還困難区域以外の避難指示が解除された。常磐線・浪江駅は原ノ町駅(南相馬市)までの運行が再開され、昨秋からは、帰還困難区域を通る国道114号が通行証無しで通れるようになった。病気入院中の馬場有(たもつ)町長に代わって式辞を読んだ宮口勝美副町長は「おかげさまでインフラの復旧はほとんど完了している。避難指示解除により、町の復興・創建に向けた歩みを速めている」と述べた。一方で「買い物など、町内の生活環境に課題が多く残っているなど厳しい状況に町が置かれている事には変わりない」とも。避難指示解除にあたって、官僚が何度も口にした「生活環境は概ね整った」とはほど遠い町の現実がある。
 筆者は今回、町内唯一の宿泊施設「ホテルなみえ」に2泊したが、館内にも周辺にも食事が出来る店舗は無い。徒歩圏内では、国道6号方面に15分ほど歩いた場所にあるローソンで買い物が出来るのみ。24時間営業で無い上に日曜日が定休日のため、車の無い町民は無料のタクシー(事前予約制、住民票がある町民のみ利用可能)で南相馬市原町区のスーパーまで行かなければならない。2017年11月末現在、306世帯440人が町内で暮らしているが、町全体の人口で見るとわずかに2%を超える程度。逆に家屋解体によってさら地が増えていく。片付けなどで一時帰宅した町民のためにと町の意向で再開された「ホテルなみえ」も、国の交付金を利用する形で1泊2000円で泊まれるものの利用者が伸び悩み、今年3月末で営業を終了する予定。
 浪江駅近くの自宅に一時帰宅していた男性は、いわき市内で新居を購入したため町には戻らない。
 「この通りで家を解体しないのは2軒だけ。復興への道は険しいよね。若い人たちが戻らないもの。でもね、それも無理も無いよね。せめてヨークベニマル(福島県郡山市に本社を置くスーパーマーケット)でもオープンすれば良いけど、買い物も不便だからね」
 別の町民は「ある程度の被曝リスクは受け入れないとしょうがないよね。町を復興させるのなら、どこで折り合いをつけるかだよ」と言ったが、原発事故による汚染や被曝リスクを度外視しても、残念ながら町として機能していない。これもまた、華やかな式典の陰に隠れた浪江町の現実だった。








(1)常磐線・浪江駅の構内に表示されている空間線量は0.3μSv/hを上回っていた=2018年1月7日18時すぎに撮影
(2)(3)避難指示が解除された町中心部でも家屋解体が進み、さら地が増えている。
(4)人も車もほとんど往来しない町中心部。帰還者は440人にとどまっている

【見る人のいないイルミネーション】
 避難先の高校を卒業後、町役場の職員として働いている新成人の男性は、昨年5月から成人式の準備にかかわってきた。
 「もっと少ないかと思ったけど、こんなに多くの新成人が参加してくれてうれしい」と目を細めた。町内での居住が職務命令のため家族と役場の近くに住んでいるが「抵抗は無かったですよ。放射線への恐怖心も無いですし。むしろ、帰って来てなつかしさの方が強かったです。確かに不便ですけどね」と話す。
 式典には吉野正芳復興大臣や増子輝彦参院議員、森雅子参院議員の秘書が代理出席し、内堀雅雄知事の祝電が読み上げられた。来賓者の紹介に多くの時間が割かれるほど。ふるさとで旧友たちとの再会を喜ぶ新成人とは別の大人たちの思惑が透けて見える。
 日没とともに〝同窓会〟は終了し、新成人は再びそれぞれの場所へ戻って行った。新成人のいなくなった浪江駅前では誰が見るのかイルミネーションが灯り、営業していない飲食店のネオンだけが光を放っていた。成人式の町内開催は、十日市の再開と並んで馬場町長の肝煎りだった。その馬場町長が成人式を控えた12月に入院・手術で欠席するという事態が、原発事故からの再興がいかに難しいかを物語っている。日ごろ、馬場町長のやり方に批判的な町議ですら「心労がたたったのだろう」と心配していた。安倍晋三首相が数十分だけ滞在して「なみえ焼きそば」を食べ「着実に復興している」と語るほど、道のりは平たくない。後ろ向きか否かでは無い。これが、原発事故に壊された町の現実だ。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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