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【子ども脱被ばく裁判】「土壌の測定をして欲しい。吸入が心配」。母親が意見陳述。河野益近さんは講演で不溶性放射性微粒子の危険性を指摘~第13回口頭弁論

福島県内の子どもたちが安全な地域で教育を受ける権利の確認を求め、原発の爆発事故後、国や福島県などの無策によって無用な被曝を強いられたことへの損害賠償を求める「子ども脱被ばく裁判」の第13回口頭弁論が22日午後、福島県福島市の福島地裁203号法廷(金澤秀樹裁判長)で開かれた。伊達市内で子育て中の40代母親がが意見陳述。原発事故直後の国や福島県の無作為に怒りを表すとともに、土壌汚染の実態調査を求めた。開廷前に開かれた学習会では、河野益近さんが不溶性放射性微粒子の危険性について講演した。次回期日は4月25日14時。金澤裁判長の異動が見込まれるため、更新弁論が行われる予定だ。


【「野球のプレーで内部被曝が心配」】
 なぜ、事故を起こした側の「線引き」に従わなければいけないのか。子どもたちに将来、何らかの健康被害が生じたら誰が責任をとるのか。なぜ、無用な被曝を強いられなければならなかったのか─。意見陳述に立った母親は、落ち着いた口調ながら、被告・国や自治体の代理人弁護士に目を遣りながら、怒りをこめて話した。
 女性は3人の子どもの母親。1人は成人しているが、高校生の娘と中学生の息子がいる。
 「放射性物質で内部被曝した影響が将来、どのような形で出て来るのか、とても心配です。娘は、福島ということで結婚出来ないかもしれない…」
 息子は、野球のクラブチームに所属している。好きな野球に取り組んでいる息子はとても生き生きとしていて輝いている。そんな息子をサポートしている自分も、とても楽しく充実した日々を送っている。しかし…。プレーで舞い上がった砂ぼこりを吸い込む事で内部被曝しないだろうかと不安になる。泥だらけのユニフォームを洗濯するたびに、付着した土の中に、どれだけの放射性物質が含まれているのかと考えてしまう。
 「心配なのは土壌です。土壌に含まれる〝セシウムボール〟が再浮遊し、吸い込む恐れがあると聞きました。ぜひ土壌の測定をして欲しいです」
 学校だけでなく、スポーツが行われる専用グラウンドも含めた詳細な土壌測定を望むのは、親としては当然の願いだ。しかし、伊達市長は原発事故後、被曝によるわが子への健康被害を不安視する親を「心の除染が必要」などと見下すような発言を続けてきた。少しでも被曝リスクを減らそうと、子どもには風邪を引いていなくてもマスクをさせている。屋内で過ごさせる事も増えた。福島県外の食材を取り寄せているが、県境に壁があるわけではない。何をどうすれば「安全」なのか。様々な想いが頭をよぎる。
 女性は「少しでも分かっていただけたらありがたい」と意見陳述をしめくくった。視線は被告席に向かっていた。閉廷後「緊張したが、意外としゃべれた。少しでも伝わって欲しい」と振り返った。願いはただ一つ。「わが子を守りたい」。




(上)法廷で意見陳述した原告の女性。母親として、子どもたちへの被曝リスクに関する不安や怒りを述べた
(下)今後の方針について説明する井戸謙一弁護士。

【排出されない放射性微粒子】
 原告の弁護団はこの日、4つの準備書面(43~46)を提出。井戸謙一弁護士は、そのうち準備書面(45)に関して概要を陳述。原発事故によって拡散された不溶性放射性微粒子(いわゆるセシウムボール、もしくはホットパーティクル)による内部被曝に危険性について述べた。
 「〝セシウムボール〟の拡散状況や内部被曝のリスクについては、いまなお研究途上だ。しかし少なくとも、内部被曝について従来のICRPの評価が妥当しないという事は既に共通認識になっている。〝セシウムボール〟による内部被曝リスクの有無・程度が科学的に明確になるまで子どもたちを防護する必要が無い、という考え方は誤りだ。子どもたちはモルモットでは無い」
 茨城県つくば市では2011年3月15日、1立方メートル中に4100万個の放射性微粒子が見つかっている。土壌に沈着した不溶性放射性微粒子が再浮遊する可能性を指摘する専門家もいる。「不用性放射性微粒子はイオン状態では無いので土壌の鉱物に取り込まれない。土壌の粒子に物理的に付着しているだけ。したがって容易に再浮遊すると報告されている」。
 再浮遊を示すデータとして、井戸弁護士は福島県農業センターが2012年2月に得たデータを採用。「細切りの大根を乾燥させた際、乾燥小屋で乾燥させた大根は90Bq/kg以下だったが、軒下に干した大根は3421Bq/kgもあった。空気中に大量の放射性微粒子が浮遊しているという事が十分に推測される。大気中に存在するということは当然、呼気とともに体内に取り入れる」。
 井戸弁護士はさらに「放射性微粒子は体液に吸収されないので、一定期間で体外に排出されるする『生物的半減期』の考え方が通用しない」として「ICRPの考え方をそのまま適用できない」と主張した。「先日、亡くなった吉岡斉氏を座長とする原子力市民委員会が発行した冊子『原発ゼロ社会への道2017』では『放射性微粒子の人体への取り込み、滞留、被曝の集中性など解明されなければならない多くの課題が生じており、被曝影響評価は根本から再考されなければならない』と指摘されている」。
 弁護団は今後、専門家の意見書提出や証人尋問を通じて、さらに不溶性放射性微粒子の危険性を立証していく方針。この日の進行協議では、被告側の代理人弁護士の1人から「そんなことを言ったら、福島県ではどこにも住めなくなる」との発言もあったという。


学習会で講演した河野益近さん。「原発事故で放出された放射性微粒子については科学的な判断が下されていない。安全とは言えない」=福島県福島市の市民会館

【「学校単位での保養が必要」】
 口頭弁論に先立って行われた勉強会では、京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻の元教務職員・河野益近さんが「放射能の危険性と危険度~環境に存在する福島原発事故由来の強放射性不溶性微粒子」と題して講演。「放射性微粒子は不溶性だから肺などにとどまって放射線を出し続ける。そのリスクは解明されておらず、危険だとも言えないが安全であるとも言えない。さっぱり分からない、というのが実情だ」と話した。
 河野さんは、放射線被曝を①避けられる被曝②避けられない被曝③利益のある被曝④利益のない被曝─に分類。「医療被曝を例に挙げて汚染地域に住んでも被曝量が少ないから大丈夫だと言う人がいるが、全く議論の土俵が違う。医療被曝は自分の意思で避けられる。しかもメリットがある。それによって病気の診断が出来る。しかし、汚染地に暮らしていると自分の意思では被曝を避ける事が出来ないし、身体へのメリットも無い。それを同列に論じるのは、力士とボクサーを闘わせても意味が無いのと同じだ」と語った。
 放射性微粒子を肺に取り込んだ場合、微粒子が存在するのは局所的だから内部被曝検査などでも被曝量としては小さく評価されるが「現在の技術では放射性微粒子の検出方法は無い」と河野さん。「放射性微粒子が肺に入った場合に、大丈夫だと言える人は誰もいないと思う。安全だと言えないし、危険だという証拠もないが、危険だと言う方が論理的だ。安全だと言うにはどれだけ被曝するかを評価しなければならないが、それは今は出来ない」。
 河野さんは、様々な事情で県外避難・移住が出来ずに福島県内に暮らしている人々に理解を示した上で「マスクをしろと言っても子どもは嫌がるだろうから、せめて帰宅したら際の手洗いやうがいを習慣化させること、室内で放射性物質を拡散させないために衣服は必ず同じ場所で脱ぎ着すること」をアドバイスとして挙げた。「夏休みや冬休みに、2週間でも県外に保養に出て欲しい。周囲の目があるのなら、学校単位で保養に行かれるように行政に働きかけて欲しい。そうすれば保養に行く事での差別や格差もなくせる」



(了)
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鈴木博喜

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