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【福島原発かながわ訴訟】「これぞ文字や写真では伝わらない原発事故被害の実態」。横浜地裁の裁判官らが浜通りを縦断~非公開の〝現地検証〟を独占取材

裁判所よ、これが浜通りの現状だ─。原発事故の原因と責任の所在を明らかにし、完全賠償を求めて神奈川県内に避難した人々が国と東電を相手取って起こしている「福島原発かながわ訴訟」で、横浜地裁の中平健裁判長らによる現地検証が8日、福島県南相馬市小高区や浪江町、大熊町、富岡町にある原告の避難元自宅などで実施された。横浜で準備書面や陳述書を読み、証拠の写真を見るだけでは伝わらない避難元の現実は、裁判官の目にどう映ったか。肌で実感出来たのか。完全非公開で祭場kK何らへの取材が禁じられる中、原告らの協力を得て〝検証〟の様子を独占取材した。


【除染しても雨どい直下で3μSv/h】
 常磐線・小高駅から西に約3km。防風のためのイグネ林に囲まれた自宅で、原告団長の村田弘さんは拡声器を手に自宅の状態を説明した。自宅前には関係者を乗せた車がずらりと停められ、やや物々しい雰囲気さえ漂った。3人の裁判官だけでなく、書記官や被告・国や東電の代理人弁護士、原告の弁護団ら20人余が村田さんの説明に聴き入った。目の前には、証拠として提出された写真そのままの風景が広がる。原告側の代理人弁護士は一部始終を動画撮影した。後に証拠として提出するためだ。
 ガレージには、農作業用の車や一輪車が避難した当時のまま置かれている。義父が大事にしていた庭園は、原発事故前は数十万円かけて庭師に手入れをしてもらっていたが、今や荒れ放題。庭の片隅にあるフジ棚では、樹齢100年を超えるフジがきれいな花を咲かせていたが、除染作業の過程で業者が撤去してしまって見る影も無い。通常、自宅の除染作業には住人が立ち会うが、連絡も無く勝手に伐採してしまったという。
 玄関横にある雨どい。除染作業で白い砂利が真下に敷き詰められているが、同行した「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」のメンバーが砂利の真上で測ったところ、3μSv/hあったという。筆者の線量計も2・7μSv/hを上回った。南相馬市小高区は既に避難指示が解除されているが、村田さんは改めて除染の効果に疑問を抱いている事を裁判官に伝えた。
 自宅の前には、荒れた農地を村田さんが開墾した果樹園が広がる。その広さ2100坪(約7000平方メートル)。桃やリンゴ、サクランボを植え、畑ではアスパラガスやサヤエンドウなどを育てた。「桃やリンゴを2列ずつ植えてね。ようやく様になったかな、と思った矢先の原発事故だったんだよ」と村田さん。果樹園のずっと先には「飯崎のしだれ桜」が見える。法廷では、かつての仕事仲間と原発事故前に花見の宴を開いた写真が示された。輝きを失った果樹園を写真では無く、実際に目の当たりにして、裁判官は何を思ったか。風が強く吹いていた。
 村田さんの自宅を訪れる前に、裁判官らは除染で生じた汚染物が置かれている「小谷他仮置場」も訪れた。村田さんの自宅から、直線距離にして約1・6km。小高い丘に上がると、50ヘクタールの広大な水田に真っ黒いフレコンバッグが並べられている様子が一望できる。あくまで「仮置き場」であって、いずれは中間貯蔵施設へ運ばれる計画にはなっているが、地元住民の間ではフレコンバッグの劣化に加えて「永久置き場になってしまうのではないか」と懸念する声もあるという。検証時間は2カ所合わせて計35分ほど。一行は昼食をとり、やや駆け足で浪江町に向かった。






(上)南相馬市小高区の自宅で、現状を裁判官らに説明した村田弘さん。原発事故被害の現実を少しでも理解してもらおうと弁護団と何回も打ち合わせを重ね、前日からいわき市で宿泊して準備をした
(中)裁判官らは、広大な「小谷他仮置場」も訪問。フレコンバッグの劣化や永久保管への懸念を説明したという
(下)〝現地検証〟では帰還困難区域の大熊町や富岡町にも立ち入ったため途中から防護服を着用したが、被告・国や東電の代理人弁護士の中には、最後まで防護服を着用しない人もいた

【避難指示解除された街の現実】
 2017年3月末で帰還困難区域以外の避難指示が解除された浪江町。中平裁判長らは、常磐線・浪江駅からほど近い女性原告の自宅や女性が所有するアパートを訪れた。
 自宅室内は、何度も泥棒に荒らされ、タンスの中身などが散乱している。仏壇まで手がかけられ、亡くなった両親の遺影までもが転がっている状態。寝室に置かれていた宝石箱の中身はほとんど無いという。原発事故当時、女性は犬を飼っていたが、一匹は原発事故の混乱で行方不明になり今も見つからないまま。「避難といってもすぐに戻れるだろう」と町を離れてから間もなく7年。地震だけだったら奪われなかった、破壊されなかった生活の変わり果てた様子が裁判官には伝わったはずだ。
 アパートと自宅は少し離れているが、駐車スペースの関係で裁判官らは徒歩で移動した。途中、住民とすれ違う事も無い。崩れ落ちた神社の社殿もそのまま。避難指示が解除されて1年近くが経つが、避難先から町に戻って生活しているのは338世帯490人(1月末現在)。これは町の人口の2・7%、世帯ベースで見ても4・9%にすぎない。これが、国や町が「生活環境は概ね整った」として帰還を促す町の現実だ。避難の継続、実害に見合った賠償を求める事は本当にわがままか。裁判官の目にも一目瞭然だったに違いない。
 「夜ノ森の桜並木」で有名な富岡町。街も桜並木も、いかついバリケードで分断されてしまった。
 〝検証〟に立ち会った女性原告の自宅は居住制限区域にあり2017年4月1日に避難指示が解除されたが、帰還困難区域が目の鼻の先。利用していたスーパー・ヨークベニマルやクリニックなどはバリケードの向こう側だ。振り返れば桜並木が春の訪れを待っているが、道行く人は無い。今後の機関を見越してか建売住宅の建設も進むが、手元の線量計は0・4μSv/hを上回った。担当弁護士は「バリケードで規制されてると言ったって空はつながってるわけだから。線引きのおかしさを伝えたい。ただ、この場所に裁判官が来たというだけでも非常に意味があると思う」と語った。
 バリケードから500メートルほどの場所に、常磐線・夜ノ森駅がある。常磐線は現在、北側は浪江駅、南側は富岡駅までの運転が再開されたが、帰還困難区域に位置する双葉駅、大野駅、夜ノ森駅は依然として休業中。東京五輪が開催される2020年3月末までの再開が予定されているが、線路をはさみ、避難指示が解除されている駅舎の反対側で手元の線量計は1μSv/hを上回った。被告・国や東電は、口頭弁論で「避難指示が解除されたのになぜ戻らないのか」という質問を繰り返してきたが、避難指示解除がそのまま安全・安心の担保にならない事が現場に来れば良く分かる。東京や横浜では分からない。だからこそ、今回の〝現地検証〟には大きな意味があり、原告の期待も大きいのだ。






(上)「ヨークベニマル夜ノ森店」も帰還困難区域の中。バリケードの手前は避難指示が解除された区域だが、避難元の自宅に戻ったとしても、以前のように買い物をする事は出来ない
(中)桜並木も途中でバリケードで分断されている。行き交う人はいない。桜だけがじっと春を待つ。3人の裁判官の目にはどう映ったか
(下)バリケードから数百メートルの常磐線・夜ノ森駅。線路を挟んで駅舎側は帰還困難区域。こちら側は避難指示が解除された区域。手元の線量計は1μSv/hを超えた

【珍しい現地検証、裁判官こそ現場見て】
 午前9時に常磐線・いわき駅前から始まった〝現地検証〟は浜通りを縦断して午後5時、再びいわき駅に戻って終了した。裁判官たちは特急で東京や横浜に戻った。次回期日は3月7日午前時10時。最後の原告本人尋問が行われる予定だが、今回の〝検証〟が最大限に判決に生かされる事を原告の誰もが願っている。
 現地検証は「裁判官が村田さんの自宅などを訪れることで被曝のリスクを肌で実感して欲しい」と、原告側の弁護団が2016年夏に申立書を提出するなどして再三にわたって要求。ようやく「現地進行協議」という形で実現した。完全非公開のため裁判官らの写真撮影や直接取材が禁じられたが、村田さんなどの協力を得て帰還困難区域以外で取材を行った。
 〝検証〟の様子を収めた動画や写真が証拠として提出されるため裁判官がメモをとる場面は無かったようだが、先の弁護士の言葉のように、各地の原発避難者集団訴訟でも決して現地検証が実現している訴訟が多くない中で、横浜地裁の裁判官が実際に現場に足を運んだ意義は大きい。これまでに「『生業(なりわい)を返せ、地域を返せ』福島原発訴訟」で福島地裁が、「完全賠償を求める避難者訴訟」で福島地裁いわき支部が実施した程度だ。「完全賠償を求める避難者訴訟」の米倉勉弁護士は、裁判所による現地検証について「弁護士でも、一度も経験したことがないという弁護士が少なくない。それくらい珍しい」と話している(「弁護士ドットコムニュース」2016年07月22日号)。
 帰還困難区域に立ち入るにあたり、白い防護服を着用したり、スクリーニング場で被曝線量を確認したりする事も、実際に体験するのとしないのとでは大きく印象が異なる。避難指示が解除されたとはいえ閑散とした街の様子や、帰還困難区域と避難指示が解除された区域との線引きがいかに不毛なものであるかも実感出来よう。福島県の内堀雅雄知事に倣って、全国で原発避難者訴訟を担当する裁判官こそ、「福島に来て」と言いたい。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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【ゆうちょ銀行 普通 記号10980 口座番号05373461 鈴木博喜】

【じぶん銀行あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
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