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【83カ月目の飯舘村はいま】「汚染続いたまま」「被曝避けられぬ」。交錯する現実と心情。「村は安らげる」「東電許していない」~福島市でシンポジウム

村民や研究者らでつくる 「飯舘村放射能エコロジー研究会」 の第9回シンポジウム「原発事故から7年、不条理と闘い生きる思いを語る」が17日、福島県福島市の県青少年会館で開かれた。京大原子炉実験所研究員の今中哲二さんらが今なお村内で続く汚染や被曝リスクについて語った一方、既に村の自宅に戻って生活している村民からは「放射能の事は頭から離れることは無いが、土と接しているととても穏やかな気持ちになる。避難先では安らげない」との声も。「村に戻っても村外で暮らすにも課題がある」という指摘もあった。国も東電も原発事故の責任を認めない中、東電はADRの和解案を拒否した。飯舘村民が直面する「不条理」はとても重い。


【「避難指示解除は帰村指示では無い」】
 原発事故から7年が経過したとはいえ、飯舘村で生活すれば被曝するリスクは確実に存在する。帰還困難区域の長泥地区を除く避難指示が解除されて間もなく1年。国が「年20mSv以下では健康に影響を及ぼさない」として被曝リスクを認めない中、京大原子炉実験所研究員の今中哲二さんは「余計な被曝をしない方が良い」とした上で「避難指示の解除そのものには反対したことは無いが、避難指示解除は帰村指示では無い。最大の問題は、村に帰りたくない人まで無理矢理帰らせようとする施策をとっている点だ」と語った。
 加害当事者である国が「年20mSv」を掲げている点について、今中さんは「根拠を探したが『20mSv以下なら安全・安心です』と述べている行政文書や専門家の見解を見つけることは出来なかった。根拠の分からない〝幻のキャンペーン〟だった。飯舘村の福島市も、ICRPの言う『現存被曝状況』であり、年1mSv以下に下げなければいけない」と指摘。「そもそも、避難指示が解除された汚染地域へ戻るかどうかは極めて個人的な判断であり、行政が決めるような事では無い。被災者がどのような選択をしても、その選択を支援する責任が国と東電にはある」と強調した。
 日大生物資源科学部特任教授の糸長浩司さん(建築・地域共生デザイン研究室)は、これまでの測定の結果から「除染や自然減衰で村内の空間線量率が下がっているのは間違いない。ただ、それは住宅内や周辺の話であって、山の土壌には相当量の放射性セシウムは残っていて、ガンマ線を発している。こういう状況で避難指示が解除されて自主的避難になってしまっている。理不尽と言わざるを得ない」と指摘。除染済みの農地でも、依然として250~3000Bq/kgの放射性セシウムが残存しているという。「原発事故前は100Bq/kgが基準値だったが8000Bq/kgに引き上げられ、事故前は駄目だった土地で野菜を作っても良い事になっている。法律を超えた〝例外状態〟だ。農作業中の被曝の問題もある」と語った。「帰村か移住かの二者択一ではなく、将来の帰村も含めた飯舘村での居住権の確保と避難先での居住権の確保という『二重居住権』の保障も必要だ」
 内科医として村民と接してきた振津かつみさん(医薬基盤健康栄養研究所)は、福島県だけでなく周辺自治体も含めた「被曝者健康手帳」の必要性を改めて強調。「放射線被曝の遺伝的影響は、マウスなどの動物実験では証明されている。差別につながるとの指摘もあり非常にデリケートな問題だが、ヒトでも次の世代への影響が起こり得ると考えて対策を講じていくという姿勢が被害の拡大を防ぐことであり、本当の意味で被害者の人権を守ることにつながる。科学というのはそういうものだと思う」と語った。






(上)京大原子炉実験所研究員の今中哲二さんは「飯舘村で暮らすなら、ある程度の被曝は避けられない」とした上で「避難指示解除は帰村指示では無い。村民がどのような選択をしても国や東電は支援するべきだ」と語った
(中)原発事故直後から飯舘村の調査を継続している今中さん(左)。「年20mSv以下になっても安全・安心なわけでは無い」「被曝を避けるという意味では、東京五輪の聖火リレーを国道6号や飯舘村内でわざわざやる必要は無い」とも(右は長谷川健一さん)
(下)日大生物資源科学部特任教授の糸長浩司さんは研究会の協同世話人の1人。「汚染された土壌で農作物を作らざるを得ないのは不条理だ」としたうえで「村に戻るか戻らないかの二者択一ではなく、村と避難先の二重居住権を保障する必要がある」と強調した

【「お金で買えないものが奪われたまま」】
 突然降り注いだ放射性物質で日常生活を奪われた飯舘村民は、それぞれに複雑な想いを抱きながら新たな道を歩み始めている。
 村で生まれ育った細杉今朝子さんは「孫と遊ぶのが楽しかった」と原発事故前の生活を振り返る。福島市内に避難していたが、避難指示解除を受けて村内の自宅に戻った。戻る決め手となったのは「家を守っていく」という想いのほかに、「安らぎ」だったと語る。
 「何よりも土と接したかった。野菜や花を育てていると、とても穏やかな気持ちになります。もちろん、放射能の事が頭から離れたことはありません。でも、避難先では安らげないんです」
 つくった野菜を測定しても基準値を超える放射性セシウムは検出されない。「安全ではあるけど安心出来るのかなあ」と細杉さん。それに、こんな想いもある。「村に戻ったからといって東電を許したわけではありません。お金では買えないものが奪われたままですから」。孫たちは進学もあって村外に移住した。楽しかった日常生活は原発事故で一変した。
 福島市内の耕作放棄地を活用して村民同士のつながりづくりに奔走してきた菅野哲さんは「村に戻って暮らすにも、所得の確保などの難しさがある。村外で暮らすにしても、税負担の増大や新たなコミュニティづくりなどが生じる。どちらにしても課題がある。まだ帰還困難区域が残っていることもあり、避難指示が解除されたとしても喜びには浸れない。そもそも、誰も原発事故の責任を認めていない。国と東電が謝罪するまで頑張る」と語った。
 元役場職員の横山秀人さんは「村民が自由に話し合える場」として、避難村民自治組織「いいたて未来会議」を立ち上げた。
 横山さんは、自身が撮影した原発事故前の村内の写真を披露しながら「避難指示解除は早すぎたのではないか。家を周辺を散歩しようとすると、依然として汚染土の入ったフレコンバッグがある。避難指示解除準備区域の継続が良かったと思う」と語った。
 「個人で村役場に意見を伝えても相手にされない。かといって広範囲に避難している村民を1カ所に集めて会議を開くのも難しい。そこで、ホームページやSNSを活用して村民が自由に話し合い、想いを共有する場を作りたかったんです」と横山さん。避難指示解除にあたって「村民の声が無視されている」との声を取材のたびに耳にした。「未来会議」では、ワークショップも開きながら村民の交流・意見交換を深め、村政に反映できるような活動を進めていきたいという。






(上)避難指示解除を受けて村の自宅に戻った細杉さん。「放射能の事は頭から離れないが、村で土と接しているととても小名やかな気持ちになる」と話した
(中)「いいたて未来会議」を主宰する横山さん。「村民が自由に話し合えて、想いを共有できる場にしたい」。
(下)福島市で開かれたシンポジウムには、椅子が追加で並べられるほどの聴衆が集まった=福島県青少年会館

【東電「9mSv以上の被曝でも影響無い」】
 シンポジウムでは、裁判外紛争解決手続(ADR)や裁判を通して加害企業である東電と闘う状況が村民から報告された。
 長谷川健一さん率いる「飯舘村民救済申立団」は、3000人を超える村民が加わり、事故や避難に対する慰謝料を求めている。東電は一部、和解に応じたが、初期被曝に対する慰謝料に関する和解案を昨年11月、拒否した。
 「今中さんが750人の村民と面談したところ、4か月間の初期外部被曝線量の平均は7・0mSvだった。このうち、9mSv以上の被曝があったと思われる約200人に対して1人あたり15万円の慰謝料増額を求めたが、東電は見事にけっぽってきた」。
 原子力損害賠償紛争解決センターに提出した主張書面で、東電は「9mSv以上の被曝をしたことをもって慰謝料の発生を基礎づける程度の身体への影響が生じるとはそもそも考えられません」、「今中試算に基づく被曝線量の推計については実体と大きく乖離している可能性が高い」、「避難指示が出された後も村内に滞在したのは自身の選択に基づくもの」などとして拒否した。「長谷川さんは「年末に『馬鹿にするな』、『冗談じゃない』と声を荒げながら抗議書を提出した。訴訟に向けて進んで行かなければならないのかと考えている」と怒りを込めて話した。
 市澤秀耕さんは、川俣町民や浪江町民とともに起こしている慰謝料請求訴訟の原告の1人(東京地裁、被告は東電)。これまでに40回近い口頭弁論が開かれ、裁判所は和解の可能性を探っているという。市澤さんは「法廷では書面でのやり取りが多く、その書面も1回読んだだけでは理解しにくい。原発事故が起きる前は裁判などとは無縁だと思っていたが、時間もかかるし、やはり縁遠い」と話した。
 「仮に満額の慰謝料が認められても『勝った』とか『うれしい』という気持ちにはなりません。時間や壊れたものは元には戻らない。原発事故の酷さ、僕らは原発事故で何を失ったのかを裁判を通して明らかにする。そもそも、お金では無いんです」
 訴訟を起こさなければ真の被害を伝えられない不条理。訴訟を起こしても、加害者である東電はことごとく被害者の主張を否定し続ける不条理。汚染はいまだ解消されず、村内での生活を再開させても被曝リスクと隣り合わせの不条理。飯舘村もまた、原発事故による不条理に満ちている。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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