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【参院選2016】福島で自民敗れる。被曝リスク無視、公共事業一辺倒の「復興」にNO~帰還促進、棄民政策に高まる不満

第24回参議院選挙は10日、投開票され、一人区の福島選挙区は、現職で法務大臣の岩城光英候補(自民)を野党統一候補の増子輝彦候補(民進)が3万票差で破った。双方とも「復興」を掲げる中で、安倍政権の公共事業一辺倒、帰還促進・被害者切り捨て政策への不満が増子候補に流れた格好となった。復興は放射線防護と両輪で進められなければならないが、国は2020年東京五輪までに避難者をゼロにするべく避難指示を続々と解除。帰還を促進している。安倍晋三首相自ら応援演説を行った福島で仲間を失った意味を、首相は重く受け止める必要がある。公共事業というニンジンでは人の心は動かせなかったのだ。


【敗戦の弁も「復興の加速化」】
 笑顔に包まれていた福島市内の選挙事務所が一転、静まり返った。
 午後10時すぎ、本来であれば岩城候補登場の合図となるはずだったNHKが、増子候補の「当選確実」を報じた。熱気でサウナのようになった事務所に「えっ?」、「どういうことだよ」との声があがる。現職の法務大臣が落選した瞬間だった。夫人を伴った入場も、万歳三唱もダルマへの目入れも、分刻みで計画されていた〝お祭り〟は全て中止。「大丈夫ですよ。そういう風に情報が入っていますから」と笑顔を見せていた桜田葉子県議は、表情をこわばらせて「結果報告会」の準備を進めた。拍手喝さいを浴びるはずだった岩城候補は、椅子にじっとすわって報道陣のフラッシュを浴びていた。
 「敗因は私の力不足。ただただ申し訳ない気持ちでいっぱい」
 岩城候補は力なく支援者に頭を下げた。「政権を奪還して、目に見える形で復興を進めてきたが、ご理解いただけなかった」。
 覚悟をしていたのかもしれない。時折、笑顔を見せていた。そして、選挙演説同様、何度も「復興」を口にした。「与党主導で福島の復興を進めてもらうことを願うばかり」、「復興の加速化を進めて行かなければならないと思う」。NHKのインタビューでは「子どもたちが希望と誇りを持てる故郷になるように私も努力していく」と語ったが、原発事故による汚染や被曝リスクに関しては、ついぞ語られることはなかった。選挙期間中、選挙対策本部長として「どんどん避難指示が解除されて帰還が促進されている」とアピールしていた根本匠衆院議員(元復興大臣)も、言葉少なに頭を下げた。
 NHKが増子候補の「当確」を報じた時、実は岩城候補の得票が上回っていた。最終的に、3万票の差がついた(増子候補46万2852票、岩城候補43万2982票)。地元のいわき市や双葉郡以外は、ほとんどの地域で得票は増子候補を下回った。


約3万票差で落選した岩城光英法相(中央)。公共事業一辺倒の「復興」だけでは、福島県民の支持を得られなかった=福島市太平寺

【「五輪までに俺達を片付ける気か」】
 野党側が増子候補に一本化し、当初から岩城候補の劣勢がささやかれていた。安倍晋三首相や菅義偉官房長官、小泉進次郎党農林部会長など〝大物〟が続々と応援に駆け付け、公共事業一辺倒の「復興」をアピールした。
 「常磐道は約束通り、全面開通した。今度は4車線化に取り組む」、「風評被害を吹っ飛ばす。中通りでつくられたお米を毎日、首相官邸で食べている」…。郡山駅前で、安倍首相はこうアピールした。小泉進次郎衆院議員が本宮市を訪れた際には、地元の高松義行市長が「復興のために長期政権が必要です」と語り、隣接する大玉村の押山利一村長も「復興を進めるのか停滞させるのか、それを選択する選挙です」とマイクを握った。白河市内で開かれた集会には、西郷村や矢吹町、天栄村など西白河郡一帯の首長が一堂に会し、道路の拡幅など「復興」を語った。白河市の鈴木市長は「復興に向け、これからが一番大事な時期。やはり国会議員の力は大きい。岩城先生の出番」と予算獲得への期待を露骨に口にした。
 しかし公共事業が叫ばれる一方で、原発事故から5年が過ぎても依然として、福島第一原発から60km以上離れた中通りにも土壌汚染が点在。それにもかかわらず「年20mSvを下回った」として、国は避難指示を続々と解除して帰還促進を図っている。丸川珠代環境大臣は、応援演説で「帰還困難区域以外の避難指示区域は、来年3月までの除染を終える。そして帰っていただく。それが安倍政権の一丁目一番地です」と強調した。しかし、現実には「帰っていただく」どころか、帰れる環境に無いというのが避難者の共通した想いだ。「2020年の東京五輪までに俺たちを片付ける気か」。浪江町民を対象にした住民懇談会の席上、避難指示解除を急ぐ国に町民が怒りをぶつけている。
 放射線から逃れるために、国の避難指示が無くても福島県外に避難した「自主避難者」に対する住宅の無償提供は、来年3月末で打ち切られる。それは強制避難者とて同じだ。「棄民」、「切り捨て」という不満が福島県内外で高まっている。至る所で放射性廃棄物が燃やされ、二本松市内では仮設焼却炉設置に反対する住民運動が続いている。8000Bq/kgを下回る汚染土壌は、全国の公共事業で再利用される方針が決まった。汚染まで再分配されてはなるものかとの想いもある。〝ヒゲの隊長〟と呼ばれる佐藤正久参院議員は「批判と破壊で福島の復興は出来ますか?」と語ったが、破壊を続けているのは誰なのか。


6月22日、岩城候補の応援のため福島入りした安倍晋三首相。汚染や被曝リスクは無視して「復興」を連呼した=郡山駅西口

【予算獲得を期待した福島市長】
 選挙事務所には、福島市の小林香市長の姿もあった。「岩城先生には、いろいろな意味で期待していました。それはやはり現政権の大臣ですしね。予算?そうですね。復興は道半ばです。除染土壌が市内にあるうちは除染も終わりではないですし」。小林市長も、公共事業推進の面で国とのパイプ役としての期待を認めた。「でも、こういう結果が出ると、原発事故から5年経っても放射線に対する不安が大きいということなんですね。心のケアがまだまだ必要なのでしょう」。小林市長は「被曝リスクは依然として存在する」という私の言葉を否定しなかった。であれば、必要なのは「心のケア」では無い。今回の選挙を機に、着実な放射線防護対策に取り組む必要がある。
 「友党」として選挙協力してきた公明党の若松謙維参院議員(復興副大臣)は、取材に対し「結果を厳粛に受け止めたい」と語った。公共事業一辺倒では駄目なのではないか、と質すと「心に寄り添ったソフト面の充実を進めていきたい」と答えた。
 原発事故から5年が経った福島の参院選は、現職の法務大臣の落選で幕を閉じた。公共事業一辺倒、帰還促進の安倍政権に突き付けられた「NO」の意思表示は、私たちにも向けられている。原発事故は現在進行形。被害者切り捨てに加担してはならない。


(了)
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鈴木博喜

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