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【84カ月目の福島はいま】「道路開通が〝復興〟じゃない」「まだ汚れてる」。怒る住民。原発事故に翻弄された7年。安倍首相は開通式典に出席し〝復興〟アピール

公共事業重点型の〝復興〟に地元住民から「NO」の声があがっている。福島県伊達市の「霊山インターチェンジ」で10日午前、「相馬福島道路」の部分開通式が行われ、安倍晋三首相も出席。「東京五輪では復興した福島の姿を世界中の方々に体感してもらいたい」と〝復興〟をアピールした。しかし、原発事故で高濃度に汚染された地元の住民は「道路開通が〝復興〟ではない」と反発している。大震災の原発事故から丸7年。原発事故に翻弄され続けてきた集落を改めて歩いた。政府の言う〝復興〟の空虚さについて考えたい。


【「首相は線量高い集落も歩いて」】
 「ハコものは〝復興〟したのさ。でもさ、米でも何でもまだ検査しなければ世に出せないじゃない。山のもの(キノコ類や山菜類)はほとんど出荷自粛だしね。隣の福島市だって、例えばユズは今も駄目だ。それで『着実に復興している』なんて言えないでしょう。原発事故前の状態に戻って、汚れた土地がきれいになって、かつてのように何の心配も無く米や野菜を作れて検査も無く出荷できるようになったら、そこで初めて『復興した』って言えるんじゃないか。俺はそう思う」
 福島第一原発から60kmほど離れている福島県伊達市。新たにインターチェンジが完成した霊山町小国地区は、同市の中でも汚染の度合いが高い。伊達市立小国小学校では、2012年9月の伊達市教委の調査で空間線量が179μSv/hに達した事もあったほどだ。そんな地元で農業を営む60代男性は、お茶やたばこで一服しながら、この日の開通式典を別世界の出来事のように怒りをあらわにした。
 別の主婦も「見栄えの良い所にだけ首相が来て『復興が進んでる』と言うのは違うと思います。集落によっては、いまだに空間線量が10μSv/h近くもあるような場所もあるんです。でも避難指示も無く、子どもたちも生活していた。避難するのも全部自力です。安倍首相はそういう所も歩いて欲しいですね。数軒しか家が無いような集落は無視されるのでしょうか」と語気を強めた。
 先の男性は言う。「原発に関して国は40年間も〝安全神話〟を言い続けて来た。しかも、ここ中通りには原発が出来た事による恩恵など何も無かった。ただ放射能をまき散らして被害と風評を置いて行っただけなんだ」。原発事故が起きるまでは、毎週のように孫が遊びに来た。山を歩いたり、相馬市の松川浦まで釣りに出かけたりした。しかし、事故後は被曝による健康影響があってはいけないと招いていない。「宅地除染は確かにやった。しかし、何度頼んでも、市は農地除染をやらない。散々やりあっていたら市役所に出入り禁止になっちゃったよ」。
 開通式典に出席した地権者の男性は「このはいろんな事があったからね…。本当に大変だった。でも、こうやって道路が完成して良くなるんだったら前向きに考えないといけないんだろうね」と表情を曇らせた。「いろんな事」とは「特定避難勧奨地点」の指定有無を巡る住民同士の対立だ。




霊山インターチェンジで午前10時から開かれた開通式には、「森友文書書き換え問題」に追われる安倍晋三首相も途中出席。祝辞やテープカットで〝復興〟をアピールし、わずか10分ほどで次の目的地の相馬市へ向かった=福島県伊達市霊山町下小国

【軋轢招いた「特定避難勧奨地点」】
 「特定避難勧奨地点」は、「空間放射線量が3・2μSv/h以上で、年間積算積算放射線量が20mSvと推計される住宅」を対象に国が指定した制度(2012年12月に解除)。妊婦や幼い子供がいる家庭が優先的に指定され、避難費用を補償されたり、税金や国保料が減免されたりした。しかし、地区全体での指定では無く戸別指定だったために、自宅敷地内の空間線量が2μSv/hを上回っているにもかかわらず指定を受けられない家庭が続出した。指定を受けられない住民の怒りの矛先は指定を受けられた住民へ向けられ、無用な軋轢を生じさせた。わずかな数値の差で指定を受けられなかった住民は当時、取材に対し「東京五輪の話題を見るたびに、はらわたが煮えくり返る」と怒りをぶつけていた。
 当時、市役所に何度も頭を下げに行っても指定を受ける事が出来なかった男性は「もう終わった事だのに、集落のまとまりってのはねえんだ。すっかり無くなっちまった。やっぱり腹の底には当時の気持ちがあっからよ。一緒に酒を呑むなんて事はしなくなった。いまだに挨拶もしない人もいる。原発事故前はそんな事は無かったんだ。皆で仲良くやっていた」と話す。
 もちろん、道路建設を歓迎する声も少なくない。開通式典には土地を提供した地権者が多数、出席したが、70代の女性は「便利になるんだから良いんじゃないの?後継者不足の中で畑を持っててもしょうがないもの。いい金になったから喜んでるよ」と正直に打ち明けた。別の女性も「先祖代々の山林や畑があったけど、持っていてもどうする事も出来ないから提供しました。条件は良かったから『ありがとうございます』ってところですね」と話した。
 開通式に出席した相馬市の立谷秀清市長は「お約束します。今年の夏に相馬の海水浴場を再開します」とあいさつ。「25年前、国道115号を使って福島県立医大に患者を搬送する付添いの医者をやっていた。ところが、石田小学校を越えたあたりから具合が悪くなって福島医大に着く前に死んじゃった。俺の腕が悪いんじゃない。道路が悪いんだ。高速道路は患者を安全安心に救急病院まで運んで行く大きな力になるわけです。ドクターヘリは雨が降ったら飛びませんから。でも、高速道路は患者をちゃんと運んでくれる。それで政治家になりました」と開通の喜びを表現した。
 式典に〝動員〟された伊達市立石田小学校の女子児童(6年生)は「私も父も弟も海が好きなので、この道路を利用して相馬に行きたいです」と作文を朗読した。一方で、丹精込めて育ててきた桃の木を泣く泣く伐採して差し出した農家もいる。原発事故による汚染と愚策とカネに翻弄され続けてきた7年間だったのだ。




(上)空間線量は下がったとはいえ、少し山に入ると依然として高い数値を示す小国地区。地元の農家は「こんな状態でハコものだけが完成したって〝復興〟なんて言えない」と語気を強めた
(下)開通した「相馬福島道路」は〝復興支援道路〟とも呼ばれる。しかし、住民の避難や被曝回避に対して国はどれだけ〝支援〟してきたか、大きな疑問が残る

【わずか10分の〝復興アピール〟】
 この日、開通したのは〝復興支援道路〟とも言われる「相馬福島道路」(無料の高速道路)のうち、相馬玉野インターチェンジ(IC)から式典の開かれた霊山ICまでの17km(総工費約592億円)。相馬山上ICから霊山ICまでの27・5kmがつながった。2019年には、最も海側の相馬ICから相馬山上ICまでの6kmが開通予定(総工費約373億円)。東京五輪の開かれる2020年には最も西側の霊山ICから福島北ジャンクションまでの12・2kmが開通予定(総工費約730億円)で、総工費約2065億円をかけた45・7kmの〝復興支援道路〟が全面開通する事になる。開通式では、石井啓一国交大臣や福島県の内堀雅雄知事、伊達市の須田博行市長が揃って「(相馬福島道路は)早期復興を図るリーディングプロジェクト」と表現した。
 安倍晋三首相は開通式の終盤に到着。わずか10分間ほどの滞在で、次の目的地である相馬市に移動した。その10分のために出席者はテープカットやくす玉割りを止め、寒風の中を待機した。
 「東日本大震災から明日で7年になります。安倍政権としては東北の復興を果たす。この一心で、被災者の声に耳を傾けながら復興に取り組んで参りました。この相馬福島道路についても、被災地の復興に向けたリーディングプロジェクトと位置付け、早期開通に向けて事業を急ぎました」と切り出した安倍首相。「この相馬福島道路の全線開通を目指す2020年度には東京オリンピック・パラリンピックがここ福島でも開催されます。世界中の方々にこの道路を使ってもらい、復興した福島の姿を体感してもらいたいと思います。たくさんの子どもたちに夢と感動を与え、福島が笑顔であふれるよう政府も最大限の努力をしていきたいと思います」と東京五輪と絡めて〝復興の前進〟を強調した。
 地元の主婦は言う。「開通式典がニュースで報じられると、全国の人々は原発事故被害は終わった、復興に着実に進んでいるって思うんでしょうね。でもね、私たちはいろんな想いを胸に抱きながら、それを口にせずにここで生活しています。そういう事も県外の人には分かって欲しいですね」
 開通式の後、囲み取材に応じた石井啓一国交大臣。筆者が「大臣の言う『復興』とは、どういう状態を指すのか」と尋ねると「あー、それは難しい質問ですね」と苦笑した。「インフラの復興はかなり進んでいると思いますけれども、依然として不自由な生活を強いられている方もいらっしゃいますので、やはり生活や生業の復興もきちんと進めていく。国交省としては引き続き復興に取り組んでいきたいと考えております」。
 安倍首相の言う〝復興〟の空虚さを象徴する場面だった。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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