【自主避難者から住まいを奪うな】「使用貸借契約でなく供与」。黒塗り公開文書で浮かび上がる〝借り主〟福島県の存在~〝米沢追い出し訴訟〟第3回口頭弁論
- 2018/03/21
- 08:04
原発事故による〝自主避難者〟が被告となった異例の〝米沢追い出し訴訟〟(雇用促進住宅明け渡し訴訟)の第3回口頭弁論が20日午後、山形県山形市の山形地裁3号法廷(松下貴彦裁判長)で開かれた。被告側代理人弁護団は、情報公開請求で福島県から入手した黒塗りだらけの公文書から「雇用促進住宅への入居は避難者と機構との間で交わされた『使用貸借契約』では無く、福島県が一括借り上げして避難者に『供与』されたものだ」と主張。原告側が「使用貸借契約だ」とする理由の説明を求めた。次回期日は6月19日14時。避難当事者を蚊帳の外に置いたまま国、福島県、機構で何が決められたのか。原告に当事者能力はあるのか。徐々に解明されていく。
【「福島県が一括借り上げした」】
この日の口頭弁論では、被告側が今月14日付で提出した求釈明について、弁護団の井戸謙一弁護士が口頭で補足説明。福島県の情報公開制度を利用して2月末に入手した9通の公文書を基に「原発事故当時、雇用促進住宅を管理していた機構(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)と原発避難者との間での使用貸借契約では無いのではないか」と法律関係を明確にするよう原告に求めた。
「この裁判は、訴状の段階で原告が『これは使用貸借契約である。その使用貸借が終了した』と主張している。しかし、被告(避難者)は法律的にどういう事なのか良く分からない。開示された文書でわかった事は、災害救助法に基づいて避難先の都道府県が雇用促進住宅を借り上げて避難者に供与。家賃を福島県に求償する(最終的には国庫負担)という枠組みが出来上がっていたが、なかなか手続きが進まなかった。そこで2011年12月に国は、いったん避難元の福島県が一括借り上げする方針を打ち出した。福島県側は難色を示したが、最終的に、物件の管理は機構から委託された管理会社が責任を持つという事を確認した上で合意。2012年4月1日付で佐藤雄平知事(当時)と機構理事長との間で『確認書』が調印された」
「本来は避難者世帯各戸ごとに賃貸借契約を締結する必要があるが、事務手続きを省力化するための確認書だ。機構と避難者との間の法律関係は『使用貸借契約』では無くて、借り上げたのは福島県。避難者らは福島県から『災害救助法に基づく供与を受けた』と考えるべきではないか。今後の主張のためには事実関係を正確に把握する必要がある。そこで①家賃の求償などお金の流れ②今回入手した『確認書』の存在を知っているはずなのに、なぜ当初から『使用貸借契約である』としてこの訴訟を起こしたのか─について明らかにして欲しい。その回答を待ってさらに主張していきたい」
原告側が19日付で意見書を提出している事もあり、松下裁判長は被告側にまず主張を展開するよう求めたが、海渡雄一弁護士は「法律関係を設定したのは原告であり福島県であり国だ。その法律関係を説明してもらわないと我々は適切に反論出来ない。原告の主張と矛盾する証拠があるのだから説明する責任があるのはどちらなのか。ぜひ合議をして欲しい」と反論。井戸弁護士も「避難者は対等な立場で契約したのでは無い。避難者のあずかり知らないところで機構や福島県、国とで様々な協議がなされている。今回、開示された文書はごく一部。どういうやり取りの元でこういう形になってきたのか説明していただきたい。使用貸借だと言ったのは原告の方だ」と求めた。
原告側代理人弁護士は難色を示したが、3人の裁判官が合議。松下裁判長は原告側代理人弁護士に求釈明への回答を要求。それを受けて占有権限を主張するよう被告側代理人弁護士に求めて閉廷した。原告側は4月27日までに回答を山形地裁に提出。被告側は5月末までに主張を提出する事になった。



(上)弁護団が福島県の情報公開制度を使って入手した9通の公文書。国側の発言は全て黒塗りされて開示された
(中)弁護団が入手した文書の1つ。2012年4月1日付で佐藤雄平知事(当時)が雇用促進住宅一括借り上げの確認書を機構と交わしていた
(下)法廷で「雇用促進住宅への入居は、直接の『使用貸借契約』ではなく、福島県が一括して借り上げた住宅を災害救助法で『避難者に供与』したものだ」と主張した井戸謙一弁護士
【「避難者は一貫して蚊帳の外」】
閉廷後の記者会見で、「確認書など文書の存在を直接の当事者である原告は分かっているはずなのに、それでもなお『直接の使用貸借だ』と主張するのはなぜなのかという事を説明してもらわなければいけない。開示文書からは、機構は福島県に家賃を求償していないようにうかがえる。お金の動きを解明する事が法律関係の基礎になるので説明を求めたが、法廷では原告側は説明を拒否した」と説明。入手した9通の公文書の内訳は電子メール2通、打ち合わせの記録簿が4通、発議書が3通という。
福田健治弁護士は「裁判所が合議した結果まず原告側に説明を求めたのは、小さな勝利と言える。災害救助法に基づいて原告側が主体的に行ってきた事。その資料も全て原告側が持っている中で、民事訴訟だからこちらに主張責任があるだろうという議論はあまり矮小化された形式的な議論だ。次回期日では住み続ける事が出来る理由を主張する」と語った。「福島県の中通りは依然として、子ども被災者支援法上の『支援対象地域』になっており、2017年3月末で住宅の無償提供が打ち切られたのは違法であるという主張はしていく」。
海渡弁護士は「放射線の許容量を年間1mSvに戻すこと、〝自主避難者〟の住宅面・経済面の支援などを継続することなどを求めた昨年11月の国連人権理事会の勧告を日本政府は受け入れた。受け入れたのであれば、4年後の審査までに実施しなければならない。この訴訟で国や福島県がどういう対応をとるか、機構側をどう指導するかなどが国連の監視下に置かれたと言える。その意味で、世界から注目されている国際的な訴訟になっているという事も意識して取り組んで行きたい」と話した。
会見では、被告を代表して武田徹さんが「われわれ避難者は全て〝蚊帳の外〟なんです。福島県による一括借り上げも昨年3月末での住宅無償提供打ち切りも、一貫しているのは入居している避難者の意見を聴かないということ。その結果、今の事態が起こっている。京都地裁や東京地裁の判決でも〝自主避難者〟の避難には相当の理由があるとはっきりと認めているのだから、機構もファースト信託(現在の雇用促進住宅の管理者で、第2回口頭弁論から原告に加わった)も訴訟を取り下げるのが妥当だと考えている」と述べた。情報公開請求にあたっては、自治会長として武田さんが保存していた入居直後のやり取りの記録(除雪に関する福島県や米沢市との交渉記録など)が基になったという。



(上)支援者とともに山形地裁に向かう武田徹さん(右)。「京都地裁や東京地裁の判決でも〝自主避難者〟の避難には相当の理由があるとはっきりと認めているのだから、機構もファースト信託も訴訟を取り下げるのが妥当だ」と語った
(中)(下)山形市議会が全員一致で採択した意見書。19日付で国や福島県に送られた
【山形市議会「〝区域外〟も支援を」】
〝追い風〟も吹いている。
山形市議会が19日午後に開いた本会議で、「区域内避難者への東電拠出の50億円の家賃賠償の新制度を区域外避難者へも拡充することを求める意見書」の提出を全会一致で可決。内閣総理大臣や総務大臣、国土交通大臣、復興大臣、福島県知事などへ送ったのだ。
意見書は「平成30年2月1日現在、山形市には733人、山形県内には1996人が避難生活を続けている。平成23年3月に内閣総理大臣によって発令された『原子力緊急事態宣言』は解除されておらず、事故の収束の見通しも立っていない」、「空間線量は低くなったとはいえ、土壌汚染、森林汚染の除去までは手が回らず、放射能による健康不安から、帰還を希望する避難者が避難元に安心して帰ることができるまでには、まだ時間がかかる」、「山形県が昨年7、8月に実施した『避難者アンケート調査』の結果では、68・2%が『生活資金』で悩み、次いで『自分や家族の健康』、『住まい』と続き、特に3月いっぱいで住宅支援が打ち切られてから約1年が経過する中で経済的困窮度が高まり、避難生活の長期化に伴って問題が複雑・多様化してきていると明らかにしている」としたうえで「国及び福島県においては、避難区域内避難世帯に対して、東京電力が50億円を拠出して実施する新たな家賃支援策について、区域内、区域外を問わず支援するよう強く要望する」と求めている。
避難指示が出された9市町村からの避難者に関し、福島県は今月末までとしていた応急仮設住宅の供与期間」を2019年3月末まで1年間延長。一方、東電からの家賃賠償は今月で打ち切られるため、仮設住宅の入居者と自力で転居した避難者との間に格差が生じる事になった。そのため、東電が福島県に約50億円を〝寄付〟。家賃賠償が打ち切られる避難者の家賃を福島県が負担する制度を福島県が新たに設ける。しかし、これはあくまでも政府の避難指示が出された区域からの避難者しか対象になっておらず、中通りやいわき市などからの〝自主避難者〟(区域外避難者)は対象外。そのため意見書では、住宅支援の対象を〝自主避難者〟にまで広げるよう求めているのだ。
総務委員会での請願審査でも異議を唱えた委員は無く、全員が「採択すべき」と結論付けた。 本会議での採決を傍聴席で見届けた武田徹さんは「東電の〝50億円〟に関する意見書は全国でも山形市議会だけ。昨年12月には、住宅の無償提供再開を求める意見書を提出するよう米沢市議会に請願したが『福島に戻った人の事も考えるべき』、『不公平になってしまう』などの反対理由が出て不採択だった。今回の山形市議会のような動きを全国に広げるべきだ」と語った。
(了)
【「福島県が一括借り上げした」】
この日の口頭弁論では、被告側が今月14日付で提出した求釈明について、弁護団の井戸謙一弁護士が口頭で補足説明。福島県の情報公開制度を利用して2月末に入手した9通の公文書を基に「原発事故当時、雇用促進住宅を管理していた機構(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)と原発避難者との間での使用貸借契約では無いのではないか」と法律関係を明確にするよう原告に求めた。
「この裁判は、訴状の段階で原告が『これは使用貸借契約である。その使用貸借が終了した』と主張している。しかし、被告(避難者)は法律的にどういう事なのか良く分からない。開示された文書でわかった事は、災害救助法に基づいて避難先の都道府県が雇用促進住宅を借り上げて避難者に供与。家賃を福島県に求償する(最終的には国庫負担)という枠組みが出来上がっていたが、なかなか手続きが進まなかった。そこで2011年12月に国は、いったん避難元の福島県が一括借り上げする方針を打ち出した。福島県側は難色を示したが、最終的に、物件の管理は機構から委託された管理会社が責任を持つという事を確認した上で合意。2012年4月1日付で佐藤雄平知事(当時)と機構理事長との間で『確認書』が調印された」
「本来は避難者世帯各戸ごとに賃貸借契約を締結する必要があるが、事務手続きを省力化するための確認書だ。機構と避難者との間の法律関係は『使用貸借契約』では無くて、借り上げたのは福島県。避難者らは福島県から『災害救助法に基づく供与を受けた』と考えるべきではないか。今後の主張のためには事実関係を正確に把握する必要がある。そこで①家賃の求償などお金の流れ②今回入手した『確認書』の存在を知っているはずなのに、なぜ当初から『使用貸借契約である』としてこの訴訟を起こしたのか─について明らかにして欲しい。その回答を待ってさらに主張していきたい」
原告側が19日付で意見書を提出している事もあり、松下裁判長は被告側にまず主張を展開するよう求めたが、海渡雄一弁護士は「法律関係を設定したのは原告であり福島県であり国だ。その法律関係を説明してもらわないと我々は適切に反論出来ない。原告の主張と矛盾する証拠があるのだから説明する責任があるのはどちらなのか。ぜひ合議をして欲しい」と反論。井戸弁護士も「避難者は対等な立場で契約したのでは無い。避難者のあずかり知らないところで機構や福島県、国とで様々な協議がなされている。今回、開示された文書はごく一部。どういうやり取りの元でこういう形になってきたのか説明していただきたい。使用貸借だと言ったのは原告の方だ」と求めた。
原告側代理人弁護士は難色を示したが、3人の裁判官が合議。松下裁判長は原告側代理人弁護士に求釈明への回答を要求。それを受けて占有権限を主張するよう被告側代理人弁護士に求めて閉廷した。原告側は4月27日までに回答を山形地裁に提出。被告側は5月末までに主張を提出する事になった。



(上)弁護団が福島県の情報公開制度を使って入手した9通の公文書。国側の発言は全て黒塗りされて開示された
(中)弁護団が入手した文書の1つ。2012年4月1日付で佐藤雄平知事(当時)が雇用促進住宅一括借り上げの確認書を機構と交わしていた
(下)法廷で「雇用促進住宅への入居は、直接の『使用貸借契約』ではなく、福島県が一括して借り上げた住宅を災害救助法で『避難者に供与』したものだ」と主張した井戸謙一弁護士
【「避難者は一貫して蚊帳の外」】
閉廷後の記者会見で、「確認書など文書の存在を直接の当事者である原告は分かっているはずなのに、それでもなお『直接の使用貸借だ』と主張するのはなぜなのかという事を説明してもらわなければいけない。開示文書からは、機構は福島県に家賃を求償していないようにうかがえる。お金の動きを解明する事が法律関係の基礎になるので説明を求めたが、法廷では原告側は説明を拒否した」と説明。入手した9通の公文書の内訳は電子メール2通、打ち合わせの記録簿が4通、発議書が3通という。
福田健治弁護士は「裁判所が合議した結果まず原告側に説明を求めたのは、小さな勝利と言える。災害救助法に基づいて原告側が主体的に行ってきた事。その資料も全て原告側が持っている中で、民事訴訟だからこちらに主張責任があるだろうという議論はあまり矮小化された形式的な議論だ。次回期日では住み続ける事が出来る理由を主張する」と語った。「福島県の中通りは依然として、子ども被災者支援法上の『支援対象地域』になっており、2017年3月末で住宅の無償提供が打ち切られたのは違法であるという主張はしていく」。
海渡弁護士は「放射線の許容量を年間1mSvに戻すこと、〝自主避難者〟の住宅面・経済面の支援などを継続することなどを求めた昨年11月の国連人権理事会の勧告を日本政府は受け入れた。受け入れたのであれば、4年後の審査までに実施しなければならない。この訴訟で国や福島県がどういう対応をとるか、機構側をどう指導するかなどが国連の監視下に置かれたと言える。その意味で、世界から注目されている国際的な訴訟になっているという事も意識して取り組んで行きたい」と話した。
会見では、被告を代表して武田徹さんが「われわれ避難者は全て〝蚊帳の外〟なんです。福島県による一括借り上げも昨年3月末での住宅無償提供打ち切りも、一貫しているのは入居している避難者の意見を聴かないということ。その結果、今の事態が起こっている。京都地裁や東京地裁の判決でも〝自主避難者〟の避難には相当の理由があるとはっきりと認めているのだから、機構もファースト信託(現在の雇用促進住宅の管理者で、第2回口頭弁論から原告に加わった)も訴訟を取り下げるのが妥当だと考えている」と述べた。情報公開請求にあたっては、自治会長として武田さんが保存していた入居直後のやり取りの記録(除雪に関する福島県や米沢市との交渉記録など)が基になったという。



(上)支援者とともに山形地裁に向かう武田徹さん(右)。「京都地裁や東京地裁の判決でも〝自主避難者〟の避難には相当の理由があるとはっきりと認めているのだから、機構もファースト信託も訴訟を取り下げるのが妥当だ」と語った
(中)(下)山形市議会が全員一致で採択した意見書。19日付で国や福島県に送られた
【山形市議会「〝区域外〟も支援を」】
〝追い風〟も吹いている。
山形市議会が19日午後に開いた本会議で、「区域内避難者への東電拠出の50億円の家賃賠償の新制度を区域外避難者へも拡充することを求める意見書」の提出を全会一致で可決。内閣総理大臣や総務大臣、国土交通大臣、復興大臣、福島県知事などへ送ったのだ。
意見書は「平成30年2月1日現在、山形市には733人、山形県内には1996人が避難生活を続けている。平成23年3月に内閣総理大臣によって発令された『原子力緊急事態宣言』は解除されておらず、事故の収束の見通しも立っていない」、「空間線量は低くなったとはいえ、土壌汚染、森林汚染の除去までは手が回らず、放射能による健康不安から、帰還を希望する避難者が避難元に安心して帰ることができるまでには、まだ時間がかかる」、「山形県が昨年7、8月に実施した『避難者アンケート調査』の結果では、68・2%が『生活資金』で悩み、次いで『自分や家族の健康』、『住まい』と続き、特に3月いっぱいで住宅支援が打ち切られてから約1年が経過する中で経済的困窮度が高まり、避難生活の長期化に伴って問題が複雑・多様化してきていると明らかにしている」としたうえで「国及び福島県においては、避難区域内避難世帯に対して、東京電力が50億円を拠出して実施する新たな家賃支援策について、区域内、区域外を問わず支援するよう強く要望する」と求めている。
避難指示が出された9市町村からの避難者に関し、福島県は今月末までとしていた応急仮設住宅の供与期間」を2019年3月末まで1年間延長。一方、東電からの家賃賠償は今月で打ち切られるため、仮設住宅の入居者と自力で転居した避難者との間に格差が生じる事になった。そのため、東電が福島県に約50億円を〝寄付〟。家賃賠償が打ち切られる避難者の家賃を福島県が負担する制度を福島県が新たに設ける。しかし、これはあくまでも政府の避難指示が出された区域からの避難者しか対象になっておらず、中通りやいわき市などからの〝自主避難者〟(区域外避難者)は対象外。そのため意見書では、住宅支援の対象を〝自主避難者〟にまで広げるよう求めているのだ。
総務委員会での請願審査でも異議を唱えた委員は無く、全員が「採択すべき」と結論付けた。 本会議での採決を傍聴席で見届けた武田徹さんは「東電の〝50億円〟に関する意見書は全国でも山形市議会だけ。昨年12月には、住宅の無償提供再開を求める意見書を提出するよう米沢市議会に請願したが『福島に戻った人の事も考えるべき』、『不公平になってしまう』などの反対理由が出て不採択だった。今回の山形市議会のような動きを全国に広げるべきだ」と語った。
(了)
スポンサーサイト