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【84カ月目の福島はいま】「まだまだ早い」「住民の意見聴け」。〝モニタリングポスト2400台撤去〟に怒る住民、自治体。規制庁「説明会で不安解消したい」

原子力規制委員会が福島県内(避難指示区域12市町村を除く)に設置されたモニタリングポスト(MP)のうち、「リアルタイム線量測定システム」と呼ばれる約2400台のMPを2021年3月末までに撤去する方針を固めた。住民はもちろん、福島県内市町村の職員からも反対の声が噴出しているが、同庁は住民説明会を通して〝不安解消〟を図り、計画通りに撤去を終えたい考え。学校敷地内に埋められた除染土壌の搬出が始まる事もあり、「結論ありき」の住民説明会は紛糾が予想される。東京五輪を控え、〝見せかけだけの原発事故収束〟がまた1つ、行われようとしている。


【「年間5億円もかかっている」】
 原子力規制庁監視情報課によると、撤去対象となっているのは「避難指示が出されなかった地域の学校や保育園、幼稚園、講演や集会所など『子どもが集う施設』に設置された約2400台」で、可搬型のモニタリングポストは今後も維持していくという。
 方部別の住民説明会を経て2021年3月末までには撤去を完了させたい方針。撤去した線量計は帰還困難区域を中心とした避難指示区域に移設されるという。「浜通りは潮風で痛みが激しい。メーカーは耐用年数を『最長でも10年』と言っており、一斉に壊れてしまう前に部品レベルも含めて再利用したい」と担当者は話す。
 住民説明会は開くものの、反対意見が多数を占めても基本方針は変更されない。「反対意見は不安など感情的なものが大きく占めているようだ。説明会では、空間線量がもはや全国水準にまで下がっている事、子どもたちの健康影響を心配する必要は無い事、リアルタイム線量計は役目を終えた事をきちんと説明して不安を解消したい」と監視情報課。「設置するだけで年間3億円、維持費や通信費なども含めると年間5億円を超える税金が投入されている。国の復興特別会計の中の借金で賄われており、財務省や会計検査院には『将来の納税者に負担させて良いのか』との意見もある」とも語った。
 今月20日に開かれた第74回原子力規制委員会で見直し案が原子力規制庁から提示され、委員からは異論は出ず、更田豊志委員長が「(資料に)記されている方針の通りに進めてもらおうと思います」と述べて締めくくった。この問題に費やされた時間は約16分間だった(動画はこちら)。
 「まだまだ撤去には早すぎる。原発事故はまだ終わっていないし、数値もほとんどが0・1μSv/h超。除染も完璧ではありません。不測の事態が起きた時の『危機管理』のために、これからもずっと設置して欲しいというのが本音です。せめて、原発事故前の0・03~0・04μSv/hに下がるまでは設置して欲しいです」と語るのは、福島県中通りの小学校教諭。「東京五輪に向けて、原発事故を無きものにしようとしている国の意図が見えます。これで、国が『福島』より『オリンピック』を大事にしているのが分かりました」。
 飯舘村から福島市内に避難している40代の母親も「撤去すべきで無いと思います。どうして、そうやって無理矢理、原発事故を無かった事のようにするのでしょうか。国も東電も『復興』、『復興』って言うけれど、それは〝お偉いさん〟の考え。福島県民の安心安全はどうなるのでしょうか。福島県知事も外面だけの復興じゃなく、もっと県民の気持ちを尊重すべきです」と憤る。






原子力規制庁が撤去を計画しているモニタリングポスト。正式には「リアルタイム線量測定システム」と呼ばれ、福島県の「放射能測定マップ」では「R」と表示されているものが該当する(上から郡山駅前、須賀川駅前、福島市立福島第一小学校)

【見直しは3年越しの〝悲願〟】
 実は「モニタリングポスト撤去計画」は、決して唐突に浮上したものでは無かった。
 原子力規制委員会の議事録によると、2015年11月25日の第42回会合で田中俊一委員長(当時)が、会合の終盤に「私の方から少し御報告したいことがある」として、次のような発言をしている。どうやら、ここがモニタリングポスト撤去計画の出発点のようだ。
 「実は昨日、福島県の現地対策本部長であり、被災者生活支援チームの事務局長である高木陽介経済産業副大臣とお会いして(中略)原子力規制委員会に対してですが、福島第一原子力発電所の状況などについては、引き続き積極的な情報発信や科学的知見の提供をお願いしたいということで、協力してそういった住民への情報発信等をやりましょうということになりました」
 「原子力規制員会は、これまで(中略)モニタリングの実施とかデータの公表を行ってきましたが、事故から5年が経過しようとする中で、これまでの取組をもう少し整理した上で、先ほどの帰還困難区域の問題もありますので、それを少し見直していく必要があろうかと思います。今までどおりのモニタリングでいいかどうかということも含めてです(中略)是非事務局で、どうすべきかを含め、関係省庁との協議も含めて取り組んでいただくよう、私からお願いしたいと思います。それを受けて、また原子力規制委員会でどうすべきか議論させていただきたいと思いますので、よろしくお願いします」
 田中俊一氏は翌2016年1月6日の第48回会合でも「事故から5年が経過しようとする中で、これまでの取組を整理し、必要な見直しを行う、よい機会であると考えています。事務局においては3月をめどに福島第一原発のリスクマップの改訂と総合モニタリング計画における規制委員会のモニタリングの見直しが行われるよう、検討を進めていただくようにお願いしたい」と改めて発言。まさに3年越しの〝悲願〟だったのだ。
 もちろん「私はもう要らないんじゃないかと思っています。もう年月も経って空間線量下がっているし、自分の中では放射能に対する意識が低くなっています」(須賀川市、5歳児の母親)という肯定的な声はある。「福島県外から訪れた人に無用な不安を与える」との見方もある。
 福島県内市町村も同様で、「西郷村外の必要とする市町村へと再配置することには賛成である。仮に全数が移設又は廃されたとしても、除染完了かつ低線量維持を根拠として住民理解は得られる」(西白河郡西郷村)、「異論はありません」(東白川郡塙町)、「福島県内の新聞、ニュースで報道されることにより、福島県内の線量が安定していること、ニーズの高い避難区域等にシステムを移設することについて、福島県民の一定の理解を得ることができる」(耶麻郡磐梯町)など賛意があるのも事実だ。しかし、原子力規制庁に寄せられた自治体の意見は、国の期待に反して否定的な内容が目立っているのが実情なのだ。






原子力規制庁は今後、住民説明会を開いて「空間線量率は十分に低くなった」と撤去への理解を求める方針。しかし、福島県内の市町村からは多くの反対意見が寄せられている(原子力規制委員会配布資料より)

【「あまりにも唐突感が強い」】
 原子力規制庁は2017年秋に撤去対象となる福島県内の市町村を訪れ、担当職員と意見交換。12月1日付には正式に文書で意見を求めた。原子力規制庁監視情報課は「総論では賛成していただいている。個別の協議にも応じる」と話すが、日頃、住民の放射線防護に消極的な自治体ですら撤去に反対している点は注目に値する。

 「国はもっと直接住民と意見を交わして前面に立ち、理解を得るよう説明に努めるべき。一部の住民に放射線に対する不安が残っている現在の状況において撤去再配置を進めた場合は、住民の不安が高まる恐れがある」(福島市)

 「原発事故前には存在しなかった事故由来の放射性物質が自然環境に未だ多く存在し、住民生活に大きな影響を与えていることは確実だ。年間平均値が事故前に計測されていた値になってはじめて『十分に低い』と考えるのが適切だ」(二本松市) 

 「少なくとも(事故炉の廃止に向けた「中長期ロードマップ」)第3期が安定的に進展するまでの間は、『子どもが活動する施設の線量を把握するため』に導入・設置したリアルタイム線量測定システムを廃止撤去すべきではない」(本宮市)

 「市民の半数は廃炉になるまでシステムの設置を希望しており、廃炉に向けた作業のなかで何が起きるかわからないため、現状のまま維持すべきである。除去土壌等が完全に当市から搬出されるまでは市民も安心できない」(郡山市)

 「復興庁所管交付金で実施予定での側溝土砂撤去は住民の関心が高く、安全、安心といった感覚から勘案するとモニタリングポストの数値も気になるところであり、現時点での撤去については、町民の理解が得られない」(鏡石町)

 「教育施設では、保護者への安心感の醸成の他に、児童・生徒への興味・関心を持たせる教育的意義もあるので、原発事故の被害や影響を忘れてしまわないように、風化させないためにも、再配置を遅くする措置を取ってほしい」(喜多方市)

 「市内仮置場の除去土壌が輸送完了、福島第一原子力発電所が廃炉になるまでは、リアルタイム線量測定システムの撤去は考えていない」(相馬市) 

 「本市内には依然として空間線量を含む放射線量を心配し、不安感を持つ子育て世代を含む市民の方々が少なくないということを如何に受け止めているのであろうか。現時点での撤去はあまりにも唐突感が強い」(いわき市)
 
 取材に応じた福島市教育委員会の幹部は「現状の空間線量は健康に影響がある数値では無い」とした上で、「しかし保護者の方々の放射線への不安が全て払拭されたわけでは無い」と語る。
 「懸念しているのは校庭に埋められた除染除去土壌の搬出。4月から順次、搬出される予定だが、除染土壌はフレコンバッグに入っていない。掘り出して袋に入れるので、砂塵が舞い上がる事など地域住民の理解を得るのは非常に難しい部分がある。モニタリングポストがあれば、数値が目に見える事でせめてもの安心材料にはなるだろう」



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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